【インタビュー】カップヌードルがアナログレコードとコラボしたワケ

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毎年4月第3土曜に世界同時開催されるレコードの祭典<Record Store Day>が、今年は4月16日に開催される。ここ日本でも全国のレコードショップで貴重な限定アナログレコードがこの日に一斉発売となり、話題を牽引している状況だ。

そんな中で、当日のレコード購入者への特典に、カップヌードルがデザインされたトートバッグやスリップマットがプレゼントされるという。日清食品がアナログレコードの祭典である<Record Store Day>をサポートするのには、どういう意味があるのか。CDが売れないと喘ぐ音楽業界にあって、右肩上がりのレコード・ムーブメントは希望の熱に満ちている。これまでも音楽と多彩なコラボレーションを果たしてきた日清食品は、音楽をどのようにみているのか、話を聞いてきた。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也

──日清食品といえば「日清パワーステーション(註:日清食品東京本社ビル地下で1988年~1998年開業していたライブハウス)」が忘れられませんが、パワステは今どうなっているんですか?


日清食品ホールディングス宣伝部係長 東鶴千代氏(以下 東):今はもう全て改装されていまして、社内イベントや研修に使われるホールとして機能しています。一時は倉庫になっていたんですが、今は発表会や講演もできるような場所です。

──会場の形はそのまま残っているんですね?

東:名残は残っています。

──ということはライブハウス事業を再開しようと思ったら…

東:音響設備は撤去しましたから、さすがに難しいですね。

──そんな。またセットすればいいじゃないですか。パワステ復活して欲しいです。

東:1998年、僕がちょうど入社したと同時にクローズしたんですよね。

──伝説的なライブがたくさん行われた素晴らしいライブハウスだったんですよ。

東:すごい人達が世の中に出る前に演っていたと聞いていたので、もっと続けておいて欲しかったと思っていました(笑)。

──同感です。

東:当時は、夕方になると本社前に行列ができていたという話をよく聞きます。社員だからといって観たくても中には入れてもらえなかったそうですが。

──それにしても、日清食品という食品会社がライブハウスを経営するというのは、異例ですよね。


▲日清食品ホールディングス宣伝部係長 東鶴千代氏

東:珍しいと思います。もともと我々は食に従事しているメーカーですけど、衣食住のライフスタイルの中でエンターテイメントとしての食べる楽しみ/音楽を聞く楽しみ/身体を動かす楽しみ…を提案してきた企業なんです。例えばスポーツでは、小学生の陸上競技大会を長年支援させていただき未来のアスリートの応援を長く続けています。肉体的にも精神的にも健やかになることを日清食品が支える、という理念です。

──スポーツするにもたくさん食べないといけませんからね。

東:創業者の話なんですが、戦後はラーメンを食べるにも闇市で行列ができていた状況で、そんなラーメンを家庭で手軽に安心して食べることはできないか、というところから誕生したのがチキンラーメンなんです。

──カップヌードルも発明であり革命でしたね。

東:我々の精神の中には、誰もやったことのないことをやりたいとか、驚きやいい意味での裏切り、サプライズをもって新しいものを生み出していきたいという思いがあります。それを代表するブランドとして存在するのがカップヌードルだと思います。

──カップヌードルも、CMを通していろんな楽曲とコラボを果たしてきましたよね。

東:そうですね。今の若い人は知らないかもしれませんが、一番有名なのはカンヌ国際広告祭でグランプリを獲った「hungry?」シリーズですね。それ以外にも音楽と関わりのCMが数多くあり、Mr.Children「and I love you」、HOUND DOG「ff(フォルティシモ)」、中村あゆみ「翼の折れたエンジェル」…

──GLAY「HOWEVER」とか、MISIA「Everything」、JUDY AND MARY「Over Drive」もあります。

東:「NO BORDER」シリーズではMr.Children「タガタメ」の歌詞とともに創業者の理念をコマーシャルにしたという点で反響がありました。その後は「FREEDOM」シリーズで大友克洋さんに原画を作っていただきましたけど、その時の音楽が宇多田ヒカルさんの「This Is Love」と「Kiss & Cry」でした。特に「Kiss & Cry」の歌詞の中で「カップヌードル」という言葉を入れてくださいましたので、アーティストを通じて音楽とカップヌードルの良い関係性ができていたような気がします。

──日清食品と音楽って、切っても切れない関係性なんですね。

東:今回の<Record Store Day>などは、まさに「いまさらレコード?」というところですけれど、今若者の間で再評価の熱が上がっており、彼らの文脈の中で育ってきているという点が、我々の持つカップヌードルの文脈と一致するんですね。<Record Store Day>が企業と手を組むのも初めてでしたので、そういう意味でもぜひやりたいと思ったわけです。

──「日清食品」「カップヌードル」「チキンラーメン」という言葉は、日本人であれば知らない人はいないわけですが、「Record Store Day」は知っている人はクラスに一人もいない。こんな大きなギャップを抱えてのコラボって面白いですね。

東:今回のコラボに違和感はなかったですよ。我々は非常に原体験を重要視しているんです。

──どういうことですか?

東:カップヌードルって、場所や場面によって味が違うと思います。キャンプ場で食べた時の味、スキー場で食べた時の味、残業で食べた時の味…と、思い出や体験とともに残る味があると思います。

──ええ。

東:最近は定額制で何万曲も簡単に音楽が聴けるという時代です。そんな中で、アナログレコードは逆に手間をかけて音楽を聞く…レコード1枚を選んでターンテーブルに置き針を下ろす…大げさに言えば、何かの思い出や体験が伴い記憶に残るものだと思います。そういった思いや体験が伴う行為に、カップヌードルがうまくコラボできるというのが魅力でした。さらにそのアナログレコードが若者の間で見直されてブームの兆しがあるなかでの今回の企画、若者たちとコミュニケーションを図るいいチャンスだと思いました。

──時代を牽引していく思いですね。

東:我々には、若い人たちとその時代時代でコミュニケーションしていかないと忘れ去られるという危機感が常にあるんです。だから「hungry?」シリーズのCMは今の若者は知らないと思いますけど、次の「NO BORDER」シリーズや「FREEDOM」シリーズは記憶にあるのではないかと思います。常に新しいことをやりながら「そこにカップヌードルがあったの?」という驚きや裏切りを常に行ってきたブランドなので、<Record Store Day>とのコラボレーションも「なんでカップヌードルなの?」って思ってくれるほうが、いい裏切りで良いと思っています。レコードを購入した時に必要なものということで、今回はグッズをお渡しさせてもらおうと思ったんです。

──トートバッグとスリップマットは、4月16日<Record Store Day>でレコードを購入した人にプレゼントされるものですね。

東:そうです。この日にレコードを買ってくれた人に対するプレゼントです。長く使って欲しいですね。

──レコードファンは嬉しいです。今後も楽しみですね。


東:毎回新しい年に何をやっていこうか、考えるんです。去年は「STAY HOT いいぞ、もっとやれ。」で、今年は「いまだ!バカやろう!」というキャッチコピーで進めています。去年は「STAY HOT FES」と銘打ってCMに出演していただいた西内まりやさんをメイン司会者として音楽フェスを行ないました。ただ、一回やったことをまたやるということはあまり好きじゃない会社なんです。常に新しいことをやって、誰かがやったことを真似するのもイヤだという会社ですから。

──その社風はどこから来ているんですか?

東:創業者の安藤百福から受け継がれている精神ですね。「NISSIN CREATORS SPIRIT」というのがあるんですけど、そこにも「1stエントリー」「カテゴリーNo.1」は必ず目指せというのがありますし、個々がブランドのオーナーシップを持ちなさいとも言われています。他にも「打倒!カップヌードル」というスローガンも使っていましたし、他社に負けるくらいだったら自分で潰してそれを乗り越えていくというスピリット。そういう文化ができていると思います。

──熱いなぁ。


東:僕は「日清焼そばU.F.O.」の広告宣伝担当をしているので、実は僕にとっては「カップヌードル」も「どん兵衛」も敵ですよ(笑)。各ブランドをいかに強くしていくか…そして接点となるお客様との間の導線上にどのように商品を配置していくか、ですね。そういうことを考えていくうえでは、音楽はいつも関連してくるものです。音楽にはパワーがありますから。

──そこに誰もやったことのないアイディアを乗せていくんですね。

東:「初めて」という言葉は魅力的ですよね(笑)。当然もちろん初めてやることですから失敗のリスクがつきまとうんですが、どうジャッジして勇気を持って腹をくくってやっていくか、それが今の日清食品の姿勢だと思います。現代のコミュニケーションにおいて、丸く収まっても心には響きませんから、どのように尖ってメッセージを届けていくか。

──そのスピリット、他社が真似したらヤバイですね。

東:しんどいですよ(笑)。誰かがやったことはやりたがりませんし、どうやって立たせていくかギリギリのところを攻めていきますから。凄く難しい時代ですし、メッセージの意図を伝えるのは大変です。でもそれが楽しいんですけどね(笑)。

──CMで「hungry?」って言っていましたけど、ハングリーなのは日清食品の方だったということか(笑)。

東:「hungry」という言葉は、我々にとっても特別な言葉のひとつですね。去年立ち上げたスポーツマーケティングのタグラインは「hungry to win─世界に食ってかかれ。─」というものでした。挑戦的な言葉ですよね。

──今も昔も変わらないスピリットで。

東:脈々とその精神は残っています。次代を興す中で、非常識が常識へと次々に変わっていく時代ですから。

──そもそも「お湯を入れて3分待つだけでOK」というのもとんでもない非常識だったわけで。

東:しかも当時100円でしたから相当高かった。でも調理の手間が減り、容器が不要で洗わなくていい、しかも具材のバランスが取れており、麺があってスープがあって完食できるというのは、凄いと思いますよ。カップヌードルを超える商品がなかなか出せないというのも、我々社員が苦労している点ですけどね(笑)。

   ◆   ◆   ◆

本当に苦労しているのは「若者とのコミュニケーション」と言う東氏だったが、熱いのはカップヌードルではなく、ブランドを支えるスタッフの熱意…スピリットそのものだったようだ。世界で盛り上げていこうとする<Record Store Day>の姿勢に賛同し、固い握手を交わすかのようにコラボを果たした日清食品は、これからも刺激的な音楽体験を提示してくれることだろう。

取材・文:BARKS編集長 烏丸哲也



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