【寺田正典 連載】ザ・ローリング・ストーンズ『トータリー・ストリップド』【ライヴ・イン・アムステルダム編】

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これまでも述べてきたように、『トータリー・ストリップド』の完全数量限定版及びスーパー・プレミアム・ボックスには、『ストリップド』プロジェクトの一環として行なわれた三つのスモール・ギグのフル映像を収めたディスクが付属する。今回は、その内のアムテルダムでのギグの内容を紹介したい。

◆ザ・ローリング・ストーンズ画像

1995年5月26日と27日、2日間連続で行なわれたアムステルダムでのスモール・ギグの会場は、パラディソという現地の音楽シーンにとっては重要な役割を持つというライヴ・ハウス。この時の収容人員は異説もあるが1500人。元は教会(ユダヤ教のシナゴーグとしている資料もあったが、もしそうだとしたら、それはそれでオランダという国の歴史と考え合わせると興味深い)だったという。そんな風格のある会場に高級ホテルから船で乗り着けたストーンズは(ここまでは本編ドキュメントで観られる)、単純なアンプラグド=アコースティック・ライヴではなく、あくまでアコースティック・ギターをそこかしこに巧みに取り入れた、インティメイトでありながらもハードな演奏を披露。これがセット・リストも含め、ストーンズの全ライヴ史の中でも最もユニークなコンサートになったのだ。

今回フルで観ることが可能になるのは、その初日=26日の映像。ライヴ・ハウスすぐ近くの公園(ミュージアム・スクエア)でリアル・タイムにパブリック・ビューイングが行なわれた翌27日の公演に関しては、そこで録音された地下音源が広く出回ったこともあり馴染みのあるマニアが結構いる可能性もある。しかし、より“レア”な26日の初日公演の映像はそんなマニアック過ぎるファンにも非常に新鮮な感動をもって楽しんでいただける内容であることは間違いない。

ストーンズの1964年の米国デビュー・シングルと同様に、アコーティック・ギターで始まるもののすぐにキース・リチャーズがいつも以上に歪んだエレキ・ギターをかぶせる「ノット・フェイド・アウァェイ」のオープニングから、この日がステージでの初披露となったボブ・ディランの「ライク・ア・ローリング・ストーン」、『メイン・ストリートのならず者』からの「シャイン・ア・ライト」、東芝EMIスタジオで行なわれた“トーキョー・セッション”で久しぶりに取り組んだオリジナル・ブルース「クモとハエ」といったレア・ナンバーを挟み、キースがアコースティック・ギターを強くストロークしながら盛り上げてみせる「ストリート・ファイティング・マン」まで全20曲。クラシックな雰囲気に仕上げられたステージ・セットで、文字通り最前列の観客からは手の届く距離で躍動する、ストーンズの格調高い貴重映像を堪能することができるのだ。

このパラディソでのフル映像の監督はデイヴィッド・マレット。クイーンやデイヴィッド・ボウイの1980年代のプロモーション・ヴィデオを撮っていた、あの時代の有名監督のひとりである。


今回のような作品の解説の仕事で、ストーンズの過去のコンサートの記録をその当時の周辺状況も含めて丁寧に調べ直していくと、特にスポーツ・イヴェントとの関連で面白い事実に行き当たることも多い。それがヨーロッパでの公演であった場合は、サッカーの大きなイヴェントとストーンズのヨーロッパでのコンサートとの交錯が面白いドラマを生むケースも少なくないのだが、今回はニアミス。ストーンズのこのパラディソ公演の直前の5月25日、27日のコンサートのライヴ・ビューイング会場でもあったミュージアム・スクエアには、オランダの名門サッカー・チーム、アヤックス(“野人”岡野が移籍を目指してこのチームの練習に参加するのはこの4年後)の4度目の欧州制覇の祝勝会が開かれ、10万人が集まっていたというのだ。そんな熱狂に包まれたアムステルダムに、ストーンズは“裸(stripped)”で乗り込んだのだった。

文:寺田正典
Photo by Ilpo Musto

◆『トータリー・ストリップド』オフィシャルサイト
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