【インタビュー】秀吉、アルバム『ロックンロール』は「覚悟の作品」

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秀吉がニューアルバム『ロックンロール』を8月3日にリリースした。キャリア12年を誇る彼らのファンであれば、その新鮮さに驚きを感じつつもガッツポーズをしたくなるほど見事な切れ味のロックアルバムであり、初めて今作で秀吉と出会う人にとっては、リスナー自らのフラストレーションとロックが共鳴するという最高の瞬間を体験できるはずだ。何より、今度の秀吉は抜群に“カッコいい”。3ピースならではの緊張感溢れるアンサンブルも、一刀両断されるようにキマっているサウンドのフレーズも、ぬるい常套句を覆してくれるリリックの数々も、そのすべての威力は圧倒的で迷いが一切ないのである。

そんな快作の誕生にはもちろん、自主による音楽活動という背景とそれに対する3人の決死の覚悟が、深く熱く関係していた。バンドを率いる柿澤秀吉(Vo&G)がその全容を語ってくれたが、今までにないほど快活に語る姿を目の当たりにして確信した。秀吉、まぎれもなく絶好調だ。

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■ もし今のメンバーの誰かが辞めたいって言ったら
■ 解散する道しかないんじゃないかなっていうくらいの感覚なんです

▲『ロックンロール』ジャケット

── 2014年12月に自主レーベルから『テルハノイバラ』をリリースしていますが、私は、今回の『ロックンロール』というアルバムで初めてご自分たちがやりたいことをやり切ったんじゃないかなと感じています。それくらい勢いのあるロックアルバムで。

柿澤秀吉:『テルハノイバラ』は、自主1枚目なんですけど、レコード会社に所属しながら作っていた曲が大半で。前のレーベルからはまだ出せないということで、だったら自分たちでやっちゃおうって作ったアルバムで、それが決まったのが2014年の7月頃だったのでかなり急ピッチで作った作品でした。あの時はまったくお金もない中、やるしかねぇという勢いで、知人たちに力を貸してもらいながらなんとか作った作品でした。その良さがもちろんあったんですけど、自主でやっていく覚悟みたいなものが曲に現れているかっていうと、そういう事ではなくて。そのあと『アトノオト』というミニアルバムを出してるんですが、それは「夏のあと」「アトノオト(inst.)」だけ新曲、あとは過去の曲の再構築で一度初心にかえる意味合いが強い作品だったので。

──自主になってから新しく作った曲ばかり、というアルバムは今作が初ということですね。

柿澤:そうですね。“ロック”という意味では、その「夏のあと」とかはリフから作った自分なりのロックな曲なんですけど、こういう作り方でも自分たちらしさが出せるなという発見があったんです。それに、神保(哲也)くんがドラムになって最初のスタジオで曲を合わせていた時に、たまたま僕がラルクの「Blurry Eyes」を弾いたら、神保くんも好きだったみたいでそのまま全員で最後まで完奏できたっていうことがあって(笑)。俺ら(柿澤&ベース町田龍哉)はルナシーが好きなので、それからCDを貸しまくってたら神保くんが凄いハマっちゃって、スタジオで「あの曲やりたいんですけど」みたいな、バンド始めたてみたいにキャピキャピした感じになっていって(笑)。

──いいな。楽しそう。

柿澤:本当に。だから今、みんなで曲を合わせる楽しさを感じられてるんですよね。自分が曲を作る上でも、メンバーが演奏してて喜びそうな曲とか、逆にツラそうな曲とかを想定するのも楽しくて(笑)。そういう楽しさをどこかで感じてて、それが結果的に如実に出たアルバムかなと思ってるんです。

──そういう感覚は久々でしたか?

柿澤:しばらくなかったですね。僕らって、既存の曲を何回も演奏して練習するタイプではなくて、曲を覚えたらあとはライブでやるっていう感覚なんですね。あんまりよくないと思うんですけど(笑)。スタジオに入るのってライブ前のリハか、あとはひたすら曲を作る感じだったので。何かの曲を覚えてきて、みんなでスタジオで合わせるっていうことは、ここ10年はなかったんじゃないかな。

──今まではスタジオで秀吉として作るべき曲を作ったり演奏していたけれど、無邪気にバンドを楽しむようになったんですね。

柿澤:そうです、そうです。だからこのメンバーが固まるのが早かったんだと思うんです(ドラムの神保は2013年1月に加入)。「あぁ、秀吉ってこのメンバーだったのかな」って感じが強くって、もし今のメンバーの誰かが辞めたいって言ったら解散する道しかないんじゃないかなっていうくらいの感覚ですね。

──12年でやっと。

柿澤:そうですね……やっとです。

──今までの秀吉の曲は、あくまでも歌が先にあってそれにサウンドが寄り添うようなギターロックというイメージだったんですけど、今回は音がすごく鳴ってるというか(笑)。

柿澤:あ、確かに(笑)。

── それに音のレンジが広いというか、音質のよさにもこだわって作られているし。バンドってカッコいいんだっていうことも思わせてくれるような作品ですね。少年が「ロックバンドやりたい!」って思えるきっかけにもなり得ると思いましたよ。

柿澤:嬉しいです。

── 特に頭3曲(「明日はない」「叫び」「潮騒」)の攻めの姿勢は、どこから来てるんでしょうか。

柿澤:この辺はもう、スタジオのキャッキャした感じの賜物というか、特に2曲目、3曲目はモロに出ていますね。2曲目は、僕が好きなlynch.みたいな早い曲がやりたいって言って、仮タイトルも「リンチ」だったんですよ(笑)。今まではそういうテンポ感をずっと避けてたんですけどね。

── それは、秀吉というバンドではやるべきではないという判断?

柿澤:はい。自分たちで勝手にそう思い込んでいたんです。「ジャンルに縛られたくない」とか言いながらきっとどっかにボーダーラインがあったんですけど、今ならできるかなって。上手くいかなくてボツになっても無駄にはならないなと思えたんです。それで実際にやってみたら、やっぱり自分達の曲になるなって思えたし。

── 秀吉って、メランコリックなバラードもあるし、爽やかで優しいイメージがあると思うんです。でもその中で、たまにワーっと叫んでる瞬間もあるところにグッとくるしリアリティーみたいなものを感じるんです。今回は、そういうエモーショナルな部分がギュッと集まってますよね。

柿澤:そうですね。僕ら、「音源よりライブのほうが全然いいね」って結構言われてきたんですよ。褒め言葉で言ってくれてるんですけど、自分達の中ではずっとコンプレックスみたいなものになってて。今回はようやく、そのライブ感をパッケージできたのかなって思ってるんです。そこを意識して作ったわけではなく、自然とその壁を超えられた作品かなと思っています。

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