【連載】フルカワユタカはこう語った 第13回『日々はノンフィクション』

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「僕は世に言うロックスターなんかじゃありません。
本当のロックスターはきっと「I'm a Rock Star」なんて言いませんから。
ただ、ファンにそう言われることはもうずっと前から嬉しいし、
これからも胸を張ってそう言い続けたいと思っています」──フルカワユタカ

◆フルカワユタカ 画像

39度1分。急な発熱に手足の筋肉痛、それと唾も飲みたくないほどの喉の痛み。世の中には一度もかかった事がない人もいるというが本当だろうか。僕にしてみればもはや年中行事。またその時期が来たというだけの事。ただ、今年は病院嫌いの僕には珍しく予防接種の予約を入れてあった。しかも明後日。頭は保守的なくせに体は流行最先端とは何とも食えぬ。

「信じられないタイミングですが、インフルエンザにかかりました。今日は行けません。楽しみにしていたのですが、残念です」

ギターのケンジさんが4月に抜けて、新体制になったFrontier Backyardの初ライブ。メンバーの脱退という事を考えると、メールに打った“楽しみ”という言葉は適切ではないかもしれないが、先日発売されたFrontier Backyardのミニアルバム『FUN BOY’S YELL』には僕が“愛の鞭”を全身に受けていた頃を思い出させ、込み上げさせるものがあり、是非とも駆けつけなければという気持ちだった。

何でも良いから食べられる物、飲める物を胃に入れて、何でも良いから着れるものを着れるだけ身につけて、とにかく寝る。そして汗をかく。このやり方で例年は2日もすれば熱が下がるのだが、年齢のせいかそれともウィルスが違うのか、今年はやけに手強い。3日目の朝、喉はまだ痛いけど、体温は36度8分と下がっていた。山は越えたようだ。


体調が戻ってきた事は喜ばしいとして、この3日間、一度も、誰からも、何の連絡もなかったというのは少々問題ではないだろうか。先日、アルバムリリースの発表をしたので諸々決めねばならぬこともあるだろうと、枕元に携帯を常置していたのだが、ただの一度も鳴らなかった。いや、そもそも仕事に限らず、友人からの飲みの誘いや、面白い画像、用事などなくても良いなんとなくのLINE、この際親兄弟からの連絡でも訃報以外は構わなかったのだが、来るのはアマゾンからの広告メールと、Huluからのお知らせだけ。こうなって初めて思い知ったが、僕の“孤独”とはまさかこれほどまでのことだったとは。

曲づくりもせず、ギターも弾かず、音楽も聴かず、台詞まで諳んじられてしまうほど見倒した『マトリックス3部作』をただただ垂れ流しながら目を閉じ、体の中の“免疫マン”が“怪獣インフルエンザドン”を倒すところをイメージし続けていただけの3日間。というディティールに関係なく、地球はきちんと3回周るということも思い知った。

きっと病床の僕に気を使って連絡を避けていたのだろうと、マネージャーにLINEを打つ。

「熱も下がりました。というわけで、今日のCharisma.comのライブ行きます。何か打ち合わせる事があれば早めに渋谷行きますよ~」

この日は僕のアルバムにラップを入れてくれたカリスマのワンマンを見に行く予定になっていた。既読がついてから少し時間を置いて、マネージャーから返信が来た。

「インフルエンザの時は5日間は人に会ってはいけないのでは……」

つれない奴だな。人をバイ菌みたいに言いやがって。

「じゃあ、僕一人で行ってきますわ。来年の東名阪ツアーと会場一緒だし、下見もしておきたいので」

既読。

「いや、僕は予防接種したんで大丈夫ですよ、そうじゃなくて」

要は満員のライブハウスにウィルスという凶器を持って乗り込んでいくとは何事かと。身内にうつさなければお前はそれで良いのかと。そういうヤツがいるから流行が進むんだと。そこまで辛辣な言い方はもちろんされなかったが、まあそういうことで当然といえば当然なのだが、がっつりと外出禁止令を出された。さらに付け加えておくと、僕と打ち合わせる事は特になかった。


最近とても心配している事がある。“僕はどんどん子供になっているのではなかろうか”ということだ。昔は、なんか、こう、確かに人嫌いではあったが表面的には空気も読めたし、今より断然社交的だったことに間違いはない。特に上京してからは努めて明るく振る舞っていたので、少なくとも僕の事を“人見知り”だと見抜ける人はいなかったはずだ。学生時分のバイトだって要領良くやってたし、そのうちのいくつかは接客業だった。木下理樹の過去のバイト話なんかを聞くたびに“こいつは本当に音楽があって良かったな~”と感心していたし、インタビュー等での「僕には音楽しか無いですから!」という言葉には、ある種の”かっこつけ”が含まれている、という自覚があった。

が、最近僕が言う「音楽しか無いですから」は意味合いがまるで違う。もちろん年齢的なことも影響しているとは思うが、悲壮感をもって「僕には音楽しかないんですから!」と社会に訴えかけているというほうがイメージに近い。特にそう思うようになったのはバンドを解散してからだ。ソロになって事務所を出たわけだが、僕なら一人でなんとでもなると思っていた。が、その結果、何一つ出来なくて色んな人達に迷惑をかけ、自分もぶっ壊れかけた挙げ句、頭を下げて事務所に戻った。が、周りを見渡せば、今や僕の同世代のバンド達はみな己で事務所やレーベルを立ち上げて地に足をつけた活動を続けている。あの木下でさえだ! 過去のうぬぼれがいかにも滑稽だが、社会性がないのは僕の方だった。中二など生ぬるく、最近の僕は小五くらいの時すらある。

とはいえ、世に媚びれないというのは作り手にとって必ずしも嘆く事ではない。いつぞや、芸術家という生き物は突き詰めるほどに作品と精神が幼児化していく、というのを聞いたことがある。ようは余計なものが取れ、どんどん純粋になっていくということなのだが、岡本太郎や、ピカソがそれだ。ゴッホや太宰やニーチェも、歳を経るたびに幼稚な問題児と化したというし、極めるほどに原点に戻ってゆくというのは万物の道理なのかもしれない。そうか、僕はまさに今その段階に差し掛かっているのではないだろうか!!

発熱から4日目、ギターを3日も弾かないなんてことがここ何年も無かったのと、外出禁止令が出ていたことで、僕は朝から家でギターを弾き倒していた。テレビでお昼の情報番組をやっている。『人食いバクテリア』。なんでもインフルエンザに似た症状が出て、放っておくとかなりの確率で死に至る恐ろしいウィルスで、今年は患者数がやけに多いとの事。先日亡くなった30代男性の例を取り上げている。

「はじめは喉が痛くなり、それから高熱が出て、手足の筋肉痛、一旦熱が治まったようなので普通に生活していたのだが、喉の痛みが劇症化。それから高熱がぶり返し、手足に赤い発疹。急いで緊急入院したが間に合わず、その男性は結局亡くなってしまった。最初の発症からわずか5日後の出来事だった」。医療専門家が付け加える。「最初の症状が非常にインフルエンザに似ていて分かりづらい、少しでも不安な事があれば是非診療内科にかかって欲しい。このウィルスは時間との勝負です」

ギターを置いて体温計を探す。思った通りだ。37度8分。なんだか、熱っぽいと思っていたがいつのまにか、ぶり返しているではないか。“そんなまさかな”と鼻で笑いつつスウェットをまくってみる。今までなぜ気づかなかったのだろうか、ふくらはぎに赤く発疹が出ている。そういえば喉も初日よりずっと痛い気がする。よりによって11月23日は(毎年)勤労感謝の日だった。祝日休診のため近所の内科は全てやっていない。ネットで調べると、少し遠いが区がやっている休日用の診療所があった。この体で遠出をするのはしんどい、何より僕は病院が大嫌いだ。だが、行くほかない。

僕を看てくれたのは40代半ばくらいの女医さんだった。

「うーん。そもそもはインフルエンザだったのかもね。時間がたってるので陽性が出るか分からないけど、一応検査して、その結果をみて薬出してって感じね」
「あの、すみません。ちょっと変な事、聞いてもいいですか」
「え?」
「今日テレビでやってたんですが、人食いバクテリアってご存知ですか?」
「え?」
「人食いの、バクテリアです。喉が痛くなって熱が出て。体が腐って」
「人食い? 何? 何のことかしら? ヨウレン菌、のことかな? で、それが人を食べるの?」
「あの、これ…」
「あ、それアセモね」

僕が世に言うロックスターなんかであるわけがありません。おい、驚くなよ。ネタじゃないんだぜ。全部まるっと、ノンフィクションだぜ。1月11日発売のニューアルバム、「And I’m a Rock Star」を何卒よろしくお願いします(笑)。

■アルバム『And I’m a Rock Star』

2017年1月11日(水)発売
NIW128 / 2,778円+税
01.サバク
02.I don't wanna dance
03.and I'm a rock star
04.真夜中のアイソレーション
05.lime light
06.so lovely
07.walk around (feat. いつか [Charisma.com])
08.can you feel
※提供楽曲セルフカバー:FRONTIER BACKYARD mini Al「Backyard Session #2」(2015.9.9発売)収録
09.next to you
10.プラスティックレィディ
※提供楽曲セルフカバー:りぶ Al「singing Rib」(2015.2.4発売)収録

■<フルカワユタカ presents 『And I'm a Rock Star TOUR』>

2月10日(金)東京 渋谷 WWW-X
OPEN 18:15 / START 19:00
(問)DISK GARAGE 050-5533-0888
2月25日(土)愛知 名古屋 JAMMIN'
OPEN 17:30 / START 18:00
(問)ジェイルハウス 052-936-6041
2月26日(日)大阪 梅田シャングリラ
OPEN 16:30 / START 17:00
(問)YUMEBANCHI 06-6341-3525

▼チケット
前売¥3,990(税込、D別) オールスタンディング
※3歳以上、チケット必要
※各公演ごとに、ドリンク代別途必要
【一般発売】12月10日(土)〜

【BARKS × TICKET DELI チケット先行】
受付期間:11月29日(火)12:00 ~ 12月06日(火)23:59
※東名阪3ヵ所共通
※本公演の受付は先着販売となります

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