【ライブレポート】HYUKOHはバンドの可能性を信じ、探し続ける

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韓国のバンド、HYUKOH(ヒョゴ)が、新作『24』を引っさげた来日ツアーを東名阪でおこなった。ここでは、10月15日(月)の大阪BIG CAT公演、10月16日(火)の名古屋CLUB QUATTRO公演を経て開催された10月18日(木)の東京・新木場STUDIO COASTの模様をレポートする。

◆HYUKOH ライブ画像

STUDIO COASTの会場をあとにしたとき、自分が新しく生まれ変わったような感覚すらあった。『24』の収録曲であり意味深な子守唄のようなナンバー「SkyWorld」で幕を開けたライブは、重層的なサウンド・メイクの成長を伝える新作『24』を反映させるように、全体的にアンビエントなテイストが強く、私たちの感性を刺激する芸術的な表現を見せてくれた。アンビエントな演奏は後半に顕著にあらわれ、『20』の収録曲で元はブルージーなロックである「Ohio」では、大胆にアレンジされたその圧倒的なサウンドに、身体を揺らしてビートを刻むこともできなくなるほど没入してしまった。まるで時間の流れが止まってしまったような、最高の音楽体験特有の覚醒するあの感覚だ。また、ベースのイム・ドンゴンがアコギを手に取り、ボーカル&ギターのオ・ヒョクがキーボードを、ドラムのイ・インウがタンバリンを鳴らした「Gang Gang Schiele」では、オリエンタルな音階の無限の広がりが会場を包み込んでいた。



STUDIO COASTがまるでひとつのアート作品のようだったのは、韓国公演と同じシステムを導入した照明にもよると思う。ライブ序盤では、「何色かが広がっている」というくらいのかすかな色味が神秘的かつアーバンな雰囲気をもたらした。一方で中盤の「Comes And Goes」ではバイオレットとエメラルド色のライトがヴィヴィッドに交錯し、ダンサブルに刻まれるカッティング・ギターと相まって一気に動的な空間を生んだ。次曲の「Wanli」では、ディープなその音像を可視化するかのように目のさめるような真紅がステージを染め上げた。この曲は彼らの代表曲のひとつでもあると共に、演奏をはじめる瞬間にそれまで目深にかぶっていた黒いキャップをオ・ヒョクが取ったことも加味されたようで、イントロから会場がドッと沸いた。



この曲にとどまらず、既に彼らはいくつもの代表曲を持っているという事実にはあらためて感服する。「Wanli」に続いて演奏された「MASITNONSOUL」がいかにもそうで、歌のサビ等は特になくとも、曲がひたすら前進していき全ての瞬間がハイライトのようなこのロック・ナンバーは、ライブで聴きたい曲のひとつ。アクション映画のワンシーンのように鋭い赤い光線が幾本も格子状に天地左右を貫くという照明も、その興奮に拍車をかけていた。また、本編ラストの前に、「このアルバムは、誠実な愛と幸せを探す方法です。幸せは、愛を通じてだけ得られるようです。なので、僕たちはみんなが大好きだし、愛してます」というメッセージを述べて演奏された「LOVE YA!」では、スイートで広義的なこのラブソングとリンクするように、ポップでカラフルな光線が視界を埋め尽くし、祝祭空間を育んだ。





そして、盛大なアンコールの声にこたえて披露された「Gondry」では、いつのまにかステージで輝いていた大小の光のきらめきが私たちの心を最後の最後に温めた。今回のライブで演奏されたのは全17曲だったが、充足感で胸がいっぱいになったこともきっと理解してもらえると思う。実は、1曲目の「SkyWorld」のあとにイ・インウに機材トラブルが起こったようで5分以上もステージは止まっていたことは、ライブが終わったあとには頭の片隅からもう消え去っていたか、だからこそ自分らの実力ですばらしいステージを見事に完遂した彼らを称賛したオーディエンスが多かったはずだ。



また、曲構成に無駄がなくシンプルだからこそ光る彼らの演奏技術の高さは、これまでの来日公演でも確認してきたが、4人全員が全面に出た今回の横並びのフォーメーションはとてもスタイリッシュで、本当にめちゃくちゃかっこよかった。余計な力の抜けたタイトな演奏をするのに、これほど次元の高いバンド・アンサンブルが生まれていく、という彼らのイケてるギャップもよく伝わってくる。こうして演奏中はクールかつ少々強面な佇まいながらも、端々から実はチャーミングな彼らのキャラクターが垣間見れることはライブの楽しみだろう。もはや恒例、カンペを取り出しておこなわれるオ・ヒョクの日本語によるMCでは、やはり今回も日本の卵料理好きを押し出し、「おいしいオムライスのお店を知っていたらインスタにDMください」「おいしいタマゴサンドのお店を知っていたらインスタにDMください」と話していたのが楽しかった。人間的にも魅力的なHYUKOHは、実に申し分ない。それに今回感じたのが、4人の佇まいが骨太になっていたことだった。MCでも述べていたように、1ヶ月間のうちに北米で17都市18公演ものライブをおこなった経験にもよるのだろう。



ファッションに関してもそう。若者文化の発信地であるソウルの街、ホンデで結成された彼らであるが、自分たちのアイデンティティにさらに自覚的になっているように見えた。この日のステージ衣装は、カラフルな抽象画のようなプリントのトップスにミスマッチなボトムスを合わせるという、一見すると奇抜な服装だが画になっていた。確か前回の赤坂ブリッツでの単独公演でもオーバーサイズのジャケットでコーディネートしていたと思う。4人で衣装を揃えるスタイルはバンド然としていて大好きだ。バンドという形態を自分たちが誇りに思い愛していなければこうはならないと思う。

HYUKOHは、もともと特定の音楽性に固執せず、たとえば初期の代表曲「Wi Ing Wi Ing」では1曲のなかでもボサノバ、ブルース、ファンクを経由していて、曲によってはUSインディーのセンスを感じたり、その一方で、レッド・ホット・チリ・ペッパーズが如く身体的な躍動感がすさまじいナンバーを作ってきた(=「MASITNONSOUL」)。今作『24』でも貫かれているように、作品タイトルがその時の年齢そのままという彼らは、よってインターネットを介して音楽の多様性を知り得るYouTube世代とも言える。だが、そんな前提を踏まえた上でHYUKOHに強く感じるのは、“バンド”というものの可能性を信じ、(少なくとも自分たちにとっては)至上の形態と捉えているのではないか、ということだ。その確信は、彼らの迷いのない空気感に通じている気がする。決して誰もが真似できるタイプのバンドではないし、それはこれまでの音楽史で輝いてきたバンドに通じるスター性に通じると思っている。また、『24』には「How to find true love and happiness」というサブタイトルが掲げられており、オ・ヒョクが韓国のソウルで生活する若者として、いくつかの視点からこの非常に観念的な命題の答え探しをしようとするコンセプトがユニークだ。音楽で“本当の愛と幸せの在り処”を見つけようとする彼らの発想からして、そもそも音楽家としての創造性の高さを物語っているだろう。

それにこの夜のライブで彼らは、本編終盤の「TOMBOY」を演奏する前に「今から撮影してもいいですよ」と許可していたが、こうした姿勢は、アジアにとどまらずに、自分たちの音楽を世界に伝えようとしている普段からのマインドを表していると感じた。聴くたびに感動するこの名曲をはじめ、HYUKOHの曲がさらに広まることが素直に嬉しい。超満員のSTUDIO COASTに集まったのは幅広い層だったが、なかでも感度の高そうなおしゃれな若い女の子や男の子が多かったことが印象深い。間違いなく、この夜のSTUDIO COASTは新しいカルチャーの震源地だった。



そして、新しいフェイズに彼らが突入したことを確信させた今回のライブで、改めて感じられたのが、孤高の響きにして鎮魂の作用すら感じられるオ・ヒョクの慈悲深い歌声のカリスマ性や、曲を引っ張る強い力を持つイム・ヒョンジェ(G)のリフの抜群のかっこよさだ。これらは、ヒップホップ〜ポップ・ミュージック全盛の今の時代において、「HYUKOHはロックバンドの希望」と言わしめる理由にもなる強烈な個性であり、HYUKOHがこれまでさまざまな音楽ジャンルに取り組んでも、すべてがHYUKOHの音楽として成立していることにも繋がると思う。




「新しいものを作っていきたい。それがアーティストだから」と、公言しているHYUKOH。次作ではどのような音楽を生み出し、新たな芸術を届けてくれるのだろうか。バンドの可能性を心から信じ、常にそれを探し続ける彼らには、本当に期待せずにいられない。

取材・文=堺 涼子
撮影=松平伊織

  ◆  ◆  ◆

【セットリスト】

<24 Tour - JAPAN~HOW TO FIND TRUE LOVE AND HAPPINESS~>
2018.10.18(木)@新木場STUDIO COAST

01. SkyWorld
02. Wi Ing Wi Ing
03. Graduation
04. Panda Bear
05. 2002WorldCup
06. Tokyo Inn
07. Comes and goes
08. Wanli
09. MASITNONSOUL
10. Citizen Kane
11. Goodbye Seoul
12. The Great Barn
13. Ohio
14. Gang Gang Schiele
15. TOMBOY
16. LOVE YA!
〜アンコール〜
17. Gondry

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