【インタビュー】クウチュウ戦「牛久大仏のような多面的なデカさを携えて、そのデカさに惹かれた人を悦ばせる音楽をやりたい」

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王道的なプログレッシブ・ロックを継承するバンドとして話題を呼んでいるクウチュウ戦。6月14日にリリースされた彼らの最新音源『愛のクウチュウ戦』は、プログレの要素を効果的に使って独自のポピュラリティーを形にしたナンバーが顔を揃えた一作となった。プログレ・フリークを“おっ!”と思わせる部分を持ちつつ、プログレに馴染みのないリスナーにアピールする音楽性を確立したのはさすがといえる。意欲作を完成させたことを受けてクウチュウ戦の中心的人物であるリヨ(vo&g)に話を聞いたところ、今のクウチュウ戦が非常に良い状態であることが分かった。

◆クウチュウ戦~画像&映像~

■ピンク・フロイドもキング・クリムゾンもすごくキャッチー
■だからクウチュウ戦が今の形になったのはすごく自然なこと


――まずはクウチュウ戦のプロフィールを教えてください。

リヨ:結成は、2008年です。最初にベースのニシヒラユミコと知り合って、そこから何度かメンバー・チェンジを経て、ベントラーカオルが加入したのが2010年頃だったかな。ニシヒラとベントラーは大学が一緒で、ニシヒラが“ヤバいヤツがいる”と言ってベントラーを連れてきたんです。その後、2014年にドラムのアバシリが加入して、今の体制になりました。

――2008年にバンドを組んだ時点で、目指す音楽性は見えていたのでしょうか?

リヨ:プログレです。キング・クリムゾンやピンク・フロイド、イエス、EL&P辺りのエッセンスを活かした音楽をやりたくてプログレが好きな人を必死で探したけど、なかなかいなくて。そういう中で、唯一見つかったのがニシヒラだったんです。今のメンバーはみんなプログレが好きだけど、プログレしか聴かないというわけではなくて。メンバー間では、ピンク・フロイドが共通項になっています。

――貴重な四人といえますね。リヨさんの音楽的な背景は?

リヨ:僕は小学校の頃から歌うのが大好きで、中学校2年生の時にギターを始めました。父親がずっと趣味でクラシック・ギターを弾いていて、自分もギターを弾きたいなと思うようになったんです。それで少しクラシックを齧るんですけど、すぐにフォークのほうに流れていきました。両親の影響で井上陽水さんと、さだまさしさんが大好きで、二人の曲をフォークギターを弾きながら歌うところから入っていって。その後Mr.Childrenさんとか、サザンオールスターズさんとか、J-popとかも聴くようになるんですけど、僕の地元の図書館には無料のCDコーナーがあったんですよ。高校生の時に、そこでピンク・フロイド、イエス、キング・クリムゾンと出会って、めちゃくちゃカッコいいと思って、プログレにハマりました。

――幅広く音楽を聴くタイプだということが分かります。では、その辺りを踏まえつつ、クウチュウ戦の最新音源『愛のクウチュウ戦』について話しましょう。今作を作るにあたって、テーマなどはありましたか?

リヨ:音源を作る時はいつもそうですけど、テーマやコンセプトは決めていなくて、その時に出来ている曲を並べて、後からタイトルを付けるんです。今回も同じで、事前にこういうアルバムにしようと考えたりはしませんでした。


――クウチュウ戦はプログレ・バンドとして認知されていると思いますが、今作はその一言では語れない内容になっていますね。

リヨ:そうですね。プログレ色は、だいぶ薄くなっています。ただ、自分的には、今までとやっていることが大きく変わったという気はしていなくて。昔は、曲の長さで情報量が多かったんですよ。15分とか、10分とかで提示していたものを、今は3分とか4分の中に“キュッ”と詰め込んでいる。情報量の多さは変えたくなくて、凝縮するようになったんです。なので、手法が変わっただけで、方向性が変わったという印象はないですね。

――結果的に、プログレッシブ・ロックの香りが漂う、個性的かつ魅力的なポップスに仕上がっています。

リヨ:これは今になって思うことですけど、僕はポップスとしてプログレを聴いていたというのがあって。プログレというと難解な音楽というイメージを持っている人が多いみたいだけど、ピンク・フロイドにしても、キング・クリムゾンにしても、すごくキャッチーなんですよね。だから、クウチュウ戦が今のフォーマットを採るようになったのは、僕の中ではすごく自然なことというか。たとえば、ピンク・フロイドやキング・クリムゾンも時代に合わせて、'80年代っぽいビート・アプローチをしている時期があったりするじゃないですか。そういうことを、今の自分達もやっているという感じです。

――そのスタンスは、すごく良いと思います。では、『愛のクウチュウ戦』を形にするにあたって、キーになった曲などはありましたか?

リヨ:1曲目に入っている「セクシーホモサピエンス」です。この曲が突破口になったというか、形になった時に“これはいける!”と思いましたね。

――分かります。「セクシーホモサピエンス」はブラック・コンテンポラリーを思わせるナンバーで、プログレといったことを抜きにして普通に良い曲です。

リヨ:ありがとうございます。ただ、この曲を作った時は、ブラコンっぽくしようみたいなことは意識していなくて、遊んでいたら出来たという感じでした。ずっと鳴っているリフがありますよね。あのリフをループさせて、それに合わせてラップして遊んでいたら、これを曲にしちゃおうかなと思ったんです。

――面白いです。“プログレであること”にこだわっている人の場合、絶対にそこにはいけないですよね。

リヨ:僕はバンドというものは芯が必要だと思っているけど、クウチュウ戦は芯がないことが芯というか。本当に、ジャンルとかはどうでも良くて、やりたいことを全部やりたいんです。それは、もう昔からずっと変わらない。

――プログレが好きな人を必死に探して集めたメンバーでいながら、他の皆さんもそういうスタンスを受け入れているんですね。

リヨ:そう。そこは、本当にメンバーに恵まれましたね。昔のドラムは、それでやめたんですよ。初めて「追跡されてる」という短い曲を作った時に、これは俺らがやる必要がないんじゃないかといって、やめていったんです。でも、今のメンバーは柔軟に受け入れてくれている。彼らもキャッチーなものとしてプログレを聴いていた人達だから、そういうところはすごく上手く折り合いがついています。


――良いメンバーが揃っていることが分かります。話を『愛のクウチュウ戦』に戻しますが、「ユートピア」もブラック・ミュージックっぽいナンバーでいながらBメロは様々なSEが使われていて、仄かにプログレ感を漂わせていることが印象的です。

リヨ:環境音を入れるという、変なことをやってみました(笑)。この曲の環境音は全部自分で録っていて、それがすごく楽しかったです。レコーダーとマイク片手にあちこち行って、いろんな音を録りまくって。「ユートピア」は街の歌にしたかったから、街に溢れているいろんな音を集めたんです。最近はシティポップという言葉が横行していますよね。そこで、自分達なりのシティポップを提示したかったんです。街の音が入っている、これがシティポップなんだぜと(笑)。それで、ああいうことをしました。

――センスが良いですね。「テレパス」のファンキーな歌中からいきなりガットギターやアコーディオンを使ったスロー・ワルツが入って、そこからドラマチックなサビに移行するアレンジなども秀逸です。

リヨ:この曲のサビは、本当に気に入っています。歌っていても、すごく気持ち良いし。構成に関しては、全編サビみたいな雰囲気の曲にはしたくなかったんですよ。かといって、Aメロ、Bメロのままサビにいくのも違っていて。ノスタルジックなパートを入れ込むことが一番キャッチーだなと思って、ああいうアレンジにしました。

――やりますね。プログレッシブな導入から入って、翳りを帯びたスロー・ブルースに移行する「白い10代(2017ver.)」も注目です。

リヨ:これは、もうキラー・チューンですね。初期衝動を形にした曲で、2009年頃に作ってから毎回ライブでやっています。元々はニシヒラが持ってきたリフがあって、それと僕が考えたフレーズとか歌とかを混ぜて作ったんですけど、なぜこういう構成になったのかは覚えていない。自然体で構築していったら、こういう曲になったという感じです。

――ブルージーなパートは、グランド・ファンク・レイルロードの「ハートブレーカー」っぽさもありますね。

リヨ:そうなんですか? すみません、そのバンドはちょっと分からないです。

――ということは、意識したわけではなくて、自然とああいうものになったと。いかに'70年代の音楽が染み付いているかが分かります。

リヨ:それは、あると思いますね。'70年代のプログレに限らず、ハードロックとかも好きで、よく聴いていましたから。レッド・ツェッペリンとか、ディープ・パープルとか。“何歳なんだ?”という感じかもしれないけど(笑)。

――たしかに(笑)。オールドロックが好きなわけですが、曲を作る時はDTMでシミュレートするタイプでしょうか? それともセッションして形にしていくタイプ?

リヨ:両方ありますね。DTMでデモを作る時もあるけど、“肉感”というか有機体っぽい感じが欲しいというのがあるんです。あまりデジデジしたくないので、一人で決め過ぎないで、ある程度作ったらメンバー四人でジャムってみたりして。そこで得たものをフィードバックして…みたいなことを繰り返して作っていくことが多いですね。

――昔ながらの曲の作り方を、継承されているんですね。楽曲に加えて、分かりやすい内容でいながら視点が面白いという歌詞も魅力になっています。

リヨ:そこは、自分の性格ですよね。たとえば、母親とかがクウチュウ戦を聴いた時に、「なにこれ?」みたいなことを言われたくないんです。昔の長い曲とかは、母親は全く理解できないんですよ。それは、キャッチーではないということで、もうそういう音楽はやりたくないんです。コアな音楽ファンではない人が聴いても、“これ良いじゃん”と言わせたいという気持ちが今はある。そういうところで、分かりやすい歌詞を書くようにしているんです。視点ということに関しては、特に意識しているわけではなくて。たとえば、「セクシーホモサピエンス」は、僕は人類学部だったので、いつかああいうことを歌にしたいなと思っていたんです。「テレパス」は、“テレパス”というタイトルの曲を作りたいなと思って、その時に“だったら電波だな”と思ったんですよね。すごくマクロなところからミクロなところに行ったというか。テレパシーという空想的な色合いがあるものをテーマにしつつ、もっと日常的で馴染みがあるものに落とし込むことを考えた時に、今の時代は誰しもがポケットにコミュニケーション・ツールを入れて持ち歩いているよなと思って。それで、ああいう落差のある歌詞にしました。そういう感じで、別に奇をてらっているわけじゃないんですよ。だから、それが面白いと言ってもらえるのは嬉しいです。

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