【インタビュー】谷山浩子、可愛いけど怖い、美しいけど奇妙、ファンタジーだけどリアルな谷山ワールドへようこそ

■自分の好きな世界に寄せたので「いいのできた!」という感じがあります
■ただ、私が好きなものを集めると喜んでくれる人が少し減るので
――「金色野原」は、手嶌葵さんへの提供曲ですね。
谷山:そうです。『西の魔女が死んだ』という小説が映画化される時の、主題歌のコンペに出して、負けた曲です(笑)。新居昭乃さんの「虹」という曲が主題歌になって、この曲はシングルのカップリングとして出ました。
――このアレンジは本当に、荘厳に美しいですね。アルバムの最後に、このまま静かにおやすみなさいという気持ちになります。
谷山:歌入れが終わって、スタジオで聞いてる時に、「葬儀場で流したら泣くな」と思いました。
――そっちですか(笑)。でもわかります。そういう曲ですよね。
谷山:なくなった人を思う歌なので。
――でも悲しいというよりも、前向きになれる淋しさを感じる歌だと思います。そして、おなじみ石井AQさんのアレンジは、「きつね」「白雪姫と七人のダイジョーブ」「ジリスジュリス」の3曲。AQさんには、どういうテーマを託したんですか。
谷山:まっさらな新曲を、AQにやってもらいたいなと思ったんです。つまり、できるだけ私が、本来こうしたいなと思っているように。AQだと、好きなものが似ていることもあって、少ない言葉で汲み取ってくれるんですね。逆に言うと、たまにほかの方とやると、広がりがすごく出るんですけど。だから、いじって、ほかの世界に行かれたくない曲を、ここに集めました。

――「きつね」は、どこか中近東風と言いますか。AQさんのアレンジで時折出てくる、謎のオリエンタル・テイストみたいな。
谷山:国籍がどこだか、わかんない感じの。もとは宮沢賢治なので、日本なんですけどね。『土神ときつね』という童話がすごく好きで、そこに出てくる狐のことをふくらませてます。すごい話なんですよ、短い童話ですけど。いいですか? ストーリー言っちゃって。(以下、谷山さんの解説続く)
――うーん、それはせつなすぎる…。
谷山:宮沢賢治の中でも、忘れられない童話なんですが。その狐からイメージした曲です。
――狐がいとおしく思えてきました。「白雪姫と七人のダイジョーブ」はどうですか。
谷山:これは、生活の不安の歌ですね。文明の不安と言ってもいいですけど、最近は災害も多いし。社会のシステムがあって、いろんな人がいろんなことに従事して、支え合っているということが機能しているおかげで、毎日こうして暮らしているけれども、それってすごく危ういことなんだなという歌ですね。でもそれも、聴く人によっていろいろ変わるみたいです。“彼女をものすごく甘やかして、何もしなくてもいいよって言っておいて、いなくなっちゃうとか、そういう怖い男の愛みたいなものを感じる”と言う人もいますし、AQは「泣ける」と言っていました。“ダイジョーブ、ダイジョーブ”と言っているところで、すごい泣けるんですって。ひきこもりの息子を支える、年とった親みたいなイメージで聴いたのかもしれないですね。
――曲は可愛らしいのに、ものすごく深いものを感じさせる。谷山さんらしい曲だと思います。で、可愛いといえば「ジリスジュリス」ですよ。これはもう、暗黒面のかけらもない、ハッピーすぎるファンタジー。
谷山:真っ白です(笑)。たまたまリスのことをネットで見ていたんですよ。そしたら、地上で暮らすリスのことを地リスというのに、樹上で暮らすリスの名前がなくて。じゃあ、樹上に暮らすリスを樹リスという名前にして、ジリスとジュリスにして、響きが呪文っぽいから、意味が通ったことを歌ってるのに、パッと聴くと呪文にしか聴こえない歌を作ろうと思って、作り始めました。そこからあとは、「あわて床屋」とか、「待ちぼうけ」とか、そういう昔のお話童謡みたいなイメージで作りました。
――黒々したアルバムの中に、こういう曲があるとすごく映えますね。そして「無限マトリョーシカ」は、ROLLY、佐藤研二、高橋ロジャー和久を迎えた、からくり人形楽団としての演奏。ロシア民謡とロックンロールの合体みたいな、もともと、上坂すみれさんへの提供曲ですよね。お気に入りソングだったんですか。
谷山:はい。歌詞を提供してからすぐに、難しいのに無理やりピアノの弾き語りとかしていました。この曲は、作詞をしてる時からずーっと、からくり人形楽団の演奏が聴こえていて、しかも、掛け声の「ヘイ!」まで聴こえていたので。そしたら、何も言わないのに本当に「ヘイ!」って入れてくれて、さすが!と思いました。歌詞もすごく好きで、作った時は全然意識していなかったんですけど、『ジョジョの奇妙な冒険』っぽくないですか? そこらへんにあるもの全部が、マトリョーシカのように階層になっていて、本人も、箱を開けてるうちにそうなってしまって、自分を脱いでも脱いでもまだ自分がいる、そのジョジョっぽさがうれしいみたいな。
――そして最後に紹介したいのが、美しくてやっぱり怖い「秘密の花園」。アレンジは保刈久明さんで、新居昭乃さんとのデュエット・ソング。これは去年の『猫森集会』のために作った曲ですよね。
谷山:そうです。昭乃さんがゲストに来てくださるので、じゃあ一緒に曲を作りましょうかと。曲を書いてもらって、わりとすぐに歌詞ができて、昭乃さんが「早くてびっくりした」と言っていました。早くてびっくりしたのと、明るい曲のつもりで作ったのに、こんな詞が来てびっくりしたって(笑)。
――明るくはないですね(笑)。メロディを聴いた瞬間に、物語が浮かんじゃったんですか。
谷山:浮かんじゃいました。「またか」と思われたらどうしよう、と思ったくらい、しっくり来ちゃったので。
――前にありましたっけ。こういうテーマ。
谷山:「王国」が、似てるんじゃないかな。「鳥籠姫」とか、閉じた世界の物語ですね。保刈さんのアレンジがまた、すごい異世界感を出しているので、遠くに広がっていくものが見えるような。歌は、昭乃さんの声の方が幻想的なので、できるだけ合わせました。息を多くして、少し弱めに、世界を壊さないような感じで歌いました。
――という、素晴らしい11曲。6年ぶりのオリジナル・アルバム、達成感はありますか。
谷山:あります。しかも、自分の好きな世界に寄せたアルバムなので、「いいのできた!」という感じがあります。ただ、私が好きなものを集めると、喜んでくれる人が少し減るので。
――それ、谷山さん、時々ライブのMCでも言ってますけど(笑)。そんなことないですって。
谷山:ないですか。でも「カントリーガール」が一番好きですとか、そういう人は多いし…まあ「カントリーガール」も物語ではあるんだけど。「同じ月を見ている」みたいな歌がとても好き、みたいな、白が好き、という方もとても多いので。私はそういう歌ももちろん好きなんですが、つまり、何て言うのかな。やっぱりね、ファンタジーが好きなんですよ。
――そうですよね。それがハッピーであろうと、ダークであろうと。
谷山:そうです。ハッピーでもいいんです。ただ、ハッピーにしていても、どこかで「でも…」と言いたくなっちゃうのは確かですね。アマノジャクなのかどうかわからないけど、すごくきれいな感じで推移してるけど、ちょっと陰ってしまいました…みたいにしたくなるのは、生理的にあるみたいです。でもまあ、年も年だし、好きなことをやればいいのかなって。
――谷山浩子の、黒い面が好きな方には絶対のお薦めアルバムです。そして白好きの方にも、ちゃんといい曲が入ってますので、ご安心ください。
谷山:いい曲入ってますよー。「サンタクロースを待っていた」も「白雪姫と七人のダイジョーブ」も、途中まででやめれば白ですから(笑)。
取材・文●宮本英夫
リリース情報
『月に聞いた11の物語』
2017年9月13日発売
YCCW-10312 定価¥3,000(本体価格)+ 税
01. きつね
作詞・作曲:谷山浩子 編曲:石井AQ
02. サンタクロースを待っていた
作詞・作曲:谷山浩子 編曲:蓜島邦明
03.旅立ちの歌 ( MEG提供曲 /2013 年)
作詞・作曲:谷山浩子 編曲:寺嶋民哉
04. 城あとの乙女
作詞・作曲:谷山浩子 編曲:寺嶋民哉
05. 白雪姫と七人のダイジョーブ
作詞・作曲:谷山浩子 編曲:石井AQ
06.無限マトリョーシカ ( 上坂すみれ提供曲/2014 年)
作詞:谷山浩子 作曲:Лесной
путешественник 編曲:からくり人形楽団
07. ジリスジュリス
作詞・作曲:谷山浩子 編曲:石井AQ
08.パズル ( てんかすトリオ提供曲/2015 年)
作詞:谷山浩子 作曲:菊池潤也 編曲:蓜島邦明
09. 螺旋人形
作詞:谷山浩子 作曲:石井AQ 編曲:蓜島邦明
10. 秘密の花園
作詞:谷山浩子 作曲:新居昭乃 編曲:保刈久明
11. 金色野原
作詞・作曲:谷山浩子 編曲:寺嶋民哉
ライブ・イベント情報
「谷山浩子・猫森集会2017」
<Aプログラム>
ゲスト:橋本一子 ~魔女のいる風景~
・9/16(土)18:30開場 / 19:00開演
・9/18(月・祝)17:00開場 / 17:30開演
<Bプログラム>
ゲスト:押尾コータロー ~ギターに恋する日曜日~
・9/17(日)17:00開場 / 17:30開演
<Cプログラム>
ゲスト:山口とも ~ぶっつけ本番オールリクエスト トモトモ編~
・9/20(水)18:30開場 / 19:00開演
ゲスト:斎藤ネコ ~ぶっつけ本番オールリクエスト ネコネコ編~
・9/21(木)18:30開場 / 19:00開演
<Dプログラム>
ゲスト:石野真子 ~あの日のきみがここにいる~
・9/23(土)17:00開場 / 17:30開演
・9/24(日)17:00開場 / 17:30開演
【出演】谷山浩子、石井AQ (Syn.他)
【会場】全労済ホール/スペース・ゼロ http://www.spacezero.co.jp/
(東京都渋谷区代々木2-12-10 全労済会館)
【お問合せ】ネクストロード 03-5114-7444 http://nextroad-p.com/(平日14:00~18:00)
「谷山浩子ライブツアー2017~デビュー45周年大収穫祭 ソロ編~」
10月04日(水)18:30/19:00 名古屋市千種文化小劇場
お問合せ:サンデーフォークプロモーション 052-320-9100 http://www.sundayfolk.com/
10月14日(土)17:00/17:30 広島ゲバントホール
お問合せ:夢番地(広島) 082-249-3571 https://www.yumebanchi.jp/
10月15日(日)16:30/17:00 神戸酒心館
お問合せ:夢番地(大阪) 06-6341-3525 https://www.yumebanchi.jp/
10月21日(土)17:00/17:30 小樽GOLDSTONE
10月22日(日)16:30/17:00 札幌KRAPS HALL
お問合せ:WESS 011-614-9999 http://www.wess.jp/pc/
11月03日(金祝)17:00/17:30 福岡ROOMS
11月04日(土)17:00/17:30 福岡ROOMS
11月05日(日)16:30/17:00 福岡ROOMS
お問合せ:BEA 092-712-4221 http://www.bea-net.com/
11月11日(土)17:00/17:30 仙台市戦災復興記念館記念ホール
お問合せ:ノースロードミュージック 022-256-1000 http://www.north-road.co.jp/
11月18日(土)17:00/17:30 高知ライラホール
お問合せ:デューク高知 088-822-4488 http://www.duke.co.jp/
11月19日(日)17:00/17:30 松山MONK
お問合せ:デューク松山 089-947-3535 http://www.duke.co.jp/
11月25日(土)17:00/17:30 鎌倉歐林洞ギャラリーサロン
お問合せ:キャピタルヴィレッジ 03-3478-9999 http://www.capital-village.co.jp/
12月03日(日)17:00/17:30 新潟県民会館小ホール
お問合せ:FOB新潟 025-229-5000 http://www.fobkikaku.co.jp
12月09日(土)17:00/17:30 大阪ザ・フェニックスホール
12月10日(日)16:30/17:00 大阪ザ・フェニックスホール
お問合せ:夢番地(大阪) 06-6341-3525 https://www.yumebanchi.jp/
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