【インタビュー】TOSHIO MATSUURA GROUP「いかにフレッシュなアレンジを施せるか、それが今の2010年代にフィットするのか」

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■サンプリングミュージックは
■サンプリングだからこそ良かった

──アルバムの選曲に関して気をつけたことは?

松浦 意外とそこまでが長かったですね。100曲以上をリストアップして今それをやり直すこと自体に意味があるのかどうなのかってことがまず念頭にあって……結果ベストの曲を選んだというよりは、カバーだけど新たにフレッシュなアレンジを施せるかどうかというアーティスト的なマインドと、DJ的に影響を受けた曲だけど、それを果たして今やり直すべきかどうかということ、そしてそれが今の2010年代にフィットするのかというのに、実は一番時間をかけましたね。

──「Kitty Bey」だけは古めですが、年代的には新しめの曲が多いですね。

松浦 アシッドジャズシーンの中で考えると初期の部分、90年代半ばぐらいのものってほぼサンプリングミュージックなんです。サンプリングミュージックをリプレイして、狙いとしてはそれより良くしようという思いはありつつも、あまりそこに魅力を感じなかった。それとサンプリングだからこそ、その曲は良かったんじゃないのかなっていう思いもあります。「Loud Minority」に関しても、例えばライブでそれをやるとしたらもちろん盛り上がるわけです。ただ、自分の場合はそれをライブでプレイすることもそうなんですけど、あれよりも新鮮な驚きが生まれないのであれば、カバーするのってどうなんだろうという気持ちがありました。

なので90年代の後半の作品が多いかな。というのはそのころ、権利問題をはじめサンプリングミュージックが飽和状態になって、今度はそれを打ち込みや生で新たに作るというフェーズに入ったと思うんです。そこにはDJにしてみればより音楽的な要素が生まれて来ていて、だから先に進んだ感じがしたんですね。その楽曲を今ライブで“生”でやり直すとしたら、その時代の“生”で動き出したシーンのところを切り取る方が伝わりやすいんじゃないかなと、曲を絞り込んでいく中で必然的にそうなりました。

例えば、素晴らしい作品として残っているヤング・ディサイプルズの「Freedom Suite」は15分あるんですけど、あれを生でやり直して、マルコとフェミ、カーリー・アンダーソンが聴かせて、“わぁ! これフレッシュね!”と言わせる自信がないというか……逆にあれはあのままでいい。“サンプリングアート”として、そこにソングライティングも含めて素晴らしいものに作り上げられたものなので、それはそのままでいいんじゃないかな。その次のステップのあたりから、やり直すものとしての興味を感じたのかなと思います。当初はここも含めて考えていたんですけど、なんか嘘くさくなっちゃうなって気がしていて……(笑)。

──アシッドジャズ30周年だからあえてやってますと……?

松浦 そこはジャイルスも言ってましたけども、U.F.O.にいた自分がやることで有無を言わさないってことになるかも……(笑)。当然それを言われるってことを覚悟の上なんです。ただ、それがあるからこそ良い物を作らなきゃいけない。自分が何かをする以上、ミュージシャンじゃない自分=DJが音楽をわざわざ作る理由を考えたときに、DJだから曲を選ぶだけでいいじゃないかというのがずーっとあると思うんですけど、それを25年経ってやるっていうことの意味に、最初にお伝えしたバトンのことと、今みんなが思っているアシッドジャズやクラブジャズみたいなものとは、当時は全く別のものが存在してたし、そのスリリングさみたいなものが今はない。周りから“アシッドジャズの焼き直しだよね、おじさんが”って言われたとしても、おじさんであることは変えようがないし(笑)、ただ、ちゃんと作品を聴いてみてその批評を発信してもらいたいという気持ちはあります。

──本作はアシッドジャズというより、ジャズのアルバムだなと思いました。ただ、その中で「L.M. II」だけちょっと違うものに聴こえたんです。

松浦 そもそもこのプロジェクトはHEX2から動き出して、TOSHIO MATSUURA GROUPになって、アルバムのコンセプトが生まれたんですね。とあるインタビューで、“松浦俊夫”というイメージからすると、今作とHEXは順番が逆だったのかもしれないと言われたんです。

自分をよく知っていてくれている人からすると、僕にはいろいろな音楽的嗜好があって、作品が多方向に飛んでいくのは当然のこと。ただ、今回の方が一般的なリスナー向けなのかもしれないと……HEXは若い日本のミュージシャンと一緒にとにかく挑戦的することを念頭に置いてため、よりオルタナティヴな方向へ流れていった。で、今回に関しては、過去の楽曲を今やり直してフレッシュな作品として聴かせることをコンセプトになったので、挑戦の意味合いが違う。結果的に「LOUD MINORITY」をカバーする過程において、準備段階からすごく葛藤があって……スタジオの中でもああじゃない、こうじゃないと。その結果、出来上がったものが、もしかしたら次のHEXにつながってくるんじゃないか、作り終わったときにそう感じたんです。セッションが終わった時点で「あ、これだ」って、次のテクスチャーみたいなものが見つかったんですよね、不思議なことに。

──「L.M. II」を除きますが、今回の作品はなぜカバーなんでしょうか?

松浦 当初は全曲カバーのつもりだったんです。過去、「LOUD MINORITY」のライブ演奏で自分が関わったものは3回。やってくれた人には申し訳ないけれど、オリジナルが一番いいなと思ってしまったんです(笑)。それはDJだから言えることだと思うんですけど。 ただ、もともとあの曲は盛り上がるために作ったんじゃない。どちらかというとロンドンのジャズダンサーたちが踊れないくらい速くて、かっこいい曲を我々日本人(全員じゃないですが)が作ろうじゃないか、というのが根っこの部分なんです。それを25年の節目でもう一度、あの曲の持っているスピリットを今の時代に蘇らせるというか、リプレゼンテーションできないかと思ってあえて選んでみたものの、その3回のライブで自分的にはどうしても満足しきれない部分があって……カバーをしておきながら、「LOUD MINORITY」らしさを、抜いていったらどうなるだろうってところに行き着いたんです。

とにかくプレイヤーの演奏をレコーディングし続けて、結果30分、3人がセッションしたものをエディットして「L.M. II」が出来上がった。こうなってくるとジャズの人にはジャズって言われないと思うけど(笑)……CANみたいなところもあるし、自分の目指してたものも、リキッドルームの壁面にあった“JAZZ/ALTERNATIVE”みたいな感じなのかな。今自分が感じている「LOUD MINORITY」を生演奏でやるならこういうことなのかもしれない。自分にとってはこれが新しい「LOUD MINORITY」で、こういうものが作りたかったんだなと思う。ジャズとしての「LOUD MINORITY」とオルタナティヴとしての「LOUD MINORITY」が2つ横に並ぶ感じ、そういうのができた感じがしたんです。

◆松浦俊夫インタビュー(3)
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