【インタビュー】ファンキー加藤「ステージ上で歌ってナンボ、前よりもさらにライブ感のある音源になった」

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ファンキー加藤が3rdアルバム『今日の詩』を完成させた。リスナーの背中を押す前向きなメッセージや温かみ、ひたむきさといった彼らしさを継承しつつ、随所で新たな顔を見せる同作は注目の一作といえる。また、今まで以上に等身大の姿や内面の想いなどを見せていることも見逃せない。アーティストとして、人として、一つの転機を迎えたことを感じさせる彼に、新作について大いに語ってもらった。

◆ファンキー加藤~画像&映像~

■一人一人が必死に自分の人生を生きているんだということが分かるようになった
■何気ない情景の中に溶け込んでいる人にも自分以上の人生があるんですよね


――アルバム『今日の詩』の制作は、どんな風に始まったのでしょう?

ファンキー加藤:いつものことですけど、アルバムを作るにあたってコンセプトなどは全くなくて、今の自分が良いと感じるものを詰め込もうと思って制作に入りました。その時その時の旬に感じるものを瞬発力で叩き込んでいくということを、もうグループの時からしているから、僕の中ではそういう作り方がスタンダードなんです。

――フラットな姿勢で取り組んで、どんなものになるかを楽しむタイプといえますね。ただ、2017年11月にリリースされたシングル「冷めた牛丼をほおばって」は新境地のシングルでした。『今日の詩』を聴いて、アルバムでも新しいことに挑戦しようという気持ちがあった印象を受けましたが?

ファンキー加藤:それは、あったかもしれない。「冷めた牛丼をほおばって」は、自分の見たことのない空間みたいなものを切り拓いてくれたので。アルバムはより自由というか、本当に制限なく自分がやりたいこと、歌いたいことをやっていこうという気持ちになった気がしますね。

――その結果、『今日の詩』は曲調が多彩で、なおかつファンキー加藤さんの新たな魅力が散りばめられたアルバムになっています。曲作りを進めていく中で、アルバムのキーになった曲などはありましたか?

ファンキー加藤:「ダイジョウブルース」という曲が出来たのは、結構大きかったですね。この曲は、最初にタイトルだけ浮かんだんです。ブルースなんて今まで一切やったことがないのに、“ダイジョウブルース”というタイトルは面白いなという理由だけで、ブルースをやろうと思って(笑)。そういうところから入って、ブルースとはなんぞやということをいろいろ調べたり、過去の名曲とかを聴いたりしたんです。それで、ブルースはこういうルールがあるんだということ……12小節で1周りのコード進行がベースになっているというようなことを自分なりに少しずつ消化していって。そうやって「ダイジョウブルース」を作ったら結構重厚感があって、カッコいい感じのブルースになったんです。思いつきのタイトルから、ちゃんとここまで形にできるんだというのは一つ大きな自信になったというのがあって。本当に何でも良いんだなと思ったんです。音楽というのは、一つのワードだったり一つの景色だったり、誰かの表情だったりといったところから生み出せていけるんだということを実感できたんですよね。


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――「ダイジョウブルース」を聴くと、王道的なものをベースにしたり、シンプルなところから入っても独自のものにできる個性を持たれていることが分かります。それに、「ダイジョウブルース」の歌は、すごく良い味を出されています。

ファンキー加藤:良い味が自然と出たんです(笑)。今回スタジオワークを手伝ってくれたsound breakersの大野(裕一)さんは、FUNKY MONKEY BABYSの「Lovin' Life」(2007.1.24)から一緒にやっているんですけど、「そんな歌、歌えるんだ!」とビックリしていました。自分でもちょっと意外だったけど、歌えたんですよね。自分なりのブルースで良いと思っていたから、ブルースの歌唱法を研究したわけでもないのに。だから、この曲は楽しかった。レコーディングも楽しかったし、TDも楽しかったし、ずっと楽しかったです。

――どっぷりブルースではなくて、ブルースが香るというテイストが良いですね。“不器用でも良いから生きろ”ということを歌いつつ、彼女と連絡が取れないヤバさを同時に描いている歌詞も絶妙です。

ファンキー加藤:そう(笑)。ただ単にメッセージを発信するだけじゃなくて、ちょっと物語性のある歌詞にしたかったんです。この曲は歌詞も出だしの“食べログの評価は3.8”という言葉から始まったんですよ(笑)。“3.8”という言葉から、2番の“気がつけばオイラも39”という言葉が出てきて。それに、ブルースということで今までと違うテイストだから、これまでタッチしてこなかった政治的なことを歌ってもこの楽曲なら包容してくれるかなというのもあって、入れ込むことにしたんです。そんな風に、「ダイジョウブルース」は、歌詞もどんどん書けていけました。

――「ダイジョウブルース」は必聴といえる1曲です。他にも注目曲が目白押しで、たとえばウォームかつせつない「風物詩」は、今までのファンキーさんとはまた違ったエモーションを味わえます。

ファンキー加藤:これは、最後の最後に作った曲です。アルバムを見ていく中で、こういうしなやかな温もりのある曲がちょっと足りないかなと思って。冒頭に言ったように全体のコンセプトはいつも考えないけど、アルバムとしてのバランスは考えるんですよ。それで、バランスを整えるためにこの曲を作ったんです。ただ、結構作るのに苦労しました。2~3曲ボツにしたことを覚えています。

――最後までストイックに取り組まれたんですね。「風物詩」は、いろいろなことを経験してきた30代後半ならではの人生観を綴った歌詞も魅力的です。

ファンキー加藤:この歌詞、良いですよね。自分で言うのもなんですけど(笑)。「風物詩」というタイトルと、上手くハマったなと思うんですよ。「風物詩」の歌詞を書いた時は……今回のアルバムに入っている「失恋の詩」という曲は、桜並木の風景が出てくるんですね。「失恋の詩」の歌詞を書いている時に“桜散る”という言葉が出てきて、その時に桜は深く愛されているけど、秋の桜はすごく虐げられているなと思ったんです。それで、春ではない秋の桜は、みんなからどう思われているんだろうなと考えるようになって。そういうところから入っていったので、最後のところに“秋の桜のように”という言葉があるんです。“秋の桜”というところからイメージが広がって、夏といえば花火だな、冬といえば雪だな…という風に、自分の頭の中でどんどん物語が構築されていきました。


――四季折々の情景を描いたうえで、そういう中で自分は自分らしく生きるということを歌っていますね。

ファンキー加藤:人生というのは、生きるというのは、そういうことだなと思ったんです。あと、“人の群れは駅の改札 飲み込まれている訳じゃない 一人一人自分の意志で向かっている”という辺りは、言われた通り、この歳になったから書けたというのはありますね。20代の頃は通勤時間とかの人の群れを見て意志がない人達のように感じていたし、自分はそんな人波に逆らって生きたい…くらいに思っていたんですよ。でも、違うなと。一人一人が必死に自分の人生を生きているんだということが分かるようになったんです。すれ違う人だったり、何気ない情景の中に溶け込んでいる人にも自分と同じ、もしくは自分以上の人生があるんですよね。それが分かるようになって、「風物詩」の歌詞を書いた。そういう意味では、僕もだんだんオッサンになってきましたね(笑)。

――でも、そういう歳の取り方は、良いと思います。「風物詩」の次に収録されている「You Are The Light」は、サンバ・テイストを活かした新境地のナンバー。

ファンキー加藤:これはSPICY CHOCOLATEチームが、メロディーとかサウンドを持ってきてくれたんです。こういうのはどうだろう?…ということで。アッパーで力強いけど、せつないというか、泣きのメロディーですよね。だから、これはアルバムの中に欲しい一つの要素だなと思って、使わせていただくことにしました。この曲はとにかくメロディーが強いから、生半可に優しい言葉じゃダメだなと思って。それで、普段自分が歌詞で使いがちな“僕”と“君”というワードを捨てて、“俺とお前と大五郎”という(笑)。

――いや、大五郎は違うでしょう(笑)。

ファンキー加藤:ああ、そうか(笑)。でも、“俺”と“お前”という言葉を使って、大五郎みたいな気持ちでいこうと(笑)。ちょっと荒々しいラブソングみたいなものを作れたら良いなと思ったんです。逆に、そうしないと、この強いメロディーにはハマらなかったというのが正直なところですけど。

――この曲は最初のほうを聴いてネガティブなことを歌っているのかなと思いましたが、最後に“お前と出逢えて良かった”と歌っているんですよね。

ファンキー加藤:そう、決して暗い歌ではない。それに、ラブソングをイメージして書き始めたけど、ファンの皆さんであり、自分の周りにいてくれる人達であり、家族でありという、いろんな人にあてたメッセージになったのかなと思います。普段の僕はあまり言葉遣いが良くないほうで、俺とかお前なんですよ。だから、これは本当の自分に近い……“素の加藤俊介”に近い歌ではあるのかなという気もしますね。

――心に響く曲になっています。響くといえば、アンプラグド・スタイルで仕上げた「おーい友よ」も聴き逃せません。

ファンキー加藤:この曲はプロデューサーの方と話をして、メッセージというか、抱えている想いみたいなものがちゃんと前に出たほうが良いねということになって。それで、音数を少なくしてアンプラグドっぽいアレンジにしました。この曲で歌っていることは実際にあったことなので、世界観に容易に入っていって歌うことができた。わざわざ世界観に入っていこうとしなくても、すぐそこにあることだから自分の想いというものを、すごくエモーショナルに歌えたなという気がします。

――リアルな心情を歌われているんですね。曲ができた時に、この曲は昔からの友達への想いや、一緒に作った思い出などを歌いたいと思ったのでしょうか?

ファンキー加藤:この曲は、詩先だったんです。僕はたまに詩先もやるんですよ。少し前に、夜中の1時か2時くらいに、地元の仲間がベロベロに酔って電話をかけてきて。話をしているうちに昔話になって、今はどうだい?…みたいな話になったことがあって、それがすごく嬉しかったんです。そいつは中学校の頃からの友達だから、もう25年くらいの付き合いで、頻繁に会っているわけじゃないのに、ずっと繋がっている感覚があるんですよ。そういう友達が何人かいるというのは自分にとって大きな財産だなと思って。それで、友達に向けた想いを歌いたくなって、先に歌詞を書いたんです。ちょうど、このコード進行は何かの曲のサビで使いたいというのがストックしてあったので、それを活かしつつ他のパートのメロディーを作って完成させました。本当はちゃんと本人を目の前にして言葉で言いたいけど、照れくさくて言えないので、音楽という形でメッセージを伝えることにしたんです。

――そういうことができるのも音楽の魅力ですよね。「おーい友よ」は緻密なコーラス・ワークも光っていますし、ハンドクラップを入れることでライブをイメージさせる辺りも良いなと思いました。

ファンキー加藤:コーラスは、コーラスをしてくれる人に、この曲で歌っている友達役をしてもらいました(笑)。このコーラスは、すごく良いですよね。ゴスペルっぽさやビートルズっぽさがありつつ独自のものになっていて、本当に気に入っています。ハンドクラップは言われた通り、ライブでこういう情景になると良いなというのがあったんです。

――「おーい友よ」のハンドクラップに限らず、「You Are The Light」のBメロの合唱や、ラテン乗りの「We Can Dance」など、今作はいろいろな曲がありつつ“ライブ”ということが裏テーマとしてあるような印象を受けました。

ファンキー加藤:それは、あったかもしれない。レコーディングに入る前に2月の八王子のライブとか、その後の全日本フリーライブツアー~超原点回帰~、10月から始まる全国ホールツアーが決まっていたから。それに、僕の場合、元々ライブを意識しない曲というのは、ほとんどないんですよ。昔からライブではどういう風に聴こえるかなとか、お客さんはどういう風に盛り上がってくれるかなということを考えながら曲を作っていて、ここ最近は特にその想いが強い。やっぱりステージ上で歌ってナンボだろうという気持ちがあるので、前よりもさらにライブ感のある音源になったところはありますね。

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