【短期連載】<SXSW>漫遊記 第四回、「デイ・パーティーの楽しみ方と醍醐味」

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▲ダウンタウンの再開発

年々、町の再開発がものすごい勢いで進むオースティンのダウンタウンでは、南部の田舎町ならではのレイドバックした雰囲気がかなり失われてしまったが、毎年<SXSW>に来るたび、1999年に初めてオースティンを訪れた時に味わったそのレイドバックした雰囲気を味わうことができるルーツミュージック系のパーティーに最低でも一つは参加したいと考えている。

2018年は6thストリートを、IH-35という高速道路を越えて、5分ほど東に行ったところにあるメキシカンレストラン、リチャズ・カンティーナで『The Brooklyn Country Cantina』とサウス・コングレス地区にあるルーシーズ・フライド・チキンというレストランで『8th Annual Lucy’s South By South Austin Fried Chicken Revival』という2つのパーティーに参加することができた。



2018年で10周年を迎えるという『The Brooklyn Country Cantina』には前述したレイドバックした雰囲気とともに2017年、見逃したノース・カロライナの女性アウトロー・カントリーシンガー、サラ・シューク&ザ・ディスアーマーズを見たいと思って出かけていったのだが、ニヒルなサラのライヴを堪能したあとにはローレン・ルース・ワードといううれしい新発見も! ジャニス・ジョプリンの再来なんて言ってもいいロサンゼルスの女性シンガーの迫力満点の歌声とエネルギッシュかつエキセントリックなパフォーマンスにノックアウト。歌いながら観客に握手を求め、訴えかける彼女の姿がいまだに目に焼きついている。





そして、ダウンタウンから市バスで15分ほど南に──老舗クラブのコンチネタル・クラブや前述したホテル・サン・ホセを越えて行ったところにあるルーシーズ・フライド・チキンは、もう何年も行きたいと思いながら行きそびれていた店だ。8年目を迎えるという2018年のパーティーにはライアン・アダムスのバンドでギターを弾いていたこともあるメンフィスのシンガーシングライター、ジョン・ポール・キースが出演するというので、足を運んでみた。

オールディーズ風のロックンロールをエネルギッシュに演奏しながら、艶やかな歌声の魅力のせいか、全然古臭く感じられないジョン・ポールの魅力もさることながら、納屋を模したステージをはじめ、店の雰囲気も集まっているお客さんたちも、フライドチキンもオースティンの地ビールもウェイトレスもナイスの一言だった。





店に着いて、さあ、ここでどうやって過ごそうかと考えていると、日本人がポツンといることを不思議に思ったのか、白人男性から「演奏しにきたのかな。それとも音楽ファンなのかい?」と声をかけられたから、「ただのファンですよ」と答えると、「そう。俺、マイクって言うんだ」と握手を求めてきたマイクは「楽しい一日を」と笑顔で去っていった。

すると、今度は白人の女性から「そこのあなた。こっちに来て、お座りなさいよ」とステージに近いところにあるテーブル席を勧められ、「ありがとうございます」とちょっと困惑しながら、イスに座ると、彼女はバケツに入ったフライドチキンを持ってきて、「頼みすぎちゃったから、どうぞ。さあ、取って取って。ペーパータオルはそこにあるから」と見ず知らずの日本人にとてもフレンドリーにしてくれたのだった。

よっぽど心細そうにしているように見えたのかしら? そんなことを思いながら、でも、以前の<SXSW>では、こういうふれあいがけっこうあったよなと思い出して、筆者はまた一つ、<SXSW>の楽しい思い出が増えたことをうれしく思った。

撮影・文◎山口智男

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