【インタビュー】清塚信也、クラシック音楽を縦横無尽に“つなげる”意欲作品『connect』

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■「月光」のメインは第3楽章で、第1楽章と第2楽章は前振りと思っている
■だから、第3楽章への振りを第1楽章で思う存分、もったいぶってやろうと思って


──そしてベートーヴェン「ピアノソナタ 第14番《月光》」です。

清塚:第1楽章は、極端なほどテンポを落として弾いています。遅すぎるということで騒ぎを起こしたくて(笑)。この第1楽章は、EQかエフェクトを掛けた響きというか、本当はシンセとかで弾きたいぐらいなんです。骨組みだけの曲なので、余白を埋めて響きもいじくってシンセとかでやりたいなと思ったりもします。でも、そこまですると壊れちゃうんで、やりませんが。要は弾いていて退屈なんですよ(笑)。

──(笑)そうなんですか?

清塚:はい。だから、なんかやりたいなという想いが出るんでしょうね。コンサートではものすごく速く弾くかもしれないし。

──でも、だからこそ、第3楽章で怒涛のような速弾きが来るっていう。この振り幅の大きさがすごく響きます。

清塚:「月光」って、ちょっと交響詩みたいなところがあるんですよね。だから、メインは第3楽章で、第1楽章と第2楽章は前振りと思っているので。ベートーヴェンって、もったいぶるの大好きだから(笑)。「まだ行かないの」「まだやるの?」っていうのばっかりだから。第3楽章への振りを第1楽章で思う存分、もったいぶってやろうって。

──面白いですね、そういう考え方。

清塚:僕、「月光」のソナタって、ベートーヴェンにとって、「悲愴」や「熱情」みたいに練り込んだ作品ではなく、わりとパパッと書いちゃったんじゃないかと思っているんですよ。非常にピニスティックというか、コンサート向きというか、実践できるように書かれている曲。そんなに難しくなくて単純だし。ベートーヴェンなんか、第1楽章なんか即興でも作れると思うから。僕はチャラい曲だと思ってるんですよ。

──チャラい曲?

清塚:はい。「悲愴」や「テンペスト」のような強い意志がここにあるわけではないと思っていて、だから、人気曲で目立ってはいるけれど、三大ソナタと言われていても、「月光」はすごく浮わついた曲と感じるんです。結局、ある貴族に捧げようとしていたのが違う貴族に捧げなきゃいけなくなっちゃったから、じゃあ、これにしようって作った曲だから。そんなに重い動機があって作ったわけじゃないんですよね。ただ、しばしば音楽家、作曲家っていうのはそれぐらい力が抜けているときのほうが良い曲を作るんですよね。オペラの間奏曲やショパンの遺作の「ノクターン」、ドビュッシーの「夢」とか、あんまり出版してほしくないんだけど、っていうような気楽に書いた曲のほうが名曲として語り継がれる傾向はあるんですよね。

──なるほど。

清塚:だからポップスとかシンガーソングライターさんもよく言うように、ミリオンヒットした曲は「もう自宅で10分ぐらいで作った」とか、そういう話が多いですよね。だから、意外と難しいことをやっていて、その休憩がてらにウォーミングアップでパッと書いた曲がめちゃめちゃ売れたなんていいうことも多いらしいんですよ。


──そういう考えもあって「悲愴」や「熱情」を選ばずに「月光」を選ばれているっていう。

清塚:そうですね。ホントは「悲愴」の方が人気曲なので良かったのかもしれないですけど。ただ「悲愴」は2018年度のツアーで弾いたんですよ。だから、このアルバムに入れると、2019年も弾かなきゃいけなくなっちゃう(笑)。お客さんが入んなきゃイヤだなって。そういうチャラい理由もあっての「月光」です(笑)。

──アルバムとしてはこれで一区切りで、あとはボーナストラックという扱いになるんですよね。その一つが「Etude No.1 “Dessin”」。

清塚:いま東京都美術館で『ムンク展』をやっているんですが、そのテーマ曲に選んでもらって、「Dessin」っていう名前をつけました。これはアマチュアの大人の方でもピアノを演奏なさる方が多いので、そういう方に向けた現代人のためのエチュードがそろそろ必要かなと思って作りました。やっぱり練習って苦痛だし、つまらないとやめちゃうので、やっぱりレパートリーにしたいと思うような綺麗な曲、特に日本人に合うようなハーモニーとメロディを作りたかったんです。ショパンなどの練習曲は難しすぎて、あまり現代に合ってないなと思ったから。ゆくゆくは24曲ぐらい作りたいんですけど。曲集にして楽譜とかも作りたいなって。

──で、『シラノ・ド・ベルジュラック』~愛のテーマは楽士役で舞台でもやっていらっしゃる。

清塚:そうですね。舞台でもやらせていただいたんですけど、その時のテーマ曲というか代表曲として作らせてもらったテーマを忘れないうちに録音しておこうと思って(笑)。

──シラノがロクサーヌに愛を告げるときの曲ですね。

清塚:ロクサーヌが絡むときに、いろんな形にして演奏されます。シラノがロクサーヌを思うときに流れる曲ということで作ったんです。『シラノ・ド・ベルジュラック』の名シーンっていうのがありまして、それがバルコニーのシーンでそこでいちばん派手に出てくる曲として作ったんですけど。すごく吉田鋼太郎さんのシラノが素敵だった。

──ホントにロマンティックで惚れ惚れしますよ。

清塚:ありがとうございます。『シラノ・ド・ベルジュラック』はちょうどロマン派の時代の話なんです。なのでちょっとロマンティックに作らせてもらいました。この曲は舞台でも生演奏で僕が弾いていました。なかなかチャレンジングな舞台です。僕が舞台上で弾いているとき、たまには本当にその場にいる人として演奏するし、ときには黒子としてロクサーヌとシラノしかいない部屋の片隅でなぜか弾いてる。難しい設定ではあったんですが、うまく立ち回れたかなと思います。

──清塚さんにしかできないですね。そんな役。

清塚:セリフに合わせて終わらせるの難しかったですよ。

──最後は「春よ、来い」。盛り上げますね。

清塚:これはアレンジを羽生選手と一緒に作り上げていって、今季のエキシビジョンにも選んでいただいたので、そういう意味でも彼がいなかったら生まれなかったアレンジですね。

──最後に、2019年に開催される<清塚信也コンサートツアー 2019 connect>はどんなツアーに?

清塚:前半クラシック、後半オリジナリティーっていう感じの作りにしようと思っているんですけど、クラシックは今回のアルバムの三人の曲でほぼいっぱいでしょうから、あと後半はボーナストラック以外に何しようかなと今考えているところで。それも「あれもやりたい。これもやりたい」ってアイディアがいろいろあって。

──今のところソロピアノのリサイタルになるんですか?

清塚:完全にソロです。無添加のコンサートです。全く演出もなしで身一つで。

──北海道で3日連続で3公演あるんですね。

清塚:そうなんですよ。けっこうキツいんですけど、必要だと思うんですよね。先日も北海道に行ってきたんですけど、日本ってホントに広いなと思うし、地方にも立派なホールがあったり、音楽に思い入れの深い人々がいるんですが、地元の人は簡単に大都市に出てこられないんですよ。その代表が北海道だと思ってるんです。札幌だけでやって「北海道行ってきました」というのは、ちょっとかわいそうだなって。あまりにも広いですからね。だから、隅々まで行きたい。僕のいちばんの強みは大所帯じゃないっていうこと。移動が非常に身軽。楽器もないし、楽譜すら持っていかないので。そういう意味では会館とピアノさえあればやれるよっていうのが僕のモットーだから。そういう意味ではいろんなところ隅々まで行きたいなっていう想いがあるんです。

──じゃあ、みなさん期待して。

清塚:そうですね。今回のアルバムは、バッハやモーツァルト、ベートーヴェンへのストーリー仕立てっていうところが大きくて重要なところなので、それを合わせてこのアルバムも聴いていただきたいと思っています。

取材・文●森本智

リリース情報

『connect』
2018.12.12 ON SALE
CD: UCCY-1092 \ 3,240 (tax in)
e-album, MfiT, ハイレゾ配信も同時発売
〈収録曲〉
J.S.バッハ:イギリス組曲 第3番 ト短調 BWV.808
1. 前奏曲
2. アルマンド
3. クーラント
4. サラバンド(同じサラバンド装飾法)
5. ガヴォットI(交互に)―ガヴォットII(またはミュゼット)
6. ジーグ
モーツァルト:ピアノソナタ 第14番 ハ短調 K.457
7. 第1楽章
8. 第2楽章
9. 第3楽章
ベートーヴェン:ピアノソナタ 第14番 嬰ハ短調 作品27の2 《月光》
10. 第1楽章
11. 第2楽章
12. 第3楽章
Bonus Tracks
13. Etude No.1 “Dessin”
14. 『シラノ・ド・ベルジュラック』~愛のテーマ
15. 春よ、来い

ライブ・イベント情報

<清塚信也コンサートツアー 2019 connect>
1月26日(土) 名古屋 愛知県芸術劇場コンサートホール
2月1日(金) 福岡 福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)
3月15日(金) 香川 レクザムホール(香川県県民ホール)
3月16日(土) 大阪 ザ・シンフォニーホール
3月29日(金) 新潟 長岡リリックホール・コンサートホール
3月31日(日) 富山 富山県教育文化会館
4月13日(土) 仙台 日立システムズホール仙台コンサートホール
4月14日(日) 東京 サントリーホール
4月17日(水) 北海道 幕別町百年記念ホール
4月18日(木) 北海道 旭川市大雪クリスタルホール
4月19日(金) 北海道 札幌コンサートホールKitara小ホール 2公演
4月21日(日)神奈川 関内ホール 大ホール

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