【ライブレポート】aikoからの特筆すべき“ありがとう”…歌うことに真正面から向き合った<LLP20>

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aikoが2019年1月よりアリーナツアー<Love Like Pop vol.21>を新たに開催する。自身の20周年を迎えた2018年は、彼女の歌うことへの思いやファンとの絆を特に感じさせる年となった。本記事では新年からのツアー前に、先日締めくくられた<Love Like Pop vol.20>から東京最終公演のレポートをお届けする。

◆aiko<Love Like Pop vol.20> 写真

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「みなさん、本当に今日はどうもありがとうございました!」
11月30日。aikoはこのツアーの東京公演ラストのNHKホールの最後にそう叫んだ。特筆すべき言葉ではないこの言葉を何故ここに記したのかと言えば、この日の“ありがとう”は、特筆すべき“ありがとう”だと感じたからだある。

もちろん、この日、aikoはライヴの流れの中で何度かMCを挟み、いろんな話をした。気取ることもせず、フロアから投げかけられる質問や歓声に、まるで友達と話すかのようにフランクに返していたaiko。それこそがaikoのライヴと言ってもいいほど、それももはや当たり前の光景だ。オーディエンスは、“アーティストaiko”が生み出す他にはない胸を打つ旋律と、胸の中で行き場を無くしてどうしようもなくなった想いにそっと寄り添ったり、受け止めてたり、代弁してくれたり、気付きをくれるその歌詞に引き寄せられるのと同時に、“アーティストaikoを超えたaikoという個の存在”そのものに惹かれ、“aikoに会いにやって来る”のである。

6月8日の神奈川・川崎市スポーツ・文化総合センター公演を皮切りに、12月9日の大阪フェスティバルホール公演まで、半年かけて行われたロングツアーとなった今回のaiko Live Tour 「Love Like Pop vol.20」は、7月にデビュー20周年を迎えたaikoにとって特別なものだった。だからこそ、20周年のステージで叫んだ“ありがとう”は、aikoにとって特別なものだったに違いないのだ。

aikoはこの日、アンコールに応えた後、さらにオーディエンスの声に応えてアンコールを重ね、その最後の音を届け終えた後に、マイクレスでこの言葉を叫んだのである。そして、aikoは鳴り止まぬaikoコールにアカペラでそっと声を重ねて応えた。

“痛みをわけあえるメーターがあったら 目を見る事を忘れ目盛り見て それはそれでうまくいかないさ だからあなたの肌を触らせてよ わからないから触らせてよ”

「だから」の歌詞に綴られたaikoの想いは、aikoの歌う意味そのものである。聴いてくれる人達の悲しみや苦しみを、aikoはそれ以上の悲しみと苦しみで包み込む。そんな優しさが溢れた曲。aikoの歌の象徴だ。恋を歌った歌でも、相手を想う気持ちに通じる大きな愛が、恋に限らない“aikoの歌う意味”へと繋がっていく。セットリストにはなかったこの曲を、aikoが最後にアカペラで歌った意味。それは、それこそが彼女の歌う意味であったからだからだろう。

aikoはひとブロック歌い終えた後、少し照れくさそうに“これからもみなさん、触らせて下さい”と呟いた。ホールライヴであることから、実質的な距離はあるのに、aikoのライヴには直接触れ合ったときのような温かさを感じる。

それはきっと、この日aikoが言ったように、aikoが聴き手の肌に声を通して、歌を通してそっと触れているからなのだろう。オーディエンスが、普通のライヴに行くのとは違う、“会いに行く”感覚になるのは、きっと、そんなaikoの体温を感じるからに違いない。

この日のライヴも始まりから、そんなaikoの体温を感じた幕開けだった。


ライヴの始まりを告げるaikoの20周年をまとめた映像が走馬灯のようにステージのヴィジョンを駆け抜けたオープニングはまさしく彼女とオーディエンスが築き上げてきた証。1曲目の「ストロー」が始まると、オーディエンスはとても自然にそのメロディーに手拍子を加えた。“君にいいことがあるように あるように あるように”ポップなメロディとキャッチーなリズムに乗って届けられる「ストロー」には、日常のちっちゃな幸せがaikoらしい言葉で綴られている。そして、この曲もまた、彼女が歌う意味そのものであると改めて感じた。

「ストロー」「エナジー」「あたしのせい」と間髪入れずに届けたaikoは、曲が移り変わる度にテンポを変えるオーディエンスのクラップの波の上で転がるように、縦にパッチワークされたボリューム感たっぷりのサーキュラーワンピースを翻しながら歌った。ホーンが曲を煌びやかに着飾った軽快なスカのリズムが印象的な「あたしのせい」では、会場がとても華やいだ。aikoがクルクルと回りながら歌うだけで、こんなにも多くの人達が笑顔になり、自然に手拍子をする。本当にaikoという存在のパワーは素晴らしい。

がしかし。aikoのすごいところは、こんなにも確固としたアーティスト性を持ちながら、冒頭でも記したように、とても親しみやすい空気感を放つことである。「あたしのせい」から、しっとりとした雰囲気の「くちびる」へと曲を繋げるとき、この日初めてのMCを挟んだのだが、おもてなしの言葉での挨拶の流れから、とても日常的な会話へと繋げ、一気に距離を縮めたのである。オーディエンスを爆笑させ緊張を解すと、インターバルを置かずにイントロを設けない「くちびる」の始まりに声を伸ばした。この切り換えたるや本当に見事である。

aikoは青いライトとアンニュイな空気の中で、そっとステップを踏みながら、時おりフェイクを挟み込みながら愛する人以外誰も要らないという究極の愛を、とても彼女らしく歌った。

「二時頃」「雨フラシ」と、繋げられていった聴かせるブロックでは、少し切なさを感じる憂いある旋律にオーディエンスが体を揺らした。どうしようもなく心を引っ張られた瞬間。aikoという魔法がその場に居た全員にかけられた瞬間を見た気がした。

アグレッシブなギターサウンドが響きわたるイントロから始まった「Loveletter」では、途中ボーカル台の上で小さく体操座りをした流れから、懸命にヘッドバンキングをしながら歌ったaikoは、中盤、ピアノの静かな音色に声を伸ばした「瞳」へと繋げ、ピアノの弾き語りへの流れを作った。

会場から11月22日に誕生日を迎えたaikoに“誕生日おめでとう! 誕生日何してたの?”という声が飛んだのだが、aikoはその言葉を受け、10月22日に声の不調によりライヴが振り替え公演になってしまったことに触れた。少しでも早く万全の体調に戻さねばと、外出は必要最低限に抑え誕生日当日も安静にしていたというaiko。しかし、ツアー中ということもあり、完治する間もなく歌う日々が続いたことから、そこからの公演は、自分の声と真正面から向き合いながら慎重に進められていたようだった。

声が露になる弾き語りで届けられた「恋人同士」と「ずっと近くに」でも、とても綺麗に伸びていたいつものaikoの歌声だと感じたのだが、本人いわく11月30日の時点でも本調子ではないと感じていたという。ステージ上では絶対に見せない姿だが、aikoはこれほどまでに歌うことにストイックに向き合っていたのである。

ピアノを離れてアップな楽曲で会場を盛り上げていった後半戦では、“嫌なことがあったら全部ここに置いていってや! 全力で受け止めて、NHKの裏で燃やします!”とオーディエンスを笑顔にし、「未来を拾いに」や「恋の涙」といった極上のポップチューンでラストまで一気に盛り上げたのだった。

そして、緩やかでジャジーな雰囲気の中、最高のファルセットを聴かせてくれた「うん。」からアンコールをスタートさせたaikoは、少し珍しいテンション感で物静かに話し始めた。

「またこうしてステージに立てるのが本当に嬉しいし、こうして歌えていることが本当に楽しいです。本当に本当にありがとうございます。なんかちょっと真面目な話というか、ちゃんとした話をするんやけど……、人って死ぬじゃないですか、いつかね。いつか。あのな。あんまり暗い話として深刻に受け止めへんでほしいねんけど……。でも、いつか私も歌えなくなるときが来ると思ったりするの。だからね、こうしてみんなの前で歌って、みんなと過ごしている時間がたまらなく気持ちいいんです。こんなに幸せなことがないの。だから、歌えなくなる日がすごく怖いの。そんな日が1日も先に伸ばせるように、みんなとこうして一緒に時間を過ごせることが私の生き甲斐やから、一生懸命続けたいなと思うし、みんなの中にも、ライヴに来てくれたことが、楽しい思い出として残ってくれたら嬉しいなと思うし、ライヴに来たいなって思ってほしいし、めんどくさかったり嫌なことや些細なことが1個1個楽しく進んでくれたらいいなと思ってます。私はいつもみんなからそういう気持ちを貰ってます。だから、私もみんなにそういう気持ちを伝えていけるようにもっともっと頑張りたいと思いますので、これからもよろしくお願いします!」

そんなaikoをオーディエンスは力強い拍手で包み込み、その言葉に多くの“ありがとう”の声をaikoの元へと投げかけた。今回、喉の不調で神戸公演が振り替え公演になってしまったことで、aikoはいろんなことを考えたのだろう。そして、改めてステージの上で歌えることの喜びを噛み締めたのだろう。嬉しそうな笑顔でオーディエンスの“ありがとう”を受け止めていたaikoの幸せそうな表情は、とても印象的なものだった。

デビュー20周年の節目となった<Love Like Pop vol.20>は、初めて訪れる会場を含め27会場45公演と過去最大規模だった。このツアーだけで8回もNHKホールでライヴを行なったのだから驚きである。さらに、その公演のすべてがソールドアウトであったという素晴らしさ。この結果こそ、aikoが常に全力で音楽と歌とオーディエンスと向き合ってきたからこその形である。

今回のツアーも、この日のライヴも、とにかく全力でぶつかり、全力で楽しんだaikoは、今頃きっと腑抜けになっているに違いない。これは毎回ツアーの度に思うことなのだが、aikoはこの20周年という特別な節目を境とする勢いを止めないためにも、11月18日に東京・NHKホール公演で、早くも2019年1月より全国3都市6公演のアリーナツアー<Love Like Pop vol.21>の開催を発表したのである。

これこそaikoの決意表明であると言えるだろう。aikoがこのツアーで経験したすべては、この先に繋がる未来の第一歩となる<Love Like Pop vol.21>へと繋がれていくことになる。

この先もaikoがずっと笑顔で歌い続けていられますように。そして、オーディエンスも“aikoという居場所”で、ずっと笑顔でいられますように。

この先の未来も、この心地よい体温を感じる場所が、今よりももっと素敵な場所になりますように———。

取材・文◎武市尚子
Photo:岡田貴之


セットリスト<Love Like Pop vol.20>

2018年11月30日 NHKホール公演
01. ストロー
02. エナジー
03. あたしのせい
04. くちびる
05. 二時頃
06. 雨フラシ
07. 陽と陰
08. Loveletter
09. 瞳
10. 恋人同士
11. ずっと近くに
12. 格好いいな
13. ドライブモード
14. 未来を拾いに
15. 恋の涙
16. 予告
17. 夢見る隙間
18. ハナガサイタ
EN1. うん。
EN2. 向かいあわせ
EN3. milk

<aiko Live Tour「Love Like Pop vol.21」>

2019年1月26日(土) 17:30/18:30 大阪:大阪城ホール
2019年1月27日(日) 17:30/18:30 大阪:大阪城ホール
2019年2月9日(土) 17:30/18:30 埼玉:さいたまスーパーアリーナ
2019年2月10日(日) 17:30/18:30 埼玉:さいたまスーパーアリーナ
2019年3月9日(土) 17:30/18:30 福岡:マリンメッセ福岡
2019年3月10日(日) 17:30/18:30 福岡:マリンメッセ福岡
チケット料金:6,800円(税込)

総合問い合わせ
aiko official fanclub
Baby Peenats
03-5452-0232(平日12:00~15:00、17:00~19:00)

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