【インタビュー】中田裕二、「どうやって自分の聖域を守っていくか」

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■ 今回は語気が強い

── 「ランナー」は、バンドサウンドが基調ですがもうちょっとラフな気持ち良さがありますね。

中田:この曲は、弾き語りのツアーを毎年やっているんですけど、その弾き語りをやっている感じを曲にしたいなというのがはじまりですね。結果としてラップ調になったんですけど。アコースティック・ファンクみたいなノリでした。

── アコースティック・サウンドにラップがのるっていうことでは、初期のベックの雰囲気もあるんですが、でもメロディの感覚はとても日本的なものという、独特のものを感じます。

中田:自分でもちょっと不思議な、変な曲というか(笑)。これは2、3時間で作った曲で、スピード感がありましたね。友だちが東京マラソンに参加していたので観に行ったんですけど、先に選手の人たちがあっという間に目の前を通り過ぎていって、その後に市民ランナーが続々と走ってくるんです。コスプレをしていたりとか、地元のPRをしていたりとかいろんな人が走っているのを見て、すごく「人生だな」と思って。いろんなものをゴールに設定して走っているというか。多分、タイムとか順位とかは関係ないところで走っている人たちもいて。それが面白いな、人生模様だなと思ったんですね。そのイメージでバーっと書き上げた感じでした。言葉遊びみたいな感じにしたいなというイメージが、結果的にラップ調になっていきました。


── ラップというと中田さんのこれまでの音楽とは遠いものだなと思うんですが、びっくりするくらいこれがハマっていて(笑)。「挑戦」っていう肩に力が入ったものではなかったんですね。

中田:そうですね、すごくリラックスした感じで作りましたね。

── 今作での制作時のノリというのも生きているんでしょうかね。そのアルバム1曲目となるのが「フラストレーション」です。この歌詞が今作の象徴的なところでもあって、現代をリアルに切っていくものになっています。《特に何かで縛られたくない ただ真実を掴みたい》というリリックが顕著ですが、SNSなど常に何かと繋がっているように見える世の中だけど、でも実際にところ全然繋がっていない感覚というか、ものすごく孤独なイメージを受け取りました。

中田:現代の空気感を切り取りたいなというのはありましたね。この曲は、具体的にどういうきっかけでできたかは忘れちゃったんですけど、でも今のシェア文化ですよね。『Sanctuary』というアルバムタイトルとも繋がっていくんですけど、とにかくいろんなところまで情報が侵食してくるなかで、どうやって自分の聖域、絶対不可侵な自分の居場所を守っていくか。なかなかそれが難しい時代になってきているんですけど、そことどう向き合うかということは常日頃考えているんです。

── 自分で音楽を作って発信するとなると、より敏感になりそうですね。情報にしても音楽にしても、どんどん共有されはするけれども、それと同時にどんどん軽くなっていってしまう感覚があるというか。

中田:そうなんですよね。みんなが同じインターフェース上にいるというのが、ある意味では不気味というか。もっとそれぞれに発信の場所がそれぞれの形であるべきだと思うんだけど。僕も使っていますけど、例えばインスタ上で全員がそこでプライベートなり自己主張なりをしていくような感じがあって。

── それは良くもあり、同時に何か上滑りしているような感じもあって。本物にどこか届かないように感じることもありますね。

中田:そうなんですよね、とても便利なんですけどね。ただそこまでの便利さって、人間にとって結構いらなかったりもするんですよね。でも人間は欲深いからどんどん便利なほうへと行ってしまいがちで、それを止める手段もなく。“自分を持つ”といってもなかなか難しいことですからね。そういうモヤモヤした苛立ちみたいな感覚を歌詞にしていますね。

── 「幻を突き止めて」も同様に、グルーヴィなサウンドに硬質な歌が映える曲です。

中田:自分では“砂漠ロック”と呼んでるんです。土っぽい、砂っぽい感覚。70年代前半くらいのロックに自分が抱いているイメージがそうなんですよね。アメリカの光景っていうのもあると思うんですけど、ドゥービー・ブラザーズのサウンドのような、馬で駆けている感じっていうか── ってこれ、『スタンピード』のジャケットのまんまのイメージですけど(笑)。その土臭さを、東京に感じているところがあるんです。それこそ“東京砂漠”じゃないですけど、そういう現代の渇きみたいなものをサウンドに乗せてみたかった。


── この曲に限らずですが、“今”を表現する上で言葉選びや歌詞の世界観が、これまで以上に鋭さを増している気がします。

中田:今回は、語気が強いと思います。あとで気づいたんですけど、メッセージっぽいものが多いですよね。これまで男女の色恋沙汰を歌うものが多かったんですけど、普段思うことも歌にしたいなというのがあって。今どのジャンルにもどの世界にも、目に見えないモヤモヤ感というがのあるなと思うんですよね。だからどうしてもそういう世相観というのは出てしまうんです。

── 今までいわゆる男女の色恋や自分の思いというものを描いてきたけれど、それだけでは表現が収まりきらなくなっているところも?

中田:このアルバムでももちろん「月の憂い」とか「テンション」では、男女の関係を描いてるんですけど、それも含めて、人間の本質とかリアリティというところを表現したい。必然的にバリエーションも増えていくし、もっといろんなシチュエーションでの詞が書きたいですね。

── フィクション的な美しさ、美意識的なものも感じましたが、よりノンフィクションとのせめぎ合いみたいなものがある気がします。

中田:そうですね。完全にリアルなものでもつまらないので。ないまぜになっている感じが、一番リアルなのかなと。やっているのは、そういう仕事なのかなと思うんです。

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