【インタビュー】布袋寅泰「“GUITARHYTHM”という言葉が僕の背中を押してくれた」

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布袋寅泰のライフワークと言える“GUITARHYTHM”が、令和元年に10年振りに復活を果たした。最新作となる『GUITARHYTHM VI』の収録曲は、いずれも実験精神を損なうことなく、現代ならではのメッセージ性を湛えつつも見事にポップミュージックへ昇華された、最新型HOTEIという傑作となった。


──5月29日発売の『GUITARHYTHM VI』は、“GUITARHYTHM”シリーズとしては10年振りのアルバムとなるわけですが、このタイミングで“GUITARHYTHM”が復活したことを自身はどう捉えていますか?

布袋寅泰:前作の『Paradox』(2017年)というアルバムは、長年の自分のキャリアの中でもサウンド的にも今という時代を反映していたし、歌詞の部分においてもとても満足いく自己最高傑作だと思っているんですね。それで、その先の新しい作品に取り組む時になかなか筆が降りなかったというか、プレッシャーがあったんです。

──前作『Paradox』はそれほどまでに充実した作品だったんですね。

布袋寅泰:そうですね。長年の集大成であり、ロンドンに移ってから向こうの人脈で作ったロンドンらしい作品だったんです。で、(次作への)一筆目がなかなか下りずプレッシャーを感じていた時、スタッフから「そう言えば(2018年は)『GUITARHYTHM』から30周年ですね」って言われて。「30年か…」って30年前に『GUITARHYTHM』を作った時のことを思い起こしてみたんですね。バンドがピークで解散して、初めてソロアルバムに取り組む時で、元々、洋楽指向だったのでそういうサウンドにもトライしてみたかったし、BOOWYというフォーマットとあのサウンドを引きずるわけにはいかないわけで、自分が手掛けたサウンドを自分でプロデュースする…新しいことにトライするチャンスでもあり、自分自身と向き合わざるを得ない時間でもあったんです。それで、元々描きたかったものを、コンピュータとギターだけというバンドとはまったく違う形態で描いてみようと。それはすごく大胆なチャレンジだったし、もしかするとファンが求めていたものとはちょっと違ったのかもしれないけれど、その冒険を受け入れてくれたファンも多かったし、すごく布袋らしいと言ってもらえたと思うんです。『GUITARHYTHM』というのは、『Paradox』とは違った意味で、やっぱり自分を代表する1枚だと思うんですよね。でも、あの頃のコンピュータというものがまだまだ不便なもので、同期もなかなかしなかったし、作ったものをセーブするにも問題があったり、とにかくコンピュータとやるというのは無謀だったんです。

──30年前のコンピュータはまだそんなものでしたか。

布袋寅泰:ええ。打ち込んだものを走らせて、それに合わせて弾いたものを一発録りするとか(笑)。

──デジタルなのかアナログなのか分からないですね(笑)。

布袋寅泰:3ピースバンドで「せーの」ってやっているような(笑)。ただ、僕のギターの特性というのは、(音が)出る瞬間と切れる瞬間とをすごく意識した音の長さ…ヒットする弦の振動にすべてを要約するようなスタイルだと思うんです。だから、コンピュータとのセッションは僕らしかったんでしょうね。

──では、『GUITARHYTHM VI』ではそのスタイルをもう一度…という?

布袋寅泰:そうではないんです。もうあの時の感じとは違う。今はコンピュータが当たり前になっていて、それこそノン・ミュージシャンでもテンプレートで広がりのある音が作れる。ツールという意味では(コンピュータは)便利を通り越してトゥーマッチなくらいクリエイションの場所だけじゃなく、我々の日常にあるわけじゃないですか?今そのコンセプトと向き合ったら、また違うものが作れるだろうし、同時にこの30年という自分の人間としての時間、そして今という目の前にある現実を“GUITARHYTHM”というテーマの下で描いたらどんな風になるか、そういうところで何となく肩の荷が下りたんです。大袈裟な言い方をすれば、例えばジョージ・ルーカスが『STAR WARS』を作ることなったら「まずはここから作ろう」というテンプレートってあると思うんですよね。その意味では、“GUITARHYTHM”という言葉が僕の背中を押してくれたという。

──「“GUITARHYTHM”というテーマならばこういう曲はアリだろう」といった感じで曲作りを進めていったと?

布袋寅泰:まぁ、一旦「よし、(次のアルバムは)『GUITARHYTHM VI』にするぞ」と思ったら、筆が進んだところもあったんですけど、不思議なもので(逆に)「“GUITARHYTHM”はこうではいけない」とか「いや、“こうでなければいけない”と考えることはおかしい」とか考えたり(笑)。まぁ、自分の中でそんな問答ができたことも楽しかったですけどね。でも、結果的には1年間くらいかかりましたよ。


▲左からBOXセット、初回限定盤、通常盤

──完成した『GUITARHYTHM VI』を拝聴しましたが、バラエティ豊かながら、しっかりと一本筋が通っていると言いましょうか、どう聴いても布袋寅泰のアルバム以外の何物でもない作品になりましたよね。

布袋寅泰:それはうれしい感想ですね。ある種、オムニバス映画のような、1曲ずつのテーマは違うんだけども、そこには一貫したものがあって、タイトル通りの“GUITAR”と“RHYTHM”という、僕のアーティストとしてのスタイルそのものに集約されたアルバムになったと思いますね。1st『GUITARHYTHM』では“ギターイズム”、“イズム=主義”という言葉は使わなかったんです。それは、(当時は)そこまでの思いがなかったというかね。でも、30数年間やってきて今は何をやっても自分になっちゃうし、「これは“布袋イズム”なんだな」と自分でも思います。(歌詞は)作詞家の皆さんと話し合いながら作っていきましたけれども、今回の歌詞では“あの日、見た未来”を描いてみようと思ったんですよ。それというのも、テクノロジーが進化して、我々が思い描いていた未来は今ここにあるわけじゃないですか? 映画『ブレードランナー』で描かれた2019年のように車は空を飛んでないけれども、きっと数年後には飛ぶでしょうし、AIやVR、AR、いろんなものがだんだんと我々を支配し始めている。今レプリカントはいないけれども、そのうち現れるでしょう。子供の頃のように未来を思ってワクワクするような部分はもちろんあるけれども、未来という言葉を思い浮かべるだけで、これ以上前に進めてはいけないような、ある種の閉塞感ってあるじゃないですか? 今という未来に住んでいる我々だからこそ描けるリアルなSF、そういったところもテーマに置いて作っていったんですね。

──「Black Goggles」や「Clone (feat. Cornelius)」といった森雪之丞さんの歌詞に顕著なのですが、近未来へ警鐘を鳴らしているかのような内容の楽曲が見受けれます。つまり、これは布袋さんご自身が危惧されているからなんですね。

布袋寅泰:僕だけじゃなくて皆さん持っていませんか?ちょっとこれはトゥーマッチだって。(ネットで)買い物をしたら次の日には似たようなものがおすすめになったり、電話番号を登録すると知らない人から電話がかかってきたり、完全に支配され始めたなって思うんですよ(苦笑)。「さて、これは止められるか?」って考えると、もう止められない。ある時は共存しながら、ある時は逃げながら、自分を守っていかなきゃいけないところがあったり、(その一方では)それは不可能だろうと思う部分もあったり。まぁ、そんなことを言ってると、暗くて重い作品になっていると思われるかもしれないけれども、そこに一筋の光を見出したいという考えはどの時代の人間にもクリエイションにもあるべきだし、そこを描くことで見えてくる人間らしさもありますからね。あと「Thanks a Lot」で描いたような、30年以上経ったけど何も変わらない…僕は50歳になった時に思ったけど、「50歳になっていいのかな?」みたいなものもあって。50歳になっても(若い頃と)変わらないし、きっと60歳になっても70歳になっても、自分はたぶん馬鹿なんですよね。もっと大人になりたいとも思うけど、(世間一般で言う)大人になりたかったわけじゃないし。そういうものとずっと向き合いながら生きていく。そんなことも描いていて、警鐘だけではない、皆で時に振り向きながら、先のことも考えながら…というカラフルな作品にはなったんじゃないかな。

──「Thanks a Lot」を聴いて、これだけキャリアがある人なのに、どうしてチャレンジを求めるのだろうか?と思っていたのですが。

布袋寅泰:それ、誉め言葉ですか(笑)?「お前はまた同じことをやってるんだ?」じゃなくて(笑)?

──いやいや、最大級の誉め言葉と受け取っていただければと思います(苦笑)。今のお話からしますと、未来は明るくないかもしれないけれども、決して前向きさを失ってはいけない…「Thanks a Lot」にはそういう意味合いも含まれているようですね。

布袋寅泰:様々な表現方法があるけれども、エンタテイメント、アート、音楽はそうあるべきですよね。聴いた人が日常ではなかなか気付かないようなこと、当たり前に思っていることをもう一度気付かせたり、落ち込んでいた気持ちがフッと前向きになったり。それとは逆の方法もあるんだろうけど、僕はやっぱりそれを聴いた瞬間に「そうだ、また俺も頑張ろう」ってちょっとポジティブになるような音を届けたいと思うしね。

──その「Thanks a Lot」には、元BOOWYのメンバーである松井常松、高橋まことが31年ぶりに参加されたそうですね。

布袋寅泰:うん。それは今だからやれたことだと思います。(だから)生々しいバンドサウンドになりましたよね。僕の拙い歌詞はいつまで経っても言っていることは一緒で、「変わりたくても変われないこともあるけれども、変わらなくてもいいんだ。倒れたら起き上がればいい。とにかく前に向かうことしかできないんだから、だったら胸を張って進もうよ」ということなんです。そのシンプルなことを、それぞれの年代において「さらば青春の光」(1993年)がそうであったように、「RUSSIAN ROULETTE」(2002年)がそうであったように、もっと言っちゃえばBOOWYの「DREAMIN'」がそうであったように(1985年※松井五郎氏との共作)、それをずっと伝えてきたし、これからも伝えていくことがミュージシャンとしての僕のコアですからね。「Thanks a Lot」で元BOOWYメンバーが参加したことはそういうことでもあると思います。


──「Thanks a Lot」に「傷ついてもいい挑み続けたいだけ 自分を信じて明日を信じて そうさ飛び立とう 誰も見たことない世界へ」という歌詞があります。布袋さんはバンド~ソロ~ユニット、そしてまたソロへと活動のスタイルを変えている上、2012年には活動拠点を東京からロンドンへと移しています。まさに布袋さん自身の生き方とも重なりますね。

布袋寅泰:「夢を見ようぜ」という歌を歌う以上は僕自身も夢を見ていなければいけないと思いますからね。あと、自己を更新していきたいと思うんです。タイムもなければ勝ち負けもない世界だけれども、1ミリでも更新できたかどうかは自分自身が一番分かりますよね。作品作りというのはそういうことだと思います。

──同じところに留まることや再生産に甘んじないということでしょうか。これも誉め言葉と受け取っていただければと思うんですが、布袋さんクラスなら、極端な話をすれば、新作を作らずに過去の楽曲だけで活動することは充分に可能だと思うんです。

布袋寅泰:ああ、そうでしょうね。

──それでも、こうして新作を発表していること自体、すごく前向きなことだと思います。

布袋寅泰:いや。むしろそれが健全だと思いますけどね。ザ・ローリング・ストーンズにしても過去の曲しかやっていないわけじゃなくて、1曲だけでも新しい曲をやっていたり、もしくはその夜限りのセッションをやっていたりするし、彼らにとってそれはすごく大事なことでしょうね。オーディエンスがどう考えているかは分からないですけど、僕らにとってミュージシャンのあるべき姿というのは今を生きるミュージシャンであるかどうかであるし、それは今のサウンドでしか出せない。まぁ、「ずっとそれだけやっていたら安泰だから、10年先まで何も心配しないでいい」って言われたら悩まないわけでもないだろうけど(笑)、退屈でしょうね。それじゃあ、胸を張れない。

──過去だけに生き続けるのは布袋さん自身が耐えきれないし、満足できないだろうと。

布袋寅泰:だってさ、友達に「コンサートにおいでよ。去年と一緒だよ」なんて言えないじゃん(笑)。やっぱり最新の布袋が最高であって、それを更新していきたいよね。僕のファンはそれを誇りに思ってくれていると思いますよ。あと、僕が憧れたDavid Bowieや良き日のロックスターたちも貪欲だったしね。毎作毎作、違う世界を見せてくれたし、そういうところでワクワクさせるのはエンタテイメントの大切なことだと思うな。

──分かりました。その点で言うと、今まで様々なアーティストと積極的にコラボレーションしてきたことも布袋さんならではの貪欲さの表れだと思うんですが、今作は「Give It To The Universe」でMAN WITH A MISSIONとの共演が実現しましたね。


布袋寅泰:まぁ、狼と(のコラボレーション)は初めてですけどね(笑)。

──彼らとは以前ライブイベントで顔を合わせてましたよね?

布袋寅泰:そうですね。実際、本人たちと…いや、人じゃないな(笑)、彼らと最初に会ったのはそこで、どうやら彼らは、“GUITARHYTHMチルドレン”じゃないけど、皆、僕のことを聴いていてくれて、すごくリスペクトを感じたし、実際に演奏を聴いたら、“あ、おもしろいな”って思ったんですね。さすがに人気者らしい、広がりのある音だなと。で、そののちにロンドンで彼らのライブを見たんです。マンウィズも日本で成功を収めているのに前向きに海外へもチャレンジしている、その意味では世代は違うけれども(自分と)相通じるものはあるし。彼らもすごく洋楽指向ですし、そんなところで共感して、僕の方からアプローチしたら快く受けてもらったんです。初めはデータのやりとり…まず僕がリフと下書きを作って、そこに彼らが彼らのアイディアを乗せて、それを何度かやりとりして、最終的に彼らがロンドンへ来てスタジオで一緒に楽器を弾いて作ったんです。沿革だけでもスタイルだけでもなくて、実際に音と気持ちを重ねた真のコラボレーションでしたよね。

──巷にはラップや女性ボーカルをちょいと足しただけで“フィーチャリングでござい”とばかりの楽曲がなくはないですが、「Give It To The Universe」は完全なるコラボレーションといった印象です。布袋さんの楽曲でもあり、マンウィズの楽曲でもありますね。

布袋寅泰:うん、そうですね。歌詞にしてもリフにしても、彼らは前向きなアイディアをどんどん投げてくれたましたからね。彼らが人間ではないということが象徴的だと思ったんで、地球外生物から見たら「地球というのはこんなに美しくてこんなに豊かで素晴らしい世界なのに、どうして君たちはそれに気付かずに壊そうとしているんだ?」と。それに対して地球人が言い訳するというキャスティングも明確で、白黒がはっきりとしているのはおもしろかったですよね。

──その辺はマンウィズと一緒にやった必然性といった感じでしょうかね。あと、コラボレーションで言えば、今作には「Clone (feat. Cornelius)」も収録されています。Cornelius=小山田圭吾さんとは今回、二度目のコラボですね。

布袋寅泰:そうですね。でも、一度目はリミックスで(素材を)お渡ししただけだったんですけど、データでのやり取りではありましたけれども、コラボレーションということでは今回が初めてだったでしょうね。

──しかし、「Clone (feat. Cornelius)」は相当おもしろいサウンドに仕上がりましたね。

布袋寅泰:強烈ですよね。小山田圭吾くんは僕が一番好きなギタリストであり、一番好きなサウンドプロデューサーであり、こう…何て言うか、羨んでしまう才能なんですよね。彼のエッジーかつ空間的なサウンドメイキングというのは本当に惚れ惚れするし、嫉妬を覚えますよ。彼の海外での評価はものすごくて、今回のアルバムを海外のいろんな人に紹介したら、どこへ行っても「Corneliusも参加している」と言うと「えっ、Corneliusが?」って言われたし、Corneliusの名前は尖ったクリエーターたちは必ず知ってますから。そういうところでさらに嫉妬したんだけど(苦笑)。最初にデモを作って彼に送って、それが戻って来た時、見るも無残に原型がなくなっていて、「えっ、俺のギターがなくなっちゃうの?」みたいな(笑)、そのくらいスライスされて再構築されて、まったく別の曲になってたんですよ。その時はかなり痛みも感じたんだけれども、彼に委ねた限り、彼らしくあってほしいし、実験的であるという意味では、それこそそれは“GUITARHYTHM”の精神でもあるわけだから、「ちょっと待ってくれ、そこは手加減してくれ」とは言わなかったんです。で、小山田くんの音が上がる前に森(雪之丞)さんに振ってあった歌詞が上がってきてたんですけど、その歌詞を見た時も軽く眩暈がして(苦笑)。ブラックな内容で、サビは原子記号なわけじゃないですか?「これ、歌えるのかなぁ?」と思っていた時に小山田くんからも上がってきて、何かもうどうしていいか分からなくなっちゃって(苦笑)。それぞれに注文を出すことは控えて、寝かしておこうという感じで、申し訳ないんだけど、数カ月間そのままにしておいたんですね。ただ、他のいろいろな曲が上がってきて、アルバムの全体像が見えてきたら、やっぱりその楽曲(=「Clone (feat. Cornelius)」)はすごく生々しい。森さんが作った歌詞の1曲目であって、小山田くんのファースト・インスピレーションでもあって、勢いがあったんですよね。だから、結果的に彼らからの最初の回答に近い形に仕上げましたよね。

──これは個人的な感想ですが、「Clone (feat. Cornelius)」のニューウエーブ感からは1st『GUITARHYTHM』の匂いを感じたんですね。ですから、小山田さんはちゃんと“GUITARHYTHM”らしさを意識されたのかなと想像はしていましたが。

布袋寅泰:たぶん(小山田圭吾は)『III』か『IV』辺りから興味なくて聴いてないとは思いますけど、『GUITARHYTHM』と『II』はきっと興味深く聴いていたでしょう(笑)。

──そうなんですかね(笑)。『GUITARHYTHM』にはパンクとニューウエーブ、あるいはR&Rとデジタルの融合といった側面があったと思いますが、「Clone (feat. Cornelius)」にはその辺の匂いがあります。

布袋寅泰:小山田くんへの少ないリクエストとしては、Conny Plankとかのジャーマンの初期のシンセベースであったり、ああいうニューウエーブの匂いは是非残してほしいということ、それくらいですよね。ルックスも違えば、表現しているものも違うし、こう言うのは小山田くんに対して失礼なのかもしれないけど、きっと僕らは似ていますよ。僕は布袋寅泰になっちゃったし、小山田くんは小山田圭吾はなっちゃったけど、生まれ変われるとしたら僕は小山田くんになりたいし、小山田くんも布袋になりたいと思ってるんじゃないかな(笑)。ギタリストであり、モダンであるということは、渋くならない。僕はEric Claptonも好きだけど、Eric Claptonになりたいわけではないですよ。そういう意味では、違う性を背負った異端児のギタリスト同士として(小山田圭吾と自分とは)すごくDNAは近いと思います。

──そうした2人がコラボレーションすることで今まで聴いたことがない、ディストピアを表現するような楽曲が生まれたというのが、またおもしろいですよね。

布袋寅泰:そうだね。自分ひとりの力ではなく、誰かに委ねることでまた自分の力を発見して出してもらえるという。今回イタリアのTommaso Collivaというプロデューサーにも参加してもらっているんだけど、そうやって誰かと共に自分と向き合うことで、自分の許容量も広がるというか。昔はなかなかそれだけの勇気がなかったけど、今は他人から返ってくる自分を受け入れられるし、楽しめる。ちょっとした余裕ができたのかなと思います。

──これはアルバム総体での話になりますけど、作詞家を含めて積極的に他者と絡む実験的な面がありながらも、出来上がった作品は充分にポップですよね?13曲収録されていますが、インタルードやブリッジ的な楽曲はなく、どれもダンサブルでメロディアスでキャッチー。そこが『GUITARHYTHM VI』の最も素晴らしいところではないかと思うんです。


布袋寅泰:それはどう聴いても誉め言葉ですよね(笑)。実験的でありながらもポップであるというのは僕が絶対的にこだわりたいところです。ポップであり過ぎず実験的であり過ぎないとなると、中途半端になっちゃうこともあるじゃないですか?でも、そこは自分の変わらぬギタースタイルという芯の部分があるので、振り幅はあっても、“GUITARHYTHM”という精神もあるし(中途半端にはならない)。まぁ、そう考えると、今回は“GUITARHYTHM”だから成り立っている部分もあるかもしれないですよね。これが違うテーマだったらこうじゃなかったかもしれない。ただ、あんまりメロディアスなものを作ろうという意識はないんです。でも、こればかりは自分の地にあるものだから。

──元々、布袋さんはメロディ指向の方ではあるんでしょうからね。

布袋寅泰:そうですね。もちろんリスナーとしては前衛的な音楽もかなりこだわって聴いてきたんですけど、やっぱりギターとなると、どこかで弾く快感と聴く快感を外せないんですよね。♪ジャカジャーン♪という音を聴いた時にそこから伝わるエネルギーを受け止めて、それでクラっとしている気持ちはギターを弾く行為の中に含まれているもので、実際、僕はそれを浴びてきた世代のギタリストですから、自分だけに酔うことは許されない。目の前にいる奴が気持ちよくならなきゃ俺が弾いている意味がないということを、宿命的に持っている部分はあるかもね。

──それは若い頃からそうでしたか?

布袋寅泰:うん。下を向いて弾くギタリストは好きじゃなくてね。聴くのは好きだよ。Steve Hackettとかさ、(演奏している時に)顔が見えないギタリストは結構好きだったけど、やっぱりやる時は「俺だ!」というのが好きだね。それはパンクの影響もあるんじゃないですか?「下手でどこが悪いんだよ、俺たちの方がエネルギーあるよ」っていうテクニック至上主義ではない時代も通過しているんで、「上手きゃいいってもんじゃない。カッコよくなくちゃ」、でも、「カッコいいだけじゃダメ」というね。

──なるほど。それはまさに布袋さんのスタイルであって、その最新形が『GUITARHYTHM VI』になるんでしょうね。

布袋寅泰:うん。そういうことです。

取材・文:帆苅智之

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