フジロックが謳う「自己責任」とは?

ツイート


■「来場者として見た、フジロックの無残な一面」

忘れもしない光景がある。2017年の<フジロック>2日目の夜のことだ。キャンプサイトの入口付近を歩いていたら、なにやらうずたかく積まれたものが目に入った。薄暗くてよく見えなかったので近づいてみると、それはゴミだと分かった。人為的に生まれたそのゴミの山は反対側が見えなくなるほどにまで山積され、豊かな大自然の中では異様に浮いて見えた。

まだ明日もあるというのに。日本における音楽フェスの、言わばトップに君臨するフジロックの魅力は皆で創るフェスだったはずなのに、どうしてしまったんだろう?

フジロックの抱える問題を図らずも目にしたとき、安泰だと思われているはずのフジロックがこの先も継続していけるのだろうかと本気で心配したのを覚えている。

■「フジロック主催者側からのメッセージ」

その翌年の2018年、主催者から放たれたメッセージは2分を超えるアニメーション「OSAHO- Festival Etiquette -」と、“再び世界一クリーンなフェスを目指して”というキャッチコピーの下に繰り広げられたマナー向上キャンペーンだった。

  ◆  ◆  ◆

◎「FUJI ROCK OSAHO- Festival Etiquette -」とは

“ルール・マナー”でもない、規制でもない。快適で気持ちよいフジロックをつくるのは、参加者ひとりひとりの気持ちが大切。国境を越え、文化を越え、フジロックから始まるあたりまえのエチケットを、あえて 「-OSAHO-」(お作法)と呼び、キャンペーンを展開いたします。


◎マナー向上〜再び世界一クリーンなフェスを目指して〜

近年、ゴミ捨てや場所取り等のマナーが低下しています。
来場者の皆さんのマナーのひとつひとつが、フジロック・フェスティバルの環境を左右します。自然との共生を目指して、来場者の皆さんとともに築き上げてきたフジロック・フェスティバル。来場者の数だけゴミが増えマナーが低下するのではなく、来場者ひとりひとりがマナーを見直しゴミの削減を考える。再び、世界に誇れるクリーンなフェスティバルを一緒に創り上げましょう!
オフィシャルサイトより抜粋)

  ◆  ◆  ◆

かつてフジロックには、「世界一クリーンなフェス」と讃えられていた時代があった。日本人は他国の人に比べてきれい好きな民族でもあるが、転機は1999年。波乱含みの初年度97年、翌98年を経験した来場者が、苗場が頼みの新天地となったこの99年に真摯にゴミ問題と向き合ったことに加えて、同年には300人のボランティアによるゴミの自己管理キャンペーンも行われたことで、ゴミのない状況が生まれた。海外メディアを通じて、99年のフジロックが「クリーンフェス」と報道された由縁もこの試みにある。

しかし、そんなフジロックではなくなってしまったわけだ。

確かに、冒頭に述べた2017年のゴミの山と、フジロック開催初回の嵐の天神山での体験以外でフジロックの存続を危惧するような事態に遭遇したことはこれまで一度もなかった。だが、昨年のマナー向上キャンペーンを受けてよくよく会場内を見渡してみると、椅子を折りたたまずに頭にスポっとかけて移動する危険人物は未だに多く存在していて、悲しいかな、小学生くらいの子どもまでもがそんなスタイルで親と思われる大人と共に歩いていた姿を目撃したりもした。それ以外にも、歩きタバコも絶滅はしてはいないし、場所取りやゴミの放置は年々増えている印象さえあり、マナーが著しく低下してしまったと認めざるを得ない光景は多々あったと言える。

ただ、昨年に関して言えば、台風12号の影響でテントが倒壊するほどの暴風が吹き荒れたこともあり、風によって物が散乱した結果、ゴミになってしまったというケースもあったようだ。

■「フジロック、どこまでが自己責任なのか」

そこで抱いた疑問は「どこまでが自己責任なのだろうか」ということ。そもそもフジロックは、「自分のことは自分で」「助け合い・譲り合い」「自然を敬う」という3原則を23年の間、途切れることなく大声で謳ってきた音楽フェスティバルである。そうした啓蒙とも取れる強いメッセージを、出演者、スタッフ、オーディエンスの全参加者に対して真っ向から発信し続けている尖ったフェスは、日本のみならず、世界を見渡してみてもフジロックの他にはない。



しかしながら、とどのつまり自己責任の範囲はその人が決めることだから、非常に難しい問題のはずなのだが、フジロックの場合は長きに渡る啓蒙活動が功を奏し、フジロッカーと呼ばれるファン層にはそうした主催者のメッセージをもはや当たり前のこととして受け止められている感もある(それもすごい話なのだが)。

その一方で、ケンドリック・ラマー、N.E.R.D、アンダーソン・パーク&ザ・フリー・ナショナルズなどのヒップホップ勢をメインに据えた斬新なブッキングによって時代とも波長を合わせるという新たな方向性を示した昨年のフジロックは新たなファン層の獲得に成功し、さらには音楽フェスとして世界的な認知度が上がったこと、そしてインバウンドのチケット販売網を整えたことで海外からの来場者も急増している。初めて来場した人は何も知らずに参加するのは当然で、さらに海外からの来場者の場合は言葉や文化的な違いによる壁もあるので主催者の意図は伝わりにくいようにも思う。

そこで、近年のフジロックの抱える「会場内でのマナーの低下」と「ゴミ問題」についての実情について、フジロックの変遷を開催当初から内部で見守り、携わってこられたホットスタッフプロモーションの鯉沼 源多郎氏に話を訊いた。

◆インタビューへ
この記事をツイート

この記事の関連情報