【レポート】首振りDolls、<PSYCHO SHOCK!!>単独公演・京都『磔磔』での景色

ポスト

5月22日にニューアルバム『アリス』をリリースし、5月24日から全国ツアーをスタートさせた首振りDolls。新体制初となる全国ツアーで魅せた古くから彼らを知るオーディエンスと、最近首振りDollsを知って会場に足を運んだ人達とで生み出された新たなノリは、まだ見ぬ彼らの可能性を感じさせる場所となった。マンスリー連載第6弾では、地方単独公演ラストとなった7月28日に行われた京都・磔磔でのライヴを振り返っていく。

◆首振りDolls 画像

2019年7月28日。京都・磔磔。
彼らが選んだこの場所は、5月24日からスタートさせたニューアルバム『アリス』を引っさげての発売記念ツアー<PSYCHO SHOCK!!>の地方単独公演の最終日だった。

最高のロックンロールSHOWを魅せる彼らだが、いなたい世界観を宿す独特なバンドゆえ、築102年、45年目という大正時代に建てられた建物をそのまま使った“この場所在りき”で演者を迎える、他のライヴハウスとは異なる空間である磔磔という場所にとても似合う。

1月5日にショーン・ホラーショー(B)を迎え、現体制で創り上げたニューアルバム『アリス』は、いなたさが前面に押し出されていた首振りDollsの音に、ショーンがルーツとするミクスチャー要素が加わったことで新しい風が吹き込まれたのだが、従来の首振りDollsの個性が失われることは一切なく、むしろ、その新たな感覚がいなたさを強調させると同時に、何処にも存在しない最新のバンドサウンドを創り上げたのだ。

この日、もともと親和性のある磔磔という場所に、進化した首振りDollsの音が想像以上に心地良く溶け込んだことに驚きを隠せなかった。というべきか、この日、改めて、彼ら首振りDollsは、演じる場所によって魅せ方を変化させる不思議な力を持ったバンドであることを教えられた気がしたというべきかもしれない。

彼らはこのツアーで様々なライヴハウスで音を放ってきた訳だが、その度ごとに、その箱ならではのサウンド感や空気感の中で、“そのハコならではの首振りDollsらしさ”で、その場を最高の景色に導いて来たのだ。

つまり、いつも決まった首振りDollsがそこに在る訳ではなく、肌を合わせるハコによって、その魅せ方を変化させている気がしてならないのである。狙って変化させている訳ではなく、ごくごく自然に。



建物の2階を楽屋とする作りになっている磔磔は、階段を降り、客席を通ってステージへと向かう経路。ジョニー、ショーンが階段上から姿を現わすと、オーディエンスは大きな歓声で2人を包み込み、ステージへと送り込んだ。そんな2人の後に続き、羽織をひるがえしながら、ゆっくりと階段を下ったナオは、既にその時点で、102年もの間そこに存在し、誇らしく生き続けてきた磔磔という場所に自らの身を染めていた。

そんな彼らが1曲目に選んでいたのは「黒い太陽」。
アルバム『アリス』のリード曲だ。
この曲のリズムもショーンの加入によって首振りDollsに吹き込まれた新しい風である。通常は、ジョニーの力強いピッキングから幕を開けるのだが、この日の「黒い太陽」は少し違った。
オーディエンスは、テンポを落とし、ゆっくりとアカペラで歌い始めたナオの唄声に吸い込まれながらも、ど頭から拳を振り上げて暴れる準備をしていた勢いを抑え込んだ。それもあってか、唄開けでジョニーとショーンがそれぞれの音を差し込んだ瞬間のフロアの爆発力はいつも以上の熱を放っていた。

しっかりとオーディエンスを掴んだ手応えを残した彼らは、そこから間髪入れずに繋げられた「蜃気楼」「wanted baby」「INU」といった首振りDollsの軸となる、いなたく癖の強いロックンロールで攻め込んでいった。

「会いたかったぜ磔磔!」


ナオの叫びから、ギターのジョニーが、敢えて洋楽かぶれした“Say! 磔磔!”という呼びかけでコール&レスポンスをフロアに促すも失敗。いきなり差し込まれたくだけたMCと、ショーアップされた演奏との落差にフロアから笑いが起こる。

しかし、これもここ最近の首振りDollsのライヴの見せ場なのである。とことん自由に叫ぶジョニーの奔放さと、ナオとジョニーの“オネエとツッコミ”的な、どこまでも緩いやり取りと、そのやり取りをオーディエンスと同じ目線で微笑を浮かべながらおとなしく見守るショーンという図式こそも、今やオーディエンスにはたまらない演出となっている様だ。

この日は、海外の往年のロックスターを敬愛するジョニーが、何度も続けて“Say! 磔磔!”叫んだことによって、オーディエンスは“ジョニーがやりたいコールの意味”に気付き、ジョニーの“磔磔コール”の後に“磔磔!”のレスポンスをステージに向けて返した。やりたかったコール&レスポンスを手に入れたジョニーの満足そうな表情を受け、ナオはジョニーのことを【海賊よりも自由なギタリスト、ジョニー・ダイアモンド!】と紹介した。

そう。ここ最近の首振りDollsの変化といえば、ショーンの加入によって強化された低音の重厚さとグルーヴ感ももちろんなのだが、低音のデカさに触発され、さらに勢いづいたジョニーのギターの表現力と、【ギタリスト・ジョニー・ダイアモンドという個性の開花】という変化も実に大きいなところなのである。
その自由さは、このツアーでさらに磨きがかかったと言ってもいい。

それを一番感じさせられるのは、ショーン作曲の「PSYCHO CLUB」だ。
この日もライヴ中盤で「イージーライダー」「サンドノイズ」という前作のアルバム曲の間に挟んだ流れで「PSYCHO CLUB」が届けれたのだが、この「PSYCHO CLUB」で魅せるジョニーの奇怪なダンスパフォーマンスは、まさしく【ギタリスト・ジョニー・ダイアモンドという個性の開花】であると言える。
百聞は一見にしかず。

これは本当に実際にライヴで体感してみてほしいのだが、ジョニー曰く、このダンスは“ミックジャガー”が降りてきているらしいのだが、この自由奔放さは、新たなギターヒーローの登場を確信させるほど衝撃なのである。
音源だけでは感じることの出来ないロックンロールの楽しみ方を、ジョニーというギタリストは教えてくれる。ツアー単独公演のラストで感じたジョニーの自由なギタリストっぷりは、この先、どんどん魅力を増していくことになるだろう。
ジョニー・ダイアモンドは、北九州が生んだ最強のギタリストであると断言しておくことにしよう。

またこの日は、ジョニーの個性を再確認したと同時に、個々の魅力を改めて感じたライヴでもあった。

ナオのドラムボーカルという絶対的な個性も首振りDollsの核であるのだが、バンドにおいて、ドラマーにとっての1番の相棒はベーシストである。ショーンという最強の相棒を手に入れたナオもまた、最強ドラマーに成長したと感じる。

ショーンという最強のリズムマシーンが持つリズムパターンは、ナオにとってはこれまで触れることがなかったものも多く、体に馴染むのに時間を要した様であるが、このツアーを経て3人で音を重ねていくことが増えたことで、今はすっかり自分の武器としていると感じられたのだ。

ドラムを叩きながら唄うナオのボーカルは抑揚とキメ部分が実に気持ちいい。ドラムを基準に、そこに合わせて歌うというのが通常のボーカリストのスタイルなのだが、ナオは自分の中にリズムがある上に、自分のタイミングを解った上でそこに歌を載せていることから、そこが一体化していることで寸分のズレなく重なり合うのだ。バンドの土台とバンドの顔でもあり、バンドを担う立ち位置であるボーカリストという二役をこなすナオは逸材だ。

普段の声からは想像が付かない嗄れた歌声と絶妙なシャウトは、ロックンロールを歌うために生まれてきたと言っても過言ではない。ナオの強みはそれだけではなく、普段の声に近い裸の声で歌われるバラードもまた特別に魅力的である。この日届けられた「シャボン玉」「ブラウンシュガー」「色子」「星屑のメロディ」と並べられたブロックでは、ナオの歌唱力の高さをまじまじと感じさせられる時間となった。まさに、ここまで聴かせる楽曲達を並べて聴けるのはワンマンならでは。対バンライヴでは体感出来ないワンマンライヴの良さでもある。

激しい曲はちょっと苦手。ロックって馴染みがなくて。という人達にも、歌謡曲を思わす琴線に触れるメロディに乗った甘く切ないナオの唄は、必ずや響くに違いない。

そして。やはりこの日改めて感じたのは、ショーン・ホラーショーというベーシストの存在の大きさだ。
今の首振りDollsが在るのは、ショーンの存在あってのことと言い切っても過言ではない。加入からわずか半年とは思えない存在感だ。まさしく、【首振りDollsでベースを弾くために生まれてきた男】である。

ショーン作曲の「ホール」では、ショーンの作曲者としての才能が、ナオとジョニーというプレイヤーの個性と首振りDollsというバンドの個性を上手く使いこなした最高傑作であると感じさせる。この日ライヴで聴いた「ホール」も、正真正銘の新たな首振りDollsを感じさせるものであった。そして、「金輪罪」「ニセモノ」「鏡地獄」といった旧曲すらも、正真正銘の新たな首振りDollsを感じさせるものであったこと。ショーンのすごいところは、旧曲も自らの全てのスキルを惜し気なく投入するも、しっかりと従来の首振りDollsらしさを殺さずに引き立てているところである。

ナオによって生み出された首振りDollsの代表曲とされる初期曲「鏡地獄」も、しっかりとその毒々しさと妖しさを残しながら、ナオ、ジョニー、ショーンというプレイヤーならではのグルーヴ感とテンポ感を纏い、令和という時代に、“新しい”と思わせることが出来る爪痕を残せる手応えを感じるのだ。そんな首振りDollsの音と唄は、カセットテープや現像が必要なカメラが若い世代に流行っているような、便利になり過ぎてしまったことで、敢えてアナログ時代のモノを愛しく思う感覚とも似ている様な気がしてならない。

首振りDollsの音とライヴスタイルには、人間らしい体温と“ロックの楽しみ方”が詰め込まれているのだと私は思う。



ショーン加入からわずか半年。こんなに短期間でここまで大きくバンドが変化し、一気に進化する過程は見たことがない。オーディエンスも、この進化のスピード感に期待せずにはいられないのだろう。フロアが、必死に彼らについて行こうとしている熱をライヴごとに感じられるのも、ここ最近の彼らのライヴの特徴だと言える。

2019年8月30日。
ツアー『PSYCHO SHOCK!!』は新宿ロフトでファイナルを迎える。
過去最多曲数で挑んだ地方単独ファイナル公演京都・磔磔でのライヴが、どのように新宿ロフトのファイナルに繋がっていくのか実に楽しみなところ。
冒頭で記した様に、ライヴハウスを自分たち色に染め上げていく彼らが、新宿ロフトをどの様に染めるのか。
ロフトで魅せるツアーの集大成は、この先の首振りDollsの幕開けともいえる重要なライヴになるに違いない。
今、何かと世間を騒がせている首振りDolls。
きっと彼らはこの音楽シーンに風穴を開ける存在になっていくことだろう。
2019年8月30日・新宿ロフト。
新たな歴史の始まりの立会人に、貴方もなってみませんか?

撮影◎柴山正之(磔磔ライヴ写真)
取材・文◎武市尚子


■ライブ・イベント情報

2019年8月
8月2日(金)福岡DRUM SON
8月4日(日)大阪Bigtwin Diner SHOVEL
8月5日(月)名古屋車道LINK
8月30日(金)新宿ロフト【one-man】

■首振りDolls『アリス』

2019年5月22日発売
KICS-3800/¥2,700+税/KINGRECORDS
詳細:http://www.kingrecords.co.jp/cs/artist/artist.aspx?artist=45515

<収録曲>
01.唐紅
02.カラリカラマワリ
03.PSYCHO CLUB
04.黒い太陽
05.産声
06.ティーネイジ~new dolls ver~
07.lazy
08.ホール
09.BROWN SUGAR
10.地獄に堕ちた野郎ども
11.INU
12.シャボン玉
13.星くずのメロディ
14.ティーンネイジャーアンドロックンロール

ジャケットのアートワークは、『デスコ』『BAMBi』『SOIL』という数々の人気作品を手掛け、最新作として手塚治虫の名作『どろろ』を大胆にアレンジした『サーチアンドデストロイ』が話題となっている人気漫画家のカネコアツシ氏。

この記事をポスト

この記事の関連情報