【ライヴレポート】HYDE、<ANTI FINAL>幕張メッセで「真っ暗闇の中でも何かを掴むから!」

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HYDEが12月7日および8日の2日間、幕張メッセ国際展示場4・5・6ホールにて<HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL>を開催した。同公演は約13年ぶりに発表したソロ名義のオリジナルアルバム『ANTI』のリリースツアー・ファイナルとなるものだ。

◆HYDE 画像

HYDEは今年3月の上海公演を皮切りに全5公演のアジアツアー<HYDE LIVE 2019 ASIA>を開催。続いて5月、ケンタッキー州ルイビルより計12公演の全米ツアー<HYDE LIVE 2019 U.S.>を行った。待望の日本ツアーは、アルバム『ANTI』リリース週となる6月22日のZEPP TOKYOから。全国7都市をめぐる籠城型ツアー<HYDE LIVE 2019>は間に夏フェス出演を挟んで日本全土を熱狂させ、さらに9月より11月まで米国バンドSTARSETのサポートアクトとして2019年二度目となる全米ツアー35公演を敢行、3月より100本近くの精力的なステージを展開した。『ANTI』を主軸としたこれらツアーの集大成として開催されるライヴが<HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL>となる。

アルバム『ANTI』制作は着想を含めて2017年末からスタートしていた。追求したのは世界のロックシーンを熱狂させる現在進行形型アメリカンヘヴィロック。海外クリエイターを起用した楽曲群はこれまで以上に激しく美しく、ソロアーティストHYDEの新たな可能性を押し広げる結果となった。「自分の好みでありながらも、僕なりにアメリカで成功するための曲を作ってるだけ。フェスやライヴで盛り上がる曲を集めるってくらいの感じですけどね。さらにヘヴィで攻撃的にしたいと思ってました」とはアルバム『ANTI』リリース時のBARKSインタビューでの言葉だ。

そして<HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL>最終日となる12月8日、幕張メッセ国際展示場4・5・6ホール。正面玄関をくぐると、<HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL>のライヴロゴが出迎えてくれた。アルバム『ANTI』ジャケットデザイン同様の林檎と蛇。これはアダムとイヴから受け継がれる原罪を意味するものでもあり、HYDE曰く「蛇ってロックの始まりだと思っていて。つまり流されるように従うだけじゃなく、まず抗うこと。反抗から新しいものや独創性が生まれたことがロックの始まり。僕自身も今が始まりなわけじゃないですか」との言葉通り、自身の現在を表すと言ってもいい。

意気盛んなアメリカツアーをはじめとする数々のステージを経て、HYDEが示す『ANTI』の最終形とはどんなものか。そう考えると、会場に掲示された紋章のような“ANTI”マークがあまりに大きなものに見えた。そしてやはり、この夜が示した“ANTI”は前述のタフなツアーで培われた世界基準のバンドサウンドが渦を巻き、ロックが本来孕む危険性をともなってオーディエンス=理解者がそれをさらに加速させるという理想的な光景が会場全体に広がっていた。同公演最終日の模様をレポートしたい。

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広大なアリーナ会場にスタンディングエリアと座席エリアが混在した客席。集結したオーディエンスの発する熱気が、白い蒸気となって立ちこめる場内は12月とは思えぬ暑さ。そのヴェールの向こうに左右幅50m以上はあろうかというステージがあった。

この夜の開演時間は17:06=16:66。ステージを覆う紗幕に時刻のカウントアップが映し出され、“666”がクローズアップされると、ついに紗幕が落とされた。暗転したステージ上で、たいまつを掲げたマスク姿の男が舞台のいたるところに炎を放つと壮大な“NEO TOKYO”を模したステージセットが浮かび上がる。暗く退廃的な近未来都市が描かれたバックドロップはあまりにも大きく、アリーナ会場全体がその都市に組み込まれたかのような感覚を覚えるほど。LEDヴィジョンが“This is Neo Tokyo. Welcome to the sleepless city of the far east”と告げて、イントロが鳴り響いた。オープニングナンバーはアルバム『ANTI』収録1曲目でもある「WHO'S GONNA SAVE US」だ。スポットライトが舞台上手を照らすと、パトカーのボンネットにもたれるHYDEの姿を浮かび上げた。ここまで開演からわずか数分の出来事だったが、集まった12,500人がシアトリカルでエンターテインメントなステージへ一気に引き込まれた。

しかし、『ANTI』はステージが発するパワーを一方的に受け取るだけのものではない。「『ANTI』は君たちがいて完成する」とは籠城型ツアー<HYDE LIVE 2019>で発していたHYDE自身の言葉だが、シンガロングはもちろん、コーラス部分をオーディエンスのスペースとして用意されたような楽曲構成は、まさしくライヴの場で完成するもの。事実、「WHO'S GONNA SAVE US」「AFTER LIGHT」「FAKE DIVINE」といった序盤3曲からして、場内にこだまするオーディエンスの歌声が凄まじい。その極みは4曲目の「INSIDE OF ME」にもあった。


同曲の前、この日初めてのMCで「ようこそ、<ANTI FINAL>へ! 調子はどう? 今日は楽しみでしょうがないよ。『ANTI』の最終形が見られんだろ!? 俺たちが作ってきたよな!」と語りかけたHYDEに煽られるように、オーディエンスによるシンガロングの音量は高まるばかり。すると、HYDEがステージを下りて客席エリアへ突入、スタンディングエリア最前列の柵を乗り越えて「かかってこい!」と叫び、そのHYDEの身体をオーディエンスが支えるという構図が出来上がった。文字通り、ステージと客席に境界は存在しない。“君たちがいて完成する『ANTI』”を体現するべく、あまりにもクレイジーでカオスな空間をのっけから築き上げてしまった。しかもそれがアリーナ会場で行われているのだから、ライヴハウスであろうと巨大なハコであろうとHYDEとオーディエンスにはまったく関係がないようだ。

ここまでの前半5曲は2018年にリリースされたシングル表題曲3曲に加え、VAMPS時代の「INSIDE OF ME」「DEVIL SIDE」。ある意味ではお馴染みのナンバーが駆け抜け、隙のない連打によるパフォーマンスが濃厚で鋭利な大胆さを増幅させる。そして、「DEVIL SIDE」のエンディングでバックライトに照らされたHYDEが両手を広げ、それまで付けていたマスクを外した。


続いて披露された『ANTI』収録曲「TWO FACE」「SET IN STONE」は、HYDEを中心としたバンドとしての演奏力と表現力の高さが絶品だ。広大な会場であればあるほど、音が四方八方に拡散して、その輪郭が曖昧になってしまいがちだが、マシンガンのように打ち鳴らされるツーバスビートをはじめ、各パートのサウンドがしっかりと分離して、身体がビリビリ震えるほどすさまじい音量が襲う。これは、ただ単に音がデカいとかそういう類いのことではない。今年二度目の米国ツアー直前に行われたブリング・ミー・ザ・ホライズン単独公演のゲストアクトとして出演した際にも感じたことだが、サウンド的にも精神的にも育まれた2019年のワールドツアー、それを締めくくる集大成で打ち出したものは、やはり正真正銘、世界を狙うバンドサウンドだった。

また余談ではあるが、前述の「DEVIL SIDE」Bメロのギターサウンドにフランジャーのエフェクト処理が施されるなど要所要所にアレンジが加えられ、各楽曲が数段スケールアップした印象。林檎と蛇による『ANTI』のロゴデザインが描かれた旗を背負って軍帽を被った「SET IN STONE」では、拳銃に見立てたマイクを客席に向けていたが、曲の終わりに銃口を自らの口にくわえると銃声が鳴り響き、ステージに倒れ込むという演出が、そのサウンドのシリアスさを一層際立たせていた。

暗転した会場に鳴り響く美麗な鍵盤は「ZIPANG」の序奏。ときおり時空が歪んだかのようなエフェクティヴなサウンドが挿入されて、それまでの喧噪とは異なる静かな空間が築かれる。ピンスポット下で熱唱するHYDEの感情の昂ぶりをなぞるようにバンドサウンドがサビで爆発。陰りと熱情を帯びた同曲は、歌詞やメロディーに日本らしさが息づくミディアムチューンという意味でも、HYDEのヴォーカルがどこまでもストレスなく伸びていくという意味でも、あまりにも美しかった。ギタリストが弾くストロークに同調して客席が声を上げるコール&レスポンスをイントロに、「OUT」へ。深く赤いライトがスモークを妖しく照らす演出は、切れ味と重さが同居したユニゾンリフとHYDEのヴォーカルに凄味をもたらした。そして、MCではアルバム『ANTI』について語られた。

「幕張ちゃん、楽しんでる? すごく良い眺め。最高じゃない? 『ANTI』がリリースされてから半年経ったんですけど、こんなにみんなから愛されるとは思わなかった。今日は最終日、一番すごい形を作ってあげないとかわいそうじゃない? 『ANTI』っていうアルバムは招待状みたいなもので、君たちがここへ来て初めて完成する。ただし、中途半端な盛り上がりだったら、それを完成とは言いたくないんですよ。最後にオレたちで完成させたいよな、見たいだろ? 芸術的なカオスをみせてくれよ! やっちまえ、幕張!!」──HYDE

軍帽を脱いだHYDEがイントロに合わせて激しくヘッドバンキングを繰り返す。狂暴に打ち鳴らされたナンバーは「MAD QUALIA」だ。そのグルーヴに押し出されるように再びステージから客席へ飛び込んだHYDEが、同曲インターで「Pushing back! 広がって広がって! 3, 2, 1ではっちゃけるぞ!」とフロアに空間を作ると、ウォールオブデス、サークルピット、モッシュ、ダイヴといったオーディエンスの暴発がLEDヴィジョンに映し出された。逆巻く荒波のようなフロアとシンガロングのウネリが生身の強靱なサウンドに湧き上がる。この光景にHYDEが喜びの表情を浮かべ、「叫べ幕張! Yeah! その調子! singing!singing!」と煽り、会場を揺らさずにはおかない。



もはやレッドゾーンを軽々と突破した『ANTI』は止まるところを知らない。性急でパンキッシュな2ビートとそこかしこにが吹き上がる炎柱をバックに、拡声器を手にしたHYDEがオーディエンスを挑発し続けた「SICK」。間髪入れずの「DON'T HOLD BACK」エンディングではステージ上に横たわって叫び声を上げ、その咆吼が転がり続けるように「LION」へ。ステージセットの最高地点まで届くほど巨大な10体のエアーダンサーがステージに出現してライヴを華やかにするも、途中のブレイクで暗転、ブラックライトに照らされたHYDEが瞳を青に光らせ、口から発光する液体を吐き出すといったシーンに場内の歓声が止まない。緩急を付けながら加速していくステージがスリリングであり、それは「ANOTHER MOMENT」も同様だ。イントロテーマが流れる中でHYDEは、「幕張ちゃん、疲れたと思うので、座ってみようか。照明さん、オレのかわいこちゃんが見えるようにしてくれる?」とリクエスト。そして、「3, 2, 1でジャンプします」と説明して、同曲冒頭から瞬間的にクライマックスをつくってしまった。

前傾姿勢のスピードで走り続けた本編のラストを飾るナンバーは「MIDNIGHT CELEBRATION II」だった。「幕張、完成させよう! 芸術的なカオスを見せてくれよ!」と語りかけたHYDEは三度ステージから客席エリアへ。客席ブロックの間を縫ってフロア中央付近に到達して熱唱し、「Pushing back!」とフロアに空間をつくって再び会場に巨大なサークルモッシュやウォールオブデスを出現させた。そして場内は当然のように、極上の熱気を伴う狂乱の一体感に包まれていく。ステージ上に戻ったHYDEは金属バットを手にパトカーのフロントガラスを叩き割り、過激で刺激的なステージをあとにした。


そしてこの夜のアンコールは、とんでもないサプライズから。明かりが灯ったステージ上にドラム缶がセットされ、Slipknotの「DUALITY」が打ち鳴らされと、客席エリアの後方上手側からCo2の煙を撒き散らしながらHYDEが姿を現したのだ。そのまま客席エリア内を練り歩くHYDEの放つ白煙を浴びながら、狂乱で出迎えるオーディエンス。ステージに戻ったHYDEはドラム缶を殴りつけるように金属バットでリズムを奏でるなど、アンコールものっけからカオスを描いたのだった。ドラムソロを挟み、バスドラだけを残したビートに乗せてHYDEが、「残り少なくなってきたな、幕張! 悔いを残すなよ! 食い尽くそうぜ! 俺たちならできるよな、幕張!」と語った。ギタリストと向き合ったHYDEがリフをかき鳴らしてVAMPSの「AHEAD」へ。音の洪水の中で、一体となったフロアから特大のハンドクラップとシンガロングが響き渡る光景は、この上なく感動的で躍動的だ。

そして、この日初のクリーンなギターサウンドが場内に響き渡った。そのアルペジオに乗せて歌われたナンバーは「GLAMOROUS SKY」。このアレンジにオーディエンスも大歓声を上げ、Aメロからの2ビートを活かしたパンクアレンジに驚喜のヘッドバンキングと巨大サークルモッシュがHYDEに促されるまでもなく出現した。繰り返すようで恐縮だが、ZEPPのようなライヴハウスも、ここ幕張メッセという巨大アリーナも、変わらぬ光景を築き上げてしまったステージと客席。これにはHYDEもMCで感謝を語った。

「ありがとう、幕張! すごく良いものを見せてもらった。ほんと最高だね、君たちは。君たちがかわいくてしょうがないよ。2年前、ここでVAMPSが終わってから、ここまで走ってきました。もっともっと理解してもらおうと、気持ちを込めてレコーディングをして、アルバムを作って。ライヴはたぶん150本くらいはやったかな」──HYDE

おそらく最後のMCであることを察したのであろう、オーディエンスがスマートフォンの灯りをかざして客席内に星空を描き出した。それを見たHYDEは目を潤ませながらこう続ける。

「本当にいい眺めだよ。ただの光じゃないんだよね。全部意味のある光なんですよ、これは。僕の大事な人の光です。良き理解者のね。僕は好きな曲を作ってレコーディングして、カッコいいと思うライヴをやっているだけなんだけど、150本ものライヴは理解者がいないとできません。みんなのお陰です。文句も言わずにメンバーが僕を支えてくれて、感謝してます。みんなも今日は日本中から駆け付けてくれてると思うんだけど、本当に嬉しいよ。今日はファイナルだけど、どんどん新しい曲をつくって、すごいものをみんなと共有したいと思ってるので。2年経ってここまで戻って来られたけど、あとは突っ走るだけだと思ってます。ただ僕は、そんなに強くないんでね。みんなの援護がないと走れないんですよ。みんなが援護してくれたら、絶対真っ暗闇の中でも何か掴むから! それを期待して待っていてください。本当にみんな、今日はありがとうございました」──HYDE


<HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL>を締めくくるナンバーは「ORDINARY WORLD」。温かいバンドサウンドとHYDEの歌声が優しく会場を包み込み、そのエンディングではメタリックな紙吹雪が赤い光を反射して舞い降りる。バンドに向かって両手を広げたHYDEがジャンプして、約2時間の濃密な時間と全ての音が鳴り終えた。誇らしげに客席を見つけるHYDE。そして、『ANTI』の集大成がここに完成した。

しかし、前述のMCのとおり、HYDEはもうすでに次を見つめているようだ。「ありがとう!」と投げキッスしたHYDEは両耳からイヤモニを外し、大歓声を全身で浴びながら「また帰ってくるからな! 首洗って待ってろよ!」と語ってステージをあとにした。

取材・文◎梶原靖夫 (BARKS)
撮影◎田中和子/岡田貴之

■<HYDE LIVE 2019 ANTI FINAL>2019年12月8日@ 幕張メッセ国際展示場4・5・6ホール SETLIST

01. WHO'S GONNA SAVE US
02. AFTER LIGHT
03. FAKE DIVINE
04. INSIDE OF ME
05. DEVIL SIDE
06. TWO FACE
07. SET IN STONE
08. ZIPANG
09. OUT
10. MAD QUALIA
11. SICK
12. DON'T HOLD BACK
13. LION
14. ANOTHER MOMENT
15. MIDNIGHT CELEBRATION II
16. DUALITY
17. AHEAD
18. GLAMOROUS SKY
19. ORDINARY WORLD

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A DROP OF COLOUR
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SHALLOW SLEEP
DEPARTURES
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X X X
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MEMORIES
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※当日実際に使用されたサイズより若干小さいものです。
※詳細は当日のチラシをご覧ください。
※ライブ会場限定予約特典をご希望のお客様は通常の購入特典は対象外となります。

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