【連載】CIVILIAN コヤマヒデカズの“深夜の読書感想文”第十六回/村田沙耶香『殺人出産』

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皆さんこんにちは。CIVILIANというバンドで作詞作曲ヴォーカルギターをやっています。コヤマと申します。

皆さん、新年明けましておめでとうございます。2020年です。2019年は本当にお世話になりました。今年もよろしくお願いします。

この『深夜の読書感想文』を最後に書いたのが昨年7月。そこから昨年11月まで、このページをお借りして『イシュタムの浴槽』という短い自作のお話を掲載していたので、純粋な感想文の更新は半年ぶりくらいになります。前回の更新からもうそんなに経ったんですね。昨年11月のワンマンは長い長い準備(小説の連載も含めて)を必要としたので、昨年後半は本当にあっという間に過ぎて行った感じでした。

そして時は2020年。2020という年はやっぱり「AKIRA」を連想するので、数字だけ見るとものすごく未来に感じます。ちなみに完全に蛇足ですが、「AKIRA」の世界では東京オリンピックは開催中止になっていて、現実の東京オリンピックも新型コロナウイルスの流行によって開催すべきか検討されているとかいないとか。「AKIRA」のオリンピック中止はアキラ君と鉄雄が国立競技場をぶっ壊したからですが、我々の東京オリンピックは無事に開催されて欲しいですね。そしてウイルスも無事に収束することを祈っています。

(この感想文には本編のネタバレが平気で書いてあります。バレたくない方は、読み終わってから目を通して頂けますと幸いです。)

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殺人出産
村田 沙耶香 (著)
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【第十六回 村田沙耶香『殺人出産』】

■濃厚な「死」と「産」の匂いがする短編集

第十六回はこの本。村田沙耶香さん作の短編集『殺人出産』です。
2016年に「コンビニ人間」で芥川賞を受賞され、昨年出版された最新作「生命式」もテレビで紹介されていました。そんな村田さんが2014年に書かれたのがこの『殺人出産』。狂っているなんて時々言われる村田さんの作品ですが、こちらの作品も表題作「殺人出産」をはじめ、どの収録作もなかなかに狂っています。狂っているんですが、荒唐無稽だと切り捨てられない。わざと「クレイジーなものを書いてやったぜ」みたいな、作者のドヤ顔が本の後ろに透けて見えるようなものじゃなく、村田さんご自身に確固たる「世界を見る目」のようなものが備わっていて、村田さんから見たこの世界がたまたまこんな形をしていて、それを感じるままに書いたらこうなりました、というもののように感じます。

以前にご紹介した黒澤いづみさんの「人間に向いてない」を読んだ時も思いましたが、この『殺人出産』に収録されている「殺人出産」「トリプル」「清潔な結婚」「余命」の四編とも、我々の常識の外にある価値観を描くことで、逆説的に現実に生きている我々の常識や価値観が、いかに脆く不確かなものなのかを浮き彫りにするような作品です。

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・殺人出産

現在から100年後の未来が舞台です。避妊技術の発達によって、恋愛をして、パートナーとの性行為によって子供を産むという価値観はすでに古いものとなっていて、性行為は愛情表現と快楽の為のものになり、出産は人工授精によって行われるようになりました。その結果さらに少子化が進んだ為、「10人子供を産んだら1人を選んで殺していい」という(我々の常識からすれば)狂った制度ができました。

その制度に応募した人間(技術の発達によって男性も人工子宮で出産できるようになっているので男女問わず)は「産み人」と呼ばれ、産み人が役目を果たしたのちに指名され殺される人間も「死に人」と呼ばれ、双方ともに崇高な役目を担った尊い人だと崇められています。この世界ではもはやこの制度は常識となり、役目を終えた「産み人」以外が殺人を犯した場合は逮捕され、死刑ではなく死ぬまで子供を産まされ続ける「産刑」という拷問のような刑が待っています。

姉が「産み人」となった主人公・育子は、職場の同僚で殺人出産制度を「間違っている」と主張する早紀子に「お姉さんに会わせて欲しい」と頼まれます。こんな世界は間違っている、この狂った世界の被害者になっているお姉さんを、私が救ってみせるから、と。

「殺意」が人を救う、という話。育子は過去の人生で度々理不尽な仕打ちを受け、逃げ場のない環境についに自殺を考えるのですが死に切れず、「そうだ、殺せばいいんだ」と発想を転換しました。それからも育子は様々な理不尽を経験しますが、その度に「いざとなったらこいつを殺せばいい」と思うことが育子の精神を守ってきたのです。

禁止しようが肯定しようが決して殺人が無くなることのないこの世界。避妊技術と価値観の変化によって出産への意識が低下した小説世界において、殺人衝動や殺意という強烈な感情をタブー視するのではなく肯定し、出産のシステムに組み込んで神聖視することで、人口は回復傾向にあり、すでに生まれる子供の半数は「産み人」による子供になっている世界の話です。

姉が10人の出産を終え、いよいよ殺人を遂行するその描写は圧巻で、読んでいると自分の視界まで真っ赤に染まっていくような、血や臓物の温かさが伝わってくるかのような錯覚に陥りました。

今から100年後には、いま生きている人間たちはほぼ死んでいます。そうやって人間がそっくり入れ替わったとしたら、100年後には一体何が正しいことになっているんでしょうか。

(ちなみに僕は、もしこの制度が現実にあったとしたら、事故や病気じゃなくこの制度で指名されて殺されたいです)

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・トリプル

海外の人気アーティストが「ペアではなく3人で恋人関係になる」ことを実践し、それが世界中の若者に共感され、「カップル」ではなく「トリプル」が流行している世界の話です。「トリプル」という考え方が浸透しているのは主に若い世代で、親の世代には受け入れられず忌み嫌われています。

正常とはなんぞや、という話。トリプル特有の性行為の描写が克明に描かれていますが、どうしても現実の我々からすると異様、というかアブノーマルなプレイに見えてしまいます。しかし当の本人たちはこれこそが正しい恋愛、正しい性行為だと信じていて、主人公は偶然友人の(カップルが行う)性行為を見てしまい、あまりの異様さに吐いてしまうのでした。

読んでいて思ったのが、例えばLGBTの問題などもそうですが、自分と違う価値観を持つ人間同士がお互いに認め合い尊重し合うことは、きっと我々が思っている以上に困難なことなのだと思います。「みんな違ってみんないい」とか、個性を尊重しようだとか、言葉としては非常に耳触りがよくいかにも正しいことを言っているように聞こえますが、自分が実際に自分と違う価値観を持った人間を認められているだろうかと考えると、この「トリプル」の物語が(思考実験のような内容にも関わらず)他人事ではないような気がしてくるので不思議です。

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・清潔な結婚

婚活サイトで出会った二人。二人に共通していた結婚の条件は「清潔な結婚」、つまり「性別を超えた兄妹のような家庭を築くこと」。夫婦であることと夜の営みがセットであることに嫌悪感を持っていた二人は、夫婦生活と性生活を完全に切り離し、夫婦とは穏やかな毎日を過ごすためのパートナーであり、作りたければ外で愛人を作るのもOKという生活を始めました。

二人の生活は順調でしたが、いよいよ子供を作ろうということになった時、あるクリニックがあることを知ります。それは、同性愛者などのセクシャルマイノリティの人々が、子供を授かるためにやむを得ず性行為をしなければならない場合などに、医療行為としてその手助けをするクリニックなのだそう。胡散臭いと思いながらも物は試しと、夫婦はクリニックに予約を入れます。

前二編に比べ少しコミカルな描写もあり(クリニックの胡散臭い施術などはクスッとします)、この話は普通に我々の現実でもあり得そうだなと思ったのですが、気になったのは最後の描写です。

最初に読んだ時はどういうことか分からずしばらく考えたのですが、勝手な解釈をするなら、どれだけ「性」を排除した夫婦生活をしたとしても、二人の血を分けた子供が生まれるということは、排除したはずの「性」によってやはり二人は繋がっていることが、自分たちの現実として初めて重くのしかかってきたことを暗示しているのかな?とか。夫婦二人で性行為をすることを思い浮かべただけで嫌悪感で顔をしかめるような二人は、問題なく子供を愛せるのだろうか。まぁ単に施術で無理をしてまだ体調が戻らないというだけの表現かも知れませんが。

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・余命

とても短い話です。医療が発達した結果人は死ななくなり、自分が生きたいだけの年月を好きに生きられるようになりました。そして、死にたい、人生を終わらせたいと思ったタイミングで、いつでも自由に死を選べるようになった世界の話です。

自由に死を選べるので、どういう死に方をするかにもトレンドがあり、みんなとても明るく死んで行きます。主人公もそろそろ死のうかなと思い、なんてことない気持ちで身辺整理を終え、薬を飲んで土の中に潜り、死ぬ。それで終わりです。

なんて羨ましい世界だろうと思います。自分の意思で生きて、自分の意思で死ねるなんて。

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以上、この四編の物語が収録されています。
過去に正しいと思われていたことが今になって間違いだったとこが判明したり、昔は常識であったことが時代とともに常識ではなくなっていくことは、我々の世界でも日々起こっていることです。その大きな流れの中で、皆自分の価値観を持って、自分の正しさを持って、自分が信じたい世界を信じて生きています。これからどんな価値観の未来がやってくるのか考えさせられる短編集でした。とても良かったです。

みなさん是非是非読んでみてくださいね。それじゃあまた。

<CIVILIAN Live Tour +α 2020 “はじめましてこんにちは”>

1月22日(水) 東京 / 新代田FEVER
2月20日(木) 大阪 / 梅田Shangri-La
2月21日(金) 愛知 / 名古屋APPOLO BASE
<FINAL>
3月13日(金) 東京 / 代官山UNIT w/PENGUIN RESEARCH

■チケット一般発売中
http://eplus.jp/civilian/

■リリース情報

『悪魔の弁護人 御子柴礼司–贖罪の奏鳴曲-』オリジナルサウンドトラック
2020年1月15日リリース
価格:¥2,500+税
XQBZ-1042
※コヤマヒデカズが劇伴で参加しています


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