【ライブレポート】澤野弘之、画面の向こうに届けた煌めく希望「一緒に頑張っていきまっしょい!」

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澤野弘之が、2020年8月6日(木)と8月7日(金)に無観客配信ライブ<澤野弘之 LIVE “BEST OF VOCAL WORKS [nZk]”>を開催した。

◆ライブ画像(全10枚)

本公演は、当初6月に豊洲PITにて2デイズで開催予定であったが、コロナ禍により中止に。今回、無観客特別編成として、日本国内のみならず、ビリビリ動画を通じて中国にも配信された。澤野の15年に及ぶ音楽家活動で発表してきた多彩なボーカル曲のベストナンバーを2日間に渡って、豪華なゲストボーカルと長年澤野作品に携わっているミュージシャンたちとともにパフォーマンスした本公演。今回、初日の8月6日は配信映像を視聴しての視点、2日目の8月7日はライブ会場で実際にステージを観覧しての視点によるレポートをお届けする。本記事では、8月7日の澤野のボーカルプロジェクト[nZk]楽曲を中心にした“Side SawanoHiroyuki[nZk]”の模様をお伝えしたい。

無観客配信ライブ<澤野弘之 LIVE “BEST OF VOCAL WORKS [nZk]”>の2日目のオープニングを飾ったのは、TVアニメ『アルドノア・ゼロ』のオープニングテーマ「&Z」。白を基調にしたまばゆいライティングのもと、ボーカルのmizuki(UNIDOTS)が、清涼感と芯の強さを合わせ持つ歌声を伸びやかに響かせる。続く、「aLIEz」では、飯室博(G)の7弦ギター、田辺トシノ(B)の5弦ベースが重々しいグルーヴを生み出しながら、ダイナミックなバンドサウンドを放った。

今回の生配信ライブでは、バンドメンバーが通常のライブのように横一列ではなく、円形状に中央を向く形で並んでいることに対して、mizukiは“メンバーのみなさんと一緒に演奏している感じが強まって楽しい”とコメント。長年、澤野とステージを共にしてきたmizukiが、これまで以上にバンドとの一体感を覚えるというところに、通常のライブとは違うこの配信ライブの特別感が現れていた。

バンドメンバーと深く結びつきながらmizukiは、疾走感が心地よい「Keep on keeping on」、スケール感のあるミディアムナンバー「CRY」と、楽曲の世界観に合わせて表情豊かな歌声を届けた。

▲mizuki(UNIDOTS)

照明が激しく明滅すると、ヘヴィでスタイリッシュなダンスビートが鳴り響く。TVアニメ『終わりのセラフ』のオープニングナンバー「X.U.」だ。澤野のボーカル楽曲の1つの様式美と言える打ち込みとロックサウンドが見事に融合した、このハードなデジタルロックナンバーで、Gemie(Vo)は緩急を巧みにコントールした歌声を放つ。澤野のライブのたびに、ボーカリストとして力強さが増しているGemie。2019年8月より正式加入したガールズメタルバンドAldiousでの経験が、彼女のアーティストとしてのさらなる成長に繋がっているのだろう(同バンドではR!N名義)。“楽しんでいきましょう!”と画面の向こうの観客を煽り、テンションを高めていた。

▲Gemie

ステージにTielle(Vo)が加わると、長年、澤野のステージで強力なタッグを組んできたGemie&Tielleのツインボーカル体制で、ともにTVアニメ『Re:CREATORS』のオープニングナンバーである「sh0ut」と「gravityWall」をアクト。アッパーなバンドサウンドを武器に、2人はパワフルなシャウトから美しいハーモニー、感情的なフェイクなど、多彩な歌声で視聴者を魅了した。

▲Gemie&Tielle

藤崎誠人(Dr)のウラ拍に心地よいアクセントがあるドラムビートが引っ張るダンサブルナンバー「Felidae」を経て、Tielleが“1人ひとりに届けるように心をこめて歌います”と語りながら『機動戦士ガンダムUC RE:0096』のオープニングテーマ「Into the Sky」へ。2015年に開催された澤野のボーカルオーディションで選出され、2016年に発表された同曲でデビューを飾ったTielleは、身体全体を大きく動かしながら、飛翔するかのように伸びやかな歌声をライブ会場全体に響かせる。今年6月に1stフルアルバム『BEYOND』をリリースするなど、精力的なソロ活動を通じて、Tielleもまたシンガーとして大きくレベルアップ。その成果を、自身を見出した澤野の前でも存分に発揮していた。

▲Tielle

naNami(Vo)を迎えて披露した「Home ~in this corner~」、「Next 2 U -eUC-」は、90年代〜ゼロ年代USロックの香りを漂わせるミディアムナンバー。音楽的なルーツであるCHAGE and ASKAやTM NETWORKなどのJ-POP、ハンス・ジマー、久石譲、菅野よう子といった音楽家たちのみならず、洋楽、特に90年代以降のUSロック、USポップスが、澤野のボーカル楽曲に与えた影響は少なくない。デジタルロック、ラウド、ポップス、エレクトロニカ、民族音楽など、さまざまなジャンルを縦横無尽に横断しながら、海外の最新トレンドを絶妙なバランスで取り入れてスタイリッシュなサウンドを聴かせる澤野のボーカル楽曲。サウンド面では多彩さを持ちながらも、どの楽曲においても澤野節と言える、どこか哀愁感のある旋律を聴かせることが、彼の楽曲の特徴となっている。彼自身、ヨナ抜き音階(メジャースケールの中から4度と7度の音を抜いた音階)を好んでいると語ることがあるが、洋楽的な16分のフィーリングを持ったリズムやウラ拍のアクセント、また分数コードを取り入れたコード進行などが緻密に絡み合うことによって、聴き手の心に深く刺さる彼の音楽のフックを作り上げているのだろう。

▲naNami

椿本匡賜(G)の繊細なアコースティックギターが美しく響くバラード「A LETTER」では、これまた澤野の真骨頂と言える壮大なサウンドを紡ぎ出す。naNamiは、伸びやかで艶のある歌声で、美しいメロディを画面の向こうへと心を込めて届けていた。

ステージ上の複数のミラーボールから無数のビームが放たれると、幻想的で勇壮なミディアムナンバー「Trollz」をドロップ。近年の澤野のボーカル楽曲に新しいスパイスを加えているボーカルのLaco(EOW)は、何かが憑依したかのような独特な妖艶さと存在感を放つステージングで魅せた。

澤野は、MCで前日に続いての出演となったLacoを紹介すると、“無観客ライブなので、お客さんの気持ちで自分のステージを観てみたい。次の曲では、僕は演奏しません!”と衝撃の宣言をし、バンドが「NEXUS」のイントロを弾き出すと、ステージを降りてフロアでライブを観賞。“1番存在感のあるお客さまがいる”と困惑するLacoの目の前で、誰よりも<澤野弘之 LIVE “BEST OF VOCAL WORKS [nZk]”>を楽しんでいた澤野は、1番のサビでは手を大きく左右に振り、2番になるとスチールカメラマンからカメラを借りて、フロアの最前でステージに身を乗り出すように撮影を開始。この澤野の自由奔放な行動に、視聴者も驚きと喜びの声を上げていた。

ステージに戻った澤野は、“いつもライブではずっと座っているので、みんな、なぜ汗をかくのかわからなかったんですけど、1曲動くだけでも、汗かくんですね。あと息切れしてます(笑)”と、彼らしい自虐的でユーモアのあるコメントで笑いを誘うも、TVアニメ『甲鉄城のカバネリ』のエンディングテーマ「ninelie」が始まると、再びストイックな雰囲気に一気に引き戻す。シーケンシャルなピアノと浮遊感のあるシンセ、アルペジオを主体にしたアコースティックギター、低音を支えるベース、タイトなドラムなど、1つひとつの楽器がレイヤーとして重なり合い、ステージに幻想的で壮大なサウンドスケープが描かれていった。

「Because we are tiny in this world」で、再びUSロック的な乾いたサウンドと肉感的なグルーヴを解き放つと、アコースティックギターのメロディアスなアルペジオからスケール感のあるバンドサウンドを聴かせる『機動戦士ガンダムNT(ナラティブ)』の主題歌「narrative」へ。この曲のボーカルを務めたASCAは、フロア側ではなく、ステージのミュージシャンと向き合いながら歌唱。オリジナルバージョンはレーベルの先輩であるLiSAがボーカルを担当していることもあって、直後のMCで、この曲を歌うことを最初に聞いた時にはテンパったと告白していたが、LiSAとはまたタイプの違う色気と力強さ、そしてイノセントな雰囲気を感じさせる歌声で、この壮大なバラードを彩った。

▲ASCA

続く、「Unti-L」は、ASCAの1stアルバム『百歌繚乱』にて同曲のリアレンジバージョンで共演しているmizukiとともにパフォーマンス。2人は時折見つめ合いながら、エモーショナルなメロディを力強く歌い上げた。

▲mizuki&ASCA

澤野が劇伴を担当した『七つの大罪 戒めの復活』第1期エンディングテーマを担当し、そのことがきっかけで彼が共演を希望したAnly(Vo)とは、『銀河英雄伝説Die Neue These』セカンドシーズン「星乱」エンディングテーマ「Tranquility」と、同ファーストシーンズオープニングテーマ「Binary Star」をアクト。前者ではミラーボールから星が降り注ぐように光が放射され、後者ではステージ上空に星が瞬き、スペースオペラ『銀河英雄伝説』の世界観を演出。父親の影響で幼少期からブルースやロックに触れ合い、6歳から独学でギターを弾いていたというAnly。20代前半でありながらも、存在感と説得力のある歌声を会場全体に響かせていた。

▲Anly

2日間に渡った無観客配信ライブは、いよいよフィナーレへ。この日出演したボーカリストたちをステージに呼び込むと、澤野は“初めて生配信ライブをやってみたんですけど、やっぱりライブって、すごくいいなって思いました。それは観ていただいているみなさんのコメントで想いが伝わってきたから。改めて元気がもらえました。みなさんとまた一緒に会えるように、前を向いていきます”と視聴者に感謝の気持ちを伝えると、ここで長年レコーディング&ライブと彼の音楽活動に深く関わり、昨年12月に急逝した山内“masshoi”優について語り出す。“僕らが尊敬するドラマー(山内)に昔、なんでそういうあだ名(masshoi・まっしょい)にしたの?って聞いたら、当時ある女優さんに似ていると言われて、その女優さんの出ている映画から採ったって言ってたんです。その言葉っていうのは、今、僕ら自身だったり、スタッフや関係者の方たちが大切にしなくちゃいけないものだなと。もちろん、それは観ていただいているみなさんもだし、前を向いて進んでいく時に、お互いに声を掛け合っていけたらと思います。その言葉を最後の一言にさせてもらいます”と語ると、“みなさん、いろいろありますけど、一緒に頑張っていき、まっしょい!”と全員で叫び、[nZk]プロジェクトのライブアンセム「REMEMBER」をバンドメンバーと7名のボーカリストがステージ上で円形に並ぶフォーメーションでパフォーマンス。山内について口にした澤野だったが、過度に感傷的な雰囲気を作ることはなく、仲間との突然の別れを受け止めながら、その大切な存在を“思い出し”ながら前に進んでいくことの大切さを、この曲を通じて伝えようとしていた。澤野とファンが進んでいく先には、もちろん双方の再会の瞬間もある。澤野という音楽家にとって、ファンと時間と空間を共有するライブは、かけがえのない重要な場所。澤野を中心としたバンドメンバーによる鉄壁のアンサンブルと、7名のボーカルが感情いっぱいに響かせた歌声は、会場を越えて、画面の先、さらに天に向けて真っ直ぐに届けられていた。

▲澤野弘之

どんな状況であっても、前に向かって進んでいこう──この困難な状況を、どのように乗り越えていくのか、その正解を語れる人間はいない。もちろん、エンタテインメントが困難を救えると、安易に言うつもりもない。それでも、この日の澤野弘之の生配信ライブは、音楽は困難を乗り越えていくための力を与えてくれるものであることを再確認させてくれるものとなった。

ライブを行なうごとに、音楽家として新しいインプットを得てきた澤野弘之。彼が、この無観客配信ライブを通じて、これからどのような音楽を届けてくれるのか。澤野の次なる展開への期待が膨らむ2日間であった。

取材&文:鈴木健也
撮影:西槇太一

<澤野弘之 LIVE “BEST OF VOCAL WORKS [nZk]” Side SawanoHiroyuki[nZk]>セットリスト

2020年8月7日

01. &Z (mizuki[UNIDOTS])
02. aLIEz (mizuki[UNIDOTS])
03. Keep on keeping on (mizuki[UNIDOTS])
04. CRY (mizuki[UNIDOTS])
05. X.U. (Gemie)
06. sh0ut (Tielle&Gemie)
07. gravityWall (Tielle&Gemie)
08. Felidae (Gemie&Tielle)
09. Into the Sky (Tielle)
10. Home ~in this corner~ (naNami)
11. Next 2 U -eUC- (naNami)
12. A LETTER (naNami)
13. Trollz (Laco[EOW])
14. NEXUS (Laco[EOW])
15. ninelie (Laco[EOW])
16. Because we are tiny in this world (Laco[EOW])
17. narrative (ASCA)
18. Unti-L (ASCA, mizuki[UNIDOTS])
19. Tranquility (Anly)
20. Binary Star (Anly)
21. REMEMBER (ASCA, Anly, Gemie, Laco, mizuki, naNami, Tielle)

■ミュージシャン
Drum : 藤崎誠人
Bass : 田辺トシノ
Guitar : 飯室博
Guitar : 椿本匡賜
Piano : 澤野弘之
Sound Engineer : 相澤光紀
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