【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vol.134「世界の美景『メキシコ』~TAMAKI's view(MONO)」

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新型コロナウイルスの出現によって一変した私たちの暮らしは、ゆっくりではあるけれど落ち着きを取り戻しつつある。しかし、相変わらず事実に基づいた情報を知り得ることが難しい状況は続き、何が正しくて何を信じるかの判断は個人に委ねられているような有様のため当初とは違った不安やストレスが増してきている。こうした状況下において、政府は国内旅行を促す策を施したが、住まう地域によっては参加できないなどの制約があるので万人が旅を楽しめる状況にはまだ至っていない。海外への旅路も多少は開かれているものの現地情勢が芳しくないので安心して旅行ができると言うにはほど遠く、海外旅行への精神的なハードルが下がる日をいつ迎えられるのかは誰にもわからない状況だ。

世界を旅することが難しい今、ワールドワイドな活動をしているアーティストに私たちの知らない世界でのライブ事情などの話を訊き、読者の皆さんと共に旅気分を味わいたいという思いつきで始まったこのインタビュー・シリーズ「世界の美景~TAMAKI's view」、四カ国目となる今回は「メキシコ合衆国」だ。1999年のバンド結成以降、59か国もの国々を渡り歩き、文字通りに世界を舞台にしてきた正真正銘のライブバンドMONOのベーシスト、TAMAKIさんが旅先で見たもの触れたものについて、当時の貴重なライブ写真や自身撮影のスナップ写真を交えてお届けする。

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■「メキシコ」基本情報



正式国名 メキシコ合衆国
首都 メキシコ・シティ
面積 約196万4375km2(日本の約5倍)
人口 1億2920万人(2017年)
民族 メスティソ(先住民とスペイン系白人の混血)約60%、先住民約30%、スペイン系白人約9%。ほとんどの白人は上流階級に属し、逆に先住民は依然として貧しい生活を強いられている。
国旗 緑・白・赤の三色旗。緑は「独立」、白は「カトリック」、赤は「メキシコ人とスペイン人の統一」を表す。中央に描かれたヘビをくわえたワシがサボテンの上にとまっている図は、アステカ人の神話に基づいている。
(出展:地球の歩き方)

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■2年に一度のペースで来訪する「メキシコ」という国



──4回目となる今回は「メキシコ」。初めて行ったのはいつですか?

TAMAKI:2009年です。アメリカツアー中に「アメリカに来ているのなら、メキシコにも来ませんか?」というオファーがメキシコのプロモーターから届いたと当時のマネージャーから連絡がきて急遽予定を変更してアメリカツアー後に行ったのが最初でした。

──それはよくあることですか?

TAMAKI:たまにありますよ。どこの国も行ってみたいという気持ちはバンドとして常にあるのでメンバーと話し合って決めます。ただ、この時は「え?」と思いましたけど。

──なぜですか?

TAMAKI:そもそもメキシコに行けるとも、そこに需要があるとも思っていなかったので「なんで?」って。メキシコなど南アメリカでは自分たちの音楽は受け入れられないだろうという考えが私の頭の中にはあったので、ライブで聴きたいと思っている人が本当にいるのだろうかと思っていたんです。それに南アメリカはアメリカやヨーロッパとは違って行くこと自体かなり大変ですし、治安の面でも「怖いんじゃない?」という意見もありましたが、でも行くと決めて。それ以降、4回訪れています。

──他の南アメリカにある国々とは別行程で行くことが多いようですね。

TAMAKI:ここ数年でブラジル、チリ、アルゼンチンに行くようになってきたけれど、単独でブラジルやチリに行った時はそれこそ行くだけで一日がかりだったし。だから、ブラジルを回ってメキシコへ行くとなると日程的にすごく長くなってしまうので「それは無理だね」ということになってますね。

──さきほど治安の面についての話がありましたが、実際に危険を感じたことはありましたか?


▲メキシコ・シティを移動中の風景

TAMAKI:訪れる前は相当怖いところだろうと思い込んでいましたが、実際はそんなに怖くもなくて。意外にも「危なそうだな」と思う国の方がホテルの手配がきちんとされていたり、ホスピタリティが充実してるんです。アメリカのように食事代を渡して終わりではなくむしろきちんとされてる。

──外に出なくても済むように?

TAMAKI:ええ。アルゼンチンやブラジル、中国もそうですが、危ない目に遭わせないようにと現地のプロモーターがバンドのために考えてくれているのを感じます。ただ、メキシコ・シティは栄えている街なのでしっかりしたホテルでしたが、グアダラハラは地方都市だからか「この扉一枚で本当に大丈夫?」って思うようなところだったので少し怖かったですね。街を見ても、スラムの辺りはバラック的な家もありましたが、多くの家はフェンスで檻のようにロックされている中に家がありましたし、ヴェニューにも必ず誰かが外にいて鉄の扉を開けて出迎えてくれます。


▲2重セキュリティ構造のヴェニュー・エントランス

──現地でもし拳銃を向けられたら抵抗せずにお金を差し出すようにとメキシコ人の友人に真顔で言われたことがありましたが、やはり危ない面もあるんですね。他にはアメリカとの国境付近では国境を越えようとした人への容赦ない攻撃が絶えないと言っていました。

TAMAKI:映画でもそういう描写があるよね。アメリカツアーで立ち寄るメキシコとの国境近くにあるテキサス州のエルパソという街ではメキシコの灯りがチラチラ見えてくるのね。そういう光景を見て妄想を膨らませたことはある。「人々はここを乗り越えてくるんだ」って。


▲メキシコ・シティの街並み

■メキシコでのライブはやっぱり 「熱い!」


▲Photo by Indie Rocks!(Mexico City, Mexico, 2017)

──メキシコではどの都市、どんなヴェニューでライブをされているのでしょう?

TAMAKI:メキシコ・シティとグアダラハラの2カ所でやることが多いですね。会場は、例えば音楽的には進んでいるイギリスやアメリカのニューヨークではとても小さいカフェやバーみたいなところから始まりましたけど、メキシコでは最初からライブハウスでした。そういえば、メキシコ・シティからグアダラハラへの移動の時に飛行機に乗り遅れたことがあったのを思い出しました(笑)。

──それまたどうして?

TAMAKI:メキシコのプロモーターがゆる~い人で、時間を忘れて話に夢中になってしまっていて(笑)。それとは対照的に、当時のサウンドエンジニアだった日本人は日本人らしく早めに搭乗していて、その人だけが予定通りの便でグアダラハラへ。私たちは数時間後の便で遅れて行って彼を待たせてしまったのよ。そんなことはまず起きないのに(笑)。


▲飛行機尾翼のイラストに注目

──ところで毎回日本からクルーを連れて行くのですか?

TAMAKI:そのアメリカツアーでは日本人のサウンドガイでしたが、今のメインはオーストラリアの人。毎回現場で違う人になるのはキツいので必ず連れて行きます。やっぱり慣れてる人だと何も言わなくても分かってくれているので安心ですからね。ライティングも今は連れて行けるようになったけど、昔は「スポットライト1個で動きません」みたいなところでやっていた時期もありましたし、お金もなかったから。

──なるほど。では、メキシコのオーディエンスはどうですか? やはりアツい?


▲(Mexico, 2013)

TAMAKI:そうですね。最初からすごい熱くて静かには聴かない。とにかく熱いというか、エモーショナルというか。客も熱いし、気温も熱い(笑)。最近だと2017年に行っていますが、グアダラハラでの公演ではパンク・ヴェニュー的なわりと小さいところでDeafheavenと一緒にやったので、彼らのハードコアなお客さんもたくさんいて。セッティングしてるだけで「私、こんなに汗かいたことがない」ってくらいに汗だくでした。


▲Deafheaven Photo by TAMAKI


▲Photo by Indie Rocks!(Mexico City, Mexico, 2017)

──TAMAKIさんが汗をかいて弾いているイメージはないですけどね。

TAMAKI:普段は汗かかないんだけど、その時だけはすごかった(笑)。あと、メキシコは必ず客が出待ちをしていて、みんなで「ォオオオオオ!」って叫んでいるの。それには最初吃驚しましたね。この写真は2017年のメキシコ・シティのお客さんたちです。

──いい写真ですね。

TAMAKI:この写真が好きでね。リハ後に会場内を探索していたとき、場外のエントランスで待ってるお客さんが見えたから写真を撮ろうと思ってカメラを向けたら、みんな気づいちゃって。「ウオオオ!」みたいなことになってしまって、ああ、どうしようって思いながら撮った1枚(笑)。

──メキシコに対し、MONOへの需要があるとは思っていなかったと冒頭で仰っていましたが、それは外れたわけですね。


▲Photo by Yuichiro Hosokawa(Guadalajara, Mexico, 2017)

TAMAKI:そういうことになりますね。寒い国が似合うと言われることが多いので、自分も意識的にそうだと思い込んでいたのかもしれない。でも最近はそんな風に思うこともなくなりましたし、メキシコ映画のサントラのオファーがきて幾つか創ったりもしたからか、メキシコやイタリアで弾いている自分もイメージできるし、実は土臭い、人間味のある曲が合うんじゃないかと思うようになってきました。(※注釈:2016年には楽曲提供をした長編映画『The 4th Company』がメキシコ・アカデミー賞"Ariel Award"の音楽賞でノミネートされる)


▲映画『The 4th Company』

──そういう意味ではスペインやイタリアなどのラテンの国との融合点も分かるような気がしますね。

TAMAKI:そうね。イタリアでのライブ中も、喋らず真剣に聴く姿があるのも同じことで。陽気なほうではなくて、情熱やエモーショナルな領域で共有できるものがあると、ここ数年で感じるようになりました。勝手にイメージ付けしちゃいけないんだよね。

──確かにお国柄として「みんな陽気なんだろうな」と思ってしまいがちですが、ナイーヴな人やもの静かな人も当然いるでしょうしね。

TAMAKI:そう、そう。皆、個々に違うからね。そうしたものを題材にした海外の映画作品を見るとすごく深かったり闇が大きかったりするじゃない? みんながみんな、浮かれてるだけじゃないんだぞっていうのはあるだろうね。


▲Photo by Yuichiro Hosokawa(Guadalajara, Mexico, 2017)

■メキシコへ行ったら食べ尽くすべし

──メキシコで観光したことは?

TAMAKI:記憶を辿ればどこかへ行っているはずなんだけど、それが何処かは覚えてないんだよね。

──カンクンなどのリゾート地を除くと観光スポットはあまり知られていない国のような。

TAMAKI:そうよね。メキシコと言えば、やっぱりサボテンとあの帽子(笑)。「ここへ行きました」というよりも「美味しいものを食べました」という国な気がする。本当に食べ物が美味しいから朝も昼も夜も楽しみなのよ。私、メキシコ料理がすごい好きかもしれない。何食べても美味しいって思うから。

──種類が豊富なメキシコ料理。TAMAKIさんのお気に入りは?

TAMAKI:サボテンのソテー。初めて食べた時にものすごい衝撃を受けて、当時は店に行くたびにやたら「カクタス、カクタス・ステーキ!」って言ってた記憶がある。食感は肉っぽいけど植物だからあっさりしていて美味しいの! それまでメキシカンはアメリカでしか食べたことなくて、所謂テックスメックスがメキシコ料理だとずっと思っていたから、テキサスで食べた時に「アメリカの他の場所で食べるメキシカンとは違うな」なんて勝手に思っていたけど、それとも大きく違っていて。メキシコで食べたら別物だって思った(笑)。

──シュラスコなどの肉料理も有名ですよね。

TAMAKI:肉は好きなんだけど胃がもたれちゃうのよね。そんな私でもメキシコのお肉料理はそれほどもたれないし、サルサソースやライムが際立っているからか思ったよりも肉々しい感じはなく食べられる。それをマルガリータで流し込むのがすごく美味しくて!





──豪快ですね(笑)。お酒はやはりテキーラ・ベースのものですか?

TAMAKI:前回のインタビューでも話したとおり、普段はそれほど飲まないテキーラなのに美味しいと感じてマルガリータばっかり飲んでました(笑)。

──それにしてもコロナビールはいいとばっちりでした。

TAMAKI:本当よね。コロナビールといえばライムを入れて飲むのがさっぱり飲めるからメキシコ料理にはよく合う。ビールならモデロも美味しい。テカテは得意な味ではないけどよく見るかな。パブもよく出てくるね。

──お酒も含め、食事は旅の醍醐味ですよね。これまでに滞在した国の中から食べ物の美味しい国を3つ選ぶとしたら?

TAMAKI:イタリア、タイ、メキシコは好きだな。中国も何食べても美味しい。でもやっぱり好きなのは日本食よね。

──食文化はその地を知る上で欠かせないものですし、先ほどのメキシカン話のように現地へ行ってみないと本物の味が分からないこともありますよね。

TAMAKI:そうね。あと海外で知ったものを日本に帰ってきて食べたりもするよね。うちのメンバーはフィッシュ&チップスが大好きで、イギリスではすごく大きな鱈が出てくるのに日本のブリティッシュ・パブでオーダーするとすっごく小さいのが出てきたりする。油もお上品でさ。日本人の舌には合っているとは思うけど、あのドロドロした油で揚げたのがいいのに(笑)。

──仰るとおり、フィッシュ&チップスはイギリスの小汚いファストフードの代表。そして海沿いで食べると最高にうまい!

TAMAKI:そうそう! ロンドンのど真ん中とかグラスゴーはダメだったけどブライトンで食べたのは美味しかったな。

──それは日本国内でも同じで、ご当地ならではのものや現地で食べるからこそ美味しいものはたくさんありますよね。

TAMAKI:野菜もそうよね。地産地消が一番いいんだろうね。

──旅をしなきゃ食べられない時代ではありませんが、実際に足を運んでみると食であれ何であれ事実を知れますし、コロナ禍を経た今、そうした経験はこれまで以上に大事になっていくでしょうね。




▲レストランのオープンキッチン

TAMAKI:ニュースを鵜呑みにして勝手に危ない国だろうと思っていたところからライブに来てくれる人もいますし、お客さんに「どこどこから来た」と言われても「それってどこの国?」ということもあったりして、知らない国がまだたくさんある。メキシコでは最初の頃はギャラの支払いで揉めたこともあったし、「本当に大丈夫かな?」という気持ちもありましたが、当たり前のことだけどそこにも若者がいて、私たちの音楽を聴いている人がいるということにやはり感動しますね。

──過去にトラブルもありながらもすでに4回訪れているということは、現地プロモーターとの関係性を築いているということですか?

TAMAKI:おかげさまで。信頼関係もできています。

──以前、gotoさんが新体制になったときに「僕たちには世界中に味方がいるし、何も怖くない」と言い切られていたのを思い出しました。

TAMAKI:確かにあの時は世界中にいる私たちを支えてくれているスタッフみんなが待っていてくれたから良かったよね。

──それまでの経緯も見てきたからこその支援なのでしょうね。一日もはやくMONOのライブを見たいところですが、今後の予定は?

TAMAKI:まだ何も。最近オンラインでライブ配信する人が多いですよね。MONOにもオンライン・フェスのオファーがあったのですが、よくよく考えたらDahmがアメリカにいて出来ないから「すいません」とお断りしました。

──リモートのリモートになっちゃいますもんね。ちなみにDahmさんの最近のご様子は?

TAMAKI:元気です。ただ、アメリカから動けないんじゃないかな。彼はあまりアメリカ人ぽさがないというか、コロナの前から衛生面に気を配っているようなタイプで、今年の春のオーストラリア・ツアーではコロナが出始めた頃で大部分の人がまだマスクをしていなかったけれど、私とDahmだけはマスクをしていました。自分一人だけの問題ではないし、防げるものは防がないとね。


写真◎TAMAKI
取材・文◎早乙女‘dorami'ゆうこ

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▲Photo by Yoko Hiramatsu

■TAMAKI(MONO)
東京出身4人組インストゥルメンタル・ロック・バンドMONOのベーシスト。イギリスの音楽誌NMEで“This Is Music For The Gods.(神の音楽)”と賞賛されたMONOサウンドにおいて、ピアノ、鉄琴なども操る他、20周年を迎えてリリースした最新アルバム『NOWHERE NOW HERE』に収録の「Breathe」ではヴォーカルを初披露。これがバンド初の歌入り作品となって話題に。ライブでは華奢に映るその容姿からは想像もつかないような男前な弾きっぷりと美脚に魅了されるファン多数。

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アルバム『Nowhere Now Here』
2019年1月25日(金)発売
Labels:Temporary Residence Ltd.(North America & Asia),
Pelagic Records(UK, Europe & Oceania)
Formats:CD, LP & Digital
1.God Bless
2.After You Comes the Flood
3.Breathe
4.Nowhere, Now Here
5.Far and Further
6.Sorrow
7.Parting
8.Meet Us Where the Night Ends
9.Funeral Song
10.Vanishing, Vanishing Maybe

◆アルバム購入
www.smarturl.it/mono-nnh
◆Single 1「After You Comes the Flood」
www.smarturl.it/mono-ayctf
◆Single 2「Breathe」
www.smarturl.it/mono-breathe
◆Single 3「Meet Us Where the Night Ends」
www.smarturl.it/mono-muwtne

◆MONOオフィシャルサイト
◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
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