【インタビュー】BUCK-TICK、人生のすべてを受容・肯定し、あるがままに生きたいと願うすべての人に寄り添う22枚目のオリジナルアルバム『ABRACADABRA』

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33度目のデビュー記念日9月21日(月・祝)、BUCK-TICKが22枚目のオリジナルアルバム『ABRACADABRA』をリリースする。先行配信されている瑞々しいロックンロールナンバー「ユリイカ」は、“LOVE!”を連呼する生命賛歌。それだけでもこの塞ぎがちな時世に風穴を開けるには十分な力強さだが、BUCK-TICKの真の凄みは漆黒のバラード「忘却」で作品世界を締め括るところにある。希望や喜びやトキメキや楽しさだけでなく、悪夢も痛みも悲しみも悔恨も、人生のすべてを受容し全面肯定する。あるがままに生きたいと願うすべての人にそっと寄り添う護符のような本作はいかにして誕生したのか? 櫻井敦司(Vo)、今井寿(G)に訊く。

■“ちょっと逸脱した感じ”というか何か尖ったもの
■そういったものの塊を目指してみようという想いがあった


――アルバム『ABRACADABRA』を聴かせていただきまして、美しく、暗く落ち込んでいる時に“御守り”としたいような、心のセイフティーネットになる作品だと感じました。制作はいつ頃始まって、どのように進んできたのでしょうか?

今井寿(以下、今井):去年の秋だったかな? 春くらいから曲をつくり始めて、そこからですかね。

――春というのは、新型コロナウイルスの影響で自粛ムードになっていた頃ですか? それより前ですか?

今井:もっと前です。

――作品全体のコンセプトやヴィジョンは、当時あったのでしょうか?

今井:作るにあたっての、個人的なものは一応あって。“ちょっと逸脱した感じ”というか。何か尖ったもの、そういったものの塊を目指してみようかなという想いは何となくありました。でも、そこを目指してずっと突き進んでいくわけでもなくて、そこからちょっとズレたりしてもいいし。まぁ、コンセプトというほどのものでもなかったんですけど。

――型に嵌らないものを作ってこられた、という意味ではBUCK-TICKの皆さんは30年以上ずっと、常に逸脱し続けてこられた気もします。今回はまた違う想いがあったんでしょうか?

今井:きっとそういうのがあったから、自分なりに“それを言葉として出してみようかな”という感じですね。

――“逸脱したものを”というヴィジョンは、具体的にどう作品に反映されていきましたか? 作曲において、いつもと異なる部分があったのでしょうか?

今井:いや、それは特になかったです。逸脱というのは、分かりやすく言うと“媚を売らない”とか。そのへんのことを言っていたのかな?と今は思うんですけども。

――聴き手のことを考えてサービスするとか、そういうことは考えない、ということですか?

今井:そうですね。自分で“いいな”と思ったら、それをそのままやっちゃおうかなっていう。最初のきっかけはそういった本当に小さなところから始まって、モチベーションになっていった気がします。


▲『ABRACADABRA』【初回限定盤】

――今井さんが最初に抱かれていたそのヴィジョンを、櫻井さんはどの段階で共有なさったのでしょうか?

櫻井敦司(以下、櫻井):いや、全然。

今井:何にも言ってないです。

櫻井:……聞いてないです(笑)。

――(笑)。曲ができていくのを見守っている、という感じだったんですか?

櫻井:そうですね。

――どのタイミングで意識のすり合わせが行われたのですか?

今井:言葉で「こうだよ」みたいなことは言わないほうがいいなと思って。言うと、そこに固まっていってしまうし、それだと何か違うかな?と思ったので言わなかったです。ま、いつもあまり言わないですけどね。

――そうなんですね。既発シングル群は別として、アルバムのために最初につくられたのはどの曲だったのですか?

今井:最初は「MOONLIGHT ESCAPE」と「堕天使」かな。

――それが結果的にシングルになって、「堕天使」に関しては別ヴァージョンが収められている、ということですね。

今井:そうですね。


▲今井寿

――序盤、SEの「PEACE」で始まってから、「ケセラセラ エレジー」「URAHARA-JUKU」「SOPHIA DREAM」とエレクトロニック感の強いバキッとした音像、サイケデリックな質感の楽曲群が続きますが、あの辺りはもっと後で生まれてきたのでしょうか?

今井:そうですね。「MOONLIGHT ESCAPE」や「堕天使」を作った後、また改めて創作期間に入った後すぐにできたのがその3曲です。

――新型コロナウイルスによって、今作の制作スケジュール、レコーディングにはどんな影響がありましたか?

今井:レコーディングを中断しました。1か月間ぐらいかな?

――その期間はどんなお気持ちで過ごしていらっしゃったのでしょうか?

今井:やっぱり、次第にどんよりしてくるというか。そういう嫌な気分もあったので、その期間中に作ったのが「ユリイカ」だったんです。

――先行配信されている曲ですね。あの無条件な力強さと明るいエネルギーは、閉塞した状況を打破したい、というご自身のお気持ちがリンクしていたのですか?

今井:うん、そうだと思います。本当は、その時にもっとヘヴィーなギターリフで作っていた曲があったんですけど、だんだんそのモヤモヤした感じが嫌になってきて。久々に「ユリイカ」みたいな曲を作ってみようかな?って。

――「ユリイカ」の歌詞にある“ABRACADABRA”という言葉がアルバムタイトルにもなっています。これは、曲が生まれてきた段階で今井さんの中にあったんでしょうか? それとも櫻井さん発ですか?

今井:そうです、櫻井さんのほうからで、その言葉が歌詞に出てきていて。


▲櫻井敦司

――では櫻井さんに、“ABRACADABRA”という言葉が出てきた経緯を伺います。まず、コロナ禍によって作業を中断せざるを得なかった状況を、どのようにお過ごしだったんでしょうか?

櫻井:自分としては、歌詞で1、2曲書く作業があったので、それに集中していました。まぁ、“大人しくするしかない”という感じで。まだ訳が分からない中で……それは今もそうですけれども、大袈裟ではなく“まず、それぞれの命を守る”というか。スタジオだとどうしても密封された空間ですし、換気もしづらいので。緊急事態宣言が出てからは、皆さん自宅待機で“自分の身は守ろう”という感じでした。

――その時のご気分はいかがでしたか?

櫻井:ちょっと怖かったですね。“他人事じゃないんだな”というふうにだんだん、じわじわ迫りくるものがあったので。気分もやっぱり……まぁ、元々沈んでるので(笑)。

今井:(笑)。

――(笑)。そこに追い打ちをかけて更に、という感じでしたか?

櫻井:はい、沈んでいました(笑)。

――そんな中、“ABRACADABRA”という言葉は、どのように閃かれたのでしょうか?

櫻井:レコーディングが中断している時に、「ユリイカ」の歌詞を書く作業が残っていたので、時間だけはたっぷりと、ひと月ぐらいありましたし、その期間に書いたんですね。元々今井さんのほうで、サビの英語の部分は決まっていたので、“何かこれに上手く乗っていく、それでいて自分らしく、というのはないかな”と考えて。いろいろな本を読んだり広げたり、映画とかを観たりしていて。そんな中、何となくウェブを開いて見ていたら、向こうから寄ってきた感じでした。

――へぇ! それを“これだ!”と掴んで手繰り寄せられた、ということですか?

櫻井:そうですね。そういう作業をしている時は、いろんなものを何とかキャッチしようとアンテナを広げているので、向こうからやってきてくれたんです。



――“LOVE!”と繰り返し叫んでいる今井さん作詞のパートは、曲同様、当時のモードがそのまま映されたのでしょうか?

今井:はい、そうですね。作っていたら自然にそうなってきたので、もうサビはそのままでいいかな?っていう。

――すごく強いですよね。愛溢れる生命賛歌というか。理屈ではないエネルギーに圧倒されました。ご自分を鼓舞する部分もあったんでしょうか?

今井:“今の自分が欲しがってるものだな”と作りながら思いましたね。もう本当に自然の流れで。やっぱり気分が落ちている感じがあったし。レコーディングが中断して、腹立たしいというのもあるけど、正直“スタジオには行きたくないな”という気持ちもあって。

――感染の不安もあるし、ということですよね。

今井:ええ。そういったいろいろなことが重なって、そういう流れでできた曲です。

――実際に作業が止まる、という影響以外に、作品を作られる上で今の時代の空気感がどのくらい影響をしているのか?というのをお聞きしたいと思っていたんですが、かなり色濃く反映されている作品になった、と捉えていいでしょうか?

今井:影響は多少出てきているとは思います、普通に。現実に、この場で、そういうことが起きているわけなので。

――櫻井さんはいかがですか? この時代の空気感やムードというのは、作詞において、あるいは歌唱において、どの程度どのように影響しているのでしょうか?

櫻井:去年シングルから作り始めて、それ以降、レコーディングを中断するまでは、ことコロナには作品を邪魔されたくない、と言いますか。なので、実生活では最低限気を付けていましたけども、作品はやはり、自分の部屋と時間と頭の中のことなので、そんな訳の分からないものにそこまで邪魔されたくなく、純粋に自分の書きたいものを書いたつもりですね。「ユリイカ」はちょっと別ですけれども。


――社会の出来事に対してどうこう、というよりは、ご自身の中にあるものを掘り下げて、いつものペースで書こうとされた、ということですか?

櫻井:以前は自分の頭の中の想像とかが高い割合を占めていたんですけれども、それと比べると、今回はコロナ以前の、例えば「MOONLIGHT ESCAPE」は幼児虐待だとか。そういったことに対して、逃げ道というか、“逃げていいんだ”みたいなことを書いていたりします。あと、「Villain」は、人間の闇ですね。普段は笑顔でいる人が、ネットでは自分が鬼の首を取ったようなつもりで、匿名で誹謗中傷を繰り返している、とか。だけど“そんなおまえのことを知ってるぞ!”っていう。あとは、自死が題材になった曲と言いますか……(「凍える」)。自分で命を断った方がいて、それがテレビなどで報じられている時期にちょうど重なったんですけれども、作っていたのはもっと前だったので。なんだか申し訳ないな、という想いもあるんですが……。

――偶然の一致だったんですね。

櫻井:はい。でも、“そういう生き方があったというのは事実だ”というのも、自分としてはかねてから書きたいことの一つだったんです。

――櫻井さんの歌詞には、どんな題材であれ一貫して、“逃げてもいい”という受容の眼差しが存在します。その決断に至った人に対して、責めるようなところが全然ないのが、すごく優しいなと思うんです。

櫻井:いやいや、自分に優しいだけで(笑)。

――だからこそ、思い詰めた状態に陥っている人にとって、セイフティーネットになるんじゃないのかな?と。そういうものでありたい、という意識もお持ちなのでしょうか?

櫻井:そうですね。自分も含めて、逃げたくても逃げられなかったので。幼少期であればそういう人たちもいっぱいいますし。“男らしくしなさい”だとか“ポジティヴに考えてくれ”みたいなことを言われる中で、やはりそういうのが苦手な人もいると思うんですね。そういう人には、“自分なりでいいよ。ただ当たり前な感じでいいよ”みたいな。だから、もしかしたらそういう、ちょっとマイナス思考の人にとっては、少しはホッとできるんじゃないかなという部分はありますね。

――少しどころか、すごくホッとできると思います。弱さや闇が受容されない空気に満ちた社会だと感じますし、ただでさえ傷付いている人に対して、「Villain」で描写されているように、更なる矢が飛んでくる時代ですので。そういう人にとっての御守りだな、と感じます。

櫻井:そうだとうれしいですね。

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