【ライブレポート】Official髭男dism、12万人に伝えた「一夜限り」に懸ける想い

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今年2月、愛と祝福に包まれてフィナーレを迎えた<Official髭男dism Tour 19/20 - Hall Travelers ->パシフィコ横浜公演での光景をはっきりと覚えている。あれから7カ月で、世界は大きく変わってしまった。

◆ライブ画像(7枚)

飛躍の2019年を経て、さらなる高みへ飛び立とうとしていたOfficial髭男dismもまた、バンド初のアリーナツアーが延期になるなどの逆境に立った。けれど、そんな中で彼らがリリースしたのは、過去と未来を繋ぐ途中の「今」を全肯定するようなメッセージが詰まった『HELLO EP』だった。

藤原聡(Vo,Pf)が「新たな世界との対峙」とオフィシャルインタビューで明言している通りの力強いポジティビティ、挑戦とこだわりが詰まったバンドサウンドからは、どんな状況であっても「自分たちの音楽」を信じて愛し抜くヒゲダンの姿が伝わってくる。


そして9月26日、その『HELLO EP』をひっさげて、ライヴのステージに4人が帰ってきた。そこに観客はいないし、同じタイトルを冠していても延期になったアリーナツアーの代わりではない。逆に言えば今しかできない、たった一夜限りのスペシャルなステージ。画面越しのステージには、Official髭男dismの揺るがぬ「今」があった。

コンサートスタッフの作業風景を経て、ホールツアーと同様に赤い緞帳がゆっくりと上がる中、ライヴはいきなり新曲の「HELLO」でスタート。映像からでも伝わる重厚なサウンドに耳を傾けると、以前はサポート5人を加えた9人編成だったところに、ヴァイオリンやキーボードなどのサポートメンバーが増えていることに気づく。音色が増えようと、よりどっしりとした存在感を示す楢崎誠(Ba,Sax)&松浦匡希(Dr)のリズム隊を中心に、4人のグルーヴはまったくブレない。

配信の音質はもちろん、その大所帯が並ぶステージの背後には大きなセットが組まれ、オンラインライブでは珍しい大型ヴィジョンまで装備。アリーナツアーに向けて、ヒゲダンチーム全体が大きな進化を遂げていたことが伝わってくる。同時に、この「一夜限り」に懸ける想いを感じ、すごいライヴになる、という予感にゾクゾクした。


「宿命」「ノーダウト」と早くもシングル曲を連打してテンションを高めたあと、「お久しぶりです! Official髭男dismです!」と藤原が告げる。「ヒゲダンのライヴは初めてな方も、何度も観てくださっている方も、とにかく全員に、音楽の楽しさをしっかり伝えられるように。そして自分たち自身も、ひっさしぶりのライヴを全力で楽しんで、音楽を共有して、すばらしい時間をすごせたらいいなと思っております!」と宣言し、EPから「パラボラ」を披露。

続く「ビンテージ」では無数の電球に照らされて、まるで星空の中で歌っているような演出が美しい。本来なら客席エリアであるフロアに「HGDN」の箱文字(武道館ライブでステージに設置されていたあれ)が飾られていたり、「Rowan」で映像がフィルム調に加工されたりするなど、まさにオンラインライブならではの演出に惹きこまれていく。

アマチュア時代の曲をEPに再録した「夏模様の猫」を藤原が弾き語りでしっとり歌い上げると、そのままストリングスの音が加わるアレンジで繋がった「イエスタデイ」から「Laughter」へ。新しくサポートメンバーとなったヴァイオリンの生音が映える中で、まっすぐ突き抜けていく藤原のヴォーカルの迫力が凄まじい。


“世界が後ろから指差しても/迷わず進め”と歌う「イエスタデイ」、“自分自身に勝利を告げるための歌”と言い切る「Laughter」。両者に共通する、過去を乗り越えてまだ見ぬ未来を目指すという強い想いは、ずっとヒゲダンの中で燃え続けているのだろう。絶対に歩みを止めはしない、この音楽を止めさせないという意志が、のびやかなメロディとアンサンブルに乗って胸の奥深くに響いた。

後半戦は、多彩な音楽ルーツに彩られたヒゲダンのさまざまな表情が炸裂。メンバー全員がヴォーカルを取る「旅は道連れ」、アスペクト比4:3の画面でレトロな演出が効いた「夕暮れ沿い」をビッグバンド風アレンジで盛り上げた次は、せりあがるお立ち台の上でメロイックサインを掲げた小笹が「燃やし尽くしてやろうぜ!」と叫んだハードロックナンバー「FIRE GROUND」。

奔放すぎるセットリストで高ぶったまま始まった「Stand By You」では、手拍子するメンバーとシンクロするように、満場の観客の映像がヴィジョンに流れる。たくさんの笑顔を背負いながら、“たとえ僕ら遠く離れた場所に行こうとも/変わらずにいたいよな? 変わるはずがないよな?”というバースを、藤原はひときわ力んで歌った。まるで今日のためにあったかのような歌詞が涙腺を直撃する。熱い問いかけに、この配信を観ている誰もが同じ答えを抱いたに違いない。


ステージ上の興奮が頂点に達した「Pretender」「I LOVE…」を経て、最後に贈られたのは「ラストソング」。オーディエンスの代わりにライトが揺れる会場を見つめて演奏する4人は、笑顔とも泣き顔とも取れる感極まった表情を浮かべていた。

大きなチャレンジが成功した達成感の裏側で、みんなで同じ空間を共有できていない寂しさ、会いたいという願いはやはり拭えないもの。それでも、たしかに今夜、またひとつ新たな表現を手に入れたヒゲダンの音楽は、遠くにいながらにして多くの人々の心を繋げてみせた。「ラストソング」の“またねを届ける”という約束、「絶対にまた元気で会いましょう!!」と叫んだ藤原の眼差しを希望に変えて、Official髭男dismの次なるステージを待ちたい。

文◎後藤寛子
写真◎溝口元海(be stupid)

  ◆  ◆  ◆

なお、本公演のリアルタイム視聴者数は12万人。現在、セットリストプレイリストも公開中だ。

■「Official髭男dism ONLINE LIVE 2020 - Arena Travelers -」セトリプレイリスト
https://HGDN.lnk.to/ArenaTravelers_setlist

セットリスト

1.HELLO (フジテレビ系『めざましテレビ』テーマソング)
2.宿命 (2019 ABC 夏の高校野球応援ソング/「熱闘甲子園」テーマソング)
3.ノーダウト
4.パラボラ
5.ビンテージ
6.Rowan
7.夏模様の猫
8.イエスタデイ (映画『HELLO WORLD』主題歌)
9.Laughter (映画『コンフィデンスマン JP プリンセス編』主題歌)
10. たかがアイラブユー
11. 115 万キロのフィルム (映画『思い、思われ、ふり、ふられ』主題歌)
12. 異端なスター
13. 旅は道連れ (SUZUKI 「スイフト)CM ソング)
14. 夕暮れ沿い
15. FIRE GROUND (TV アニメ『火ノ丸相撲』OP テーマ)
16. Stand By You (Apple Music「-5000 万曲の世界へ-」CM 起用)
17. Pretender (映画『コンフィデンスマン JP-ロマンス編-』主題歌)
18. I LOVE... (TBS 系火曜ドラマ「恋はつづくよどこまでも」)
19. ラストソング

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