【インタビュー】HEESEY(THE YELLOW MONKEY)、「僕にとってロックンロールの美学のひとつ」

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ヒッピームーブメントの追い風とともにロックが咆哮を上げ、これまでに聴いたこともないサウンドが次々と生まれ始めた1960年代、斬新な機材と新たに登場してきた楽器群とともに、新しい音楽が爆発的な成長を遂げていた。

そして1969年、<ウッドストック・フェスティバル>が開催される1ヵ月前に「見たこともない、もっとも大きくて最高にカッコいいベース・アンプ」「怪物のようなSuper Vacuum Tube」がシカゴのNAMMショーに現れた。“ぶっ飛びの真空管”と呼ばれた“Super Vacuum Tube”…そう、Ampeg SVTである。当時200Wもの大出力であらゆる会場を制圧してきたMarshall Majorの1.5倍もの出力をもつSVTは、その後ザ・ローリング・ストーンズのツアーをサポート、最大級の爆音を世界中に轟かせることとなり、世のベーシスト達の垂涎の的となったわけだ。

そして半世紀経った今もなお、SVTのアイデンティティは揺るがない。2019年には、1969年に発売されたAmpeg SVTの50周年を記念しAmpeg 50th Anniversary SVTが発表され、そのままAmpegのフラッグシップモデルとしてその名誉をほしいままにしている状況にある。

この50th Anniversary SVTを含むAmpeg Heritageシリーズは未だアメリカでのハンドビルドだが、時代を超えてベーシストの羨望を集める当モデルの魅力とはどういうものなのか、SVTをよく知りロックベースの何たるかを体現するHEESEY(THE YELLOW MONKEY)に、Ampeg 50th Anniversary SVTのサウンドをチェックしてもらった。


50th Anniversary SVT

HEESEY:これこれ、興味あったんですよ。これ、左チャンネルが…

──チャンネル1が1969年バージョン、右が1975年バージョンですね。

HEESEY:左がまさにブルーラインですよね。早速音を出してみます。…うわー、すげえ懐かしいです。このスピーカーも新品じゃなく既にそれなりに鳴らしてますよね?馴染みが良いと言うか、ツアーとかでガンガン使ってる音に聞こえます。もうちょっとボリューム上げていいですか?

──どうぞどうぞ。

HEESEY:やっぱりいいっすね。嫌な歪み方しないというか、素直に歪むAmpegのいいところが出ている。ただ、そもそもAmpegって超低域が回り込みやすいっていうか膨らみやすいんですよね。悪い言い方するとステージの上だと他の楽器に影響しちゃうというか、すごく支配しちゃうから、あんまりバッキンバッキンに音量をあげられないんです。

──それだけパワーがすごいということですね。

HEESEY:そもそもそれを狙って作られているからね(笑)。でもこれって、エレキのベースで実は大事なところで、どれだけロー感を再現するかっていうことですから、このモデルも大きなロックの歴史の中のそれを継承していますよ。

HEESEY:(つまみを触りながら)僕のメインのサンダーバードは出力がデカいので、ここまで音量を上げるとSVT-VRだともっとグシャッとなっちゃうところですけど、それも今のところ感じない。指で弾くとさらにローが出てきますけど、いい意味であんまり支配しないですね。右チャンネルも試しましょうか。

──ブランドホルダーがMagnavoxの時代の音ですね。

HEESEY:その時代もSVTと呼ばれていたんですか?

──これも当時アーティストから評判がよかったときの設計だそうですよ。

HEESEY:いつ頃からブラックラインなのかな?1970年代後半くらいになるとまた違うモデルもありますよね。

──パネルもロゴも変わってますし。

HEESEY:ですよね。音出してみます。…あ、チャンネル2はちょっと堅いですね。音像がちょっと上(高域より)に行きますね。サンダーバードだったらチャンネル1で使いたいかな。チャンネル1をプレベで鳴らしてみると俄然Ampeg感が出る。SVT-VRよりブルーラインに近いので、当時のブルーラインの新品ってこんな感じだったんじゃないかなって音がチャンネル1ですね。

──それはいいですね。

HEESEY:そこを狙ってるんだろうなって音です。プレベで鳴らせば、一番優等生な音が出る。

──いわゆるプレベのイメージ通りの音。

HEESEY:プレベ+Ampegという王道のアメリカンロックですよ。「ポップスもメタルもパンクも全部これ」という音ですよね。「エレクトリックベースってこれでしょ?」みたいな。

──正解の音だ。

HEESEY:めちゃいい(笑)。バックパネルには、今どきっぽい回路もあるんですか?

──DI OUTがあります。

HEESEY:…ってことは、ヘッドを通った音を直接卓にもっていける?この味が入ったプリアンプみたいな?すごく良いですね。なんか思ってたより全然いいです。

──SVT50周年を記念した気合いの一発ですからね(笑)。

HEESEY:ベースはヴィンテージを使っていたけど、アンプはヴィンテージじゃないほうがいいな、って思ってた時期があったんですよ。どっちもヴィンテージだとどこかくたびれ過ぎちゃうかな、みたいな印象があって。それで新品のSVT-VRを使っていたんですけど、やっぱりSVT-VRの元となったモデルが気になるわけで、そこを掘っていくうちにブラックラインに出会って、「やっぱこれが本家なんだね」ってなって「じゃあブルーラインも欲しいわ」って、どんどんヴィンテージを掘っていったんです。

──サウンド追求の旅ですね。

HEESEY:その頃のことをめちゃ思い出した(笑)。もうちょっと弾き込んでいいですか?もう一回サンダーバードに戻って、つまみの可変を確かめたいです。立ち位置でも音色の印象って変わりますけど…お、これ、つまみが効きますね。ヴィンテージだと意外とほとんど反応しないのって多いから(笑)、これは使いやすいかも。サンダーバードだと、プレベのFender系の「芯のバチッとしたところ」が意外と出ないので、ウルトラハイをONにして逆にトレブルをちょっと絞るとぐっと張りが出てくる。このスイッチも使い方によってはいいんですよ。プレベだと多分必要ないんですけど。

──SVTのスイッチって、使わない人多いですよね。

HEESEY:ですよね、でもすげえいいです。意外といろいろできます。これ、いくらですか?もう売ってるんですか?買おうかな(笑)。

──発売してますけど、今、日本に在庫がないんだそうです。35万円くらいですよね。

HEESEY:待ってる人もいるんですか?

──山下昌良(LOUDNESS)さんとか。

HEESEY:さすが分かってる方は分かってますね。

──そもそもHEESEYさんにとって、いいベースサウンドとはどういうものですか?

HEESEY:僕らがやってる音楽って、ソロ楽器じゃないですよね。例えばジャズのようにベースそのものを聞かすようなものではないので、バンド内でヴォーカルやギターやドラムに混ざってなんぼなんです。混ざったときにちゃんと存在感のある音で、ベース本来の位置、弾いている内容をきちんと主張したいんですよ。なので、それをちゃんと再現できる音っていうのが僕にとっていい音。それにプラスして、ただ聞こえてくるんじゃなくて芳醇な豊かな感じっていうか。

──「混ざってなんぼ」は真理ですが、バンドを始めたばかりは「目立ってなんぼ」になりがちで(笑)。

HEESEY:若い頃は全然理解できてなかったですよ。未だにイヤモニの中は自分の音がちゃんとしてないと入り込めないですしね(笑)。

──そもそもロックンロールって、そういうものだとも思います。

HEESEY:ほんとそうです。自意識過剰な自己表現っていうかね、自画像みたいな音楽ですから。

──そういう連中が集まってバンドになるわけで。

HEESEY:そうですそうです。「俺が、俺が」がないと生まれなかった音楽だと思うし、その自意識過剰なところがカッコいいっていうところもすごくあるので、自分のアイデンティティ…自分がどうありたいのかが音とすごくリンクすると思うんです。歌を引き立たせながら、いかにいい音色で自分のフレーズを伝えられるかが理想ですよね。

──サウンドにこだわり始めたのはいつ頃ですか?

HEESEY:深く掘り下げて音色を研究しだしたのは、そんなに昔ではないんです。若い頃は自分の個性を磨くことのほうが重要で、自分の好きな音楽や影響された音楽を自分のものにしたいという気持ちのほうが強かったから、音色よりもどういうフレーズを弾くベーシストになりたいのかが大事だった。

──立ち振る舞いも含めて。

HEESEY:そう、立ち振る舞いとかやっているバンドも含めて。だから当時は、ヴィンテージのプレベの音というのも全然わからなかったな(笑)。カッコいい良い音なのはわかるけどね。

──サンダーバードという王道サウンドじゃないベースを持ったことが、HEESEYさんの個性とアイデンティティを強固なものにしたんでしょうね。

HEESEY:確かにそうだね。自分の生い立ちやどんなロックを好きになったか、何に興奮したのかをさかのぼると、世の中の音楽…ポピュラーミュージックとかロックンロールという大きな枠の中で、僕が求めたのはFender系のプレベとかジャズベという優等生じゃなかったんですよ。みんなが持っているようなベースは嫌だなみたいな(笑)。なんせKISSから始まっているんで「ジーン・シモンズ、プレベ使わねえじゃん」「ギターだってFender使わないじゃん」みたいな。そういうのもあって、一番最初に買ったモデルはリッケンバッカー・モデルでしたね。完全にルックス重視で。

──すでに個性的ですね。

HEESEY:自分の音楽性に正直にきたつもりだけど、でも遡ればジャズベース/プレシジョンベースというのは、ロックを含めた現代ポピュラーミュージックの生みの親ですから、学びたかったし研究したかったし、それでFenderのヴィンテージも掘り下げたことでFenderのすごさも分かった。

──なるほど。

HEESEY:逆にFenderのいいところを知るとサンダーバードの欠点も知るわけで、ちょっと無骨なじゃじゃ馬のようなベースを弾くことで、例えば自分のフレーズと一番いいところを示し合わせたいみたいなところもあったよね。

──サンダーバードを弾いてるベーシストで、カッコ悪い人はいないってのが、私の持論です。

HEESEY:正直、取っつきにくいですからね。「カッコいいから持つんじゃん。音なんか弾き方でどうにかなるし後からついて来るよ」くらい思ってました。でも段々「このじゃじゃ馬を乗りこなしてやろうじゃないか」って追求したくなってね。FenderでもGibsonでもない「何これ?」っていう、すげえいい音なんだけど謎なものにはすごく憧れたし、自分が好きになった音楽の得体の知れないものってすごく惹きつけられるんですよね。常日頃から自分なりの音作りをしたいと思っているし、「サンダーバードでこの音出せないよね」みたいなとこまでいきたいと思う。まだまだ様々な角度からよりよい自分らしい音を追求したいと思っているので、そういう観点からみると、Ampeg 50th Anniversary SVTはいい味方になってくれる気がする。

──サンダーバードでもプレベでも使いこなせそうですね。


左:Gibson サンダーバード 1965年製 右:Fender プレシジョンベース 1962年製

HEESEY:当然Ampegが長年培ったAmpegたる王道の音も出るし、黄金時代がここから始まったんだよっていうブルーライン期のストーンズが使っていた時のような古き良き最初の音もちゃんとする。

──エレクトリックベースたる音、そういう音ですね。こういうアンプを持っていれば安心かも。

HEESEY:そうですね。原点のようなモデルをリイシューしてるわけですけど、今の音楽にも全然対応できるから、5弦ベースで今どきのロー感を出してもいい味方になってくれますよ。ブレないっていうか揺るがないというか、有無も言わさずOKみたいな説得力だから。

──決して裏切らない。

HEESEY:それはAmpegっていうブランドが本来持っているもの。土台がぶれてないから、最新なんだけど掘り下げたものが出てくる。出てくるべくして出て来たんだと思います。

──やっぱベーアンはAmpegか。

HEESEY:僕らが練習していた街のスタジオもライブハウスもほぼAmpegでしたからね。僕は今はMarshallをメインで使ってますけど、Ampeg SVTユーザー歴は長くて、ブルーラインもブラックラインも1987年限定モデルも未だに持ってるし、V4-Bもあるし810キャビネットも数台あるので、全然Ampegも使用準備OKなんです。だから、将来的にAmpegとMarshallを両方並べてベースで使い分けようかなくらいに思ってたんですよ。音量的にMarshallが使いやすいんですけど、ステージにはブルーライン、ブラックライン…と本物がちゃんと並んでるみたいな(笑)。

──Ampeg背負ってなんぼみたいな世界ですね。

HEESEY:ステージで絵になるんですよ。こう言っちゃ何だけど、好きじゃないアンプの前に立っても絵にならないだろうなって思います。アンプって背景の一部…すごく美しい背景の一個だと思うんですよ。自分の欲望やこうしたいと追求していくところには忠実でありたいし、それが許されるならそれはやっぱり叶えていきたいと思いますね。

──衣装もそうですしね。

HEESEY:そうです。自分の影が銀のサランネットに映ったりする映像とか画像とか見れると嬉しいんですよ(笑)。1960年代のジミヘンとか、それこそMarshallの前の影だけ映っているやつとかに憧れるとこがあるので、それも含めの後ろのセットの大事なとこですよね。

──それがロックンロールか。

HEESEY:ステージで派手な衣装でギンギンなメイクで、ギラギラの銀サランネットの前で弾きまくるのは、僕にとってロックンロールの美学のひとつですね。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)
協力◎株式会社ヤマハミュージックジャパン



Ampeg Heritage 50th Anniversary SVT

小売価格:オープン
●プリアンプ真空管:Premium JJ(5 x 12AX7)
●ドライバー真空管:Premium JJ(1 x 12AX7, 2 x 12AU7)
●パワーアンプ真空管:Ampeg Super Valve(6 x 6550)
●出力:300W RMS @ 2 or 4Ω
●トーンコントロール
・チャンネル1:オリジナル1969"Blue Line"SVTを再現したボイシング(ジャンプ可能)
・チャンネル2:70年代中期のMagnavox時代のSVTを再現したボイシング(ジャンプ可能)
・ベース:+12/-12dB @ 40Hz
・ミドル:+10/-20dB @ 220Hz, 450Hz, 800Hz, 1.6kHz,もしくは3kHz
・トレブル:+15/-20dB @ 4kHz
・ウルトラ・ロー:+2dB @ 40Hz, -10dB @ 500Hz
・ウルトラ・ハイ:+9dB @ 8kHz
●入出力端子
・インプット(チャンネル1、同ブライト、チャンネル2、同ブライト)
・スレーブ・アウトプット
・パワーアンプ・インプット
・プリアンプ・アウトプット
・トランスフォーマー・バランスド・アウトプット
・スピーカー・アウトプット(1/4インチ・フォーンアウトプット×2、スピコン・アウトプット×1)
●寸法:292(H)×610(W)×324(D)mm
●重量:38.6kg

◆HEESEY オフィシャルサイト
◆Ampeg オフィシャルサイト
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