視聴率54%を記録。音楽が伝える強力なメッセージを伝えたウィーン・フィルのニューイヤー・コンサート、本日デジタル配信スタート

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新年恒例のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサート、2021年はオーストリア政府によるコロナ感染予防規定のため無観客で開催され、歴史的な成功を収めた。ちょうど元旦の昼に開催された地元オーストリアではTVの視聴率が何と54%、120万人が見た計算となる。

◆ウィーン・フィル ニューイヤー・コンサート 関連画像

オーストリアの日刊紙『クーリエ』では「芸術的にこれ以上望むものはない」、「リッカルド・ムーティとウィーン・フィルは一体となり、聴く者に特別な音楽の饗宴をもたらしてくれた」と手放しで絶賛し、『クローネ』紙も「ウィーン・フィルは魅惑的な色彩感と、洗練された音に包まれた」と称賛の言葉を連ねている。収録からわずか1週間後の本日、ライヴ録音されたコンサート全曲の配信が全世界で開始される。

いつもであれば華やかな歓声と拍手に包まれるニューイヤー・コンサートだが、今年は、指揮者の入場にも、演奏終了後にも聴衆の拍手はなく、時折ソロ・パートを演奏した奏者をたたえることはあったといえ、粛々と進められた。放送では、第1部と第2部の最後に、オンラインを通じて視聴していた世界各地の7千人の拍手や静止画が流され、その拍手はホールにもスピーカーを通じてフィードバックされて、指揮台上のムーティとオーケストラの奏者に微笑みをもたらした。

今年の演目のキーワードは、今年80歳を迎える指揮者ムーティの母国イタリアで、当時のイタリアの王子のために書かれた「マルゲリータ・ポルカ」、イタリア趣味を反映した「ヴェネツィア人のギャロップ」、あるいはヴェルディ「リゴレット」やベッリーニ「夢遊病の女」など当時一世を風靡したイタリア・オペラの名旋律を散りばめた「新メロディ・カドリーユ」など、オーストリアとイタリアとの強い絆を物語る作品が取り上げられ、ムーティも時折指揮をやめてオーケストラの演奏に聴き入っていた。また、日本では未だに高い人気を誇るドイツの名指揮者ハンス・クナッパーツブッシュの十八番だった豪快なコムツァークのワルツ「バーデン娘」をはじめとする7曲もの作品が、ニューイヤー・コンサート史上初めて取り上げられたのも大きな話題で、シュトラウス一家をはじめとするワルツやポルカというオーストリアの音楽的財産を広く世界に紹介しようとするウィーン・フィルの姿勢が見て取れた。

無観客公演だったことに加えて異例だったのは、ウィーン・フィルの楽団長と指揮者のムーティがスピーチを行ったことだろう。楽団長で第1ヴァイオリン奏者のダニエル・フロシャウアーは、「音楽大使として、マエストロ・ムーティとともに、希望と明るさのメッセージをお届けします。本日演奏する音楽は、暗い日々も、そして楽しい時も私たちを勇気づけてくれたもの。その意味で、このコンサートがみなさんにとって忘れ難いものになりますように」とコンサートに込める思いを第2部の冒頭で表明した。


一方ムーティは、恒例のアンコール曲「美しく青きドナウ」の演奏の前に約3分間にわたって熱弁をふるい、「私たちはここにいて、音楽が運んでくれるメッセージを信じて演奏しています。音楽家には武器があります。これは人を殺さない、音楽という武器です。音楽は喜びや希望、平和、兄弟愛、そして何よりも愛をみなさんに届けることができます。私たち音楽家にとって、音楽は仕事ではなく、使命なのです。その使命を伝えるために音楽家は働いているのです。では何の使命か?それはこの社会をより良いものにする、という使命です。新しい世代の若者にとってこの1年は、物事を深く考えられないままに過ぎてしまいました。自分の健康のことを始終考えていなければならなかったからです。身体の健康は大切ですが、精神の健康も同じくらいに大切です。音楽はその精神を健康に保つのに必要なのです」と音楽、そして音楽家の持つ使命の大切さについて説いた。さらに「世界中の知事、大統領、首相のみなさん」と呼び掛けて、「将来社会をよくするためには、音楽という文化が欠かすことができない要素であるという点をどうかお考え下さい。この思いを込めて『美しく青きドナウ』を演奏いたします。この美しい曲の音の波の中に、喜びと悲しみが、生と死がいっぱいに詰まっていることをお聴きください」と締めくくって、音楽が社会で果たす重要な役割について訴えた。例年であればオーケストラとともに「新年明けましておめでとう!」という一言を発するだけのところだが、あえて言葉を尽くしたムーティに、オーケストラは譜面台を叩いて賛同の拍手を贈った。コンサートは、長年演奏してきた楽譜がナチス党員による編曲だったため、2020年からウィーン・フィルが新たに作成した編曲版に切り替えた「ラデツキー行進曲」(イントロの小太鼓の連打がなく、オーケストレーションにも少し変更がある)で締めくくられた。また同時に、2022年のニューイヤー・コンサートの指揮者がダニエル・バレンボイム(2014年以来3度目の登場)に決まったことも発表された。


『ニューイヤー・コンサート2021』

デジタル配信:2020年1月8日(通常配信・24ビット96kHzハイレゾ配信・ストリーミング)
CD:SICC-2221~22 2枚組 2021年1月27日予定 ¥2,900+税
ブルーレイ:SIXC‐37 2021年2月17日予定 ¥5,700円+税
レーベル:ソニークラシカル
◎アルバムの試聴・購入はこちらから
https://sonymusicjapan.lnk.to/NewYearsConcert2021
(ムーティのスピーチは収録されています。楽団長のスピーチとオンラインの拍手は収録されていません。)

■収録曲
CD1
第1部
1.ファティニッツァ行進曲[オペレッタ「ファティニッツァ」より]★ (スッペ)
2.ワルツ「音波」 作品148★ (ヨハン・シュトラウス2世)
3.ニコ殿下のポルカ 作品228 (ヨハン・シュトラウス2世)
4.ポルカ・シュネル「憂いもなく」 作品271 (ヨーゼフ・シュトラウス)
5.ワルツ「坑夫ランプ」★ (ツェラー)
6.ギャロップ「贅沢三昧」[オペレッタ「キスのリハーサル」のモティーフによる]★ (ミレッカー)

第2部
7.歌付き喜劇「詩人と農夫」 序曲 (スッペ)
8.ワルツ「バーデン娘」 作品257★ (コムザーク)
9.マルゲリータ・ポルカ 作品244★ (ヨーゼフ・シュトラウス)

CD2
1.ヴェネツィア人のギャロップ 作品74★ (ヨハン・シュトラウス1世)
2.ワルツ「春の声」 作品410 (ヨハン・シュトラウス2世)
3.ポルカ・フランセーズ「クラップフェンの森で」 作品336 (ヨハン・シュトラウス2世)
4.新メロディ・カドリーユ 作品254 (ヨハン・シュトラウス2世)
5.皇帝円舞曲 作品437 (ヨハン・シュトラウス2世)
6.ポルカ・シュネル「恋と踊りに夢中」 作品393[オペレッタ「女王のレースとハンカチーフ]のモティーフによる](ヨハン・シュトラウス2世)
アンコール
7.狂乱のポルカ 作品260 (ヨハン・シュトラウス2世)
8. 新年の挨拶[リッカルド・ムーティの英語によるスピーチ]
9. ワルツ「美しく青きドナウ」 作品314 (ヨハン・シュトラウス2世)
10. ラデツキー行進曲 作品228 (ヨハン・シュトラウス1世/ウィーン・フィル編)
★ニューイヤー・コンサート初演奏の作品
*日本語曲名は日本ヨハン・シュトラウス協会刊の『ヨハン・シュトラウス2世作品目録』(2006)、『ヨーゼフ・シュトラウス作品目録』(2019)に従っています。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮:リッカルド・ムーティ
[録音]2021年1月1日、ウィーン、ムジークフェラインザールでのライヴ・レコーディング

◆『ニューイヤー・コンサート2021』 オフィシャルサイト
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