【連載】フルカワユタカはこう語った 第39回『ドキュメンタリー』

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2021年も1ヶ月が過ぎたが僕は相変わらずだ。

◆フルカワユタカ 画像

朝食を作り、英語の勉強をして、歌を歌い、作曲やらミックスやらをし、ファンアプリを更新し、ジョギングをし、ギターを弾きながら晩酌をして、寝る。僕は不真面目では無いが特段にストイックな人間でもない。怠ける時は怠けるし、ズルだってする。たとえば、このコラムがそうだが、作詞だったり文筆系の作業は後回しにしがちだ。もう20年も前の話なので大目に見て欲しいのだが、ドーパン(DOPING PANDA)を組んで音楽活動最優先だった大学時代、テストや卒論では相当ズルをした。自制心もそれほど強い方ではない。二日酔いで丸一日潰し、もう二度と酒は飲まないと何度誓ったことか。金輪際、誰にも会わないで良いということであれば際限なく太る自信もある。

だけれど、そんな僕が高校時代、毎日9時間ギターを弾いていた。試験期間でも、正月でも、校内イベントの日も。プロになってバンドでスタジオを作り、ミックスを自分でやるようになって、ミックス作業もギターと同種だということを知った。ミックスは大きな音でやるので、耳の健康の為にも、ミックスのクオリティの為にも(耳の疲れが元で高音がキツめになってくる)、本来は時間を区切ってやるべきなのだが、延々と、しかも同じ曲を毎日毎日いつまでもミックスし続けた。「ラストファイナルミックス ver3」的なファイル名のミックスが日々送られてきていたメンバーの当時の心境たるや。

「僕はギターの才能はまったくないが、一日中ギターを弾き続けられる天才ではある」──とは僕が自分を評する時に使う言葉だが、一日中、顕微鏡を覗き続ける学者、一日中、ボールを蹴り続けるサッカー少年、一日中、部屋にこもってゲームをし続けるニート、対象が違うと随分とその印象も変わるが、僕も彼らと変わらない。

「ずっとこのまま没頭し続けたい」──不謹慎だが、2020年は僕にとってそこまで悪い年ではなかった。人の悩みは突き詰めれば9割が人間関係に帰結するらしい。人間は社会の上で可能な限り影響し合って生きている。僕がそうだということではなくて、あくまで一般論としてだが、たとえばこのコロナ禍である意味の解放を得た人もいるのではないだろうか。


▲『オンガクミンゾク Vol.05』2020.12.05/渡邊忍 (ASPARAGUS)/撮影◎瀬川ダイジュ


先日、しばらく連絡をとってなかったライターの阿刀君から突然TwitterのDMが来た。阿刀君はライターの他にフリーで宣伝制作もしていて、僕の4枚目のアルバム『epoch』のプロモーションをしてくれた人。YouTubeにアップされてるセゴリータ3世というYouTuberとのインタビュー『サカナクションになれなかった男フルカワユタカにDOPING PANDAの過去の真相を聞いてみた』というまるで僕がサカナクションになりたかったかのような(サカナクションの良し悪しは別として)誤解を招く失礼なタイトルの動画は、阿刀君の企画プロデュースによるものだ。そんな阿刀君から「フルカワ君は Clubhouseやらないの?」という内容のダイレクトメッセージが来た。

SNSは後乗りであればあるほど乗り切れなくなるのは、InstagramやTwitterでよく分かっている。僕はそもそもミュージシャンの割に承認欲求があまり強くなく、音楽以外の事で何かをアピールするのが好きじゃないので、TwitterもInstagramも相当後乗りだったし、始める時も頑張って重い腰を上げた感じだった。それでもやり始めはInstagramに2ショットを上げたり、Twitterに他愛もない呟きをしたりと、それらしい投稿をしていたが、リュックの中身を背伸びしながら見せるような使い方を段々とみすぼらしく感じて、今はほとんど告知ツールとなっているし、投稿に後から解釈づけされるのが嫌なので、基本コメント機能もオフにしている。そんな調子なので、「電話をみんなに聞いてもらう」という“とんでも”コンセプトなSNSが現れ、みんなが雪崩を打ったように参加しているという現象をどこか冷めた目で見ていたというか、他人事だったのだが、結論から言うとClubhouseのアカウントを僕は持っている。

阿刀君に誘われても、さほどやる気はなかったのだが、アプリの様子見だけしようとダウンロードし、電話番号の登録までしたら、英文で「スガさんが貴方をフロントラインに置きました (確かそんな文章だった)」というポップアップが現れたので、そこに貼ってあったリンクを流れのままに押したら、思いもよらず登録が完了してしまった。招待枠っていうのがこのSNSの“みそ”で、一人二つしか持ってないというのを知っていたので、これは絶対にスガちゃん(SUGA / dustbox)発信ではなく、何かの手違いだと思い、TwitterのDMで本人に確認したところ、やはりスガちゃんに僕を招待した認識はなかった。Clubhouseでは誰から招待されたか、誰を招待したかというのがプロフィールに表示され、それがある種のステータス要素でもあるらしい。僕的にはスガちゃんからの招待となってることは全然嬉しいけど、スガちゃんは招待する二人のうちの一人がここ最近仲良くなった程度の僕で良かったのかしら、とちょっと申し訳ない気持ちになった。本人からは「俺もよくわかんないし、全然大丈夫w!!」と了承してもらったが。

というわけで、流行り物には滅多に手をつけない僕にしては、異例の速さでClubhouseのアカウントを持っている。が、しばらくは開店休業が続くだろう。まずは人のトークを聴くところから始めるつもりだが、それだってどこで何を聞いてるかフォロワーに丸わかりだとか、トークルームで身バレしたら名指しで参加を促されるとか、新手のハラスメントが生まれそうな地獄システム満載で、阿刀君が「フルカワ君がやったら絶対面白いと思う」ってわざわざDMまでくれて勧めてくれて、その上、スガちゃんの大事な招待枠を一つ消費してしまってて、何かしらやらなきゃならんと内心モゾモゾはしてるけど、聞きに行くだけでもカロリー高めだなというのが、今現在の本音である。



▲『オンガクミンゾク Vol.06』2021.1.16 /撮影◎瀬川ダイジュ

話は変わって、先日酔っ払いながら『anthem』(DOPING PANDA / 2009年発表)というミニアルバムを、恐らく解散以来初めて聴いた。全国流通のCDとして僕がミックスまで手掛けたものは『anthem』とフルアルバム『YELLOW FUNK』(DOPING PANDA / 2011年発表)、それからソロで出したミニアルバム『I don’t wanna dance』(2015年発表)の三枚だけだが、この『anthem』が僕にとってのミックス処女作にあたる。ロンドンで買ったレコーディングの参考書を読みながら必死に録って、アマゾンで海外から取り寄せたミックスの参考書を読みながら夢中で混ぜた。ミックスはそれこそマスタリングの前日、音源をマスタリングスタジオに送る直前まで何度もやり直した。

ある時、急に今まで聞こえなかった音が聞こえるようになった気がした。ある時、物凄く画期的なミックス手順を思いついた気がした。ある時、洋楽の音の謎に気がついた気がした。その度に革命的成長を遂げた気になった。天才だと思った。だけど翌朝起きて、昨晩の戦果を眺める度にガッカリした。以前のミックスに比べて良くなっているどころか、悪くなっているとさえ感じることが度々あった。『YELLOW FUNK』を作っている時、中々思うようにミックスがいかず悩む中で、自分の成長を確かめたくて『anthem』を聴いた。が、むしろ退化していると感じて、ひどく落ち込んだのを覚えている。もしかするとあの時以来、『anthem』を聴いていなかったのかもしれない。

   ◆   ◆   ◆

I made a music you like
ずっと知らないフリをして壊れながら一人騒いでた
ここまではそう
だけどもう愛されたい
ちょっと愛されたいみたいだよ

   ◆   ◆   ◆

『anthem』のラストトラックに収録されている「music you like」のサビの一節だ。我ながらなんと美しい孤独だろう。愛おしくなる。歌詞だけではない、メロディーも、アレンジも、選んでいる楽器の音も、そりゃあミックスや演奏は下手だけれど、これはこの世界で僕にしかできないし、何より誰にも触らせないぞというプライドと覚悟が痛いほど伝わってくる。最近の僕は少々恵まれ過ぎているのかもしれない。


コロナ禍になるまでのここ数年は、ベボベ(Base Ball Bear)やLOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERSのサポート、コラボ曲シリーズと、本当に多くの人と出会い、関わる日々だった。色んな人達の価値観や哲学に触れ、音楽のみならず色々な影響を間違いなく受けた。最近の歌詞には前向きで共感性の高いものが増えたし、実際、僕自体そういうキャラクターである気がする。変わったわけではない。人というものはそんなに簡単に変われるものではない。昔、無理をして尖ったフリをしていたわけではないし、今、頑張って良い人ぶっているわけでもない。人間は社会の上で可能な限り影響し合って生きているというだけの話だ。

先月、キャリアで初めてデジタルシングルなるものを配信した。「BOY」という楽曲だが、レコーディングはエンジニアと行い、ミックスは僕がした。そういえば、歌詞はなんとなく昔の僕が書きそうな、思い込みとこじらせが混ざった愛の詩で、共感性も高くなく、まっすぐ前向きというわけでもない。書いたのは自粛入りたての去年3月だから、コロナの影響がいかほどあるかはわからないが、言われてみれば昔の僕の孤独感がどことなくあるような気もする。ミックスは僕らしくナチュラルで輪郭が大きく真っ直ぐな音だ。

長引くコロナ禍。ずっとこんなの変に決まってるし、長距離の車移動に不満を言いながら全国を旅して、打ち上げで翌日絶対に忘れる熱い話を、早くしたい。誰かに教わった音楽を聴いて新しい発見をしたいし、誰かに勧められて新しい楽器を買いたい。人の真似をしたっていいし、人に真似されたなら光栄だ。つまんないことのない人生はつまんないし、無駄のない人生こそ無駄だろう。自分の足元や背中は自分では見ることができない。間違った自分をたしなめてくれるのも知らない自分を見出してくれるのも、いつも仲間だ。

だけどちょっとだけ思ってしまう。無駄がなくつまらないルーティンの日々で、久々フルカワユタカを純粋培養している僕、に限らず色んな人の純度の高いドキュメンタリーに、この異常な世界でなければ出会えないのなら、自分本位で身勝手で不謹慎で申し訳ない考えだとはわかっているのだが、悪いことばかりではない気が、やはりするのだ。



■デジタルシングル「BOY」

2021年1月27日(水)配信リリース
https://lnk.to/BOY_

■有観客+生配信ライブ<フルカワユタカ×須藤寿「SEITANSAIⅤ」>/『オンガクミンゾク Vol.7』

2021年2月28日(日) 東京・吉祥寺スターパインズカフェ
・1st open14:00 / start14:45
・2nd open17:15 / start18:00
※第2部は20:00 公演完全終了予定
※第2部公演は有観客+生配信(『オンガクミンゾク』)での公演となります
▼公演チケット
4,400円(税込/1Drink別)
一般販売:2月6日(土)10時〜

■生配信『オンガクミンゾク Vol.7』
配信日程:2021年2月28日(日)
配信時間:open17:50 / start18:00
ゲスト:須藤寿(髭)
▼配信チケット
1,500円(税込)
配信プラットフォーム:Streaming+
https://eplus.jp/furukawayutaka-s/



▲『オンガクミンゾク Vol.06』2021.1.16 /撮影◎瀬川ダイジュ

■公式ファンコミュニティfanicon『星の降る町』入会ページ

キャリア初となる公式ファンコミュニティ「星の降る町」開設。ファンコミュニティでは、新曲がいち早く聴ける他、ここだけでしか観られない会員限定の生配信ライブ、ここだけでしか見られない呟きや、オンラインギタークリニックなど、ツアーと併せて楽しめる様々なコンテンツに挑戦していく。
■コンテンツ内容■
・ここだけでいち早く聴ける新曲
・ここだけでしか呟かない、本人による投稿
・ここだけでしか見られない生配信ミニライブを月1〜2回程度開催予定
・本人によるオンラインギタークリニック
etc.
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