【インタビュー】I.T.R、結成10年目の1stアルバム完成「テーマは聴きやすくてポップなツインベース」

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■オリジナル音源が完成したことによって
■より満足してもらえるライブになると思う

──お互いに刺激を与え合っているんですね。さらに、「We Love Henrik」にはダーティー・ループスのヘンリック・リンダー(B)が参加しています。

TAKA:僕はクリス・ペプラーさんとも仲良くさせてもらっているんですけど、いろんなミュージシャンを紹介してくださるんです。そういう中で、2年前くらいに紹介してくれたのがヘンリック君で、彼とはすごくウマが合うんですよ。日本好きなヘンリック君はコロナ禍になる前、しょっちゅう遊びに来ていて。来日するたびに僕が車を出して、いろんなところに連れて行ってあげたり。そういうフレンドシップから、コロナ前の去年1月、日野賢二さんと僕のセッションライブに参加してもらったんです。となると、日本が誇るIKUOさんにヘンリック君を会わせたいじゃないですか。それで、日野賢二さんも交えた4ベースでセッションしたんです、それも小さなライブで。

IKUO:あのセッションは本当に素晴らしかった。本当は去年6月、“I.T.Rにヘンリック君を混ぜた編成でライブをしよう”という話が決定していたんですが、コロナの影響でできなくなってしまったんですよね。

TAKA:白井君はダーティー・ループスの大ファンだし、ヘンリック君はT-SQUAREのライブに飛び入りしたこともあって坂東君とも知り合いで。みんなが一緒にライブできることをすごく楽しみにしていたんですけどね。そういう経緯もあったので、ヘンリック君に「今回のアルバムに1曲参加しない?」って誘ったら、二つ返事でOKしてくれて。彼は日本のフュージョンのポップな部分に免疫があるんですよ。だから、4つ打ちダンスグルーヴの上に、そういうポップなメロディーを乗せるというアプローチで作ったのが「We Love Henrik」。ソロパートが2回あって、まずヘンリック君と白井君が交互にソロを取って。その後、坂東君とヘンリック君が絡んで、IKUOさん、ヘンリック君、僕がベースソロをまわすという。一緒にライブができなかったことへの思いを、みんながこの曲に込めました。だから「We Love Henrik」というタイトルなんです(笑)。

IKUO:僕もヘンリック君は大好きなんですよ。人間性も合うし、そもそも僕はダーティー・ループスのファンですから、こんなに光栄なことはないですよね。今回はデータをやり取りする形でベースを録ってもらったんですけど、顔を見ながら演奏しているような仕上がりになっていると思う。


──洗練感とアッパーさが心地いい曲ですよね。あと、最後のほうで「蛍の光」を弾いているベーシストがいますよね?

IKUO:それもヘンリック君です(笑)。彼はシャレが効いているところがあるから。

TAKA:最高ですよね(笑)。去年1月に来日したとき、都心から少し離れた場所にあるハードオフに2人で行ったんです。着いた頃にはもう閉店間際で、「このベース、弾いていいですか?」と店員さんに聞いたら、すごく嫌な顔をされて(笑)。小さいアンプで試奏したんですけど、店内に閉店時間を告げる「蛍の光」が流れていて、彼はそれに合わせてずっとリリカルなソロを弾いて……もうめっちゃシュールだった(笑)。そのことをヘンリック君が覚えていたみたいで、「We Love Henrik」のトラックを送ってくれたとき、「最後にサプライズを入れておいたから」というメッセージが添えられてました(笑)。

IKUO:「蛍の光」のメロディーは、そのときに覚えたのかな?

TAKA:そうだと思う。ヘンリック君はすごいんですよ。T-SQUAREのライブに飛び入りで2曲弾いたときも、「T-SQUAREのメンバーは譜面を見ないで演奏しているから、僕も譜面を見るわけにはいかない」って、30分くらいで曲を覚えたんです。人としても、ミュージシャンとしても最高ですよね。僕は、ヘンリック君とIKUOさんのスラップのテクニックに共通するものを感じるんですよ。2人ともすごくスナップが効いていて、6連符の速弾き……ヘンリック君は11連符をやるんですけど、そういう考え方とか持っていき方に近いものがある気がするんですよね。

IKUO:近いものはあるかもしれないね。ただ、僕はどちらかというと左手のゴーストを使うタイプなんですけど、ヘンリック君は実音を鳴らしながら速く弾く。クリアで正確な音を出すタイプですよね。それに、彼は6弦ベースをすごくうまく使っているんですよ。

TAKA:IKUOさんのプレイもクリアで正確だけど、それを歪ませるんですよね。だから、根本的にはやっぱり似ている。


──その辺りも聴きどころといえますね。ちなみに「We Love Henrik」と「White Summer」は、ギターのカッティングのような音が鳴っていませんか?

IKUO:それはギターじゃなくて、僕がベースでシャカシャカッと爪でカッティングしているんです。ハイポジションで3音のコードを押さえながら、コード感とリズムを出すような。多弦ベースではなく普通の4弦ベースでもコードカッティングのニュアンスが出せるんです。エイブラハム・ラボリエルがそういうプレイをしていて、僕も採り入れました。

──それこそギターが必要ないプレイですね。では、「Aim for the Moon」で鳴っているアコースティックギターのようなアルペジオも?

TAKA:ベースです。これも4弦ベースで、しかもミュージックマンのスティングレイで弾いたものなんですよ。

IKUO:スティングレイだから、ああいう音なんだよね。

TAKA:なんともいえないクリアなミッドは、スティングレイならではのものなので、“ギターかな?”と思ってもらえたとしたら嬉しいです。

──ドラムレスのゆったりした雰囲気もカッコいい曲ですね。

TAKA:I.T.Rはライブで必ずこういう曲を演奏しているので、アルバムにも同じ系統の曲を入れたいと思っていたんです。ただ、“IKUOさん、このタイプの曲はどうなるのかな”って見えない部分もあったし、僕がバッキングでIKUOさんにメロディーを弾いてもらいたいと思っていたから、ますます完成形が予想できなかったんです。ところが、この素晴らしい仕上がりじゃないですか。僕が唯一誇れるのは、この手の曲をいい感じで弾けるということだったのに、IKUOさんはそこもイケるわけですから……イヤな感じ!と思いました(笑)。僕のソロパートではIKUOさんがバッキングなんですけど、いわゆるサンバのリズムの切り方も絶妙なんですよ。もともと僕は、バラード曲として作っていたので、ボトムはなんとなくいるくらいの感じでソロを弾いたんですよ。そうしたらIKUOさんがばっちりグルーヴしてくれたので、結局僕、全部弾き直しました(笑)。

IKUO:すみません(笑)。


──サンバやラテン調の心地いいグルーヴを聴かせつつ、IKUOさんはベースソロでスウィープピッキングを織り混ぜた速弾きをしてますよね?

IKUO:弾いていたら自然とスウィープが出てきて、それもいいなと。自分でもいいソロが弾けたなと思いますね。

TAKA:IKUOさんは、そういう新しさも提示してくれるんですよ。もう本当にイヤな感じですよね(笑)。

──いや、村田さんのベースも魅力的ですから、それぞれが水面下でバトルしながら影響を与え合っているわけですね。さて、アルバムリリースに伴ってライブもされるんですよね?

TAKA:ライブは嬉しいんですけど、音源をリリースする以上、もう前みたいにアドリブ的にはやれなくなった……というのがあって(笑)。IKUOさんが作った「Bass Hunter」「Red Latte」は本当にドキドキ。前はあんなに楽しくライブをしていたのに、音源再現度という意味で、しっかりがんばらないといけなくなった(笑)。とはいえ、エンターテイメントの部分をなくすつもりはないので、今までと同じように楽器をやらない人にも楽しんでもらえるステージにしたいですね。オリジナル音源が完成したことによって、より満足してもらえるライブになると思うので、期待してほしいです。

IKUO:コロナ禍でのライブですから、まずお客さんにとっては来場することから大変でしょうし、来られる方々には本当に楽しんでほしいという気持ちがありますね。“ツインベースユニット”という言葉から受けるイメージとは全く違った華やかなステージをお見せする自信があるので、ベーシストにも観てほしいです。

──えっ? ベーシストのお客さんのほうが多いのでは?

IKUO:いや、意外とライブに来るお客さんはベーシストではないんですよ。

TAKA:ベーシストはほとんどいない(笑)。

IKUO:それはI.T.Rが音源を出していなかったから、ということもあるかもしれないと思っているんです。だって、どんな楽曲をプレイするのか想像つかなかったわけでしょ(笑)。『Bass Life Goes On』を聴いて、ベースを弾く人たちが“ライブに行ってみたい”って興味を持ってくれたら嬉しいですよね。ですから、まずはアルバムを聴いてほしいです。

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