【コラム】風に乗るように追求していく、adieuの表現の可能性

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adieuの音楽や歌声に触れたときの感覚は、眠りに入る前の、おもむろに目を閉じる瞬間と似ている。夢と言うには能動的で、現実と言うには自由で曖昧な空気感。目の前が暗闇に包まれると同時に、様々な景色や記憶、色、感情が浮かび上がってくるような、内省的なのにどこまでも遠くへと漂っていくような…時間という概念を超えた世界へと誘ってくれる。


女優・上白石萌歌によるアーティスト活動/クリエイティブコンソーシアム・adieu。思い返してみれば、女優としてキャリアを重ねてきた彼女の存在が、より強く世の中に印象づいたきっかけは“歌”だった。2016年末に放送されたKIRIN『午後の紅茶』のCMで、山並みをバックにした駅のホームで「やさしい気持ち」を歌う彼女の姿と声に、魅せられた人は多かっただろう。その後女優としての注目を高めるいっぽう、2017年には素性を隠したうえでadieuとして1stシングル『ナラタージュ』でアーティスト活動を開始。2年の時を経た2019年、自身がadieuであることをSNSで発信した。


つまり彼女にとって、音楽活動は女優業の手が空いたタイミングで受動的に行う大々的なものではなく、上白石萌歌というひとりの表現者を構成する重要な活動のひとつであり、彼女にとって非常にナチュラルなものであるということだ。2019年11月リリースのミニアルバム『adieu 1』収録の「よるのあと」の反響が大きくなっていった理由は多々あれど、そのスタンスが歌声から伝わったことも影響していると推測する。


それをより説得力高く立証するのが約1年7ヶ月ぶりの新作『adieu 2』。繊細な浮遊感を纏いながらも、しなやかで凛とした風格も併せ持つ歌声は、過去と比較してもより情緒豊かな響きを醸している。それが実現しているのは純粋な少女から、様々な経験を経て大人へと成熟していく過程と直結していることはもちろん、音楽へ対する敬意と愛情がさらに熱を帯びているからではないだろうか。

adieuとしてのキャリアが堆くなるのと比例して、adieuの理解者も増えている。今作には前作『adieu 1』でタッグを組んだYaffleと小袋成彬、FINLANDSの塩入冬湖に加え、2の古舘佑太郎、adieuが大ファンで親交のあるシンガーソングライター・カネコアヤノ、adieu初ライヴ<adieu secret show case [unveiling]>のゲストギタリストである君島大空がクリエイターとして参加。それぞれが個性を生かしながら、adieuの声の魅力と新たな可能性を引き出すべく真摯に向き合った楽曲制作をしている。

君島大空の提供曲「春の羅針」はピアノとプログラミング音で構成されたスローナンバー。歌詞に描かれた世界を忠実に音へと落とし込む彼の手法は、adieuの歌唱との親和性も高い。彼女は歌詞の世界にじっくりと潜り、そのなかで言葉とメロディをやわらかく掴むように歌へと昇華していく。「よるのあと」の《あなたが嘘をつかなくても/生きていけますようにと/何回も何千回も 願っている》という歌詞が多くの人々の心に染みていったのと同じように、「春の羅針」も《霧の中に星を繋ぐ》や《花の香りよ 今だけ 針を止めて》など一言一句が情景や心情を浮かび上がらせていくのだ。その瞬間に流れる空気、湧き上がる心の揺らぎを大仰にせず、ただ粛々と丁寧に歌にする。ゆえに楽曲に不純物をもたらすことがない。


古舘祐太郎提供のバラード「愛って」には《君がいる ただそれだけで/僕は強くなれたんだ》や《これから2人で/小さな愛情を重ねよう》など、彼女の歌唱スタンスとリンクした哲学が綴られる。シンプルなサウンドスケープに要所要所でストリングスを用いるYaffleの編曲も、ちっぽけだからこそ美しく浮かび上がる愛情を体現するようだ。この矛盾のなさも、adieuの音楽の心地よさともつながっている。

そして矛盾がない表現に不可欠なのは、筋を通せる芯の強さ。そこにフォーカスされたのがカネコアヤノ節の効いたアコースティックなポップソング「天使」と、緩急のあるバンドサウンドで構成されたシリアスなムード漂う「シンクロナイズ」だ。サウンドとシンクロするように麗らかで時折陰を覗かせるヴォーカルの前者と、サウンドに振り回されることなくadieuとしてのスタンスを保つ後者は、趣向は違えども彼女の逞しさとしなやかさを感じることができる。結果、楽曲の主人公の心情が奥行きを伴って我々の元まで届くのだ。


気品高く穏やかでありながら、どこか欠落した印象を与えるサウンドスケープに、恋の後悔にも近い念や寂寥感が切々と綴られた「ダリア」も、adieuの歌唱の本質を味わえる楽曲。彼女は主人公の心のなかに複雑に入り組んだ晴れない気持ちを表現しながらも、その主人公を月明かりのように照らし、後悔も悲しみもすべて愛という場所に着地させてしまう。彼女が持つ視野の広さが、表現にも表れているということだろう。時にはこちらの肩に止まりさえずり、時には高い空からこちらを見守る、小さい鳥のような奔放さ。聴き手を呪縛から解き放つ煌めきが、adieuの歌と音楽には存在する。

名のとおり、手を伸ばした瞬間に笑顔のまま消えてしまいそうな神秘性。目まぐるしい時代の潮流から解き放たれたような幻想性。自分なりの飛び方で現代を生きるadieuは、今後も風に乗るように、その表現の可能性を追求していくだろう。

文◎沖さやこ


adieu 2nd mini album『adieu 2』

2021年6月30日(水)発売
●LIMITED EDITION(CD+DVD) SRCL-11824~11825 ¥3,900
※紙ジャケット仕様/Photo Book
1.春の羅針
2.愛って
3.天使
4.シンクロナイズ
5.ダリア
DVD
「adieu-強がり」[from secret show case [unveiling]/2019 ]
「adieu-ナラタージュ」[from secret show case [unveiling]/2019 ]
「adieu-よるのあと」[from secret show case [unveiling]/2019 ]
「春の羅針」MUSIC VIDEO
「愛って」MUSIC VIDEO
「天使」MUSIC VIDEO
[Making of adieu2]
●NORMAL EDITION(CD ONLY) SRCL-11826 価格:¥2,500
1.春の羅針
2.愛って
3.天使
4.シンクロナイズ
5.ダリア
6.よるのあと - From THE FIRST TAKE※BonusTrack
7.愛って- From THE FIRST TAKE※BonusTrack
◆試聴/購入

◆adieuオフィシャルサイト
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