【ライブレポート】生憎の雨。、アイドル×劇団×V系が混ざり合う主催ライブ開催「音楽が1番の精神薬だよな?」

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R指定のマモ(Vo)が“魔喪”として始動したプロジェクト「生憎の雨。」が、8月29日に東京・新宿BLAZEにて初主催イベント<眠剤パァティ。>を開催した。

◆OP・EDセッション画像(6枚)
◆みんなのこどもちゃん ライブ画像(9枚)
◆虚飾集団廻天百眼 ライブ画像(7枚)
◆生憎の雨。 ライブ画像(8枚)



驚くべきことに、イベントの始まりは、出演者全員がそろってのオープニングセッションからだった。生憎の雨。の楽曲「眠剤」のミュージックビデオ出演がきっかけとなって開催された本イベント。生憎の雨。のボーカル・魔喪の「眠剤パァティ。始めます。」という言葉と共に、ライヴは本編へと移行した。


イベントのトップバッターを飾ったのは、あちこちが破損して壊れた心臓の形をしている“壁”を背負った異色のアイドル、みんなのこどもちゃん。アイドルといえば、まぶしい笑顔と元気な挨拶が特徴といってもいいだろう。ところが、みんなのこどもちゃんが考えるアイドル像は、極めて異端だ。


ボーカルのしなもんは、他者との接触を遮断するかのように厚い壁を背負ってステージ上に登場した。その姿は他のアイドルが醸し出すキラキラとした空気感とは圧倒的に違う。救いようのない世界に嫌気がさしたかのような眼差しで客席をのぞき込む、しなもん。ローの効いた演奏につられて歌い出した「壁」は、見事なまでにみんなのこどもちゃんの全体像を表していたように感じられた。なぜ、壁を背負ってステージに立つのか、その理由がこの1曲で理解できる。だからこそ、最初に持ってきたことは良かったと思うし、イベントだからといって他の出演者のファンに媚びない姿勢に好感が持てた。


また、昨年のコロナ禍でのライヴ自粛期間を経て発表された新曲「わたしの存在が嘘にならないように」では、粛々と始まる冒頭部分とは対照的に、駆けのぼるように盛り上がりを見せていくロック調のスタイルが目を引く。ここでも「壁」と同じように内向的な言葉が綴られているが、同曲を歌い進めていくしなもんは力強く、背負っている壁を溶かすかのような熱いパフォーマンスを見せてくれた。


「ありがとうございます」と少しハニカミながら始まったMCは等身大の女の子そのままであり、ちゃんと前を見据えているところに安堵した。「少女A」は、しなもんを取り囲むバンドメンバーの演奏力が光っていた。静と動をきっちりと使い分けたサウンドは聴く者をうならせる。彼らが土台をしっかりと築いているからこそ、しなもんの繊細な歌声を支えられているのではないだろうか。


妥協のないステージングで展開していったライヴは、「不香の花」で締めくくられた。客席から起こる手拍子に嬉しそうな表情をのぞかせる、しなもん。「ありがとうございました。みんなのこどもちゃんでした!」と高らかに叫んでステージを去っていく彼女の後ろ姿は、実に堂々としていた。


続いて登場した虚飾集団廻天百眼。彼らのジャンルは、劇団。トップバッターが異色のアイドルとくれば、こちらも普通の劇団ではないことはご理解いただけるはずだ。“美しく、激しく、狂おしく”をテーマに掲げ、“この世とあの世の境界劇”を演じる劇団とだけあって、虚飾集団廻天百眼のステージは一筋縄ではいかない。


そうはいっても、“この世とあの世の境界劇”とは、何のことやら、さっぱりだろう。私なりに虚飾集団廻天百眼を解釈すると、『不思議の国のアリス』の白ウサギを追いかけていって不思議の国に迷い込み、そこで様々なキャラクターと出会いながらその世界を冒険したような感じだと表現すればいいだろうか。大雑把な説明かもしれないが、それほどまでに、虚飾集団廻天百眼が繰り広げる物語は、事が進めば進むほど、どんどん奇妙なことに巻き込まれていく。


奇想天外なストーリーを俯瞰的に見つめる怖いもの知らずの観客たち。これは夢なのか現実なのか、想像力をフルに回転させながらステージを食い入るように見つめる。センターへの登場回数が多い紅日毬子の存在感に圧倒されながら、他のメンバーの動きからも目が離せない。登場人物が多いだけに、曲によっては前列と後列に分かれてパフォーマンスが繰り広げられるわけだが、各々が個性的すぎて、良い意味でどこに焦点をあてて観ればいいのか分からなくなる。だが、そこまで個性的でありながら、ここまでの一体感が出せるのだから、虚飾集団廻天百眼は本当に恐ろしい。


この日、とりわけ良かった楽曲といえば、私は「箱船」と「幻想国家プラトニア」と「冥婚行進曲」を挙げたい。驚くほどポップな曲調で迫りくる「幻想国家プラトニア」は、曲の中盤で入ってくる台詞「ケーキはいかが?」のところを「眠剤はいかが?」に変えてくるなど、イベントのタイトル<眠剤パァティ。>に掛けたようで、とても凝った作りになっていた。


そして最後は、曲に合わせて演者の紹介を展開していくという、まさに舞台劇そのものを見せてくれた。観客だけでなく、関係者にもファンの多い、虚飾集団廻天百眼。それはきっと、その時にしか出会えないステージを見せてくれるからだろう。機会があれば、是非、その目で見てほしい。100回の舞台があれば、100通りある虚飾集団廻天百眼の魅力が味わえるはずだから。


皆のお待ちかね、イベントのトリを飾ったのは、生憎の雨。だ。先に説明すると、生憎の雨。とは、現在凍結中のヴィジュアル系バンド・R指定のマモ(Vo)が、“魔喪”として、音楽活動を再開したというわけである。とはいえ、活動を始めたのは2020年の秋のこと。さらに、コロナ禍という状況もあって、まだ生でライヴを観たことのない人が圧倒的に多いと思う。

とりあえず言えることは、マモだろうが、魔喪だろうが、彼の音楽スタンスは変わっていない。ただ、ボーカル、ギター、ベース、ドラムという編成で奏でる音楽をバンドスタイルと位置付けるのならば、R指定は間違いなくバンドだ。しかし、生憎の雨。は一味違う。なぜなら、魔喪と、生憎の雨。公式キャラクター・雨見社が中心メンバーであり、サポートメンバーとして、旧知の仲であるYo-shiTがキーボード兼コーラス、他ミュージシャンのサポートとしても有名な優一がドラムを担当している。


この編成を見る限り、人によっては、これはちょっとバンドスタイルとは違うんじゃないのと言うかもしれない。そのとおりで、生憎の雨。が得意とするのは、デジタルサウンドだ。それだけに、ヴィジュアル系の音楽を聴き慣れてきたファンからすると、馴染みが薄い楽曲がそろっている。しかし、これもまた、魔喪の考える1つのバンドスタイルなのだと思う。

この日、1曲目に持ってきた「嘔吐」は、どこからどう聴いてもダンスミュージックなのだが、R指定の時から目新しいことを楽曲に盛り込んできただけあって、個人的にはこの楽曲も違和感なく聴くことができた。そう思えたのは、彼の音楽に対する芯がブレていないからだろう。バンドが凍結という名の活動休止をしている際、魔喪はフラストレーションを抱えていたのではないだろうか。でも、色々な想いを抱えたところで、彼にとってのストレス解消法は音楽しかない。音楽で苦しんだとしても、結局、それを癒してくれるのはいつも音楽だったのだから。


「嘔吐」を歌っている時の魔喪はとても活き活きとしていて、ステージ上で「跳ぼうか、新宿歌舞伎町!」と声高に叫んだ様子は、まるで水を得た魚のようだった。それを見て、ファンも歓声は挙げられないものの、マスク越しでも分かるぐらいに嬉しそうな顔をしていた。ラップパートが印象的な「草草草」では、「新宿歌舞伎町、キメてますか? キマッてますか?」と物騒な煽りを始める。

そうやって攻めた態度でライヴを進ませるのかと思いきや、「インスタ映えない」といったバラード曲で中盤を盛り上げるところは、さすが盛り上げ方を熟知しているというか、ライヴ慣れしているといえよう。それにしても、普通なら愛や恋を取り扱うことが多いはずのバラード曲なのに、魔喪の手にかかると頭のサビ部分から“インスタ映えない”という、およそバラード曲には似つかわしくない言葉でグッと観客の心を惹きつける。1ワードで曲の世界観に引き込むあたり、センスだなと思う。


計算してやっているというより、独特の感性が働くのか、魔喪はトレンドを作るのがうまい。だから、普通ならこうするだろうという予想をいともたやすく覆してくれるし、それをファンも期待しているはずだ。この日も今までに見せてきた衣装とは違って、だいぶラフな格好でのライヴとなったのだが、それがまた楽曲を引き立てていた。

「はい、どうもこんばんは。今日は、生憎の雨。初主催イベント<眠剤パァティ。>でございます。拍手しかできないんで、盛大な拍手下さい! 今日は、アイドル×劇団×V系ということで、僕らはV系の生憎の雨。です。多分、初めましての人も多いので、よろしくお願いします。みんなのこどもちゃんさんと、虚飾集団廻天百眼。の皆さんは、うちのミュージックビデオ「眠剤」に出演して下さっているとうことで、こんなイベントやったらどうかなということで開いてみました。」と、イベントの趣旨を語る魔喪。


さらに「みんなのこどもちゃんさんのファンの人のことは、オタクって言っちゃっていいのかな? オタクの方とか劇団ファンの方とか、こういう気持ち悪いお客さん(自分のファンを目で追いながら)を見る機会もないかと思うんで、この気持ち悪いお客さんを目に焼き付けて帰ってくれたらなと思います! ねぇ、こんなご時世ですけど、新宿歌舞伎町っていう、日本一治安の悪い街によく来てくれたなと思います。だから、終わったらすぐ帰って下さい。すぐよ、もう。危ないからね。歌舞伎町なめとったらあかんよ。…でも、お前らなら勝てそうだね。てか、そもそも、お前らに話しかける奴いねぇか!」と、平気で悪態をつく。

もはやお馴染みとなった口の悪さを久々に聞けたからか、生憎の雨。のファン一同が微笑ましくステージを眺めているあたり、魔喪よりファンの方が一枚上手かもしれないと思ってしまった。「アイドルは好きかー! 劇団は好きかー! 確かに、アイドルも劇団も素晴らしいけど、お前らバンドマンは好きかー! 拍手で応えろ、バンドマンは好きかー!」と、ひとしきり煽ったあとは、「わたしの彼はバンドマン」を披露。冒頭のピコピコとしたサウンドが耳に残るノリの良い楽曲だ。


そのあとには「不純異性交遊」と「ねぇ、先生?」が続く。曲の途中には「俺たちはいつだって音楽に救われてきたよな? 音楽が1番の薬だったよな? 音楽が1番の精神薬だよな? 最後まで楽しんでくれ」と魔喪は言う。曲が終わると、さらに声を張り上げて、「音楽最高! ライヴ最高! 東京、ラストいけるか。声なんて出せなくてもライヴできんだろ! いいか、心で叫べ!」と叫んだ。

ラストに持ってきた「404 NOT FOUND」は、「やればできんじゃねぇか!」という言葉どおり、客席にいた誰もが心から楽曲を楽しんでいた。「お前ら、最高。集まってくれてありがとうな!」これでライヴは終わったかと思われた。だが、「まさか、これで終わると思ってないでしょう。呼ぶよ!」という魔喪の掛け声から、今日の出演者が再度ステージ上に集められる。


しかし、全員集まった割には誰も率先して締めくくることができず、3組ともどれだけ恥ずかしがりなの……という状態をファンに露呈してしまうという面白さもあった。こうしたやり取りがありながら、最後は無事に全員で「眠剤」を披露してイベントは締めくくられた。



アイドル×劇団×V系という、特殊な集合体で開催された今回のイベント「眠剤パァティ。」きっかけは、生憎の雨。のミュージックビデオ出演ということだったが、こうした素敵な掛け合わせが見られるのなら、何度でもやってほしいと切に願う。

取材・文◎水谷エリ
写真◎菅沼 剛弘


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