【ライブレポート】尾崎亜美、45周年で届けた歌のスペシャルメニュー。観客を前に「感動で胸がいっぱいです」

ポスト

デビュー45周年のアニヴァーサリーアルバム『Bon appetit』をリリースしたばかりの尾崎亜美が、9月18日に東京・六本木のEX THEATRER ROPPONGIで<45th Anniversary Concert〜Bon appetit〜>を開催した。当日の詳細レポートをお届けしよう。

◆尾崎亜美 ライブ写真

サポートするのは“レジェンド”と彼女に紹介されたメンバーを含む面々。林立夫(Dr.)、小原礼(B.)、鈴木茂(G.)、是永巧一(G.)、斎藤有太(Key.)、Aisa(Chor.&G.)と日本のロック、ポップスを語る上で欠かせない素晴らしい顔ぶれで、尾崎亜美のデビュー時にプロデューサーとして参加し。最新アルバムでもアコーディオンを弾いている松任谷正隆もゲストミュージシャンとして登場。“召し上がれ”というタイトル通り、美味しい音楽で心を満たしてくれた特別な夜となった。

台風の影響もあり、傘が手放せない日となった当日は尾崎亜美のライブを心待ちにしていた多くの人たちが会場に駆けつけた。


バンドのメンバーが定位置につき、真っ白な帽子と衣装に身を包んだ尾崎亜美が登場すると会場から温かい拍手。さりげなくピアノを弾き始め、歌い出したのはセルフカバー「私がいる」で途中からバンドがインする構成。TOTOのメンバーやデヴィッド・フォスターが参加した1980年代のナンバー「Angela」から「純情」へと移行する流れでは客席がハンドクラップ。色褪せないメロディの楽曲たちが会場をグルーヴさせていく。

「ありがとう! 夢みたい! 本当に嬉しいです。どうなることやらとギリギリまで心配して、夢の中や頭の中で何回、このコンサートを繰り返したかしれません。実際、こうやって幕が開いてみなさんがたくさん来てくださっていて、感動で胸がいっぱいです」(尾崎亜美)

その言葉のとおり、高揚感のある歌を届けられる。MCではアルバムが発売されたばかりだということもあり、FCの方々からリクエストを募ってセットリストを組んだと話し、バンドのメンバーを紹介したのだが、トークが彼女らしくユーモアたっぷり。レジェンドの括りで紹介されたのは鈴木茂(レジェンド1)、林立夫(レジェンド2)、小原礼(レジェンド3)で、伴侶でもある小原礼は「公私ともにサポートしていただいています。悪口なんか言えるはずもありません」と紹介され、「もうちょっとでレジェンド。この中ではまぁまぁ若輩です」と言われたのは是永巧一。奥田民生など多くのビッグミュージシャンのサポートを務めるキーボーディスト、斎藤有太には「男子の中でいちばん若い。念願かなって再度参加してもらうことができて幸せです」とコメント。矢野顕子からプレゼントされた衣装を着ているというAisaは才能溢れるミュージシャンと紹介された。

『Bon appetit』の中から観月ありさに提供した曲のセルフカバー「Jewel」を披露し、グランドピアノに向かうとスペシャルゲストを呼びこんだ。

「さて、ホントにお待ちかねの方がたくさんいらっしゃると思います。私がデビューして初期の頃のプロデュースをしていただいた。この方がいらしたから重い重い音楽の扉をうーんって開けることができたんだなと思って感謝しています。実はステージで合奏するのは初めてのことなので、心臓が飛び出しそうなぐらいに興奮しています。師匠と勝手に呼ばせていただいている松任谷正隆さんをお呼びしたいと思います。そうだ! レジェンド4!」(尾崎亜美)

レジェンド4と紹介された松任谷は「喜んでいいのかな」と笑顔。デビューシングル「冥想」(林立夫も参加)制作時に尾崎のデモテープに松任谷がアレンジを加えたことをピアノで実演し、そこにさらに林が新たなフレーズを入れることを提案したという貴重なエピソードが明かされるものの林も松任谷も当時の記憶が曖昧だということが判明し、場内はなごやかな雰囲気に。

奏でられた「冥想」の松任谷と尾崎の鍵盤のソロや、鈴木のギターの掛け合いも盛り込まれたスペシャルヴァージョンは贅沢そのものだった。続けて届けられたのは1977年に大ヒットを記録した「マイ・ピュア・レディ」。松任谷のソロと鈴木茂の甘美なギターソロが曲を彩っていく。40年以上たって、ステージでこんな光景が繰り広げられるとはファンはもちろん、尾崎亜美自身も想像していなかったのではないだろうか。


尾崎亜美はいったんステージから離れ、ライブの途中に挟み込まれたのは10月27日にアルバム『SKYE』でCDデビューを飾るゲストバンド、SKYE(鈴木茂、小原礼、林立夫、松任谷正隆)によるスペシャルステージだ。「もうすぐ古希を迎えるのに新人バンドとしてデビューする」と尾崎に言われたSKYE(松任谷以外の3人が高校生の時に結成したバンド)。松任谷も初めて尾崎に会った時の印象を「すごい新人がいると言われて会ったけど、話をしても全く通じない。僕のその時の印象は宇宙人だと思った。この人、将来、月とか金星とかに行くんじゃないだろうか。少なくとも普通の結婚とかありえないよなって。そしたら小原くんと結婚したんですけど」と語り、当時の小原礼が尖っていてザ・ミュージシャンという感じだったとエピソードを暴露。集まった人たちのマスクの下を笑顔にさせ、先行配信されているナンバー「dear M」と「ISOLATION」を披露した。ひとつひとつの音が立っていて、肩の力が抜けているロックンロールは大御所揃いなのにやんちゃさを忘れていないのが素晴らしく、小原がコロナ禍を憂いて作ったというブギー「ISOLATION」は“窓は開けといて”という歌詞もウイットが効いていて、これもまた特別な時間となった。


尾崎が前半とはうってかわって黒の衣装でひとりピアノの前に座って、母が他界し、一時は音楽の迷子になっていたこと、愛おしくて愛おしくて仕方がないアルバムでいちばん最初にできた曲と語りかけた後に弾き語りで披露された「メッセージ 〜It’s always in me〜」は“星になんかならなくていい もっと近くにいて”と歌う沁みてくるバラード。エモーショナルなヴォーカルと繊細なピアノで会場を釘付けにした。そして「今から歌う曲は根性がいるので、なかなか歌ってなかったんですが、いちばんリクエストが多かった曲なので歌うことにしました」と曲名を告げると拍手が沸き起こり、「蒼夜曲」では熱量と切なさが届いてくる歌と演奏を響かせた。

次はリクエストがなかった曲。「きっと、あえて書かなくてもって思ったのかな?」と笑い、杏里に提供した大ヒット曲「オリビアを聴きながら」を小原礼と2人だけのスペシャルヴァージョンで披露。めくるめく展開、ひとつひとつがアニヴァーサリーにふさわしい。


そしてバンドのメンバーが再びステージに揃い、後半は『Bon appetit』からの曲をたて続けに演奏。澄んだ空気を運んでくるような「I'm singing a song」、ハンドクラップで盛り上がったソウルフルでポップでキラキラした「To Shining Shining Days」、“レジェンド4”こと松任谷正隆がアコーディオンを持って登場し、披露されたコロナ禍のオシャレなファイティングソング「フード ウォーリアー」、誹謗中傷が渦巻く世の中に怒っていた時に作った「Barrier」(是永がスタジオにあったマーシャルのアンプをどうしても使いたかったというエピソードも披露)では集まったファンの心を解き放った。

この日、ライブが実現したことについて何度も「嬉しい」と感謝の言葉を伝えていた尾崎亜美。その年齢を超越したしなやかな感性とキュートな存在感、しっとりしたバラードからハードなナンバーまで鍵盤を自由自在に操りながら歌う姿を見ていると松任谷正隆がデビュー当時のことを「宇宙人」と表現した理由がなんとなくわかるような気がした。


『Bon appetit』からの最後の曲は「これからも歌い続けたいと思う曲のひとつになりました」と伝えたのんに提供した曲のセルフカバーであり、1曲目の「メッセージ 〜It’s always in me〜」からの物語を紡ぐ曲「スケッチブック」。

「グルメ天国」ではコロナ前のライブでみんなが歌ってくれたことに触れ、「声出せないけれど、私、絶対、聴くから」と歌い、松田聖子に提供したことでおなじみの「天使のウィンク」。本編ラストは温かさと切なさが混ざりあい、煮込まれたような「スープ」で締められた。

力強いアンコールの拍手に応えて「こんな大変な状況の中、すごく勇気を持って参加してくださったんだと思います。次に会う時はまた大声を出せないかもしれないけれど、徐々にいい状況になることを心から待っています。みなさんも待っていてね」とメッセージし、届けたのは今の世の中ともリンクするナンバー「待っていてね」。そして、もう1度、松任谷正隆を迎え、「飛沫以外のもので発散してください。受け止めますから」と最後は優しく包みこむような「Smile」。途中で手を振っていたファンを見て「いいアイディア!」と反応し、客席が手を揺らす光景が広がった。

味つけも色合いもスペシャルメニューすぎた尾崎亜美のフルコースコンサート。次に会える日をみんな、心から願っていたに違いない。

取材・文◎山本弘子
撮影◎堀 清英

セットリスト<45th Anniversary Concert〜Bon appetit〜>

2021年9月18日東京・EX THEATRER ROPPONGI1. 私がいる
2. Angela〜純情
3. Jewel
4. 冥想
5. マイ・ピュア・レディ
6. Dear M(SKYE)
7. ISOLATION(SKYE)
8. メッセージ 〜It’s always in me〜
9. 蒼夜曲
10.オリビアを聴きながら
11. I'm singing a song
12. To Shining Shining Days
13. フード ウォーリアー
14. Barrier
15. スケッチブック
16. グルメ天国
17. 天使のウィンク
18. スープ
En-1. 待っていてね
En-2. Smile


デビュー45周年記念アルバム『Bon appetit』

2021年9月15日(水)発売
CRCP-20577 ¥4,500(税込)

<CD>
1. メッセージ 〜It's always in me〜
2. I’m singing a song  ※江原啓之
3. Jewel  ※観月ありさ
4. フード ウォーリアー
5. Barrier
6. 月を見つめて哭いた  ※広瀬倫子
7. 境界線を引いたのは僕だ  ※宇都宮隆
8. 潮騒  ※藤田恵美
9. To Shining Shining Days  ※chay
10. スケッチブック  ※のん
【Bonus Track】
11. 明和の風 吹きぬける時(東京都中野区立明和中学校 校歌)

※印:オリジナル楽曲提供アーティスト

<DVD>
01. VOICE
02. 純情
03. 手をつないでいて
04. オリビアを聴きながら
05. スープ
06. Smile

尾崎亜美コンサート2020
Live at EX THEATER ROPPONGI (2020.9.12)


この記事をポスト

この記事の関連情報