【ライブレポート】VALSHE、<ISM>に込めた覚悟と決意「諦めたくないもの、譲っちゃいけないもの」

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こんなVALSHEは今まで見たことがなかった。2021年末にリリースした6thミニアルバム『ISM』を掲げ、大阪、東京で開催した<VALSHE LIVE 2022「ISM」>が渋谷duo MUSIC EXCHANGEでファイナル公演を迎えた。

◆VALSHE 画像

2公演とも配信なしの有観客ライブ。「生でしか感じられないものを音楽を通して持ち帰ってほしかった」とMCで伝えていたが、想定外に長引くコロナ禍の中、VALSHEが本気の覚悟と情熱を持ってステージに立ったことが真っ直ぐに伝わってくるアクトは、集まったファンの胸を揺さぶるものだった。ドラム、ベース、キーボード、ギターという久しぶりのバンド編成でのライブだったことも、ヴォーカリストでありパフォーマーでもあるVALSHEの心に火を点けたのかもしれない。全開/全力で声を出せないフロアを笑顔にさせ、涙させた2時間半は足を運んだ人たちの記憶に深く刻まれたものになったはずだ。活動12年目を迎えたVALSHEのリアルがそこにはあった。



自身の“主義、主張”をテーマにした『ISM』はデジタルロックをベースに活動してきたVALSHEが今まで以上に変化に富んだジャンルの楽曲に挑戦し、その独自性を浮き彫りにした作品に仕上がった。ライブは『ISM』収録曲を軸に据えたセットリスト。オープニングSEにVALSHEの心の動きや頭の中の変化を落とし込んだというタイトル曲のインストが流れる中、ステージに黒と金を基調にしたナポレオン風ジャケット衣装で登場した。

オープニングはアルバムリード曲「GIFT」だ。ハンドクラップの中、ダンスを混じえながらエネルギッシュなヴォーカルを響かせるVALSHE。攻めに振り切った前半の4曲ですでに釘付け。強烈なシャウトで幕を開けた「アンプレイアブル」ではモニターに足をかけ、腕を掲げ、上手下手へと動いてフロアを挑発し、生のバンドサウンドを軸に鳴らされる曲たちの臨場感もあいまって、その熱量は半端ない。ソウルフルでロックなヴォーカルで圧倒した「DOPE」、モニターの上に立ってハンドクラップして始まった通算100曲目の節目のナンバー「SYM-BOLIC XXX」とアッパーな曲たちが連続投下された。


MCは挨拶から。2月6日に大阪公演が無事終了したことを報告し、言葉を続けた。

「昨年末に『ISM』というアルバムを出させていただいて、VALSHEのいろいろな主義、主張を各作品ごとに込めて歌ってきました。それをタイトルにしたライブでは音楽でもっともっと深いところまで潜ってみなさんに体感していただこうと思っています。ライブって基本的にとても楽しいものです。そうでしょ? ステージとフロアは合わせ鏡だとVALSHEは思っています。期待してるよ! 最後までやり切る覚悟できてる?」──VALSHE

盛大な拍手の中、次にVALSHEがいざなったのはファンタジーワールド。デビューアルバム『storyteller』(2010年)の収録曲で、東京公演限定の「NEVERLAND」では前半の男前なVALSHEからガラリとシフトチェンジ。舞台経験で培った演劇的なパフォーマンスが取り入れられ、グッズのペンライトを振るファンに「クラップゲームで遊びませんか?」と問いかけ、声が出せない代わりにリズムでのコール&レスポンス。そこからの“仲間”をテーマにした「シープランド」はフレンチエレクトロポップ。キュートな声で歌うVALSHEの振り幅の大きさに改めて驚かされる。


その引き出しの多さに驚くのはまだ早いと思わされたのがブラックにグリーンを組み合わせたヒップホップテイストの衣装に着替えたVALSHEがセクシーなパフォーマンスでファンをドキドキさせた「Lingerie」だった。K-POPのエッセンスを取り入れた同曲は『ISM』の中で最も新しいVALSHEを感じさせるナンバーだ。ヴォーカルスタイルもマイクスタンドを操る仕草も艶っぽく、12年目でまた新しい扉を開いたことを感じさせてくれた。

初期のナンバー「Shifty Cat」を挟み、これもVALSHEの引き出しのひとつである和の世界を取り入れた最新アルバム収録曲「浪漫主義」へ。次々に変わる楽曲の色合いを楽しむセクションの最後に歌われたのはシンガーソングライターの焚吐が書き下ろした「空腹」。焦燥感と切なさと衝動と希望がごちゃ混ぜになったリリックが刺さりまくる同曲は後半に進むにつれて激しさを増し、息を呑むほどの迫力。VALSHEの吐息で終わるエンディングが余韻を残した。



10曲目を歌い終わったところで我に返ったように「もう衣装着替えてる。ライブの体感が早い」とファンやメンバーに問いかけ、配信を入れなかったことについて言及した。

「みなさん、もう感じてくださっていると思いますけど、生でしか感じられないものを、今日は音楽を通して持って帰ってほしかったんです。もちろん、配信でもいいんですよ。でも、生でしか得られないもの、感動できないものってあると思っていて、それを受け取ってほしくて、こんなご時世ですけど、開催することに決めました」──VALSHE


VALSHEの想いは歌からもMCからも溢れ出していた。エンターティナーとしても秀でているアーティストだが、心の中まで躊躇なく曝け出してステージに立っていることがひしひしと伝わってきた。デビュー当初から自分の主義、主張や価値観はそれほど変わっていないと前置きした上で放たれた言葉も、これまでなら言わなかったことかもしれない。

「唯一、価値観が変わったのが生命に対する自分の考え方、価値観です。キミには大切な人がいますか? 家族、恋人、友達。誰でもいい。とても大切な人、その人を思い浮かべてみてください。あなたはその人より先にこの世界を旅立ちたいと思いますか? それともあなたが見送りたいですか? VALSHEはどっちも嫌だったんですよ。大切な人がいない世界に取り残されるのも辛い。考えられない。ずっとずっとそうやって生きてきました。残されるのも嫌だし、置いていくのも嫌だし。ずーっとずーっと生命の価値観の輪郭がぼやけたまま、歩んできた。でも、自分の活動を通して音楽を通して一つ大きな価値観の変化があったことを『ISM』の中で、みんなに知ってもらえたらいいなと勇気を持って、すごく個人的なことを書いてみました」──VALSHE

そんな告白の後に歌われたのが、生命に対する考え方や家族に対する主義とケルトミュージックのアプローチを取り入れたバラード「cue.」。真摯に切々と届け、代表曲のひとつ「PLAY THE JOKER」から「BLESSING CARD」へと移行し、自分を奮い立たせるように生み出されたVALSHE決意表明のロックチューン「RIOT」はモニターに座りながら歌われ、強靭なヴォーカルが圧巻。12年の活動の中、挫折を乗り越えてきたヴォーカリストが強さと柔軟さを手に入れたことをこの日のライブが物語っていた。



「すっごいエネルギーだね。声を出さずに、よくもまぁ!」とファンを褒め称えたVALSHE。直後に話したのも自分自身のこと。これまでは納得できないことがあっても折り合いをつけて仕方ないと思って生きてきた自分を振り返りつつ、今の心境を伝えた。

「2022年の今、今日、ここに立っているのは執念以外のなんでもないんです。君がここに来てくれたこともすごく大きな選択だと思います。VALSHEもバンドのメンバーもスタッフも、みんな大きな覚悟と決断をして今日の日を迎えました。これを執念と言わず何と言うんでしょう。そういうふうに変化してきたのはこの活動を通してです。諦めたくないもの、譲っちゃいけないもの、折れちゃいけないものがあるんだなっていうことを活動、音楽を通して、君との音楽の会話を通してVALSHEは学んできたんです」──VALSHE

今のVALSHEがいるのは“あなた”がいてくれたから。そんな想いを込めて10周年のベスト盤で書き下ろされた「フィラメント」を届け、ラストは『ISM』の最後を飾る曲であり、未来への意志を刻んだVALSHE曰く「ゴリゴリのメタルナンバー」である「INTRODUCTION」。エンディングのシャウトの声の伸びは全力で駆け抜けたライブとは思えないほどで、あと20曲は歌えるのではないかと思ったほど。熱い熱い拍手が沸き起こった。



ライブTシャツに着替えて一人で登場したアンコールでは「アルバムの中でもう1曲やってない曲あるよね? 聴きたい?」と問いかけ、自身も出演した舞台『Wizards Storia -initium-』のために書き下ろした「doctus-7.8.6.9-」を披露。VALSHEのアカペラで始まり、声が重なっていくクラシカルファンタジーな壮大な曲をまさかライブでも歌ってくれるとは! 会場を幻想的なムードで包んだ後はバンドのメンバーをユーモラスに呼び込んだ後のMCでは、コロナ禍に見舞われた2年間の葛藤や音楽に向き合って導き出された結論がありのままの言葉で語られた。

「音楽が大好きで音楽しかなかった。音楽がなかったら生きていけなかった。だから歌った。だから、音楽を作った。それを君が見つけてくれた。だから続けてこれた。そういう気持ちがキッカケとなった今を大切にしたい。VALSHEが納得して、心から楽しいと思って、心から音楽を通してみんなと笑い合いたいと思う限り、歌っていきたいし、頑張りたいと思います。それが結果的に君に元気を与えるんだったら前向きにさせるなら、そんな嬉しいことはないです。だから、君も自分の守りたいものを守ってください。得たもの、失ったもの、迷うこと、ここから先もたくさんあるでしょう。だけど、VALSHEがそうであるように自分の大事なものぐらい自分で守って。自分の誇りぐらい自分で守れよ。それで失敗しても大丈夫。VALSHEは勝手にいなくなったりしない。だから、勝手に折れるなよ! VALも勝手に折れないから。この先がどうなってるかなんて誰にもわからない。だけど、信じて前に進みます。応援してください!」──VALSHE



そんなメッセージの後に歌われたのは”君の毎日が幸せで溢れるように願うから“と歌うファンに向けて作られた曲「present.」。エンディングで”約束だよ“とVALSHEは言葉を添えた。

すすり泣く声が聞こえるフロアに「何、泣いてるんだよ」とおどけ、泣いてるお客さんチェックをするVALSHE。「すごくすごく幸せな時間でした」と伝え、最後の曲は「Shout of JOY」。色とりどりのペンライトが揺れ、VALSHEと過ごした濃密な時間は終わりを告げた。未来に進む勇気と希望を胸に灯して。

取材・文◎山本弘子
撮影◎Kyoichi Sugisaki

■<VALSHE LIVE 2022「ISM」>2月12日(土)@東京・duo MUSIC EXCHANGE セットリスト

SE. ISM
01. GIFT
02. アンプレイアブル
03. DOPE
04. 「SYM-BOLIC XXX」
05. NEVERLAND ※東京公演限定
06. シープランド
07. Lingerie
08. Shifty Cat
09. 浪漫主義
10. 空腹 ※東京公演限定
11. cue.
12. PLAY THE JOKER
13. BLESSING CARD
14. RIOT
15. フィラメント
16. INTRODUCTION
encore
en1. doctus-7.8.6.9-
en2. present.
en3. Shout of JOY

■6thミニアルバム『ISM』

2021年12月22日(水)リリース
【初回限定盤 (CD+DVD)】JBCZ-9125 / BBZ-9125 ¥4,500(税込)
▼特典DVD
・「GIFT」Music Video
・Making of 「GIFT」
【通常盤 (CD+DVD)】BCZ-9126 ¥3,500(税込)
※白皙描き下ろしイラストジャケット
▼収録楽曲 ※全形態共通
1. ISM
 作曲:VALSHE 編曲:G’n- [instrumental]
2. GIFT
 作詞:VALSHE 作曲:バルと瞬さん★ 編曲:Shun Sato
3. シープランド
 作詞:VALSHE 作曲:向井健太(Dream Monster) 編曲:高木龍一(Dream Monster)
4. アンプレイアブル
 作詞・作曲:VALSHE 編曲:G’n-
5. cue.
 作詞:VALSHE 作曲・編曲:doriko
6. Lingerie
 作詞:doriko 作曲:平間光 編曲:山崎佳祐
7. doctus-7.8.6.9-
 作詞・作曲:VALSHE 編曲:松岡美弥子(未来古代楽団)
 ※『Wizards Storia』テーマソング
8. 浪漫主義
 作詞・作曲:VALSHE 編曲:G’n-
 ※文化放送「矢野・小南 絵物語WA-GEI」エンディングテーマ
9. INTRODUCTION
 作詞:VALSHE 作曲・編曲:山本伸弘



■VALSHE主演朗読劇『Wizards Storia(仮)』

4月28(木) 19:00〜
4月29(金) 14:00〜 / 19:00〜
4月30(土) 13:30〜 / 16:30〜 / 19:00〜
5月01(日) 12:00〜 / 15:00〜 / 18:00〜
※公演スケジュールはやむなく変更する可能性がございますので、ご了承ください
劇場:DDD青山クロスシアター
東京都渋谷区渋谷1-3-3 ヒューリック青山第2ビルB1F
▼チケット
前売 6,500円(税込/全席指定席/特典付き)
※来場者特典:後日発表
先行抽選:2022年2月25日(金)19:00~3月6日(日) 23:59
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=65298&
▼主演キャスト
クライヴ役:VALSHE
▼スタッフ
原作:薄倉/iokiss 小説『Wizards Storia エピソード0』
演出:田邊俊喜
演出助手:久保田浩介
ヘアメイク:松前詠美子
宣伝美術・WEB:YWGgroup
スチール:沖田悟
制作:三村楽
制作プロデューサー・キャスティング:竹田亮
総合プロデューサー:幸田拓也(YWGgroup)
企画・製作:舞台『Wizards Storia』製作委員会

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