【インタビュー】感覚ピエロ、アグレッシブなパワーに変換された強靱さと自在さを兼ね備えた『ピリオドは踊る』

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感覚ピエロのセカンドアルバム『ピリオドは踊る』は、過去も現在も受け止めながら未来を切り開いていく、力強いエネルギーの詰まった作品となった。ギターの秋月琢登の活動休止を受けて、横山直弘(V&G)、滝口大樹(B)、アキレス健太(Dr)という3人体制となった感覚ピエロの最初の作品なのだが、“区切り”さえもアグレッシブなパワーに変換していく強靱さと自在さを兼ね備えている。収録されているのは16曲。密度が濃くて多彩でパワフル。ポップミュージックの華やかさ、ダンスミュージックの躍動感と開放感、ロックミュージックのシャープでソリッドなセンスを兼ね備えている。コロナ禍という困難な時代背景や体制の変化という状況の中で、ダークな要素もシニカルな要素もすべて引っくるめて、エンターテインメントへと昇華していくバンドの表現力とアグレッシブな姿勢は見事だ。この新作のリリースツアー<ピリオドは踊る>も進行中。横山、滝口、アキレスの3人に、アルバムについて、感覚ピエロの現在について聞いた。3人の絆だけではなくて、4人の絆の強さが印象的な取材となった。

■“これから頑張っていこうぜ!”と気持ちが上がる感覚が強かった
■ライブで演奏すると楽しそうな曲が並んだアルバムだなあと感じました


――セカンドアルバム『ピリオドは踊る』は秋月さんの活動休止を経て、リリースされた作品ということになります。完成した感慨を教えてください。

滝口大樹(以下、滝口):秋月がステージを降りることが決まったタイミングでの新譜リリースになりましたが、マイナスの気持ちはまったくなくて。新体制となって、“ここからまた始まっていくぞ”という決意表明の1枚になったんじゃないかと思います。

アキレス健太(以下、アキレス):メンバーが休止ということにはなりましたが、アルバム自体は4人で作ったものですし、今の4人の自由な形を表現できたと思っています。最強なアルバムができました。

横山直弘(以下、横山):確かにさらに力強いアルバムになったというのが、第一印象でした。進化している今の感覚ピエロをパッケージできたので、ホッとしています。

――約4年ぶりのフルアルバムとなります。目指すべきイメージはあったのですか?

横山:8年ほど活動していますが、フルアルバムは2枚目ということで、まだ経験が浅いところもあります。僕らは持ち曲が80曲くらいあるとはいえ、完成形がどうなるか、想像できないところはありました。まずは1曲1曲をガムシャラで作ることに集中しました。力強い曲をたくさん作って並べていく作業があって、最後のほうになって、「アルバムとしてまとめるためには、どういう曲が必要なのか?」というディスカッションを重ねて、タイトルを決め、リードトラック曲を作り、アルバムとしてまとめていくというのがおおまかな流れでした。

――1曲1曲作っていく中で、傾向や特徴として見えてきたことはありましたか?

横山:今回のアルバム収録曲のポイントは2点あります。1点目はコロナ禍ということです。意識するしないに関わらず、コロナ禍の影響を免れることはできないだろうと考えていました。ライブができない状況もありましたし、ライブができたとしてもお客さんが声を出せないフラストレーションはあったと思います。そうした状況の中で、気持ちが内省的な方向に向かったことが曲に表れている部分はあると思います。2点目はギターの秋月が休止を決断して、8年間続けてきたバンドの体制が変わったことです。この2つの要素に突き動かされて作った曲が並んだアルバムになったと感じました。

――ライブが自由にできない状況があったからこそ、「革命リアクション」「your answer」「Sing along tonight」など、ライブの光景が見えてきそうな曲がたくさん入った作品になったのかもしれないですね。

横山:そうですね。望みを託しているところはあると思います。お客さんもこのアルバムを聴いて、「この曲をライブ会場で歌いたい」と感じてもらえるんじゃないかと思っています。「HIBANA」という曲の<咲き散りゆく今を 未来に変えて>というフレーズが象徴的です。今は一緒に歌うことはかないませんが、歌える日を夢見ること、音楽で未来を提示できることの素晴らしさを感じながら曲を作っていました。

――コロナ禍での制作となりましたが、どんな意識でのぞみましたか?

滝口:僕らとしてはまわりが思うほどに、コロナでメンタルがやられることはありませんでした。アルバムのラストに入っている「感染源」という曲が1つのターニングポイントで。みんなでワイワイ盛り上がりながら、「こうしようか、ああしようか」と作った曲なんですよ。むしろ“これから頑張っていこうぜ!”と気持ちが上がる感覚のほうが強かったです。ライブを想定して作った曲がたくさんありますし、ライブで演奏すると楽しそうな曲が並んだアルバムだなあと感じました。

――アキレスさんはコロナ禍での制作はいかがでしたか?

アキレス:コロナ禍ということで、集まれないこともあったんですが、その分、コミュニケーションを密に取りながら作ったアルバムになったんじゃないかと思います。今回は自分たちが得意な曲、好きな音楽を詰め込めたので、ライブ感のあふれるパワーアルバムができたのかなと思います。


――1曲目の「共犯」はダンスビートが印象的な曲ですが、エモーショナルでありながらエッジの効いたシャープな歌詞も印象的です。この曲を1曲目にしたのはどういう理由からですか?

横山:曲順は秋月が考えているので、1曲目になった理由は秋月に聞かないとわかりません(笑)。踊れる曲だから1曲目なのかなと思っていますが、あくまでもこれは僕の予想です(笑)。

アキレス:僕の予想としては、1曲目で聴いている人を僕らの共犯にしたかったんじゃないかなと(笑)。

――それはなかなか説得力のある説ですね。

横山:曲自体は、まだコロナの気配がない時に作った曲なんです。感覚ピエロの持っているいろんな要素の中にあるセクシーな要素にスポットライトを当てた曲です。あれぐらいのテンポでみんなが横揺れで遊べる曲がほしいと思って作りました。歌詞に関しては、艶っぽさの中に毒があることを意識して作りました。

――「感染源」もそうですが、毒の要素は他の曲のあちこちにも散りばめられているのではないですか?

横山:そうですね。かなり性格が悪いバンドなので(笑)。ただし、個々に見ると性格の悪い4人なんですが、4人が集まって音楽をやると、なぜかポジティブなパワーに変わる気がしています。「Sing along tonight」もそんな曲です。4人でネガティブなエネルギーを音楽で発散することによって、ポジティブなエネルギーに変えられた曲だと思います。

――ダンスのグルーヴを作っているベースも印象的です。どんなことを意識して演奏したのですか?

滝口:ベースに関しては、横山からデモが送られてきた時点で、すでにスラップをしていたんですよ。こうしたいんだなという意図をくみ取りつつ、自分が弾くならばこうするなあと考えて、横山がつけたベースに肉付けして、スタジオで合わせて完成させました。

――「終いに」もバンドサウンド全開の曲です。この曲はどんなところから生まれた曲ですか?

横山:作詞作曲は秋月なので、彼がどういう意図で作ったのかはわからないのですが、「終いに」というタイトルも含めて、『ピリオドは踊る』というタイトルの“ピリオド”ととても親和性の高い言葉だと思います。秋月が自分からバンドをいったん抜けると決めて、アルバムタイトルを『ピリオドは踊る』と付けて、その中で「終いに」という曲を書いたうことは意味があるのかなと。このアルバムを象徴する1曲と言えると思います。これは結果論ですが、ライブでこの曲を演奏している時のお客さんのリアクションを見ていても、特別な曲になっていると感じます。「この歌詞にグッと来た」という感想を書いてくださるお客さんもしますし、感覚ピエロが8年歩んできて、今ここにあるストーリーや今の状況を的確に表している曲ですね。



――瞬間瞬間に宿るエネルギーが封じ込められた曲だと感じました。

横山:独特のテンポ感、ギターのリフり、メロディの心地よさ、自然な歌詞など、秋月のいいところがいっぱい詰まっている曲だと思います。

――「捨て身ハリケーン」はアキレスさんが作詞、横山さんが作曲しています。どのような経緯で生まれた曲ですか?

横山:スタジオで4人で、「こんな曲どうだろう」と言いながらみんなでオケを仕上げて、そのオケに僕がメロディを付けた曲です。感覚ピエロの結成当初からの曲作りのやり方の1つですね。最初、僕がどうしようもない歌詞を書いてしまったんですよ(笑)。これはいかんだろうということになり(笑)、じゃあ誰が書くのがいいのかとなった時に、アキレスの持っているカラッとしたカリフォルニアの天気みたいな人柄が出ると、この曲に合うんじゃないかということになり、アキレスにお願いしました。

――突き抜けたところもありつつ、シニカルなところもある独特の世界になっています。アキレスさんは歌詞を書く際のイメージは?

アキレス:簡単に言うと、僕のグチなんですよ(笑)。最近のニュースを見ていて悶々とするところがあり、その気分をグチとして発散して歌詞にしました。でもおそらくこう感じているのは僕だけじゃないだろうなと。グチを言うだけだと何にもなりませんが、僕らは音楽をやっているので、どぎついダークなグチでも音楽としてポップに昇華すれば、みんなに楽しく伝えられるんじゃないかと考えて作りました。怒りを通り越して、笑っちゃうぐらいの部分をポップに描きました。

――最後の1行の<自ら未来を選びに行こう>で一気に前向きな方向にシフトする展開にグッと来ました。

アキレス:あの1行ですべて回収できたかなと思っています。

――横山さんはアキレスさんの書いた歌詞を歌うのはどうでしたか?

横山:アキレスと秋月が歌詞を書いた曲に関しては、プリプロダクションの段階で、歌詞のチェックみたいな作業をしています。秋月が抜けると決まったタイミングが近かったこともあり、バンドのことを書いたんだと思って、「意外と真面目にバンドのことを考えているんだね」とアキレスに言ったら、「全然違うで」と返されました(笑)。アキレスはさっきはかなりマイルドに説明していましたが、オブラートに包まない状態で聞くと、メチャクチャおもしろくて(笑)。

――ここで文字にできないレベルということですね。

横山:そうです(笑)。アキレスの説明を聞いて、2人で笑いながら作った曲というところが自分の中でキーになりました。作っている過程で笑顔があったのがいいなと感じました。聴いた人にもひょっとしたらその要素を汲み取ってもらえるかもしれないですし、アルバムの中に笑いながら作った曲があるのは、とてもいいことだと思います。

――滝口さんはアキレスさんの歌詞については?

滝口:ダークな部分をポップに変換することは、多分メンバーの中では彼にしかできないことなんですよ。しっかりアキレス節になっているところがいいなと思いました。

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