【インタビュー】ジョン・カビラ「洋楽に興味のない邦楽ファンこそ、グラミー賞を」

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<第64回グラミー賞授賞式>が2022年4月4日(現地時間4月3日)にWOWOWにて生中継(放送&配信)される。最も権威ある音楽アワードとして全世界から熱き注目を集める祭典だが、今回はコロナ禍の呪縛から放たれラスベガスにあるMGMグランド・ガーデン・アリーナにて有観客による開催が予定されている。

主要4部門のノミネーション作品も8作品から10作品に拡大され、米音楽シーンに欠かせない名だたるアーティストや数多くの作品が様々な形で称えられ、その魅力が伝えられることになるだろう。2022年<第64回グラミー賞授賞式>の見どころを、WOWOWで案内役を務めるジョン・カビラに伺った。


──今年の放送は日本時間4月4日ですね。毎年WOWOWでは独占生中継で放送・配信している<グラミー賞授賞式>ですが、今回はどのような授賞式になりそうでしょう。

ジョン・カビラ:注目はやっと対面が戻ってきてくれる点ですね。おそらく中継や収録ではなく現地でのパフォーマンスですから、やっと(コロナ禍前の)スペシャルなグラミーになるのではないかと思います。延期も何度かありましたが、逆に言うと延期されたがゆえにお初のラスベガス、お初のMGMグランド・ガーデン・アリーナとなったことで、さらに注目度が上がると思います。当然コロナ禍ではありますけど、アメリカはマスク・マンデート(マスク着用要請)がなくなりましたから、みなさんマスク無しで参加するであろう点も注目ですね。

──ラスベガスという土地ならではのエンターテイメントが期待できそうですか?

ジョン・カビラ:ラスベガスには「sin city(罪の街)」っていうニックネームがあるんですよね。常套句中の常套句に「What happens in Vegas stays in Vegas.(ラスベガスで起きたことはラスベガスに残る)」っていうフレーズがあるんです。いわゆる「旅の恥はかき捨て」みたいなところで、「そこで起こったことはそこで終わったことにしよう」みたいなそういうイメージなんですね。要は「過激な街」という印象なんですが、それももう昔の話で、今やファミリーフレンドリーな街になっていて世界中のツーリストがやってくるメジャーホテルが展開する街になっています。ギャンブルと怪しげな人たちがつるんでいるようなイメージからは完全に脱却していますよね。

──なるほど。

ジョン・カビラ:コンベンションビジネスでも大成功している街で、全米放送事業者協会とか、CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)というデジタル/電化製品の世界的なショーケースもラスベガスで行われていますけど、相変わらずのショービジネスの街ですから、ロックの大御所からポップスターまで様々なアーティストが、定期公演やレジデンシー公演(常駐型公演)を行うところでもあります。一大エンタメキャピタルみたいになっていますよね。


──まさにグラミーにうってつけな街というわけですね。

ジョン・カビラ:ドンズバですね。当然、ラスベガスでやるがゆえの演出はたっぷりされると思いますし、トレバー・ノアのオープニングトークには注目です。去年のオープニングトークでは「過去10年間の音楽の功績を称える1年になるんだよね。なぜかというと、コロナって10年続いている気がしないかい?」というセリフがあったり、「この部屋の中のテンションは、まるでバッキンガム宮殿の中でロイヤルファミリーが一堂に集ったようなテンションがあるぜ」とかね。ハリー王子とメーガン夫人が英王室を離脱するしないみたいな大騒ぎをしていた頃の王室のテンションをグラミーの興奮に例えたり。「1月6日に起きた米連邦議会襲撃事件ぐらいのテンションだ」みたいなジョークもぶちかましていました。今回はもちろんコロナネタもあるでしょうし、ウクライナ情勢など…、僕は個人的にトレバー・ノアのジョークを心待ちにしています。

──まさに、ザ・アメリカという文化ですね。

ジョン・カビラ:そうですね。「忖度して波風を立てない」というカルチャーの真逆で、みんなが思っていること/感じていること/不満とか不合理をド正面からとらえて、さらにそれを乗り越えて笑いに昇華するのがアメリカのエンタメの伝統芸のひとつなので、これは本当に心待ちにしています。

──ミュージシャンの発言やパフォーマンスにも、そういう主義主張が表れてくることでしょうね。

ジョン・カビラ:「我が強いのが当たり前」なので、それはもう「みんな心待ちにしてください」ってことですよ。「音楽とかエンタメに政治を持ち込むな」「はぁー?」「え、何言ってんの?」みたいなね。生きている以上、政治は僕らの生活と直結しているし、恋も直結しているし、それとどう違うの?というところの発露は本当に楽しみです。


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──そんな第64回グラミー賞ですが、今回から主要4部門のノミネート作品が8作品から10作品に増えましたよね。

ジョン・カビラ:それもノミネーション発表の24時間前に決まったって話ですよ。レコーディングアカデミーCEOのハーベイ・メイソンJr.が語るに「ずっとその議論は行われていたけれど、今回の迅速・柔軟な対応は、レコーディングアカデミーの進歩だ」と。8つのノミネーションが決まっていて、後から追加された2つはどれなんだ?と言われていましたけど、それはカニエ・ウエストとテイラー・スウィフトだったとニューヨーク・タイムズがすっぱ抜いていましたね。

──それこそ多様化の時代ですから、8では足りないという悩ましい事態だったんでしょう。そうなると、ノミネーション決定の様子や内容説明、根拠も明らかにしてほしい気がします。

ジョン・カビラ:そうですよね。でもこれまで候補に絡んでいた匿名の秘密委員会、クローズドアで密室で候補作が絞り込まれるプロセスから開放された初めてのグラミーですから、これも楽しみです。悩ましい局面を相当見ているし体感もしていると思いますが、CEOのハーベイ・メイソンJr.は非常にオープンなので、良い方向に向かっているんじゃないかと思います。

──今回の目玉はいかがでしょう。オリヴィア・ロドリゴが主要4部門全ノミネートされているのも話題ですが。

ジョン・カビラ:すごいですよね。主要4部門に全てノミネートされた人の13人目になるんです。ビリー・アイリッシュもそうですしリゾもそうでしたけど、そこは圧倒的に女性なんですよ。そういう新しい記録を作ってくれるグラミーになる可能性があります。


──記録という意味ではジョン・バティステも。

ジョン・カビラ:すごいですね、主要2部門含め11部門ノミネートですよ。それもR&B、ジャズ、アメリカーンルーツからクラシックまで、ジャンルを飛び越えてるのがすごい。ニューオーリンズ出身、ジュリアード音楽院卒…もう異能のアーティストですね。既に映画『ソウルフル・ワールド』でオスカーを獲っています。ここまでジャンル・ベンディングというか縦横無尽にジャンルを越えてノミネートされるっていうのは本当に素晴らしい。こういう才能がアメリカの音楽界の懐の深さ、才能の豊かさのひとつの象徴だと思いますね。


──ジャンル・ベンディングなミュージシャンの登場は、様々な音楽にいつでも触れられるサブスク環境の充実が起因しているのでしょうか。

ジョン・カビラ:そういうこともあるかもしれない。ちょっと前の時点ですでにデジタルのマーケットが85%でしたから、フィジカル、アナログセールスは急上昇しても15%くらいです。とにかく、ソーシャルメディアで、TikTokとかで巡ってくる。だからマルチメディアでいろんな音に触れることができるっていう環境がなせる業かもしれないです。

──育まれる音楽資質が昔とは大きく変化したのかもしれません。

ジョン・カビラ:とは言え、オスカーもグラミーも「プロフェッショナルな人たちがプロフェッショナルの功績を称える」という点が強いので、ジョン・バティステの場合は「この才能はみんな認めなきゃ」という、ある種のシンボリックなものにも感じます。いわゆるピープルズ・チョイスのようなアワードではなく、プロがプロを称えるアワードなので、こういう現象が起こるという。

──なるほど、今回多くのノミネートを受けているジャスティン・ビーバーもH.E.R.もビリー・アイリッシュも、まさしくミュージシャンが認めている人たちですね。

ジョン・カビラ:ジャスティンもそろそろ主要部門どうだって声もあります。以前の「ジャスティン・ビーバー、はいはい、アイドルね」という片付けられ方を見ると、明らかに違う流れになっています。

──多様性が叫ばれる時代、見どころはたくさんですね。

ジョン・カビラ:本当に多すぎて(笑)。ABBAもあれほどポップミュージックに貢献してきたけれども、確か初のノミネートなんですよね。トニー・ベネットも主要4部門で受賞すると、たしか最高齢だと思います。ひょっとしたらレディー・ガガとステージ飾ってくれる?と期待したいですよね。2015年のグラミーのステージでは、レディー・ガガと「Cheek To Cheek」をパフォーマンスしていて、今回の年間最優秀アルバムにノミネートされた『Love For Sale』の「I’ve Got You Under My Skin」は「あなたはしっかり私のもの」って邦題がつくコール・ポーターの曲ですけど、これをやってくれたらもう泣いちゃうかも知れない。とにかくステージを飾るみなさんは本当に楽しみですよ。


──当日蓋を開けてみないと何が起こるかわからないのもグラミーの魅力ですから。

ジョン・カビラ:BTSもソウルからの中継じゃなくてステージを飾ってくれますし、オリヴィア・ロドリゴも、ビリー・アイリッシュ、リル・ナズ・X、ブランディ・カーライル、ブラザーズ・オズボーン…マルチノミニーの人たちがステージを飾ってくれる。本人たちのいつものステージではありえないコラボがグラミーの醍醐味なので、誰と誰が組むんだろって。

──グラミーの場合、本来ありえないだろというコラボが圧巻ですよね。

ジョン・カビラ:そうなんです。エミネムがエルトン・ジョンをディスって大問題になったけども、結局グラミーのステージで一緒にパフォーマンスする、とかね。そういうドラマが起こるのがグラミーの凄さですから。


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──洋楽に興味のない邦楽ファンにも、この面白さを知ってほしい。

ジョン・カビラ:日本のアイドル・ファンのみなさんにもお伝えしたいのは「あなたが好きなアーティストが、実は結構洋楽を聴いていますよ」ということですよね。グラミー賞を観てインスピレーションを感じている日本のショービズ界のみなさんは多いと思います。だから「彼はこういうのを見ていたんだ」とか「彼女はこういうのを見て聴いていたんだ」みたいな発見やインスピレーションが必ずあると思うんです。インスタとかTikTokやTwitterでアーティストのみなさんが発信している内容から音楽やプレイリストに触れていくと、グラミーに行き当たったりします。「洋楽よくわかんない」「英語だし」…それはその通りなんですけれど、自分が好きなアーティストや普段聴いている音楽に、影響を及ぼしているアーティストがいるかもしれない。いや、ほとんどいるでしょっていうことで、さらに好きなアーティストとのつながりを深くできるんじゃないですかね。

──そして洋楽自体が好きになったり。

ジョン・カビラ:あると思いますね。掛け値なしに普通に楽しめると思います。グラミーのショーのプロダクションレベルは日本のショーとは全く違いますし、ステージ上の展開をお楽しみにって感じです。MCから「それでは準備のほうをよろしくお願いします」なんてセリフは絶対出てこないですから(笑)。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)


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■番組情報

『生中継!第64回グラミー賞授賞式』 ※二カ国語版(同時通訳)
2022年4月4日(月)午前8:00 放送・配信 [WOWOWプライム][WOWOWオンデマンド]
※放送終了後~4月12日(火)午後4:00までアーカイブ配信あり
出演者:ジョン・カビラ、ホラン千秋
ゲスト出演:iri、James Smith(Live Nation Japan Vice President)、小熊俊哉(Rolling Stone Japan 編集部)
レッドカーペットレポーター:鈴木美穂(音楽ジャーナリスト)

『レッドカーペット生配信』
2022年4月4日(月)午前6:00 配信 [WOWOWオンデマンド]

『第64回グラミー賞授賞式』 ※字幕版
2022年4月4日(月)午後10:00 放送・配信 [WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
※放送終了後~4月12日(火)午後4:00までアーカイブ配信あり

『第64回グラミー賞の見どころ #1」
WOWOWオンデマンドで配信中

『第64回グラミー賞の見どころ #2』
WOWOWオンデマンドで配信中

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