【ライヴレポート】渋谷すばる、有観客ワンマン再開 “きっとこの出逢いも必然”

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2022年4月26日、KT Zepp Yokohama。オフィシャルファンクラブ『Shubabu』会員限定イベント<babu会 vol.1>の3公演目は、『Shubabu』が発足した2019年4月26日からちょうど3年後の同日に行われたものだ。同公演のオフィシャルレポートをお届けしたい。

◆渋谷すばる 画像

初のFC会員限定イベント<babu会 vol.0>は、記念すべき1stアルバム『二歳』リリース日(2019年10月9日)と重ねて10月8日に大阪・なんばHatch、9日に東京・品川ステラボールで行われた。そして、第2回目となる<babu会 vol.1>が4月19日および20日にZepp Osaka Bayside、4月26日および27日にKT Zepp Yokohamaと、全4公演で開催された。

渋谷はソロアーティストとして1stアルバム『二歳』を引っ提げ、アルバムリリース翌年の2020年1月28日から初ライヴツアー<渋谷すばる LIVE TOUR 2020「二歳」>をスタートさせた。しかし、新型コロナウィルス感染拡大に伴い、同年3月に開催予定されていた初海外ライブとなるアジア4公演および、ツアーファイナルとなる大阪での野外公演<二歳と364日>が中止を余儀なくされてしまったのだ。

その後、何度も仕切り直して有観客ライヴ開催を試みるも、来てくれるお客さんの安全を考えて断念。そこから約2年近く、有観客イベント出演やオンラインライヴはあったものの、有観客ワンマンライヴを再開することが出来ずにここまで来たのである。新たな人生を踏み出したばかりの渋谷にとって、それがどれほどまでに悔しい出来事であったかは、聞かずとも想像が付く。アルバム『二歳』に詰め込まれた渋谷の想いを深く読み取れば読み取るほど、はやる気持ちを押さえるのがどれほどであったかは、痛いほど伝わってきた。


そして、2022年4月19日、<babu会 vol.1>初日。渋谷は、待ち焦がれた有観客ライヴ再開の瞬間にファンクラブイベントを当てたのだ。渋谷曰く「家族みたいな存在」だという『Shubabu』、その再会に必然を感じた。何よりも一番近くで応援してくれるファンの安全を願って断念してきたライヴだったが故に、最初の再会は渋谷が一番大切に思う『Shubabu』のみんなであったことを、必然と思わざるを得なかったのだ。そしてもうひとつの必然を感じたのは、渋谷の唄の変化。ライヴが出来なかった時間が、渋谷の唄をより強く、優しく、丸く、変えていたのだ。

19時ちょうど、定刻通りに客席の照明が落とされると、驚くほど自然体な渋谷がステージ下手からふらりとひとりで登場した。この日はファンクラブイベントだったこともあり、ライヴ開始前にトークコーナーが設けられていたのである。あまりにラフな登場に意表を突かれたファン達は、驚きのあまり一拍遅れてしまった拍手で渋谷を迎えた。久しぶりに会う渋谷が目の前に居るのに声を出すことが許されない状況とあり、トーク中に客席に問いかける渋谷の言葉に拍手で答える姿は、とてももどかしそうだった。渋谷もまた、歓声も名前を呼ぶ声も無い講演会のような慣れない空気の中でのトークに、時おり戸惑いを見せ、照れ臭そうな表情を浮かべながら、久しぶりの再会の喜びを噛み締めていた。

ファンクラブイベントならではの近い距離のトークコーナーを終えると、ステージに張られていた紗幕が落とされ、バンドセッティングが姿を現した。スタジオでジャムった音源をそのまま録音したような、のほほんとしたSEをバックに、塚本史朗(G)、安達貴史(B)、茂木左(Dr)、本間ドミノ(Key)、そして渋谷すばる(Vo)が登場した。このメンツでのライヴは今回が初。幕張メッセ国際展示場6~8で観た<渋谷すばる LIVE TOUR 2020「二歳」>(2020年1月28日および29日)とは違うバンド編成である。広いステージを敢えて有効活用せず、中央にギュッと集めてセッティングされたバンドセットは、小箱のライヴハウスを切り取ったかのような光景だった。


1曲目に選ばれたのはなんと新曲。2ndフルアルバム『NEED』(2020年11月発表)を披露するはずだった二度目の全国ライヴツアー<渋谷すばる LIVE TOUR 2021「NEED」>(2021年4月より開催予定だった)が新型コロナウィルスの影響により全公演中止となった為、まだ有観客では『NEED』でのライヴを行なっておらず、更には2021年9月22日に3rdフルアルバム『2021』をリリースしており、ライヴで披露していない曲達のストックがまだまだたくさんある中で、渋谷は久しぶりのライヴの1曲目に新曲を選んだのである。きっと“いち早く新曲を聴かせたい!”という、紛れもない『Shubabu』愛であったに違いない。

定位置に着いた塚本、安達、茂木、本間は、SEを遮るように力強く放たれた渋谷のブルースハープを合図として、“OK! 準備は出来てるぜ!”と言わんばかりに、それぞれの楽器を掻き鳴らして応える。茂木によるシンバルの4カウントと掛け声からイントロのユニゾンの4カウントへと繋げて曲がスタート。ピタリと息の合った力強いカウントにゾクゾクさせられる。“俺はここにいるぜ!”という歌詞を載せたサウンドが最高にロールしまくるロックは、オーディエンスの体を自然と揺さぶり、会場の温度を一気に上げた。

渋谷が単独で音楽を始めてから、最強のパートナーとしてサウンドを支えてきた塚本。このガレージ色が強いロックンロールギターを軸として、絶妙な脱力感と重心を低音に置いたバックビートの抜けを個性的なスタイルで放つ茂木のドラム、最高のグルーヴがうねりを上げる安達のベース、そしてブルーススケールを使いこなした本間のロックンロールピアノがバンドサウンドを華やかに導き、唯一無二の輝きを与えていた。塚本、安達、茂木、本間が織りなす息の合ったアンサンブルは最強のノリを作り上げ、そんな極上のロックンロールの中で渋谷のブルースハープが叫びを上げる。4人が発するサウンドとリズムという極上の波に、天性の感覚で飛び込んで唄を絡ませていく渋谷は言わずもがな最高だ。いや、間奏で暴れまくる個々の音のぶつかり合いの強さといったら、最高なんて言葉じゃ収まらない。最高以上の表現があったらその言葉を記したいほど、圧巻と高揚の連続だった。


茂木は絶やすことなくリズムを刻み続け、間髪入れずに2曲目の「ワレワレハニンゲンダ」へ。“人間として生きる自由”をシニカルに唄う渋谷。“ニンゲン! ニンゲン!”というメンバー全員のコーラスは、渋谷の叫びへの同意。人間として生きる意味の深さ、人間が人間を思いやること、尊重すべきことの大切さを考えさせられる1曲だ。掻きむしられる感情を表現したかのような塚本のギターと、鬱血した感情を表現したかのような渋谷のブルースハープが重なり合い、そのサウンドには歌詞に落とし込まれた憤りを爆発させたような凄みがあった。

体を揺らさずにはいられないリズミックな「BUTT」も「ワレワレハニンゲンダ」から続くノリを止めずに繋がれた。5人は途中にMCを設けることなく、曲間をシームレスに繋ぐスタイルで音を届けていく。実にストイックな流れをセットリスト上に作っていったのである。

アクの強いプレイヤー達が音をぶつけ合い、目まぐるしく曲を変化させ、掻き回していく今回のライヴは、<渋谷すばる LIVE TOUR 2020「二歳」>幕張メッセ公演で観たライヴとは全く異なるものだった。どちらのバンド編成が良いということではなく、どちらもそれぞれの良さはある。しかし言葉にして記すとするならば、幕張メッセで観たバンド編成は、“渋谷すばるという個”を素晴らしく引き立てていたように思う。一方、今回の編成で強く感じたのは、“渋谷すばるバンド”としての“バンドパワー”だった。“アクの強いプレイヤー達”と敢えて記したのだが、渋谷すばるというボーカリストも最上級に“アクの強い唄い手”である。塚本、安達、茂木、本間の“アク”が、渋谷の“アク”をサウンドに中和させたのだ。プレイヤー個々のアクの強さが、渋谷のアクの強さと思いがけない科学変化を起こし、この5人でしか成し得ない、想像を絶する相性の良さを生み出したのだ。強い個性を放つプレイヤー達であることから、正直、ここまでまとまりのあるひとつの個体を創り上げられるとは想像していなかったのだが、いやいや、これはすごいことになった。荒々しいまでの感情の抑揚を音に置き換えたサウンドのループで攻め立てた塚本、安達、茂木、本間、渋谷は、紛れもない“バンドパワー”を見せ付けてくれたのだった。


そして、渋谷らしさといえば、他にはない感性で描かれる歌詞である。中でも特有の持ち味を放つ「来ないで」。最初にこの曲を聴いたときは、“また随分と赤裸々な歌詞を書いたものだ”とハラハラしたのを覚えているが、この歌詞の結末を知ったときは、なんとも心地良い脱力感に包まれ、肩をガックリと落として、その“渋谷らしさ”を笑った。シンプルなコードバッキングが印象的な同曲は、“我が強い僕だけど 君にはもうこりごり”という歌い出しから始まり、サビでは“もう来ないでくれないか 二度と僕の目の前に”と唄われる。“一度だけの口づけが こんなに脳裏に焼き付いて”とも記されていることから、特別な存在であった“君”に唄われていることが分かる。が、しかし、渋谷によって叫ばれるその“君”の名とは……“パクチー”なのだ。こんなにも時間と手間と最高のロックバンドを使ってまで、“パクチー嫌い”を叫ぶ贅沢さよ。これこそが渋谷すばるなのである。

大きなリズムを奏でる茂木のドラミングも、主旋律を支える安達のルート主体のベースプレイも、変幻自在で心地よい塚本のギターバッキングも、楽器隊の上をうっすらと滑らせる本間の柔らかな鍵盤プレイも、気怠いブルースハープと極大苦悩を切々と唄う渋谷の唄も、ラストに置かれた“パクチー いや!”を叫ぶ為に在ったのかと思うと、なんともご機嫌な脱力感に包まれるのだ。この日の「パクチー」も、いや「来ないで」も最高だった。そして、更に心を奪われたのは、本間のどこまでも優しい鍵盤ソロから、塚本のアコースティックギターへと繋いで始まった「レコード」。重心を落とし、レイドバック気味に唄われたこの曲は、渋谷の人間性を浮き彫りにした。とことん熱くて真っ直ぐな渋谷が、時おり見せる寂しげな表情と似ている優しい唄も悪くない。


安達と茂木の掛け合い、いや、もはや音での会話だったソロ対決を挟み、ライヴは後半戦へ。安達によるミュート交じりの瞬発力の高いサムと、エッジの効いたプルが共存したスラップが会場を踊らせる「きになる」は、ただただ同じ言葉が繰り返される“気になる”歌詞が意味深だ。しかし、歌詞の意味などどうでも良くなるほど、最高にファンキーで踊れる。もはやこの曲の渋谷の唄は楽器だ。「レコード」からの空気感を一変させた「きになる」の展開の忙しさも、ファンクラブイベントならではの濃厚なセットリストの醍醐味を感じさせるものだった。そして渋谷は本編ラスト前に、音と言葉をハイスピードに激しくぶつけ切った新曲を届け、この日、初めてMCを。

「ありがとうございました。最後にメンバー紹介させてください。ギター塚本史朗、ベース安達貴史、ドラム茂木左、鍵盤本間ドミノ」

本当にメンバー紹介だけの短いMCだったのだが、渋谷にとって、一番伝えたいことだったのだろう。この日のサウンドを一緒に作ってくれた大切な仲間をちゃんと紹介したいという渋谷の想いが伝わってきた。このメンツがこのタイミングで出逢い、渋谷の久しぶりの有観客ワンマンライヴを支えたことは、きっと必然。日常の当たり前を変え、大きく世界を変え、今もまだ続くコロナという最悪な時間は、偶然なんかではなく、必然に繋がる気付きの時間だったのかもしれない。渋谷が本編の最後に選んだ「素晴らしい世界に」を聴いたとき、本当に心からそう思えたのだ。“どんな事にも 意味があるなら これの意味は 何”──辛いことが起こる度に誰もが自問するであろうこの言葉を、渋谷は「素晴らしい世界に」の唄い出しに置いている。そして彼は、最後にこの想いが素晴らしい世界に続いていくと唄っている。渋谷の唄が心に響くのは、その全てがノンフィクションだからだろう。そこにある痛みも喜びも、全て自らが体感した感情だからだろう。


鳴り止まない拍手に応えたアンコールで、渋谷はバンドメンバーと、スタッフ、集まってくれたファン達に向けて拍手を募った。そして、最後に「ぼくのうた」を届け、次の<babu会>での再会を約束し、ステージを後にしたのだった。

渋谷を大きく変化させることとなったに違いない<babu会 vol.1>の経験が、この先の彼をどう変化させていくのかも、実に楽しみなところである。今ツアー終了後、9月14日の福岡サンパレスホテル&ホールを皮切りとして全国7ヵ所14公演の<渋谷すばる LIVE TOUR 2022>を行うことが発表となった。フルサイズでのワンマンライヴツアーでは、いったいどんな渋谷すばるを魅せてくれるのだろう? 今から楽しみで仕方ない。

なお、<babu会 vol.1>ファイナルとなった4月27日のKT Zepp Yokohama公演のアーカイブ配信が、5月8日(日) 23:59まで視聴可能だ。きっとこの出逢いも必然。ようこそ、人間・渋谷すばるWORLDへ。

取材・文◎武市尚子

■<渋谷すばる babu会 vol.1>セットリスト

4月19日(火)&20日(水) Zepp Osaka Bayside
4月26日(火)&27日(水) KT Zepp Yokohama
▼セットリスト
01. 新曲
02. ワレワレハニンゲンダ
03. BUTT
04. 来ないで
05. 爆音
06. レコード
07. きになる
08. 塊
09. 新曲
10. 素晴らしい世界に
encore
en1. たかぶる
en2. 風のうた
en3. ぼくのうた

■<渋谷すばる babu会 vol.1>アーカイブ配信

配信公演:4月27日(水) KT Zepp Yokohama
アーカイブ配信:2022年5月8日(日) 23:59まで
https://tixplus.jp/feature/shibutanisubaru_202204/


■<渋谷すばる LIVE TOUR 2022>

09月14日(水) 福岡サンパレスホテル&ホール
09月15日(木) 福岡サンパレスホテル&ホール
09月21日(水) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
09月22日(木) 名古屋国際会議場 センチュリーホール
10月12日(水) 広島文化学園HBGホール
10月13日(木) 広島文化学園HBGホール
10月17日(月) 仙台サンプラザホール
10月18日(火) 仙台サンプラザホール
10月24日(月) カナモトホール(札幌市民ホール)
10月25日(火) カナモトホール(札幌市民ホール)
10月31日(月) 東京ガーデンシアター
11月01日(火) 東京ガーデンシアター
11月05日(土) 大阪城ホール
11月06日(日) 大阪城ホール
※公演に関する詳細情報やチケットに関する情報は後日発表

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