熊木杏里、20周年コンサートで届けた“今日からの歌”

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熊木杏里が5月22日、デビュー20周年を記念したコンサート<熊木杏里20th Anniversary Live "今日からの歌">を東京・東京国際フォーラム ホールCで開催した。同公演のオフィシャルレポートをお届けする。

◆熊木杏里 画像

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そこにいるだけですっと背筋が伸びるような格調高いコンサートホールに、静謐な、だけど深い感情を携えた歌声が響く。音が空気を震わせて伝わるということが、彼女の音楽を聴くとよくわかる。

熊木杏里が立つのは、東京国際フォーラム・ホールC。自身のデビュー20周年を記念するステージだ。

「今日は“今まで”を振り返り、“今から”を思いながら歌っていきたいと思います」

まずは第一部。デビュー曲「窓絵」で幕を開けたライブは、ファンからのリクエスト集計をもとに、歴代のアルバムから多彩な楽曲をラインアップ。歌う曲によって、衣装の白いワンピースが時にかわいらしく、時にクラシカルに、時には昭和のアイドルのようにも見える。つまり、実にバラエティに富む楽しい展開だ。

しかし過去を振り返っている感覚はあまりない。バンドのサウンドワークの妙はあるにせよ、生きることと音楽を作り歌うことがほぼイコールである熊木杏里にとっては、20周年という節目もきっとそう大仰なものではないのだろう。

とはいえ、人生における変化は当然のようにあって、なかでも彼女が母親になったことは理屈抜きでその音楽に影響している。2019年にアルバム『人と時』を発表した際には、同世代のお母さんたちにライブに来てほしいと口にしていたし、事実この日のライブは18歳以下のチケット代が1,100円に設定され(一般7,700円)、未就学児の入場も可能だった。熊木自身も子を持つ親として、きっと「子供の世話でライブに来られないなら、一緒に来たらいいんじゃない?」なんて思ったに違いなく、なるほど気っ風のいい彼女らしいはからいだと思う。

だからいつしか、彼女の歌声はより大きなやさしさをまとうようになった。この20周年のステージで歌われた「いのち輝く」の静かなる強さといったら、これまでで一番だったかもと思わされた。


第二部には、ライブの定番曲がずらりとスタンバイしていた。

「なるべく発表当時のまま歌います。ほかの方の歌を聴いて、もっと普通に歌ってくれればいいのにって思うことないですか?」

本人は大まじめだが、オーディエンスは大爆笑。

「私の歌がもし前と違ってたら笑ってください!」

オリジナルのままで歌いたかったのは、この曲がひとり歩きして聴き手一人ひとりの歌になったからだ。資生堂のCMソングになり、熊木杏里の名を世の中に知らしめ、憧れの小田和正の番組『クリスマスの約束』への出演に導いてくれた「新しい私になって」。

そのまま、まっさらなまま歌った。それでも彼女の声は時間と努力に磨かれていて、かつてより魅力的に響くのだけれど、それはそれで健全なことだろう。

続いては、彼女のそんな成長に太鼓判を押してくれるスペシャルゲストが登場した。なんと、あの、武田鉄矢。実は熊木が最初に所属したのが、武田と同じ事務所だったという。

「一時期うちで育ててたんですけど、うまく育ちませんで。それでビニールハウスの外に出したら野生種になって、地面に根を張ってたくましく素晴らしいシンガーソングライターになりまして」

「え、褒めてくれてますか」

「褒めてるじゃねーかよ」

「若気の至りみたいなことで事務所を飛び出したんですけど、そのあと私、武田さんに手紙をもらったんですよ……どっかいっちゃったんですけど」

「なんでだよ、信長の手紙と同じぐらい価値あるぞ!?」

ここにすべてを書ききれないのが悔やまれるほど、漫才のように息の合ったふたりの会話は、言わずもがな会場を大いに沸かせた。

そしてふたりで歌うのは「私をたどる物語」。武田が歌詞を、熊木が曲を紡いだこの曲は、武田の鮮烈なポエトリーリーディングから始まった。やがて声質も歌い方もまるで異なるふたりの歌が、なぜか絶妙に絡み合って味わい深いデュエットとなった。


終盤に向かっては、熊木ワールドをこれでもかとたたみかける。楽曲個々が持つベクトルは縦横無尽でも、どれもがダイレクトに細胞に染み入ってくるような性質を持って、聴けばそれきり離れがたくさせる。

本編最後の「長い話(40歳バージョン)」には、きっと心震わせた人も多かっただろう。熊木はこの日のために、40歳になった自分の想いを歌詞に書き足した。人生の節目節目で何を思うか、それを書き連ねた物語は、聴き手一人ひとりの物語のようでもあった。正直、泣けてきた。

「いいことも悪いこともあるけど、まだまだ足りないことが多いなとも思うけど、歌っていてよかったなと思いました。またみんなに会えると思うと頑張っていけそうです!」

彼女が最後に見せた涙は、新たな決意の涙だったに違いない。なぜなら、この日のステージから聴こえてきたのは全部、タイトル通りの“今日からの歌”だったと思うから。

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<熊木杏里CONCERT2022 〜my nostalgia〜>

2022年7月3日(日)長野・信州の幸 あんずホール
開場 14:30 / 開演 15:00
料金:全席指定 ¥4,500(税込)
[問]信州の幸 あんずホール
TEL:026-273-1880
http://www.chikuma-bunka.jp/

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