【インタビュー】TETORA、あくなき前進欲求と音楽スキル、期待のすべてが理想的な形で共存する3rdアルバム

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ぐんぐん伸びる、成長期のバンドを聴くことほど楽しいことはない。TETORAの3枚目のフルアルバム『こんな時にかぎって満月か』には、バンド内部のあくなき前進欲求と、ライブを重ねて身に着けた新たな音楽スキルと、高まり続ける周囲の期待のすべてが、理想的な形で共存している。豪快なメロディックパンクからブルージーなミドルチューン、明るいパワーポップからロックバラードまで、曲調の幅もぐっと広がった。幼い片想いから終わった恋、幸せなひとときからせつなすぎる後悔まで、心揺さぶる言葉の強さがさらに増した。TETORAはいかにして過去と向き合い、現在を生き、未来への希望を描くのか。上野羽有音(Vo&G)に語ってもらおう。

■教室で作った曲も3人で最初に作った曲も全部ライバルみたいに思えて
■今までの曲を更新したいというか負けたくねえと思いながら作りました


――いつのまにか、今年も半分過ぎました。どんな半年でした?

上野羽有音:1月から上半期は丸々ツアーやったんで。あと<平日興行行脚>という、THE NINTH APOLLOのツアーもあって、あまり大阪に帰ってないぐらいです。

――めっちゃ忙しい。そんな中、このアルバムはいつ頃作ってたんだろう。

上野:今回はちょくちょく録ってる系で、ツアー中にレコーディングして、ライブして、また数日間レコーディングしてって、ずっと続いていて。

――そういうやり方って、初めてですか。

上野:初めてな気がします。

――ツアー中なら演奏もノッてるし、いいかもしれない。

上野:「有り」かなって思いました。ライブして、帰りの機材者の中で曲を作って、帰ってきて、ギターと合わせてみて。オフ日にスタジオに入って、3人で合わせてみて、「なんかちゃうな」と思ったら、また移動の機材車で直して、歌詞を考えて。って感じでした。



――じゃあ、ツアー中に作った新しい曲もいっぱい入っている。

上野:けっこう多いかも。それと、コロナ中とか、前のツアーの時に作ってた曲もあるし。そんな感じです。

――アルバム、すっごい良かったです。変わったところ、変わらないところ、いろいろある中で、いちばん「おおっ」と思ったのは、サウンドというかアレンジのバリエーションが、すごく増えたなということで。同じ曲調がほとんどなくて、全部が強い曲。

上野:ああー。

――3枚目ですからね。着実に進化してるというのが第一印象です。「3枚目はこういうアルバムにしよう」というイメージは、何かあったんですか。

上野:1枚目『教室の一角で』の時は、バンドを組む前に作った曲が多くて、学校で授業中に作ってた曲だったんです。2枚目の『me me』というアルバムは、今のメンバーになって全部3人で作った曲。そこからいっぱいライブして、今回のアルバムを作ることになった時に、教室で作った曲も、3人で最初に作った曲も、全部ライバルみたいな感じに思えて、今までの曲を更新したいというか、負けたくねえと思いながら作りました。


▲『こんな時にかぎって満月か』

――おおー。なるほど。

上野:どの曲かは、自分の中にこっそり秘めてるものなんですけど、「この曲はあの曲に勝ちたくて作った」というのがあって。今回は、全曲それがあります。自分の中で、新しいことをするというよりも、今までの曲を、「こいつより絶対イケてる曲を作る」みたいに思っていました。新しい感じに見えた、と言ってもらったのは、いっぱいライブをやったり、いろんなバンドと対バンしたり、聴いたりした中で、勝手に成長してる部分やったのかな?と思います。

――納得です。とりあえず、「ずるくない人」が、「ずるい人」のアンサーであることは間違いないとは思っていました。

上野:バレちゃってますね(笑)。

――それは誰でもわかります(笑)。

上野:そういうのが、全曲、自分の中ではあります。「あの時こう思っていたけど、今だったらこう思うから、こういう曲作ろう」とか。実体験とかも、「あの時はこうやったけど、今はこうやな」とか、そんな感じです。

――「今さらわかるな」とか、まさにそうですよね。あの時気づけなかった気持ちを、今だからわかるけど、今さらわかってももう遅いよな、みたいな歌詞で。その、「この曲はあの曲に勝ちたくて作った」って、何かきっかけがあったんですか。たまたまそういうことがやりたい時期だったのか、次のステージに行くために今やっとかなきゃと思ったのか。

上野:なんか、ずっと同じところにいたくないという気持ちはあって。それは曲もだし、ライブもだし、TETORAとして同じところにいたくないし、自分の中でもう一個進みたかったから、新しいことを、違うジャンルのことをするとかじゃなくて、今までのを、より良いものを作って次に行く、みたいなイメージでした。

――なるほど。

上野:だから、全曲、この曲はこの曲に勝つ!という気持ちで作りました。


――それ、全部当てたい(笑)。でもファンの人に当ててほしいから、ここで詮索するのはやめときます。じゃあ、ランダムに、好きな曲について聞いていいですか。「バカ」が好きです。ロカビリーっぽい勢いのある曲で、歌詞を畳みかける感じで、すごく良い曲。

上野:良かったです。作っている時に、一番、みんなにわかってもらえへん曲かな?と思っていたんですけど。何言ってんの?みたいに思われるかな?って。

――抽象的な言葉が多いから、いろんな解釈ができるとは思いますけど。でも結論は「単純でいこう、バカになれ」だから、すごくストレートに響きます。しかもこれ、歌い方がちょっとラップっぽいというか。

上野:ほんまですか?

――韻の踏み方がかっこよいし、言葉にリズムがある。

上野:あー、確かに。言葉数が多い系の曲ですもんね。韻は、昔そんなに気にしてなかったんですけど、今もめっちゃ踏みたいとかは思わないけど、気持ち良い程度に踏みたいなと最近思っていて。韻の面白さに最近気づきました。

――それは誰かを聴いてとか、そういう影響で?

上野:というか、前まで、韻を踏む意味がわからんくて。ラッパーさんだったら、韻を踏んで気持ち良いってわかるけど、自分の曲では別に韻踏まんでよくない?って思っていて。でも曲を作って、試しに踏んでみたり、語尾を揃えてみたり、最初の文字を揃えてみたり、いろいろやってたら、意味とかじゃなくて「韻は遊び心なんや」と思って。で、バンドもロックも遊び心じゃないですか。韻も遊び心だったんだと気づいて、おもろ!ってなりました。普通に聴いてた曲も、それを思いながら聴き直すと、「ここで韻踏んでたんや」とか気づいたら、余計におもろくなってきて。何ですかね。

――それは新しい、自然な変化だと思いますね。「バカ」もそうだし、「今さらわかるな」とか、「Loser for the future」とか、聴いて気持ち良い響きの言葉がすごく増えた気がします。

上野:自分一人で、こっそり遊んでるところもあります。気づいてくれたら最高、とか思いながら。



――それも全部見つけたい(笑)。あと「運命の赤い人」がすごく好きです。これも全体的にラップ的というか、トーキング的に物語をつむいでいくスタイルで、目の前に情景が見えるようで素敵です。

上野:ありがとうございます。「運命の赤い人」は…いや、これは、それぞれの解釈でいてほしいので、やめときます(笑)。

――説明はしなくていいです(笑)。でもこれは本当に、幸せな曲だと思います。珍しく。

上野:そうですね(笑)。こういう曲も作ってみたいなと思いました。

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