【コラム】nowisee、音楽家集団としての凄みと喜びが剥き出しで刻まれたアルバム『8』

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ミュージシャンがその活動のうえで素顔や素性を隠すことは今でこそ珍しいことではないし、音楽が小説や映像、アニメーションなどとコラボレーションしながらクロスメディア的に展開されていく手法も、今でこそ当たり前のように目にする。しかしながら、ここに紹介する「nowisee」(読み:ノイズ)というクリエイターユニットは、そうしたアイディアを今から8年前、活動を開始した2015年の時点で既に具現化していたのだから、彼らが持っていたビジョンの明晰さは特筆に値する。

nowiseeは、Strange Octave(Vocal)、Minimum Root(Guitar)、Add Fat(Guitar)、Turtle 7th(Piano)、Chotto Unison(Bass)、残酷tone(Artwork)の6名から成るユニットである(アートワークを担うメンバーがいるという点が、このユニットのカルチャーに対しての認識の広さと深さを物語っている)。結成時点で既に各分野での実績を持っていたメンバーが集まり始まったユニットのようだが、メンバーの素顔や素性はいまだ明らかになっていない。その理由は、彼らが「外見や実績に囚われず、鳴らす音楽の力で勝負したい」という思いを持ち続けているから。2015年に楽曲「バイブレーション」をミュージックビデオと共に公開し活動を開始したnowiseeは、その後、24カ月にわたり月1曲のペースで楽曲を公開。公式のスマートフォンアプリ(現在はサービス終了)を通して、楽曲だけでなくミュージックビデオや電子ノベル、コミックなどを配信し、それらを総合して「アプリアルバム」と称し作品化していった。2017年までの活動を「1st Period」とし、そこで生み出された楽曲たちは『掌の戦争』(2016年)と『reALIVE』(2017年)という2枚の音楽アルバムにもまとめられている。


1st Period期のnowiseeは、その活動を通して「生きる意味を問う」、「掌の中に広がる世界」というふたつのテーマを掲げていた。活動の様式自体は目新しくハイブリッドなものだったが、その根底にあったのは、人間の「生」と「死」を、あるいは「個」と「社会」を問う普遍的なテーマだった。nowiseeの活動の根底にあり続けていたのは、聴き手の生活や精神に繋がろうとする意志であり、それが、この1st Periodにおいてはスマホアプリを駆使したリリースなどの先鋭的な活動に具現化されていたと言えるだろう。アルバム『掌の戦争』のジャケットにあしらわれたスマホ画面と、それを握る手のひらを見れば、当時の彼らの活動がいかに「時代精神」に訴えかけようとしていたのかが伺える。日々、スマートホンを眺めながら生き、それゆえに、新たな苦しみも喜びも味わいながら生きる私たちの生活や心に、音楽や文学はどのように新しい形で浸透しえるのか? そして、その中でなにを問い、なにを気づかせられるのか?── そうしたことが、nowiseeの当初の活動の前提にはあったのだろう。


そんな1st Period終了から4年の沈黙を経て、2021年よりnowiseeの2nd Periodが幕を開けた。まずは、5月にバーチャルライブイベント<YouMakeShibuya VIRTUAL MUSIC LIVE>に出演。そして、6月には久しぶりの新曲「not the end」を公開。8月には本格的な2nd Periodの幕開けとして新曲「BUGS」を配信リリースし、そこから今年7月に配信された「誉」に至るまで12カ月連続で新曲の配信を行った。そして、この10月には8曲入りデジタルアルバム『8』(読み:エイト)がリリースされる。怒涛のリリースラッシュである。「やる」となったら、徹底的にやる。そんなところは、1st Periodからまったく変わっていない。




12カ月連続リリースの後のアルバム発表ということで、この度リリースされるアルバム『8』は2nd Period開始以降に配信してきた楽曲群を集めたアルバムと思われるかもしれないが、そうではない。本作は、1st Period期を含めてnowiseeがこれまでリリースしてきた楽曲を英語詞でセルフカバーし、再レコーディングした作品集となっている。本作のリリースについては、活動開始から8年目を迎える今年、8月8日の夜8時8分から行われたYouTubeでの配信ライブ<8th year premium live>にてStrange OctaveとTurtle 7thの口から告知されたのだが、同ライブ内でふたりは、再始動後に海外のキュレーターから「英語版はないのか?」と訊かれていたことや、そもそもnowisee楽曲の動画には海外ファンからのコメントが多いことに触れながらも、「まさか英語版を出すとは思っていなかった」と語っている。本作は、楽曲の広がりの果てに導かれた、本人たちにとっても想定外の作品と言えるのかもしれない。

ひと足先にこの新作アルバム『8』を聴かせてもらったが、本作は、nowiseeの音楽ユニットとしての純然たる魅力を伝えてくれる作品に仕上がっている。今回、英語詞によって新たな命を得たのは、1st Period期の「ハードボイルド」、「ナノ」、「bluemoon」、そして、2nd Period期の「monkey tambourine」、「チルソナ」、「誉」、「prayer」、「BUGS」といった楽曲たち。本作を聴けば、これらの楽曲たちが元来的に持つ美しいメロディの動きやリズムの躍動を、耳にダイナミックに飛び込んでくる立体的なサウンドと共に新鮮に体験することができる。リアレンジによって装いを新たにしている楽曲もあり、例えば、原曲は叙情的で壮大なバラードとして響いていた「ナノ」は、この『8』においては、曲の冒頭に聴こえてくるフィールドレコーディングされたと思しき街の音や足音などのサウンド自体が「詩情」として機能することで楽曲の世界観をより深めているし、全体的には、原曲の持つメロディアスさは失わないまま、R&B的な肉体感を持った曲に生まれ変わっている印象だ。今から6~7年前の1st Period期に作られた楽曲たちも、サウンドはモダンにブラッシュアップされながら、この2022年の世界のポップシーンにおいて堂々と響き得るクオリティを保っているのは、「今のnowisee」の見事な手腕とも言えるし、曲自体の強度を見れば、「当時のnowisee」が、音楽制作においても、いかに明晰で普遍的なビジョンを持ち得ていたかの表れとも言える。

▲DIGITAL NEW ALBUM『8』

そしてなにより、本作『8』の醍醐味は「歌」である。英語詞を見事に歌い上げるStrange Octaveの、自律した強さと人の弱さに寄り添う繊細さを兼ね備えた魅惑的な歌声が、本作の一番の聴きどころとも言っても過言ではない。前述した配信ライブ<8th year premium live>は、Strange Octaveと Turtle 7thの語りを聞くに、恐らく本作『8』の制作真っ只中に行われたものと推測するが、その中でStrange Octave自身が今回の英語詞カバーについて、「せっかく歌い直すなら日本語と英語でちょっとニュアンスは変えたい。コーラスやハモ(り)も変えたいし、欲望が生まれてくる」と語っている。たしかに、彼女の歌声は本作『8』において、日本語詞を歌っているのとは違った、より艶やかな表情を見せている。本作の音源と共に送られてきた資料の中で、nowiseeのブレーン的存在であるMinimum Rootは、nowiseeを「彼女(Strange Octave)の声を中心に作ったプロジェクト」と綴っているのだが、そんな「nowiseeの心臓」と言うべきStrange Octaveの歌声を、より多面的に、濃密に堪能できる作品としても、『8』は素晴らしい作品だ。

1st Periodでは「生きる意味を問う」、「掌の中に広がる世界」というふたつのテーマを突き詰めながら、聴き手の精神に繋がろうとしてきたnowiseeだが、新作『8』を聴いて感じるのは、彼らが根本で持ち続けた「外見や実績に囚われず、鳴らす音楽の力で勝負したい」という意志が、本作には見事に結晶化されているということである。刺激的なビジュアルイメージや革新的なアウトプットなどの「手法」的な側面の奥にある、nowiseeの「音楽家」集団としての凄みと喜びが、本作『8』には剥き出しで刻まれているのだ。この『8』の向こう側に広がる世界にこそ、きっと2nd Periodの「次」があるのではないか。その新しい領域から生まれるnowiseeの音楽に、私はもう今から期待している。

文:天野史彬

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DIGITAL NEW ALBUM『8』

2022.10.12 RELEASE

<TRACK LIST>
Tr.1 hard-boiled
Tr.2 monkey tambourine
Tr.3 chill-sona
Tr.4 nano
Tr.5 homare
Tr.6 prayers
Tr.7 blue moon
Tr.8 BUGS

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