【ライブレポート】B'z、延期というハプニングがかけがえのないサプライズとなった奇跡の夜

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ヒット曲のみならず長きにわたってアルバム収録曲も聴き込み、そのライブアレンジや生ならではの機微に反応し楽しみ尽くす濃密なB'zファンはたくさんいるけれど、2022年現在では、アーティストや楽曲問わずライブ・エンターテイメント自体を楽しむエンタメファンが数多く混在する時代となった。

◆B'z画像

1989年に初めての単独ライブを披露して以来、B'zは30余年に渡ってたゆまぬライブ・ステージを繰り広げてきた。シンプルなステージセットもあれば、アトラクション満載のテーマパークのようなステージもあった。大きなスタジアムツアーもライブハウスツアーも、アルバムを引っ提げてのLIVE-GYMもあれば、ベスト・セレクション的な楽しみが全面に出るPleasureもあった。もちろん長き活動の中ではサポートメンバーの変遷も多岐にわたる。

様々な顔を見せてきた彼らのライブだが、ひとつだけ変わらぬポイントは、いずれのライブにも新作アルバムのリリースが話題を牽引してきていたことだ。Pleasureシリーズには特定のアルバムは紐付いていないが、いわばベストセレクションとして、デビューから最新作までの全カタログをその時の感性でピックアップするセットリストが用意された。そこにはヒット曲から人気曲、ファン垂涎のマニアックな名曲までも含め、常に作品ありきのメニューが組み上げられていた。

そして今、<B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X->。2022年は、最新作はベールに包まれたままツアーをスタートさせるという前代未聞のチャレンジが組み込まれていた。全国12ヵ所30公演に及ぶ当ツアーの開催が発表された2022年1月の時点では、ニューアルバム発売の気配は何もないままチケット販売が開始され、アルバム『Highway X』が8月に発売されると発表されたのは、ツアースタートの数日前のことだった。

ラスト3公演を除いて、新作『Highway X』を一度も聴かずにライブで初めて耳にするという取り組みは、音楽流通の革新と音楽の聴かれ方が時代とともに大きく変容してきたことに端を発していると考えるのが妥当だろう。もちろん約3年にもわたって我々の生活を乱し、暗雲低迷の時代となったcovid-19の影響も小さくないだろう。生活のリズムも人とのコミュニケーションも変貌し、音楽はすっかりクラウド上のものとなった。いつでも聴けるから結局聴かない、全音楽がそこにあるゆえに膨大なアーカイブに翻弄し、もはや自分で探す精気も失った。そんな音楽との接し方に変貌した今の時代に、B'zはこのような形で対峙した。

音楽ありきのライブではなく、ライブありきの音楽。作品主体のエンターテイメントではなく、アーティストあってのライブ・エンターテイメントは、そこに変わらぬB'zがいればいいという本質を顕にした。アルバムは後からリリースする…贅肉を削ぎ落としたエンターテイメントの形を、迷うことなく実現していくバイタリティとチャレンジ精神は、エンタメとビジネスの合意点を探る取り組みでもあったとも言えるかもしれない。

まっさらな新曲をステージから初披露することによる新たなオーディエンスとの関係性や、初めて聴く音楽との出会いと興奮を創出し、瞬間芸術という音楽本来の魅力を最大限に演出してみせた<B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X->だったが、ラスト2公演は3ヶ月の延期が発生したことで、オーディエンスがアルバム『Highway X』を聴き込む時間がたっぷり与えられた状態で開催となるサプライズが起こった。

もちろん、ライブ直前の稲葉浩志の発熱という事態は、B'z本人もスタッフ陣にも想定になかったハプニングだったわけだが、35年ものキャリアをもって、どんな状況においても最大限の魅力を放出するB'zにブレはない。むしろ我々オーディエンスにとって、作品を知らずに当日を迎えるというコンセプトのもとで設計されたステージ構成を、たっぷりと予習をした上で楽しむことができるというとんでもないご褒美となったスペシャルすぎる2daysへと変貌したわけだ。

あまりにも特別で規格外となった<B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X->だからこそ、ツアーファイナルを飾るぴあアリーナMMでは、オーディエンスが放出するアドレナリンも尋常なものではなかった。開演前のアナウンスにも拍手が沸き起こり、会場を覆うはち切れんばかりの高テンションは、この日の成功をはなから約束させるものとなった。




<B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X->のサウンドを担うのは、青山英樹(Dr)に川村ケン(Key)、YUKIHIDE “YT” TAKIYAMA(G)、そして清(B)という新たなサポートメンバーの面々だったが、タイトで落ち着いた演奏からパッションあふれるワイルドな8ビートまで、表情の豊かさが格別だった。飛び出してくる熱情は極めて若々しく、まるで若さゆえのどうにでもなっちまえ的な臨界点ギリギリな荒っぽさまでも、クリアでよどみなき音世界で表現してしまう。ひとつひとつの音は研ぎ澄まされ、美しく統率され無駄がない。YTや川村ケンのステージ力はもとより、青山英樹と清というリズム隊から発せられるエネルギーが圧倒的だった。青山英樹の安定感とパワー、そして何より清のグルーブと破壊力が、この日のサウンドを無類の怪物級に仕立て上げていた。B'zチームのサウンドは、とんでもない領域に到達してしまったようだ。

そんな高密度なサウンドのもとで、稲葉浩志は「みなさん大丈夫ですか?」「マスクは苦しくないですか?」と声を出せないオーディエンスへの気遣いを端々に見せ、声も出さずタオルも回さずにせいいっぱいの拍手だけでコール&レスポンスを見せるオーディエンスに、最大限のリスペクトを表わした。

「一本のライブ、一本のLIVE-GYMを無事に演れるということは、ほんとに奇跡なんだなと気付きました。皆さんが普段こういう状況で我慢をして、予定も立てて、そのために工夫もして頑張って、やっと今日ここにたどり着いてくれているわけですよね。そうやってこの奇跡を現実にしている。皆さん、凄いです」「当たり前のようにライブをしていますけれど、我々バンドが集まって音を出して、寝ないで働いてくれるスタッフがいて、会場を用意してくれて、最後にこの客席を皆さんが埋めてくれて、それでやっとひとつのコンサートが完成するわけです。そんなの当たり前ですけど、このツアーを演って今までよりさらに強く強く感じました。ライブって尊いものです」──稲葉浩志

「山手通りに風」で聞かせてくれた、優しく太くなめらかな松本孝弘のバタースコッチのテレキャス・サウンドも、一瞬で会場を鷲掴みにした「ultra soul」の清のスラップも、「マミレナ」でちらりと見せた「ヴードゥー・チャイル」を思わせる遊びのリフも、「漣 < sazanami >」で聞かせた往年のツインギター・アレンジも、「YES YES YES」で響かせたダークで太いSGサウンドも、そしてカメラトラブルが起きてしまった「裸足の女神」をもう一度演り直すという、まさかの二度目の披露も、見どころ全ては一期一会の「奇跡の具現化」なのだと、彼らは訴え続けていたような気がした。





当たり前が当たり前じゃないと気付いたとき奇跡が訪れることを、B'zは身をもって証明してみせた。「病気になっても元気になってやり直せばいい。失敗したってもう一度立ち上がってやり直せばいい。それが人生=ライブなんだ」とB'zは教えてくれたのではないか。

人生は奇跡の連続だ。2023年に開催されるとアナウンスされた<B'z LIVE-GYM Pleasure 2023 -STARS->では、どんな景色が見えるだろうか。

取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長)

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なお、アルバム『Highway X』は12月2日から全曲配信がスタートし、12月14日にはDVD&Blu-ray『B’z presents LIVE FRIENDS』がリリースとなる。

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■<B'z LIVE-GYM 2022 -Highway X->2022年11月27日@神奈川・ぴあアリーナMM セットリスト
1. SLEEPLESS
2. Hard Rain Love
3. ultra soul
4. イチブトゼンブ
5. 愛のバクダン
6. Daydream
7. 山手通りに風
8. マミレナ
9. Thinking of you
10. 裸足の女神
11. 漣 < sazanami >
12. Highway X
13. COMEBACK -愛しき破片-
14. YES YES YES
15. 兵、走る
16. さまよえる蒼い弾丸
17. リヴ
18. UNITE
En1. You Are My Best
En2. 裸足の女神
En3. ZERO

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