【コラム】乗り越えたい夜に聴きたいaikoのラブソング

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中学時代に古典の授業で教師が“1000年以上前に生きていた人たちも、今のわたしたちと同じように恋に胸をときめかせていたんですね”と言っていたのが印象に残っている。これだけ娯楽が増え情報過多と言われている現代でも、我々は“恋”という感情に振り回されてばかりだ。恋心を抱えてしまうとうまく立ち振る舞うことがなかなかどうして難しい。恋をしていなくても、その状況に焦りが生まれ、惨めさを感じることもある。悩ましい感情であり事象だ。だからこそこの世はそれを和らげるために、時に慈しむために、いつの時代も愛の詞で溢れている。

では2020年代、人々の恋心に寄り添い続けたアーティストとは?という問いがあったとしたら、aikoを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。1998年のメジャーデビュー以降第一線で活躍し続けているだけでなく、彼女の音楽に影響を受けてきたアーティストは数知れない。時代を超えてこれだけ支持を集めているのは彼女の瑞々しいソングライティングに加え、恋する気持ちはいつの時代も共通しているという事実が大いに影響している。


そんなテーマを持って生まれたのが、最新曲の「あかときリロード」だ。“あかとき”とは“暁”と同じ意味を持つ、万葉集などでも使用されている古語。同曲にはその時間帯に浮かび上がる“悲しい気持ちや嬉しい気持ちをリロードする日々”への思いが綴られている。約1300年前の言葉とインターネットの普及とともに広がった現代語をジョイントさせたのは、彼女が“恋する思いはいつの時代も普遍的で素敵だ”と感じたことからだという。

「あかときリロード」も愛し合うふたりしか知らないふたりの関係について、無邪気かつ妖艶に描かれている。だが“繋がっても 愛しても/拭いきれないひとりの世界”とあるように、どれだけお互いを思い合っていようとも、そしてあなたのことを強く思っているからこそ、あなたと離れ離れになる恐怖がつきまとってしまう。そんな心の弱さを素直に、ロマンチックにさらけ出す彼女のラブソングは、不安が膨れ上がり眠れなくなった夜明け前を優しくあたためてくれる。

だが愛し合う者同士の間に生まれるだけではないのが恋心。もちろんaikoの楽曲も同様である。2021年3月にリリースされた14thフルアルバム『どうしたって伝えられないから』以降のシングル表題曲だけを見ても様々な恋模様が描かれており、その解釈が受け手によって変わるところも興味深い。



たとえば2021年9月にリリースされた「食べた愛」は片思いソングで、彼女は“好きな人に想いを言えないまま時間が過ぎるのを、切なくも愛おしいと思っている気持ちを歌にしました”と公式コメントを寄せている。かなり驚いた。というのもわたしはこの曲を“すれ違いが多く、電話でしかコミュニケーションを取らなくなったくらい関係が希薄になったものの、別れは望んでいない側の視点で歌われた楽曲”だと思ったからだ。これだけ意味が明解な歌詞なのに、こちらの都合でまったく違うシチュエーションで受け取ることができてしまう。2022年10月にリリースされた「果てしない二人」も、まっすぐに受け取るとひたすらにハッピーなラブソングだが、同曲が主題歌に起用された映画『もっと超越した所へ。』は問題ありのパートナーと暮らす4人の女性が主人公。そのストーリーと重ねるとまた少し違った響き方になる。



なぜこのような対極の受け取り方ができてしまうのか。それは彼女の“切なさ”を描く力の強さにあると推測する。優雅でありながらどこか不安定な胸をちくりと刺すメロディと、ふとしたときに出現する抽象的でミステリアスな歌詞。彼女から生まれるこのふたつの陰の要素が、うまく言葉にできず身体の中から出られないままになった感情に色をつけていく。そしてとどめとなるのが“涙”の描写だ。「あかときリロード」でも終盤に“あたしの想いが洋服の袖の色 いつまでも涙で帰るから”とあるが、aikoの楽曲は迷子になった恋の感情を、人間の直情的な行為である涙へと丁寧に結び付けてくれる。

切ない感情に振り切った楽曲というと、記憶に新しいのは「ねがう夜」。長く交際を続けていたものの、別れてかなり時間の経った元パートナーが夢に出てくることから始まる同曲は、読み進めていくと、今でも色褪せることのないくらいとても大切な思い出で、相手には新しいパートナーがいるのにもかかわらず、たまに夢に出て来てほしいくらいには恋心が消えていないし、“嫌な時に浮かんでこないで”と毒づいてしまう。aikoには切なさは愛ゆえだとあたたかい気持ちにさせてくれる楽曲が多いなかで、言葉を選ばずに言えばこの曲はどこを切り取っても、ひたすらストレートに重い。それを書ききってしまう彼女の攻めた姿勢にも目を丸くするが、同じような感情を抱えてしまっている人々には拠り所になるだろう。それは不安なときに優しく抱きしめられるような感覚とも似ている。人肌のぬくもりを感じる彼女の音楽は、こわばった心を溶かしてくれるのだ。

恋愛と一言で言っても人によってその物語は様々で、aikoの楽曲も同様にそれぞれ異なる物語があり、さらに1曲でまったく違う解釈もできてしまう。恋愛において、些細な出来事も自分にとっては大きな物語になることはしばしばだ。自分のどうしようもない恋愛、ささやかな恋心も、もしかしたら見方を変えると特別に感じられるかもしれない。aikoのラブソングは、いつの時代も恋する心を肯定してくれる。

文◎沖さやこ

■「あかときリロード」
配信リンク:https://aiko.lnk.to/akatokireloadPR


<aiko Live Tour『Love Like Pop vol.23』>

2023年
5月24日(水) 東京: J:COMホール八王子 開場17:30/開演 18:30
6月2日 (金) 愛媛:松山市民会館 開場17:30/開演 18:30
6月4日 (日) 香川:レクザムホール 開場16:30/開演 17:30
6月10日(土) 宮城:仙台サンプラザホール 開場16:30/開演 17:30
6月11日(日) 宮城:仙台サンプラザホール 開場16:30/開演 17:30
6月15日(木) 新潟:新潟県民会館 開場17:30/開演 18:30
6月24日(土) 東京:NHKホール 開場16:30/開演 17:30
6月25日(日) 東京:NHKホール 開場16:30/開演 17:30
7月4日 (火) 宮崎:宮崎市民文化ホール 大ホール 開場17:30/開演 18:30
7月6日 (木) 熊本:市民会館シアーズホーム夢ホール 開場17:30/開演 18:30
7月11日(火) 大阪:フェスティバルホール 開場17:30/開演 18:30
7月12日(水) 大阪:フェスティバルホール 開場17:30/開演 18:30
7月22日(土) 広島:上野学園ホール 開場16:30/開演 17:30
7月23日(日) 広島:上野学園ホール 開場16:30/開演 17:30
7月28日(金) 京都:ロームシアター京都 メインホール 開場17:30/開演 18:30
7月30日(日) 滋賀:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 開場16:30/開演 17:30
8月4日 (金) 北海道:札幌文化芸術劇場hitaru 開場17:30/開演 18:30
8月6日 (日) 青森:リンクステーションホール青森 開場16:30/開演 17:30
8月10日(木) 兵庫:神戸国際会館こくさいホール 開場17:30/開演 18:30
8月12日(土) 福井:フェニックス・プラザ 開場16:30/開演 17:30
8月24日(木) 岡山:倉敷市民会館 開場17:30/開演 18:30
8月26日(土) 島根:島根県民会館 開場16:30/開演 17:30
9月3日 (日) 大阪:フェスティバルホール 開場16:30/開演 17:30
9月4日 (月) 大阪:フェスティバルホール 開場17:30/開演 18:30
9月9日 (土) 愛知:名古屋国際会議場センチュリーホール 開場16:30/開演 17:30
9月10日(日) 愛知:名古屋国際会議場センチュリーホール 開場16:30/開演 17:30x
9月14日(木) 福岡:福岡サンパレスホテル&ホール 開場17:30/開演 18:30
9月15日(金) 福岡:福岡サンパレスホテル&ホール 開場17:30/開演 18:30
9月27日(水) 東京:NHKホール 開場17:30/開演 18:30
9月28日(木) 東京:NHKホール 開場17:30/開演 18:30

■チケット料金:6,800円(税込)
※未就学児入場不可、小学生以上はチケット必要
※公演日によって開場/開演時間が異なりますのでご注意ください。
※開場/開演時間は変更になる可能性がございます。予めご了承ください。

詳細:https://www.aiko.com/live/

◆aiko オフィシャルサイト
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