【ライブレポート】稲葉浩志、センターステージが織りなす様々なケミストリー

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2023年に結成35周年を迎えるB'zとして14ヶ所28公演という大規模ツアー<B'z LIVE-GYM Pleasure 2023 -STARS->を控えている今、稲葉浩志はソロライブ<Koshi Inaba LIVE 2023 ~en3.5~>を2days横浜アリーナにて敢行した。

◆稲葉浩志 画像

稲葉浩志は言わずと知れたB'zのボーカリストだ。もちろん音楽家として100%の精魂を注ぎ続けてきたことは、これまでのキャリアを振り返るまでもなく明白なことであり、今もなお日本のロック史に未踏の足跡を刻み続け、精彩輝く面目躍如の姿を見せている。それでも彼は変わらず謙虚であり、自らのエゴを振りかざさない。人一倍のこだわりも、律儀に信念に沿うだけだ。


その自意識は「自分はB'zのシンガー」という発言にも表れている。B'zは松本孝弘と稲葉浩志によるユニットではあるものの、いつしか“B'z”という名の巨大プロジェクトにまで発展した。もはやB'zはふたりのものではなく、サポートメンバーやスタッフを含めた一大ファミリーであり、数多の人々が関わる壮大なプロダクトでもある。もちろんそこには我々ファンも欠かせぬ存在として位置しており、それは先のツアーファイナルにて「ライブって尊いものです」と語った稲葉浩志の発言で証された通りだ。

B'zという巨大プロジェクトの一構成メンバーとして、歌を歌うという専門部門の責務を全うする。そしてソロに戻り、ミュージシャンとしての稲葉浩志を磨き、新たな刺激を受け、今なお見ぬ景色に興奮し、己を測りながら、B'zに帰る。それは巨大プロジェクトに新鮮な風を送り込む、ケミストリーの一滴にもなっているだろうし、逆にB'zという極上フォーマットに収まらない自らの衝動や表現領域を拾い上げては、ソロワークにエネルギーを注ぐという健全な循環が、稲葉浩志を瑞々しいミュージシャンに保ち続けているのだろう。

「B'zのシンガー」という型を持たない稲葉浩志のソロは、ひとりのミュージシャンとしてただひたすらにピュアだ。B'zというアイデンティティを持たないがゆえに、何の縛りもない。言ってしまえば、B'zの稲葉浩志よりもソロの稲葉浩志のほうが無敵なのだ。


2023年2月1日、19:00ぴったりオンタイムでスタートしたこの日の横浜アリーナ公演<Koshi Inaba LIVE 2023 ~en3.5~>は、歓びの興奮に突き動かされるままめくるめくエネルギーを発し続けるライブとなった。

特筆すべきは、アリーナ中央に丸く設置されたセンターステージだった。円形ステージの中央にセットされたドラムにはMr.Childrenの鈴木英哉(JEN)が、そしてその周りをぐるりと囲むように、サム・ポマンティ(Key)、徳永暁人(B)、DURAN (G)、そして稲葉浩志が円をなしてステージに立った。

1曲目は「愛なき道」だったが、曲に入る前にゆったりとジャムセッションが始まる。まるで肩慣らしをするように、あるいは身体を動かす前のストレッチのように、ゆっくりと身体に火を入れていく。お互いのコンディションを確かめるように、音の押し引きで間合いを確認する。サポートメンバー4人の音は、いずれも極めてシンプルでピュアな王道サウンドだが、ものの1分のインプロビゼーションが、テンプレ通りの役目を果たすのではなくパッションに身を任せる精神性で音を紡ぎパフォーマンスすることを明確に示してくれた。今日という日が特別であることは、この時点で明白となった。


それにしてもセンターステージは稲葉浩志によく似合う。巨大な熱量を持ってステージから観客へ攻撃的に音がぶつかってくるライブもいいけれど、音に包まれると同時に、観客の我々がメンバーを包みこむ形でもあり、観客全員が等しく稲葉浩志へエネルギーを送っている思いが形になる。手拍子が自然と沸き起こるのも、今ここで流れ生きている曲に参加できる歓びと、この空間を通してひとつになりたいと願う自然な熱情だ。

そして彼らもまた、センターステージが織りなすケミストリーを楽しむかのように、いろんな顔を見せてくれた。メンバーが内を向くとエネルギーが中心に集中する。例えば「BLEED」ではフロントの全員がドラム側を向いてプレイすることで、音が一点にぐっと集まり臨界点で一気に放出するような力強さが生み出されていた。


逆にドラムに背を向けると、バンド全てのサウンドをメンバー個々が背中に背負い、そこからアンサンブルを編み込んでいくような緻密さが生まれる。生きてきてうごめくライブの音を、みんなで産み育んでいくようにも見えた。そしてフランクなアクションや自由な動きが加わると、ステージを取り囲むオーディエンスに向かって拡散するエネルギーが増大する。

素晴らしい演奏、心地よいサウンド、リラックスして感情に沿った演奏を楽しんでいる自然体な彼らは、まるで音楽の神様に身を委ねるかのような多幸感を生み出し続けてくれた。まさしく極上の音楽体験だ。


そしてこの日、何より嬉しいのは、稲葉浩志が幸せそうだったことなのではないか。我々が集まってライブが完成する、そこで自然と沸き起こるアーティストの笑顔こそが、オーディエンスにとっての一番の幸せだったのだと、改めて気付かされた気がした。我々は彼らに会いに、彼らを聴きに、彼らと同じ時間を楽しむために会場に向かうのだけれど、本当は、アーティストを喜ばせたくて、アーティストに喜んでもらいたくて会場に集っていたのではないか。会場を覆う大きな拍手と歓声を聞いた稲葉浩志の「生まれ変わったような、そんな気分です。皆さんに逢えてよかった。ありがとう」「愛の力、愛の力、愛の力、Love、Love、Love、胸いっぱいです」という言葉には、そんな感謝と歓びが溢れていた。

取材・文◎烏丸哲也 (JMN統括編集長)
写真提供◎VERMILLION RECORDS

■<Koshi Inaba LIVE 2023 〜en3.5〜>2月1日(水)@横浜アリーナ SET LIST

01. 愛なき道
02. The Morning Call
03. Stay Free
04. Golden Road
05. I AM YOUR BABY
06. Salvation
07. 念書
08. 正面衝突
09. BLEED
10. 静かな雨
11. 波
12. Little Flower
13. NOW ※新曲
14. Okay
15. YELLOW
16. 羽
17. 遠くまで
18. ハズムセカイ
encore
19. あの命この命
20. BANTAM
21. CHAIN
22. oh my love

▼配信ライブ
2月2日(木) open18:00 / start19:00
アーカイブ配信:本公演終了後〜2023年2月3日(金)23:59
http://bz-vermillion.com/en3-5/streaming.html


■新曲「BANTAM」

2023年1月28日(土)配信リリース
※日本テレビ系 「スッキリ」2月エンディングテーマ



■作品集『シアン』

【完全予約受注生産『稲葉浩志作品集「シアン」特装版』】
発売予定:2023年7月10日(月)
予約受付締切:2023年2月28日(火)

【『稲葉浩志作品集「シアン」SELECTION版』】
発売予定:2023年5月29日(月)

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