【ライブレポート】Official髭男dismの信念「音楽でみんなのことを救えるようなバンドになりたい」
2022年6月7日に結成10周年を迎え、9都市を巡る全国ツアー<SHOCKING NUTS TOUR>を敢行してきたOfficial髭男dism。10月に延期となったライブの振替公演を経て、ついにツアーファイナルとして日本武道館のステージに立った。
現在の彼らの活躍を考えれば、まだ結成10年ということに意外さもあるけれど、その10年は決して順風満帆なものではない。近年のコロナ禍も含めてさまざまな壁に阻まれながらも歩み続け、ひたすら音楽にまっすぐ向き合って辿り着いた現在地。Official髭男dismの強い信念を改めて示したメモリアルな一夜のレポートをお送りする。
◆ライブ写真
360度解放の客席を埋め尽くしたオーディエンスが待ちかねる中、暗転したステージにゆっくりとメンバーが登場。小笹大輔(G)の優しいアルペジオから、「Pretender」でライブをスタートさせた。天井で輝くミラーボールの光だけに照らされ、メンバーの姿がシルエットで浮かび上がる。ビジョンなどもないため、目の前のステージとそこから届けられる音楽にグッと引きこまれていく。スマホ越しでも、イヤホンからでもない、今この場所で生み出される音楽を感じてほしい――そんな意図を感じるオープニングだった。
松浦匡希(Dr)の一打を合図に、2曲目の「I LOVE...」で一気に明るい照明が灯ると、「お待たせしました、Official髭男dismです! ツアーファイナル、最後まで楽しんでいきましょう!」と藤原聡(Vo)。パーカッション、キーボード、ホーンのサポート6人を含めたお馴染みのメンバーによるきらびやかなサウンドが武道館を包み込む。「Tell Me Baby」ではさっそく楢﨑誠 (B)と小笹がお立ち台の上に並んでユニゾンのフレーズをキメるなど、あっという間に目眩くヒゲダンの世界に招き入れられた。
「みんながたくさん来てくれるからっていう理由だけで、360度(解放)のステージにしたんじゃなくて。うしろの人も近くの人も関係なく、ちゃんとみんな全員にしっかり音楽を届けられるっていう自信と信念を持って、このかたちにしています。誰ひとり置いていくことのないように、今日もライブをしていこうと思います!」──藤原
10周年のツアーということもあり、セットリストには『Traveler』からの「ビンテージ」、『エスカパレード』からの「LADY」、『ラブとピースは君の中』からの「夕暮れ沿い」「parade」など、幅広い作品からの楽曲が盛り込まれていた。時代を感じさせない楽曲の力を改めて感じるとともに、ファンクなどブラックミュージックのルーツが際立つ初期の楽曲たちが、現在のスキルと10人編成で輝くさまが面白い。
一方で、過去の曲と違和感なく繋がりつつも、やはり強い存在感を放つのは最新曲郡だ。2022年を代表する名曲となった「Subtitle」では、きらきらと降り注ぐ雪のような照明の下で、情熱的な藤原の歌声が愛の物語を描いていく。緻密に構成されたドラマチックなアレンジの中を泳ぐメロディラインとエモーショナルなギターフレーズが映え、胸を締め付けるような切なさに酔い痴れた。
ライブで聴くたびにパワーを増すロックナンバー「Anarchy」「Cry Baby」の迫力もひときわ研ぎ澄まされ、武道館を圧倒。いずれもタイアップ作品とタッグを組んで生み出された大ヒット曲なわけだが、ライブの場ではそのディープさとヒゲダンの飽くなきチャレンジ精神にただただ驚かされてしまう。同時に、「Anarchy」などで目を奪われたのが、ステージ上空を彩る照明演出だ。吊り下げられた小さなLEDが動いてさまざまな模様を空中に浮かび上がらせる様子が、まるでドローンアートのようで、客席のどこから見ても楽しめるようになっていた。
しかし、これらの曲は本当の最新曲ではなかった。ライブをするために曲作りをしていたという結成当初を振り返り、「原点に立ち返って、まずみんなにライブで聴いてもらおうと思って曲を作りました」と未発表曲を披露。「風船」というタイトルを冠したその曲は、アップテンポの爽やかなテイストとのびやかなメロディが春の温かさを思わせる。嬉しいサプライズプレゼントとなった。
さらに、“かくし芸コーナー”として、藤原以外のメンバーによる今夜限りのスペシャルパフォーマンスも。1度目は、アコースティックギターを抱えた楢崎が「楢崎まさよしです」と告げて「One more time, one more chance」を弾き語り、2度目は小笹がかつて学園祭でプレイした思い出の曲だという「カノン」のロック・バージョンで流麗なギターソロを轟かせた。松浦やサポートメンバーたちが即興で演奏に参加していったり、小笹の「カノン」の後半に藤原がピアノで乱入して驚かせたりしていたところを見ると、本当に直前に決まったアイデアだったのだろう。想定外のことが起こってもすぐに音楽で遊ぶことができるメンバーの頼もしさと、その遊び心を一緒に楽しむオーディエンスとの絆を感じる時間となった。
「ラストスパートでございます!」という藤原の宣誓から、ポップなビートの「異端なスター」をハイトーンで締め括り、そのまま「宿命」へ。4人とも会場のすみずみまで目線を送り、全身を使って音を届けていく。ラストの曲の前には、藤原がルールの下でのライブを支えてきたオーディエンスを讃え、何度も感謝を告げながら、「ライブが奪われそうになった時、みんなが守ってくれたから。俺たちも、音楽でみんなのことを救えるようなバンドになりたいと思っています」と熱い想いを語った。そこから「ミックスナッツ」の一節に繋ぎ、「♪この世界には僕らがいて そして あなたがいる」とアレンジして歌いあげると、応えるように大きな拍手が響き渡る。一瞬の間を置いて、松浦の怒濤のドラミングとドライブ感溢れる楢崎のベースが牽引するイントロになだれ込んだ。おもちゃ箱をひっくり返したようなサウンドにステージ上も客席も満開の笑顔が溢れ、舞い落ちる金テープとともに本編の幕を閉じた。
「Universe」から始まったアンコールでは、サポートのバックアップメンバーふたりも呼び込んで12人編成に。手拍子のコール&レスポンスで盛り上がった「Clap Clap」で再び熱を高めていった。
最後のMCで、時とともに変わり続ける世の中の風潮やルールに対する真摯な考えを伝え、迷いも葛藤も正直に口にした藤原。それでも、音楽への変わらない想い、ライブを続けていくという想いは揺るがない。そんな決意を込め、オーディエンスとの繋がりを歌った「破顔」で、歌詞に描かれている情景を再現するようスマホライトが灯された。声に出さないからこそ、一人ひとりの存在を示す光の景色が息を呑むほど美しい。想いを確かめ合い、感動に包まれてフィナーレ……かと思いきや、響き渡ったのは小笹が奏でるメタリックなギターリフ。
特効の炎が打ち上げられ、1月にリリースされたばかりの「ホワイトノイズ」が投下された。後半は客席全体が明るい照明で照らされ、その中央で熱唱する藤原が力強く拳を突き上げる。やはりヒゲダンには感動の涙よりも熱狂の笑顔が似合う。改めてロックバンド魂を見せつけ、「運命に殴られても 痛くも痒くもない」と未来へ疾走する意志が刻まれた1曲で10周年ツアーを締め括ったのだった。
「振替公演になってしまったけど、ファイナルが今日で良かったです! 本当にどうもありがとう! 最高だ!」──松浦
「みなさんお疲れだと思うので、今日帰ったら足をちゃんと揉んで寝てください! また、こんな超疲れるライブをやりたいと思います。ありがとうございました!」──楢崎
「この10年間で作った、売れてない頃から大事にしてきた曲たちをみんなが愛してくれるツアーができて、本当に幸せでした。終わっちゃうのは寂しいですけど、それ以上にこれからがもっと楽しみになるような新曲を作っているので、これから先の未来も、10年、20年、30年、その先もずっとよろしくお願いします!」──小笹
「20周年にどんなバンドになってるか、ワクワクしながらこれからもやっていこうという想いでいっぱいです。ライブに来られない日も俺たちは音楽で繋がっているということを、すごく嬉しく思っているし、誇りに思っているし、なくてはならないことだと思います。その絆を絶やさないように、これからも一生懸命曲を作って、ライブを作って、みんなと会える場所をずっと作っていきたいと思います。20周年まで駆け抜けるぞー!」──藤原
それぞれの言葉を投げかけ、4人は感極まった表情で深く頭を下げてステージをあとにした。感謝と、祝福と、未来への希望が込められた大きな大きな拍手がその背中に贈られ、しばらく鳴り止むことはなかった。
濃密な10年を経て、たくさんの仲間と繋がって堂々国民的バンドとなったOfficial髭男dism。新たなスタート地点に立った4人が、ここからどんな夢を描くのか。次なる一歩を、心して待ちたい。
取材・文◎後藤寛子
写真◎TAKAHIRO TAKINAMI
※楢崎誠の「崎」は、正式には“立つさき”
セットリスト
02. I LOVE...
03. Tell Me Baby
04. Second LINE
05. ビンテージ
06. LADY
07. 風船
08. Choral A
09. 夕暮れ沿い
10. Subtitle
11. parade
12. Anarchy
13. Cry Baby
14. 115万キロのフィルム
15. 異端なスター
16. 宿命
17. ミックスナッツ
en1. Universe
en2. Clap Clap
en3. 破顔
en4. ホワイトノイズ
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