【インタビュー】キズの来夢、NHKホール公演直前に語る止まらない進化「歯車が一気に噛み合った」

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キズが3月22日にLIVE DVD『キズ 単独公演「そらのないひと」2022.10.9 日比谷野外大音楽堂』をリリースする。同映像作品に同梱される新曲「雨男」ではミディアムチューンに壮大なシンフォニックサウンドを取り入れるなど、バンドのスケールアップを感じさせる仕上がりだ。

◆来夢(キズ) 画像 / 動画

キズは2022年、1月にLINE CUBE SHIBUYA、5月に日本青年館ホール、10月に日比谷公園大音楽堂と次々に単独公演会場のキャパシティを拡げ、すべてソールドアウトさせてきた。同年12月27日に開催されたイベント<V系って知ってる?>でも、バンドとして初めて武道館のステージに立ったとは思えない堂々たる立ち振る舞いで存在感を示したばかり。

その躍進が、今勢いに乗っているだけではないことを裏付けているのが、「ストロベリー・ブルー」「リトルガールは病んでいる。」などの近年のリリース作品をはじめとした楽曲が持つ力だ。ジャンルの壁を超えた演奏力とアレンジ力、強いメッセージ性を孕んだ言葉を放つ来夢の歌は明らかに進化を遂げている。そこに来夢が元来有する天邪鬼な思想が加味され、ますます怖いもの知らずなバンドになりつつあるようだ。

BARKSでは昨年9月以来、約半年ぶりに来夢のインタビューを実施した。3月26日、自身最大キャパシティとなるNHKホール単独公演<残党>を前に語った来夢の言葉は、さらにその先を見据えていた。


   ◆   ◆   ◆

■もともと僕が表現したいのは壮大なもの
■心を動かせるヴォーカリストでありたい

──BARKSインタビューは2022年9月以来です。まず2022年末の<V系って知ってる?>を振り返っていただきたいのですが、キズとしては初武道館ステージになったわけですけどいかがでしたか?

来夢:うーん、正直に言うと……武道館は意外と小さかったです。やっぱり武道館って、少年の夢としてあるじゃないですか。もうちょっとキラキラしたものを想像してたんですけど、いつの間にか夢じゃなくて目標になっていて、しかもそこに立っている自分がいるっていう。“これ現実?”って思うところもあるし、なかなか自分の状況を受け入れられない感覚がありました。隠してたというか、表情に出さないようにしてましたけど、こみ上げてくるものもあったんですよ。走馬灯みたいにいろいろ思い返しちゃって。でも、なんか小っちゃかったっす(笑)。僕が目指してるのはここじゃないかも、と思いました。

──もっと先にあるってことですか?

来夢:もっともっといきたいですよね。まあ、まだワンマンでは武道館すらも踏めてないですけど。

──2021年末の<JACK IN THE BOX 2021>開催前に、DEZERTの千秋さんとアルルカンの暁さんと鼎談をしてもらった時、来夢さんは「格闘家として一度武道館に立ったことがあるから、武道館はそっちのイメージ」とか「武道館というライヴ会場に特別な思い入れがあるかと言われたら、そうでもない」という発言をされていたんですよ。もちろん気持ちの変化は当然だと思いますが、先ほどの「いつの間にか夢じゃなくて目標になっていて」とか「こみ上げてくるものもあった」という発言にはBARKSとしてツッコミを入れとかなきゃいけないなと(笑)。

来夢:ははははは! たしかにそこ重要なポイントですね(笑)。いや、<JACK IN THE BOX 2021>のDEZERTのステージにゲストボーカルとして暁と参加した時、武道館は格闘家として立った時の匂いそのままで、懐かしかったんですよ。だから、その時は走馬灯とか、あんまり感じなかったんです。だけど改めてメンバーと一緒にステージに立った時に…やっぱりこみ上げてきましたね。メンバーと立つことに意味があったのかな。メンバー越しに見る武道館が小さく感じたっていうことかもしれないです。ドラムのきょうのすけとも、「意外と小さかったよな」って話してて。あとは…あんまり言いたくないですけど、一番こみあげてきたのは、親が会場に来てたことで。



▲<V系って知ってる?>2022年12月27日@日本武道館

──そうだったんですか?

来夢:というのも、僕がX JAPANを知ったきっかけが、親父の持ってたBOXセットだったんですよ。親父はBOXセットを買うぐらいX JAPANが好きだったので。当時そんなことは何もわからずに、未開封だったBOXセットをビリビリに開けた息子が、今、PATAさんの隣でhideさんの曲を歌ってる…それはやっぱり、人生最大の親孝行だったかなと思います。

──親御さんも誇らしかったでしょうね。来夢さんはムックRespect Sessionhide Respect Sessionのヴォーカルも務めましたけど、キズとしてステージに立った時と、セッションの時では気持ちが違いましたか?

来夢:気持ちというか、もう重力が何倍も違いましたね。特にhide Respect Sessionの時は、一歩足を踏み出すのに5倍くらいの重力を感じました。絶対にミスれないというか、好きだという想いを勘違いされたくないというか。リスペクトとか愛をちゃんと伝えないといけないし、観てる人を嫌な気持ちにさせたくない。そういうプレッシャーがめちゃめちゃあって。ましてや、hideさん本人の許可はもう取れないわけで、そこが一番のプレッシャーじゃないですか。さらにステージ上にはPATAさんもいるとか、もう本当にすごい状況だったので。

──そうですよね。でも、しっかり存在感を示してましたし、武道館で締め括られた2022年は、キズにとって大きなステップアップの1年になった印象があります。ご本人としてはどうですか?

来夢:そういうつもりで動いていたわけではなかったんですけど、振り返ると、僕もそんな感じはしてます。いろいろ作ってきた歯車が一気に噛み合った感じかもしれないですね。今までずっと空回りして、回りもしない歯車のパーツだけを作ってた気がします。


▲キズ

──ライヴDVD『キズ 単独公演「そらのないひと」2022.10.9 日比谷野外大音楽堂』に、シングルとして収録される新曲「雨男」も、アレンジのスケール感がグッと増していますが、NHKホール単独公演を踏まえた部分もあるんですか?

来夢:いや、全然そういうつもりじゃなく、ただ単純に僕自身のマイブームです。ホール公演に合わせるとか、僕がそんな器用にやるわけないじゃないですか(笑)。

──なるほど(笑)。具体的に、いつ頃作っていた曲なんですか?

来夢:実は、「雨男」は野音ワンマンより前から作り始めていたんですよ。はっきり覚えてるんですけど、佐賀のホテルで書いたんです。2022年8月9日の長崎公演(単独公演<再望 [Peace begins with…]>)の時に、長崎のホテルが取れずに佐賀に宿泊することになって。何もない街だったので何もすることがなくて、ホテルで書き始めた曲が「雨男」でした。その時に、“今、僕が言いたいことはなんやろ”って考えていて…。僕はずっと雨男のように厄介者扱いされてきたのに、メンバーはじめ、なんでみんな僕についてきてくれるんだろうと思ったんですよね。特に、8月6日の広島公演と8月9日の長崎公演は事務所の社長も来てくれたんですよ。

──その日、その地でやることに意味があるライブですし。

来夢:そう。小さいライヴハウスなのに、向き合う姿を観に来てくれたんでしょうね。そんな社長に対して、“この人、10年くらい僕らを扱ってるなあ。なんでだろうな”と思ったのが結構大きなきっかけでした。“じゃあ、ちょっと周りの人に、改めて感謝の気持ちを書こう”と思ったのが「雨男」なんです。


▲<キズ 単独公演「そらのないひと」>2022年10月9日@日比谷野外大音楽堂

──「雨男」ってワードは、雨の日比谷野音ワンマンを経て生まれたものかなとも思ったんですけど、その前からあったんですね。

来夢:僕は昔から雨男なので、野音なんかただの一例に過ぎないですよ(笑)。むしろ、この曲は野音のステージに間に合わせるつもりで作ってたんですけど、結局「リトルガール は病んでいる。」で精一杯だったんです。で、せっかくだから今回野音のDVDにつけちまうかってことになりました。結果的に、ものすごくタイミング良く、進化を重ねたキズを見せられたという感じですね。もともと僕が表現したいのは壮大なものだったり、スケールが大きなものだったりするんですけど、それがやっと似合うようになったんだと思います。昔からオーケストラのパートも作れたけど、キズにはあんまり似合わなかったんですよ。

──今ではストリングスががっちりハマって、すごくドラマチックな展開もキズの新曲として違和感ないです。

来夢:最近、楽曲の中にも心地良さが欲しいなって気づいたんです。たとえば、部屋で曲を流した瞬間に雰囲気が変わるとか、一気に音楽に飲み込まれる感じの居心地の良さ。結構「ストロベリー・ブルー」から、音楽を作るというより、空間を作るようなイメージで制作してますね。あと、単純に時間をかけるようになった。たぶん、みんなが思ってる以上に、一つの言葉やフレーズに時間をかけて作ってます。そういうことができるようになったんですよ。

──その一瞬が楽しければとか、カッコよければいいっていう刹那的なものではなくて、じっくり味わえる楽曲みたいなイメージですか?

来夢:そうですね。本当に心を動かせるバンドとか、心を動かせる歌を歌い続けるヴォーカリストでありたいなと思ってます。

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