【インタビュー】Mrs. GREEN APPLE、10周年と新曲「ケセラセラ」を語る「勝てなくてもいい、負けないでいることの強さ」

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■人が高揚している時の心拍数と
■BPMを同じくらいにしています

──では、「ケセラセラ」のサウンド面はどういうイメージで?

大森:オーケストラのような壮大なサウンドでも展開させたかったし、一方ですごくミニマムな、一人の部屋で音楽を鳴らしているかのように、頭の中で鳴っているような感じだったりと、セクションによってサウンドのスペース感が変わるような音にしたいということは、最初にみんなと話しました。例えば、“今日はちょっとだけご褒美を”のところはキュッとスペースが小さくなるけど、ラストの“バイバイ 無頓着な愛の日々”からは、もうファンファーレというか、とんでもない祝祭感を出そうと。そういった、以前の曲で言えば「僕のこと」や「PARTY」のような組曲的な要素もありますね。

──なるほど。

大森:ただ、「PARTY」の時は、最初から組曲にしようと狙いつつ、とは言え初めての試みでしたから、ああでもないこうでもないと試行錯誤しながら作りました。それが今回は、思った通りに作れたというか、意志を持って、向かうべきところにどんな手段で向かっていけばいいのか、そこはまったく苦悩しなかったので、これまでの経験があったからこそ作れたという部分はあるかと思います。そのうえで、“人生”と言ってしまうと大きな話になりますが、1日でも1週間でもいいんですけど、普段の生活にも気持ちの上がり下がりがあるように、同じメロディと歌詞でも、バックのサウンドによって、盛り上がったり落ちたりといった違いを生むことで、人の感情や情緒を表現しようと意識して。そこは上手くできたかなと思っています。


▲若井滉斗 (G)

──では、藤澤さんと若井さんは、曲のデモを大森さんから受け取った時、どんな印象を受けましたか?

藤澤:「Soranji」というあれだけスケールの大きな曲があったうえで、この曲は、歌詞もそうだし、楽曲としても、日常のすごく小さな傷や悩み、あるいはすごく小さい幸せを見つける喜びといったことにフォーカスしていると感じて。例えば、“生まれ変わるなら?「また私だね。」”と1サビが終わる時の、夜に一人で寝る前のような空気感から、間奏に入ってまた次の日が始まるみたいな、日常の場面展開をすごく感じて。それを演奏で表現できたらいいなと思ってピアノに取り組みました。

若井:僕は、(大森)元貴が書いた歌詞に僕自身の背中を押される場面がすごく多くて。ギターを弾きながら、この歌詞で“よし、あともうひと踏ん張り”という気持ちになれましたし、その感覚をちゃんとギターで表現したいなと思って。とにかく、サビのタッピング奏法が凄まじかったので(笑)。

大森:指が裂けてたよね。

若井:タッピングの練習をしすぎちゃって(笑)。楽曲自体には華やかさがあるんですけど、技術面ではものすごく弾き応えのある難曲でした。あと結構レコーディングでは挑戦的なこともしていて。元貴がギターを……。

大森:そうそう! ストリングスみたいにギターを弓で弾いたりして。1サビ後のサビ(※“でもね、”からのセクション)でサウンドが静かになるところで、右側から聴こえてくるストリングスみたいな音、あれは弓弾きした僕のエレキギターなんです。

若井:そういう実験的なサウンドの面白さも詰まった曲になりました。

大森:ベースも、ここはエレキベースがいいのか、コントラバス、あるいはチェロのほうがいいのかと考えていったし、ドラムも足し算や引き算をして、ラストは完全にオーケストラに振り切って。ライブでどうやって演奏すればいいんだろうって心配になってますが(笑)。耳を澄ましてもらえると、音の面でもいろんなアプローチを楽しんでもらえると思っています。

藤澤:ピアノも新しいスタイルでレコーディングしたんです。今までは、だいたい全員“せーの!”で録るか、一人ずつバラバラに録るかで。ピアノは楽器の特性的に一人で録ることが多かったんですけど、今回は初めて、ベース、ドラムと一緒に録りました。



──そうした理由は?

藤澤:この曲のピアノは、パーカッション的な役割というか、リズムで聴かせる部分が多かったので、リズム隊の二人と一緒に演奏することで、サビでのハツラツさというか、元気に前へ進んでいく感じをピアノで表現したかったんです。先ほども少し話しましたけど、僕はこの曲に対して、日常のもどかしさや、なかなか癒えない心の傷みたいなものを感じていて。だけど、そこから前に一歩踏み出してもらえるような元気の良さみたいなものをピアノの音で感じてもらいたくて。そのためにレコーディングでは、明るい気持ちを誰よりも意識しようと心がけました。

大森:マインドの部分でね。

藤澤:そう。グルーヴに関しては、やっぱりドラムとベースの二人が専門職だから、そこは二人についていきながら、曲が持っている明るさは誰よりも僕がリードしようと意識をして。

──ああ、なるほど。すごくよくわかります。実はこのインタビュー現場まで、この曲を聴きながら歩いて来たんです。とても天気のいい青空で。そうしたら、ちょうど……。

大森:あっ、歩幅ですか?

──そう! 歩いていると、とても気持ちのいいテンポ感で。じゃあ、そこはやはり意識して?

大森:そうですね。歩いている感覚というか、人が高揚している時の心拍数と曲のBPM(テンポ)を同じくらいにしています。

──前向きな気持ちで歩みを進めていくのに本当にピッタリな曲ですね。藤澤さんは、レコーディングでは基本的にピアノを?

藤澤:そうです。あとは冒頭のハープシコードも弾きました。

大森:えっ、(藤澤)涼ちゃんが?

藤澤:そう。歌とハープシコードだけのところ。きれいに弾けたかな、って(笑)。

大森:うん、きれいに弾けてる。その録音に立ち会えていなかったから知らなかった。ギターが最難関で若井が悲鳴を上げていたのは知ってるけど(笑)。いや、悲鳴すら上げてなかったから、本当に辛かったんだろうなって。

若井:黙々と練習してたからね(笑)。

藤澤:すごい集中してたよね。

大森:ちょっと心配になるくらい。しかも指先が絆創膏まみれになってて。「大丈夫?」って聞いたら、「水ぶくれを通り越して、もう(指先が)硬くなってきたから、本番は大丈夫」って(笑)。

若井:レコーディングの前日まで、本当に指先がボロボロだったんですよ。でも録音当日になって、ちょうどいい硬さの“タッピング豆”になりました(笑)。

藤澤:あははは。

若井:その時に、この曲の歌詞がめちゃくちゃ響いたんだよね。

大森:“もうひと踏ん張り!”って(笑)。


──そんなレコーディング秘話があったんですね(笑)。大森さん自身は、歌に対してはどのような意識で臨みましたか?

大森:この曲って、意外とメロディが難しいんですよ。だから…とにかく難しかったです(笑)。自分がポイントにしたのは、例えば1サビの終わり、“食いしばってる”から次のフレーズで、普通ならさらにドカンといきそうなところを、“でもね、”でサウンドがガクンと落ちるんです。そこでの声のテンション感。ラスサビのようにグッといきたいところを、ここではまだ抑えておくという表現が難しかったですね。あとは、落ちサビの“バイバイ 幼き愛の日々”と、ラスサビの“バイバイ 無頓着な愛の日々”は、メロディは同じなんだけど同じように聴こえないようにしたり、最後は多幸感のある歌い方を心がけて。だからちょっと演劇的というか、お芝居や舞台をやっているような感覚に近かったですね。そうやって、いろんな人の気持ちを表現できるように、あまり自分自身というものを投影せずに、フラットに歌おうとしました。歌に関して言えば、今回は涼ちゃんと若井の二人も歌ってるんですよ。それも、今までのようなガヤ的なコーラスではなくて、ちゃんと一人ずつマイクを立てて、きちんと“歌”として録ったのは初めてのことで。ラスサビの多幸感には、そういう二人の歌も入ってます。僕がディレクションしたんですけど、このフレーズ難しかったよね? 若井は声を枯らしていたし(笑)。

若井:“いや、ボーカルってこんなに難しいんだ”って、めちゃくちゃ思った(笑)。

大森:やっとわかった(笑)?

若井:最初に一度、特に意識せずに歌ったんです。そうしたら、「もう少しこういう風に歌って」って、元貴からすごく細かくアドバイスされて。例えば、「子音をもう少し強く発音して」とか。「そんなところまで意識しながら歌わなきゃいけないんだ」って、歌の難しさと大変さにすごく驚いて。でも、だからこそ歌にちゃんと感情が乗るんだなって、とても勉強になったし、元貴ってすげぇなって思いました(笑)。

大森:よかったぁ(笑)。

藤澤:本当に歌は難しかった。言葉のリズムというか、歌詞が詰まっているところとか、実際に歌ってみて初めてわかる難しさがあって。絶妙なメロディの動きとか、聴くのと歌うのとでは感覚がまったく違うんです。

大森:リンキング(※ひと息で言葉を素早く発声した際、音同士がつながってしまい、歌詞通りに聴こえなくなってしまうこと)があるからね。例えば、“無頓着な愛の日々”とかもリンキングで母音が全部つながってしまったり、“喜劇的な”って言葉は6つの音だけど、それを4つの音符にまとめているから、そういうリズムだったり、メロディの跳躍は二人ともすごく頑張ってたよね。

藤澤:難しかったけど、元貴の歌をレコーディング時に実際に聴いて、それを頭の中でイメージしながら歌ったら、段々と二人でいいテイクが録れるようになってきて。最終的に、二人が歌った意味を出せれたんじゃないかな。初めて二人が歌ったパートをいいものにできたっていうことが、すごく嬉しかったですね。

大森:“不幸の矢が抜けない日”なんて、実はものすごく激ムズのフレーズ。だから僕自身、歌録りに関しての感想は、「難しかったです」のひと言ですね(笑)。

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