【ライブレポート】Aimerが築いた没入空間「これからもこの声が出る限り歌い続けたい」

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2021年9月にメジャーデビュー10周年を迎えたAimer。それからの月日は、彼女にとって非常に目まぐるしいものであったと推測する。

デビュー10周年記念日からほどなくして、単独ライブでは初となるさいたまスーパーアリーナ公演を開催。20thシングル「残響散歌 / 朝が来る」のリリースで幕を開けた2022年では22ヶ所28公演にわたる全国ホールツアー<Aimer Hall Tour 2022 “Walpurgisnacht”>を回り、10周年イヤーの締めくくりとして東阪アリーナ公演<Aimer 10th Anniversary Final “Cycle de 10 ans”>の開催とミニアルバム『Deep down』のリリースを行う。さらに年末には『第73回NHK紅白歌合戦』に初出場、『第64回 輝く!日本レコード大賞』にて「特別賞」を受賞と、華々しい活躍を続けた。

そんな彼女が今年の東名阪アリーナツアー<Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive->で実現させたかったのは、ツアータイトルのとおり“音楽で没入できる空間を作る”ということだった。喜怒哀楽を通して生まれる彼女の音楽の優しい強さが、満員の会場を包み込んでいた。

全6公演のツアー4公演目であり、横浜アリーナ2日目の4月16日。彼女が横浜アリーナでライブを行うのはこのツアーが初となった。

暗転すると斜幕に包まれたステージが群青のライトで染まり、「MOON RIVER」のインストカヴァーが静かに響く。すると斜幕の向こう側にいるAimerが、やおら「Deep down」を歌い出した。客席から見ると霞がかった暗い青のなかに佇んでいるように見え、その光景はまさに深海のようだ。彼女の歌声から醸し出される静かな激しさに、観客も一心に熱い視線を送る。

続いての「RE: I AM」で幕が落ち、Aimerもステージ前方へと足を進める。バンド隊とストリングス隊が作り出す豊潤で誠実なサウンドスケープと、全身全霊で歌詞を一言一言噛み締めるように声をメロディに乗せる彼女。冒頭の僅か2曲でたちまち客席を支配してしまうほどの気魄は、まさに“没入”の言葉が相応しい。



深々と頭を下げ、穏やかな口調で「あなたに会えて本当にうれしい」と喜びを露わにするAimer。今回のツアーのテーマを掲げた理由について、昨年の経験が華やかで眩しすぎる幸せだったからこそ、ただただ音の世界に没入したいという思いが溢れてきた旨を挙げる。アリーナ規模の会場で“没入”を実現するために、どの座席でも理想的な音響で音楽を体感できる最新のサウンドシステムと、初のバンド+ストリングス編成でこのツアーならではの特別なアレンジを用意したことを明かし、「この空間にじっくり浸りながら、身体を動かしたり一緒に歌ったり、遠慮なく思いっきりこの夜に没入してください。いいですか?」と笑顔で問いかけると、観客も大きな歓声でその思いに応えた。

「今日のわたしのすべてで歌います」とまっすぐ告げると、あたたかいサウンドと目の前の“あなた”に真摯に語り掛ける歌声で彩られた最新曲「あてもなく」や、力強さと浮遊感を併せ持つ歌声に繊細なピアノが溶ける「歌鳥風月」などを届ける。彼女は昔からよく“音楽を通してあなたの心に寄り添いたい”と話しているが、近年の彼女の歌は寄り添うよりもたくましいもの── “あなた”の心や癒えることのない傷を、厄災などから守ろうとする強固な意志を感じる。時にシェルターのように堅牢で、時に陽だまりのように柔和。そんな音楽を前にして我々ができるのは、ただただ飾らない自分のままで、音に身を委ねることだけだった。

「ここからもう少し身体を動かせる曲をやっていきます」と微笑むと、楽器のリフレインも軽やかでポップな「カタオモイ」などを披露する。客席からクラップが起こるとAimerやバンドメンバーもそれに合わせて手を叩き、“じゃあ立ってクラップしてみようか!”と呼び掛けるとステージを端から端まで移動して手を左右に振って笑顔を見せた。

バンドインストを挟み、ステージ上には先ほどの白の衣装とは一転、黒い衣装に身を纏ったAimerの姿が。ダイナミックな音像に身を任せるように、全身を振り絞りながら「escalate」を歌唱する。LED電球を吊り下げた照明(ドットイメージ)がAimerを取り囲み、彼女がその動きを操るように手を動かすシーンは、アニメのワンシーンを観ているような非現実感だった。このツアーでは電球を効果的に使った演出が多く、「春はゆく」でも床が桃色の粒で満ちる。散った桜の花びらのなかでAimerが歌うような光景は、視覚という観点から没入を実現させていた。



「ここからはノンストップでいくよ!」という彼女の言葉を合図にステージ両脇に設置されたモニターの電源が入り、晴れやかな表情で客席を見渡しながら歌う彼女の姿が映し出される。「この曲では一緒にジャンプしてみよう!」と告げた「We Two」ではピースサインがシンボリックな振り付けや軽快なステップを交えながらステージを走り回ってパフォーマンス。次々と高揚感を生み出す彼女はより自由に立ち回り、「残響散歌」へとなだれ込む。煌びやかなアレンジと演出のなかで楽しむ彼女は可憐で凛々しく、何よりも堂々としていた。

本編ラストは「ポラリス」。悲しみを越えていくような、遠くを見据えた歌声は、どこまでも天高く飛んでいく祈りのようだった。

アンコールではツアーグッズ紹介を通して、たっぷり時間を使い観客とコミュニケーションを取る。あらためて「これからもこの声が出る限り歌い続けたいです」と告げ、この日会場に足を運んでくれたファンへ感謝の気持ちを込めて深々と頭を下げた。この日最後に届けた「蝶々結び」の歌声は、歌詞とメロディに今湧き上がる思いを丁寧に編み込んでいくように、切実でありポジティブに響いていた。Aimerがアウトロで両腕を静かに広げると、観客は一斉にスタンディングオベーション。彼女は「最高だったよ、またいつか会おうね! ありがとう!」と笑顔で手を振りステージを後にした。



2時間という時間が、一瞬で通り過ぎていくようだった。没入とは我を忘れて夢中になるということなのだ。そんな空間をあの声だけで作る彼女のアーティストとしてのポテンシャルに圧倒されると同時に、あの声を輝かせるのは歌と音楽を通して“あなた”を愛するという勇敢な姿勢なのだと思い知る。Aimerの真骨頂を五感すべてで体感する、非常に濃密な時間だった。

取材・文:沖さやこ
撮影:加藤アラタ
※ライブ写真はすべて3月18日(土)@名古屋・日本ガイシホール公演の模様

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<Aimer Arena Tour 2023 -nuit immersive->

【愛知公演】会場:日本ガイシホール(愛知県)
■3/18(土)OPEN 17:00 / START 18:00 ※SOLD OUT
■3/19(日)OPEN 14:00 / START 15:00 ※SOLD OUT

【神奈川公演】会場:横浜アリーナ(神奈川県)
■4/15(土)OPEN 16:30 / START 18:00 ※SOLD OUT
■4/16(日)OPEN 14:30 / START 16:00 ※SOLD OUT

【大阪公演】会場:大阪城ホール(大阪府)
■5/20(土)OPEN 17:00 / START 18:00 ※SOLD OUT 
■5/21(日)OPEN 15:00 / START 16:00 ※残席僅か

▼チケット:全席指定8,800円(税込)https://www.aimer-web.jp/live/archive/?49787

ニューシングル「あてもなく」

2023年5月10日(水)発売
ご予約はコチラ → https://aimer.lnk.to/atemonaku_0510
発売形態・価格:
・初回生産限定盤(CD+DVD)/ VVCL 2245-2246:価格 1,760円(税込)
★「あてもなく」Music Video収録DVD同梱
★三方背ケース仕様
・通常盤(CD)/ VVCL 2247 価格 1,320円(税込)
・期間生産限定盤(CD+DVD)/ VVCL 2248-2249:価格 1,760円(税込)
★アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」描きおろしイラスト使用
ミニポスター&三方背ケース仕様 
★アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」
ノンクレジットエンディング映像収録DVD同梱

【CD収録内容】
※4曲目に収録のトラックは、「初回生産限定盤・通常盤」と「期間生産限定盤」で異なります。
1.あてもなく アニメ「王様ランキング 勇気の宝箱」エンディング・テーマ
(作詞:aimerrhythm 作曲:飛内将大 編曲:玉井健二、飛内将大 Strings Arrangement:室屋光一郎)
2.空噪wired
(作詞:aimerrhythm 作曲:百田留衣 編曲:玉井健二、百田留衣)
3.Life is a song
(作詞:aimerrhythm 作曲:キクイケタロウ 編曲:玉井健二、キクイケタロウ)
4.あてもなく -Instrumental- 初回生産限定盤・通常盤に収録
4.あてもなく -TV ver.- 期間生産限定盤に収録

All Songs Produced by 玉井健二(agehasprings)

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