【ライブレポート】After the Rain、セカイを彩る“春の音”

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そらるとまふまふによるユニット、After the Rainは4月30日にさいたまスーパーアリーナ(スタジアムモード)にて<After the Rain Tour 2023 - 春音 ->をスタートさせた。

この広い会場で2人の歌うひとつひとつの楽曲は色をなし、それぞれが重ね合わさって、あざやかな心象風景を描き出した。心が様々な感情を知り、雨上がりの空のようにセカイがクリアに色づく──After the Rainのライブにはそんな魅力があると思う。4月30日、わたしの心を彩ってくれたこの日のライブの模様をここに記しておきたい。


◆ライブ写真

OPENING SEにのせて、<After the Rain Tour 2023 - 春音 ->のビジュアルがスクリーンに映し出される。そしてカウントダウンが始まり、それがゼロをさしたところで黒のスーツを着たそらるとまふまふが登場。約4年ぶりのオフライン公演、約5年半ぶりのツアー開催、会場は歓喜の声であふれかえった。

そして幕開けの1曲「セカイシックに少年少女」が始まる。一斉に灯るペンライトがMVと同じ星空のようで、会場がAfter the Rainのセカイに溶け込んでいくようだ。そのペンライトの明かりが、今度は“子どもがこぼしたアイスクリーム”に変わり、2曲目にはそらるの優しい声から「アイスクリームコンプレックス」が届けられた。


ここでそらるが「最高なんだが!」と一言。対するまふまふは何を言うのかと思っていると、そらるが「泣いてる!? 目が潤んでるんだけどどうした(笑)」と。まふまふはどうやら“バカ緊張”しているらしい。といいつつ、「僕はソロをお休み中なんですが、こうして応援してくれるみなさまのおかげでステージに上がってくることができて……」と真摯な想いを伝えようとしたのを、そらるがすかさず「かたいなあ(笑)!」とツッコミ、まふまふは我に返ったように「本当にありがとうー!」と絶叫、ちょっと緊張がほぐれた模様。実は脚がずっと震えていたというまふまふと、サイコーって感じだったというそらる。この2人のキャラの良いバランスとステージ上のやり取りがすでに懐かしく、嬉しい。

緊張を和らげるために、まふまふは装備品・ギターを準備する。そらるも「気が重い」といいながら装備。「まふまふがギター弾きたくないですか?って言いだして、僕は別に弾きたくないって言ったのに弾かされることになった」と、そらるは消極的だ。が、ギターを構えた瞬間からロックスイッチがオン。ステージに火柱が上がり、男らしい声で、“狂犬”と叫ぶそらる。



始まったのは「負け犬ドライブ」だ。ここからはギターロックパートとなる。ライブ幕開けの2曲「セカイシックに少年少女」「アイスクリームコンプレックス」は大人になりたくない葛藤と、大人になっても消えない生きる悩みをシュガーコーティングしたような楽曲だったが、ここからのターンはギターにのせて、過去や自分と“対話”するような曲をまっすぐにつきつけてくれる。

「10数年前の僕たちへ」「夏空と走馬灯」では “いつか”の自分と“現在”の自分の姿がクロスオーバーして切なくなって、「わすれられんぼ」の歌詞には自分のちょっと悲しくて悔しかった過去を重ね合わせてしまう。歌う前の息を飲む音、フィンガリングノイズ、オフラインライブだからこそ感じる音のリアルさがより一層曲の解像度を上げるから、感情がざくざく抉られていく。痛いけれど、心地良いような気分だ。


なんてエモーショナルな気分になっていたら、ここでサプライズプレゼントが。「まふまふが書いた最強の1曲!」と言って2人はギターを下ろし、新曲「ナイトクローラー」を披露したのだ。疾走感溢れるダークロックで、“グッバイ”というワードが印象的な楽曲だ。間奏のツーバスからのギターソロに興奮、“眩しい君にこの気持ちがわかるもんかよ”という叫びも痛快だった。

ここでMCタイムに。今日この会場でライブができるのは浦島坂田船が「空いてるからどう?」(そらる曰く「うち来る?」のノリ)と言われたことがきっかけだったのだが、当初はとても埋まるとは思えなかったそう。2人とも怖かったが、蓋を開けてみると予想を上回る申込数で、今日もチケットはソールドアウト。この状況に、2人は改めて感謝を伝えた。そして、<春音>というライブタイトルには、辛かったこの数年間を越えライブや自分たちの活動が少しずつ元に戻ってきた状況を受け、長い冬が明けた先の春の音をみんなに届けたいという思いが込められていることが語られた。

そして続いては、まふまふが「青春感がオタクにはキツくて、MV見てて辛かった」という、「恋の始まる方程式」。まさに<春音>にふさわしい選曲に、会場からは悲鳴のような歓声が上がった。そらるとまふまふのハモリパートと掛け合いが、それぞれ恋に落ちる2人そのものを表しているようで胸がときめく。曲中で思わずまふまふが「うわぁ青春を肌で感じる! なんだこの明るい曲は!」と叫ぶほどに。


この「恋の始まる方程式」からは、「2人」に寄ったセクションだった。四つ打ちのリズムに複雑な展開がのる「モア」はAfter the Rainの活動をしていく中で「お互い目を見て話すことが大事だ」という思いを込めて制作された曲で、死が2人を分かつ「アイスリープウェル」は永遠に変わらぬ相手への想いを描く。大切な人との向き合い方を教えてくれる楽曲群だ。このセクション最後を飾るのは、「四季折々に揺蕩いて」。After the Rainの楽曲の中でも特に幻想的で不思議な美しい物語の曲だ。四季折々のように変化していく中でも大切にすべきものを思い起こさせてくれる。

こんなにたくさんの感情と情景を描くAfter the Rainを、最高の演奏で支えてくれるバンドメンバーによるインスト曲を挟んで、ライブは後半戦へ。火花の上がるステージに、和ミックスな白い衣装で再登場したそらるとまふまふ。元気いっぱい「1・2・3」を歌いながら、アリーナ中央に設けられたステージまで花道をニッコニコで歩いていく。「ネバーエンディングリバーシ」では中央ステージの上手と下手に分かれ、まふまふからは「この景色を見たら、僕たちまだまだやっていけそうだな!」の言葉も飛び出す。


続けざまに「脱法ロック」が繰り出され、会場はおもちゃ箱をひっくり返したような賑やかさに。中央ステージの上手と下手にはクレーンが出現し、スタンド上部の席のファンからも肉眼で顔が見える高さまで登っていく2人。とてつもないスーパー高音を繰り出しながら、クレーンの枠に足をかけて身を乗り出すまふまふ。対照的にクレーンが上がり始めた時からしゃがみこんで身を小さくして歌うそらる。その様子もとても可愛くて、ファンも湧く。続いても“歌ってみた”曲の「ロキ」。歌い手としての真骨頂とも言える怒涛の2曲で、会場の熱がさらに上がったのを感じた。

ちなみに、高所恐怖症のそらるは「脱法ロック」でのクレーンが嫌だったものの、浦島坂田船が同じような演出を行ったことから、「俺が怖いっていう理由でやらないのは違う」と覚悟を決めたらしい。だが、やってみて「人にはできることとできないことがある」と悟ったようで、繰り返し「嫌だった…」と。まふまふからは「さっきまで流暢にMCしてたのに!」と突っ込まれていた。その後も衣装紹介をしたり、ライブ前の裏話をしたりとゆるいトークが続く。台本も何もなくてそのままのノリで話してくれているのも、オフラインライブらしくて嬉しい一幕だ。そらるは「久しぶりのライブでも待ち望んでくれていたんだと安心できました」と言っていたが、観客の方も変わらない2人のライブに安心していたはず。


そしていよいよライブは終盤へ。After the Rainの真骨頂とも言える切ない和風の楽曲が届けられる。「折り紙と百景」は、スクリーンに映し出されたお社の前に立つ2人のシルエットが神々しく、会場全体が凛とした空気に包まれる。「四季折々に揺蕩いて」にも思いを馳せつつ、美しく壮大なメロディに胸がいっぱいになる。その心の琴線を、そらるの優しい声がそっと撫でる「夕刻、夢ト見紛ウ」。

そして、儚く柔らかいまふまふの歌声で「桜花ニ月夜ト袖シグレ」が始まる。叶うことのない恋の歌にも、After the Rainの曲がいつどんな時もそばにあることを歌っているようにも思える、大切な歌だ。スクリーンに浮かぶ月と桜吹雪、それにリンクするピンク色のペンライトの光の波。そんな美しい光景の中に響き渡るそらるとまふまふのハーモニーに、思わず涙腺が緩んでしまう。最後、スクリーンに映された大きな桜の木の根元に消えていく、そらるとまふまふ。まるで夢をみていたかのような、素敵な物語が終わった。


…と、ここまでが本編。この後には、とびきり楽しいアンコールが待っていた。白いトップスに黒いパンツというお揃いコーデで登場したそらるとまふまふは、トロッコに乗り込み「世界を変えるひとつのノウハウ」「絶対よい子のエトセトラ」を歌いながらアリーナを一周。「AtR! AtR!」と叫び飛び跳ねながらファンの目の前で歌う2人に呼応するように、会場は大盛り上がり。メインステージに戻った2人も「この2曲やばい」と息も切れ切れだ。ちなみにトロッコは本当に観客の目の前を通ったため、そらるは「裏でめっちゃ香水ぶっかけてきた!」とのこと。距離が近すぎたことで、「汗が飛んできてきもいとか言われたらどうしよう」というまふまふをいじって、“まふまふ 香水くさい”がトレンド入りしたらどうしよう、いやいや“そらる くさい”かもよと、わちゃつく2人。可愛い。



そして星屑を散りばめたような「テレストリアル」を経て、「セカイシックに少年少女」から始まったライブを締めくくる本当のエピローグは、「彗星列車のベルが鳴る」。終わってほしくないけれど、“夢が覚めていく”。4年ぶりに実際に対面できたこの日のライブのためだったのではないかと勘違いしてしまうほど、いまの感情に寄り添っている歌だと思ってしまった。でも、別れは終わりのようで始まりでもあり、新たな物語へのイントロダクションでもあるはず。

まふまふ「今日楽しかったよ、ありがとう!」
そらる「楽しかったしか出てこないわ! 元気に過ごして、また会おう!」

またAfter the Rainに会いたい。今日その音楽で、素敵な景色をたくさん見せてくれたから。それは時に切なくて、時に悲しくて、そしてとても優しい心象風景だった。またライブでこの気持ちを味わえる日を楽しみに、また今日からも歩いていけそうだ。

取材・文◎服部容子(BARKS)
写真◎小松陽祐[ODD JOB] / 堀卓朗[ELENORE] / 加藤千絵 [CAPS] / 笠原千聖[cielkocka]

セットリスト

セカイシックに少年少女
アイスクリームコンプレックス
負け犬ドライブ
10数年前の僕たちへ
夏空と走馬灯
わすれられんぼ
ナイトクローラー
恋の始まる方程式
モア
アイスリープウェル
四季折々に揺蕩いて
1・2・3
ネバーエンディングリバーシ
脱法ロック
ロキ
折り紙と百景
夕刻、夢ト見紛ウ
桜花ニ月夜ト袖シグレ

世界を変えるひとつのノウハウ
絶対よい子のエトセトラ
テレストリアル
彗星列車のベルが鳴る


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