【インタビュー】亜咲花、新たな扉を開いた「追想」

ポスト

アニソン歌手・亜咲花が、6月にリリースした最新アルバム『Who's Me?』収録曲「追想」のミュージックビデオを公開した。

◆「追想」MV

亜咲花は2016年に高校生アニソンシンガーとしてデビュー。歌唱力を武器に、映画『ゆるキャン△』オープニングテーマ「Sun Is Coming Up」、TVアニメ『サマータイムレンダ』2nd オープニングテーマ「夏夢ノイジー」などさまざまな作品のテーマソングを歌ってきた。

そんな彼女のイメージをグッと変えるのが、この「追想」ミュージックビデオ。自身が書いた詞にあわせたシチュエーションで、“オトナ”な姿を見せている。

今回BARKSではこのミュージックビデオ公開を機に、「追想」とアルバムについて、そしてアルバム曲がどうライブで変化したかを亜咲花にインタビューを行った。

   ◆   ◆   ◆

▪️昭和歌謡の奥深さを勉強することができました

──6月28日にリリースされたアルバム『Who's Me?』のラストを飾る「追想」のMVフルバージョンが、8月10日に公開されました。この「追想」はしっとりとした昭和歌謡ナンバー。そもそもどうして昭和歌謡テイストの楽曲を歌ってみようと思われたのですか?

亜咲花:今回のアルバムはタイアップ曲が多くて、いろんなジャンルの楽曲を歌っているのですが、その中でやっていないジャンルの歌を歌いたいなと思っていろいろと考えたところ、あとはラップか歌謡曲か演歌しかないなと思って。それで今回は歌謡曲をやってみようかなと、本当に思いつきで出した提案だったんです。そこから中森明菜さんやいろんな方を手掛けていらっしゃる都志見隆さんに編曲をお願いしたり、ベテランの方にサックスを吹いていただいたりと、自分が最初に想定していたよりも数倍壮大な話になっていったので、これは亜咲花も本気で歌謡曲をやらなきゃいけない、と(笑)。なので、レコーディングもかなりこだわり抜きました。

──どんなふうにこだわりましたか?

亜咲花:普段はわりと声質をしっかり作って、芯のある力強い歌い方を意識しているんですが、いつもの自分の引き出しでいってしまうと歌謡曲の良さとか哀愁感が消えてしまうので、普段の亜咲花のスタイルではなく、歌謡曲に寄り添っていこうと思いました。ちょっと声を細くして、あえてビブラートの波形を大きくして、70年代80年代初期を彷彿させるような表現をしましたね。一人の男の帰りをただただずっと待つ女性をイメージしながら。とにかく哀愁感を大事にして歌ってみました。


──歌謡曲に作詞をするのも初チャレンジですよね。歌詞はどのようにイメージを広げていかれましたか?

亜咲花:昔の曲って、聴いているだけで景色が浮かんでくることが多いなと思っていて。晴れだったら晴れ、雨だったら雨って、天候でさえ聴きながらすべて頭の中で思い描けるんですよ。なので今回はそんな歌謡曲をリスペクトした形で、“歌謡曲ってこういう言葉がよく入っているよね”って思い浮かべる言葉を、いろいろとピックアップしました。たとえばトレンチコートとか、ネオンとかグラスとか。今の時代、“カモメ”とか“波止場”っていう言葉もなかなか使わないと思うんですよ。私は昭和歌謡の時代をリアルタイムで知っているわけではないので、親やマネージャーさんなど、まさにその時代を生きてきた人にリサーチをしたんです。亜咲花だけの独断で書いていくと、今の若者が思い描く昭和感っていう、作り物感が出てしまうと思うので、大先輩方に実際に聞いたことによって、よりリアルさが出たんじゃないかなって思います。

──歌謡曲の作詞に挑戦してみて、何か気づきはありましたか?

亜咲花:最近の曲は言い方がちょっと変化球というか、カーブしたり寄り道をして最終的に言いたいことに辿り着くような言い回しが多かったりするんですけど、歌謡曲のいいところは言葉を変化球ではなくストレートに伝えるところだと思うんですね。だから変に斜に構えたり、背伸びすることもなく、ただただ伝えたいこと、自分が書きたいことを包み隠さず伝えるっていうことが楽しかったなと。ただ聴いている分には深く考えることなく“いい歌だな”で終わっちゃうんですけど、自分が歌詞を書くクリエイター目線で見た時に、それまで見えてこなかった昭和歌謡の奥深さを勉強することができました。

──歌唱法もこれまでの亜咲花さんとは少し違いますよね。

亜咲花:ウィスパーボイス8割(笑)。なんて言ってるんだろう?っていうぐらい、ちょっと大袈裟な感じで歌ってみました。イメージは八代亜紀さん。大人の女性っていうイメージで。歌詞の内容も、男性の帰りを待っている、一周回って達観した女性の歌なので、焦らずゆっくりと、しっとりと歌うということを徹底しました。

──その“しっとり感”は、亜咲花さんも持ち合わせているものですか?

亜咲花:私はまったく真逆の人生ですね。とにかく熱い女なので(笑)。待つことができない。むしろ追いかけてる(笑)。80年代になるとアイドルが出てきて純粋なピュアなラブソングが増えてくるんですけど、70年代は“振り向いてくれなくてもいいから”とか“二番目の女でいい”みたいな歌詞が多い気がしたので、ハッピーエンドではなく報われない女性を書こうっていうのが大前提にあって。渡辺真知子さんとか、髙橋真梨子さんとかが好きなので、“プライドも夢も捨ててあなた一直線でいくわ、報われなくても”っていう感じに仕上げました。そいうのってカッコいいと思うんですよね。そこまで一途になれるって、誰にでもできることじゃない。最近はスマホでも好きって言えちゃうし、お付き合いに至るまでの過程もデジタルで済むことも多いじゃないですか。昔は手紙を書いたり、駅の掲示板に書いたりして、すぐには届かない。そのもどかしさ、歯がゆさがいいんです。



──「追想」のMVでも“待つ女”を表現されていましたね。

亜咲花:昼間の海の風景は三浦海岸の港の方、夜のシーンは横須賀の街ですね。ご協力いただいたスナックは船着場のすぐ近くにあって、ママさんがすごく優しくて可愛らしい方だったんですよ。そういう場所で“余裕のある女性”を撮りたかったんですけど、微笑んでるのも何か違うし、かといってずっとムスッとしてるのも違うし、表情のバランスが難しかったですね。ただ待っているだけじゃなくて、包容力がないとダメだなと思ったんですよ。その辺の切羽詰まってない感じ、“いつでも待ってるよ。私は焦ってないから”っていう感じを意識しました。

──黒髪や衣装も雰囲気に合っていましたね。

亜咲花:実は衣装も自分で探して買いに行ったんですよ。最初はもうちょっと肌色が見えるようなレースっぽいものの方が夏っぽくていいのかなと思っていたんですけど、それだとどちらかというとスナックのママさん側に見えちゃうかなと思って。そうじゃなくて、私はお客さんとしてお店を訪れている設定にしたかったので、アクセサリーなども付けずに黒のワンピース一枚、シンプル・イズ・ベストを目指しました。傘の色ひとつとっても、“黒がいいかな”“白がいいね”なんてスタッフさんたちとワイワイ言いながら、みんなで一緒に作っている感じがすごく楽しかったです。タイトルの文字までこだわりましたから。カラオケの後に流れている映像を意識しました。


──たしかにカラオケ映像感がありますね(笑)。この「追想」をカラオケで歌うとしたら、どんなふうに歌えばうまく歌えますか?

亜咲花:感情的にならないことです。あえて俯瞰して、神様的な目線で歌う(笑)。歌謡曲ってどうしても熱く歌いたくなると思うんですけど、私がリスペクトしているちあきなおみさんは、哀愁感あふれる曲を真顔で歌うんですよ。それが切ないんですよね。歌い上げるのではなく、気持ちを落ち着かせて余裕のある感じで歌うと、すごくいい味が出ると思います。

◆インタビュー(2)へ
この記事をポスト

この記事の関連情報