【インタビュー】竹原ピストル、弾き語りならではのあたたかく親密な空気感に浸る最新ライブアルバム『One for the show』

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なんとCD3枚組、全57曲で222分。前代未聞の物量で迫りくる、竹原ピストルの最新ライブアルバム『One for the show』。あまりの重量感に思わず身構えてしまったあなたに、安心してほしいとあえて言おう。ここで聴ける竹原ピストルの歌はどこまでも優しく包容力に溢れ、アコースティックギターの音はみずみずしく美しい。時に激しいパワーもぶちまけつつ、弾き語りならではのあたたかく親密な空気感に浸るうちに、気づいたら3枚を聴き終えてしまう。野狐禅としてのデビューから20年、竹原ピストルはいかにしてこの境地に至ったのか。最新語録に耳を傾けよう。

■何かの間違いでこのアルバムを手に取ってくれたら
■「いろんな歌を歌うんだ」と思ってもらえる3枚でもある


――2022年から2023年にかけて、47都道府県を2周したツアーから選曲した3枚組、57曲で222分。正直、聴く前はビビってたんですけど、予想以上にすっと聴けたんです。それはみなさんに声を大にして言いたいです。ビビらずに聴けと。

竹原ピストル(以下、竹原):ありがとうございます(笑)。

――もともと、ライブアルバムを作ることは、ツアー前から決めていましたか。

竹原:ツアーに入る時には決まっていましたけど、なんでライブ盤を出そうと思ったか、については、これといったきっかけはなかったりして。「そういえばライブ盤は出してなかったね」って、思い出したのも一つの要因ですし、あとはメジャーデビューして20周年で、切りのいい数字だし、出してもいいかなと思って、じゃあ録音してみようということになったんです。当初は57曲にまでなるとは思っていなくて、でもせっかく録音してるし、久しくやってない曲もやるようになって、どんどんレパートリーが増えていって、こうなっちゃった感じです。

――ツアー中、全箇所で録音したわけですか。

竹原:全箇所で録りました。一緒に回っているPAさんが録ってくれたんですけど、「大変だったでしょ?」って聞いたら、「システム的には複雑なものじゃないから全然いけますよ」と言ってました。

――録るのも大変ですが、聴くのも大変。全部聴いてチェックしたんですよね。

竹原:僕は全部聴いてないです。さすがに、聴きながらツアーを回るのは不可能だったんで、レコード会社のディレクターさんにお任せして、「この曲だったらどの日のテイクが良いですか」って、三択ぐらいに絞っていただいて、僕が聴いて選ぶみたいな感じでした。僕はただ選択しただけで、全部聴いてくださった方は本当に大変だったと思います。

――レコーディングの際も、「ボーカルディレクションは誰かにやってほしい」というボーカリストは多いですよね。まずは誰かに選んでもらうのが良いのかも。

竹原:あと、下手に聴き直すと、それに引っ張られたりするんで。「ここはこう歌ったほうがいい」とか、意識しだすとつまんなくなっちゃうから、録音していることをなるべく意識しないためにも、ツアー中には聴き直さなかったです。


――どうですか。自身で聴き直した、初めてのライブアルバムの出来栄えは。

竹原:おっしゃってくださったこと、そのままになっちゃうんですけど、聴きやすかったです。けっこうポンポン行くから、曲自体も短いものが多いし、「もう2枚目の途中だ」ぐらいの感じで聴いていました。あと、自分が初めて完成した音源を通して聴いたのが、夜中から朝方にかけてで、なんとなく聴き始めたら止まんなくなっちゃって、「その時間に合うな」とはちょっと思いました。つけっぱなしのラジオみたいに、なんだかずーっと歌っている奴がいて、ぼーっとして過ごしたあの時間が意外と気持ち良くて。どう聴いていただいても嬉しいですけど、ひとりぼっちでポツンと聴いてくれたら、しっくりくるアルバムなのかなとも思いました。

――その感覚はわかるような気がします。選曲で言うと、この曲はどうしても入れたい、という曲はありましたか。

竹原:最近のアルバム収録曲は入れたい、というのはあったんですけど、あとは、たとえば「オールドルーキー」とか、野狐禅を解散した節目で作った曲だったりとか、もう一回メジャーでやり直すんだぜ、という「俺のアディダス~人としての志~」とか、特別思い入れのある曲は入れたいなとは思っていましたね。あとは、自分のやってきたこととして、カバー曲も入れたいと思っていました。とりあえず、やってきたことは全部入れたいというのが当初の設計図で、そこから「こんな歌あったっけ」って思い出して、どんどん増えていって、稼働した曲数は100曲以上になりますね。これでも削っての57曲なんで(笑)。



――あらためて、すごいボリュームです。

竹原:ただただいつも通り一生懸命、無我夢中で回ったツアーではあったんですよ。でもこうやって音源になって聴いてみると、我がことながら感慨深くて、「この曲を書いた時こうだった」とか、思い出しちゃうし、文字通りのアルバムというか、作って良かったなと思いました。いい一区切りになって、次からまた頑張ろうという気持ちになりましたね。

――あと、これは絶対言いたかったことがあって。失礼に聴こえたらすみませんけど、ギター、めっちゃうまくてびっくりしました。

竹原:いやあ、うれしいです。

――特に繊細なアルペジオが、たとえば「Forever Young」とか、うまっ!と思いました。自分で思いませんか。

竹原:いや、僕は…コンプレックスの裏返しじゃないですけど、たとえばアルペジオでも、一定のテンポで弾くことができないんですよ。ギターに合わせて歌うんじゃなくて、歌の合いの手として弾いているので、よれるし、もたるし、走るし、でもこれしか弾けないからいいかって開き直ったんです。そういう選択をした上での今のプレースタイルなんで、「うまいですね」と言っていただいても、「うまいんです」とは素直には思えないところがある(笑)。でもそう言っていただけると、「いやいや」と思いつつも嬉しいです。


――すみませんついでにもう一つ言うと、いかつい歌を歌う竹原ピストルという先入観って、世の中にけっこうある気がしていて、だからこそこのアルバムでは、竹原さんの優しさや柔らかさがすごく出ている印象を受けたんですね。

竹原:そうなんですよ、って自分で言うのも変なんですけど(笑)。平たく言うと、いろんな曲を歌う人間なんです。でも「テレビに出た、ここで一発勝負だ、1曲なんか歌うぞ」という時は、どうしても印象がほしいから、ドン!とした曲をやりますから、そこでイメージがついていきますよね。それは自分が望んだことなので、何の不満もないですけど、何かの間違いでこのアルバムを手に取ってくれたら、「いろんな歌を歌うんだ」と思ってもらえる3枚でもあるかなと思うんですけどね。それも、聴きやすさの一つだと思います。ずっと「ギャー!」って言ってるわけじゃない(笑)。

――あともう一つ、今の時代にもフィットしていると思いました。人がコロナ禍で疲弊して、優しいものを求めていたり、耳元で語り掛けるような歌が求められる中で、竹原さんのライブの歌声はすごくフィットするなという、個人的な感想があります。そういう意味で、やはり「歌は世に連れ」というものは、あると思いますか。

竹原:うーん、正直、意識したことはないですね。時代の流れとかにも疎いような気がしますし、ただずっと歌ってきただけなんで、世の中の流れとかはわからないです。それを良しとするわけではないんですけど。それに対して、いつまでもかっこ良いベテランさんがいたり、すごい新人が出てきてワーッとなったり、その中にいると、ライブシーンはずっと変わってないような気がします。たとえば「最近の若者をどう思いますか」みたいな質問を時々受けたりするんですけど、「みんなかっこ良いな、すごいな」というのがずっと続いているだけで、何とも言えないし、ライブ会場からの景色しか知らないんですよ。

――そこはずっと変わらない。

竹原:そう思います。

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