【トークイベント完全再現】SUGIZO × ESP、“音楽×ファッション”を語る「MADE IN JAPANを使いたい」

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■ECLIPSE E-Vは最終形というか
■一生ものだと思っています


──そんなSUGIZOさんの最新モデルというとセミアコのECLIPSE E-Vですね。

SUGIZO:新しいギターなんですが、発案自体はかなり昔です。最初のテストモデルができたのが1997年なので。それからずっとESPさんとセミアコを共に追求してきましたが、そこから26年かけて今年、ついにベストなサウンドを得ることができました。

──最新モデルと1997年製作モデルはボディーサイズ含めていろいろと仕様が違うんですが、当初のギターはいわゆるバインディングという装飾材も褪色して黄色くなっています。最初は白だったんですよね。当時から経年変化が起こっているという。

SUGIZO:これはラッカー塗装だからそうなっているんですよね。この時から進士さんとは一緒に仕事してましたけど、当初から根本的なコンセプトは変わってないんです。セミアコでアームを使いたい、ただそれだけ。世の中にはそれが存在してないんです。実はこの30年、ESPと作ってきたものって、存在してないから作りたいっていうギターが多かったよね。

進士:多いですよね、トリプルネックを含め(笑)。


──なぜ、存在しないのか?っていうことを逆説的に考えたほうがいいと思うんですが(笑)。

SUGIZO:…必要ないからか(笑)。でも、セミアコにアームが付いているギターが形になって世の中にリリースされたら、ニーズは絶対にあると思う。たとえば、STシェイプにP-90を搭載した僕のギターがそうじゃないですか。本家FenderさんがストラトにP-90を載せましたからね。

進士:光栄なことに。どう考えてもSUGIZOさんの影響です。

SUGIZO:あと、フレットレスギターはマニアックながら存在してましたけど、フレットレスギターにサスティナーシステムを搭載することは誰もやってなかったですね。

進士:それもSUGIZOさんの発明です。

SUGIZO:だから、実は僕らは発明チームなんですよ。あえて変なことをやろうとか誰も使ってないものを作りたいと思っているわけじゃなくて、欲しいものが世の中にないんです。それで30年やってますね。

進士:ただ、実際に形になっているのって、SUGIZOさんから10のアイデアをいただいたとして、そのうちの1つか2つなんですよ。常にこちらが想像もしないような発想が出てくるので。

SUGIZO:話をセミアコに戻すと、やっと思い描いていたベストなサウンドとベストなバランスのセミアコができました。僕の中では1995年から始まったESP ECLIPSEとSUGIZOのコラボレーションがあって、ECLIPSE E-Vはその最終形というか、一生ものだと思っています。

進士:ありがとうございます。


▲<ESP CRAFT HOUSE 40th Anniversary Exhibition『SUGIZO Museum -MUSIC×FASHION-』>

──もう少しECLIPSE E-Vについてお訊きしますが、セミアコにアームが付いているギターというとビグスビーがありますよね。

SUGIZO:そう。セミアコやフルアコにビグスビーアームというのは存在してます。グレッチにもギブソンにも搭載されてるけど、僕は嫌いなんですよ。

──音程をいじるという意味では同じですけど、操作性も効果も全然違いますからね。

SUGIZO:全くその通り。チューニングが悪いですし、音も悪くなる。なによりもあれはルックスがいいだけで、必要ないでしょ(笑)。セミアコでシンクロナイズドトレモロっていうことが重要なんです。1997年当時、僕はフロイドローズを使っていたので、当初はフロイドローズを載せていたんですけど、この20年はシンクロナイズドトレモロを使用している。それってこの世の中に存在していないんです。こんなに簡単な発想なのに、なぜ世の中に存在しないんだろうって。

進士:単純に言うと構造上、難しいんです。

SUGIZO:僕の認識だと、フルアコは無理だけどセミアコは真ん中にセンターブロックがあるから、トレモロユニットが搭載できるんじゃないかと思ったんですね。

進士:通常のセミアコってボディーのトップとバックで挟んで成り立っているので、そこにギターとしての強度を求めると危険なんですね。

SUGIZO:リスクがあるんですね。でも、ECLIPSE E-Vが今後製品化されたら、ジャズ/フュージョン畑からのニーズが絶対にあると思う。新しいスタンダードになれるかなと思っていて。もちろん、肝心の音がショボかったら意味がなくて、これまではいろんな面で惜しかったんですけど、やっとここまできたなって。


──「世の中にないものが欲しかっただけ」という象徴的な発言がありましたが、高栁さんはファッションデザインとか、SUGIZOさんとの関係性の中で思い当たるところはありますか?

高栁:細かいデザインに関してはけっこう任せてくれるので、何も言われないですね。ただ、バランス感覚と、本人にしかわからないであろう着心地、機能性にはすごくこだわっていらっしゃいますね。

SUGIZO:ふたつあるんです。はっきり言って撮影用とか普段着用はどうでもいいんです。普通に服であれば大丈夫。ただステージ衣装は、衣装であると同時にアスリートのユニフォームなんですよ。だから、カッコいいという以上に動きやすさとか稼働範囲がすごく重要なんです、ステージ上ではすごく激しくパフォーマンスするので。アスリートって言いましたけど、むしろダンサーに近いですね。着心地の悪い服やシューズでダンサーは本番を踊らないですよね? 今僕はドクターマーチンの靴を履いてますけど、足下で細かくスイッチングを切り替えるステージ上では履くことはできない。つま先部分が細くないと操作しづらいとか、そういう多くの制約があるんです。高栁さんとはもう10年〜15年、一緒に作ってくれているので、そのこだわりをわかってくれてますね。

高栁:ステージで見ると、“ただただカッコいい服”と思われてしまいがちなんですけど、全く違って。SUGIZOさんがさっきおっしゃったようにカッコいい以前に機能性とか、ステージ上での取り回しのしやすさとか。だから見た目は重そうですけど、実は軽いとか。そこはすごくこだわられていて、本当にステージのための衣装なんですね。

SUGIZO:難しいのは、軽すぎると風になびいた時にカッコ悪い。ちゃんと暴風を浴びることも考えているので(一同笑)。本当だよ。

──なるほど(笑)。

SUGIZO:年をとればとるほどわがままになるというか、我慢したくないんですよ。特にステージではね。演奏の邪魔になるものが一切ダメになってしまった。昔はカッコつけるために着にくい服とか着てましたし、普段はルイスレザーズのライダースが好きで着てるけど、ステージでは絶対に着たくないですね。昔みたいにあんな長い髪でライブなんかやるものじゃないし(笑)。今はカッコいいことと同等に、演奏しやすいもの。袖口をロールアップするとか、左手には指輪しないとか、右手には重たいブレスレットしないとか、今は決まりがあって。逆に言うと、経験を積めば積むほど、よりいい演奏がしたいということに意識が向いて。自分が本当に納得する表現をして、それをお金払って観に来てくれているみんなに届けたい。責任感ですよね。



▲<ESP CRAFT HOUSE 40th Anniversary Exhibition『SUGIZO Museum -MUSIC×FASHION-』>

──なるほど。そういう会話はミュージシャン同士でもプロフェッショナルトークとしてされるんですか?

SUGIZO:あまりしないかもしれないですね。変な言い方ですけど、そういうところでは多くのロックミュージシャンとは気が合わない(一同笑)。

──問題発言(笑)。聞かなかったことにしてください(一同笑)。

SUGIZO:ははは。演奏とか表現の突き詰め方はジャズミュージシャンのほうが話が合いますよ。そして特に話が合うのはコンテンポラリーダンサーですね。彼ら彼女たちって、リハーサルの数時間前に来て、ずーっとストレッチをしてるんです。ある芝居では宝塚の方とご一緒したんですけど、その主演の方が誰よりも早くリハーサルに来て誰よりも遅くまで残ってるんです。リハーサルが終わってからも個人練習を入念にしていたりね。ところが、ロックミュージシャンはリハーサルが終わったら、「さあ、飲みに行こうぜ」って。僕はそういう人とあまり気が合わない(笑)。だから、「SUGIZO、なんでそんなにやるの?」って言われるんですけど、「僕はキチガイだから。ゴメン」って言うんです。それがコンテンポラリーダンスや芝居の世界だと、それが当たり前なので「よかった。俺、ここだったら生きていける」って思えて安心するんですよね。

──そういう世界のトップで活躍している方々と交わることによって、今までにない表現が生まれたりするんですね。

SUGIZO:そういう意味では、表現の世界のトップに立てていないですけどね。肉体的には50代だから、そろそろ30代の方々には敵わなくなってきていると思うし、ここまでだったかと諦めているふしもあるんです。当時の自分と比べたらスピードや瞬発力や耐久力は落ちているはずなので、違ったところで勝負するしかない。なので、“30代のうちにジャズのスキルをもっと身につけておくべきだったな”とか“フラメンコを習得しておくべきだったな”とか、技術的とかフィジカル的に要求される部分は、若い時にやっておけばよかったなって。

──でも、重ねてきたからこそわかった領域というのもありますよね。若い時にアリーナツアーを経験していなければ、今のようなことを思わなかったかもしれないですし。

SUGIZO:たしかに思わなかったかもしれない。でも、これだけ長くやっていても全然到達できてなくて、才能なかったんだなって打ちひしがれてますよ。たとえば、明日(7月23日)は知り合いのジャズミュージシャンがリーダーとなって主宰する大きなコンサート(<サマーナイト・ジャズ ~宮本貴奈ホールアドバイザー就任記念スペシャル>)に参加するんですけど、日本で最も尊敬する同世代のギタリスト、小沼ようすけさんとセッションするんですね。スピードもスキルもセンスもタッチも音楽理論も、全てが僕から見ると完璧で世界最高峰。そういう人と演奏すると足下にも及ばないって実感するわけですよ。“あと10年でこのレベルに行けるかな”と思ったりとか。


──SUGIZOさんとお話するとよく「時間が欲しい」って言いますよね。

SUGIZO:時間がないね。全然ない。

──BARKSで何度もお話させていただいているんですけど、印象的な言葉がたくさんあって。インプロヴィゼーションでセッションを楽しむ前に「キーは? テンポ?」みたいな話はミュージシャンはみんなするし、それが普通だと思ったんです。ところが、SUGIZOさんは以前、先輩ジャズミュージシャンから、「キーなんかどうだっていいんだよ。まずは音を出すこと」って言われたそうなんですよね。

SUGIZO:近藤等則(トランペッター)さんですね。

──その時にSUGIZOさんがおっしゃっていたのは、「音楽は会話と同じ」ってことで。「まずは会話して、どんな話になるかはそれからでしょ」って。つまり、普通の会話では、「今から昼食のことについて話しましょう」なんて設定しないですよね。音楽も同じ。そういう領域に達している人なので、みなさんはSUGIZOさんの発言を額面通りに受け取らないようにしてくださいね。

SUGIZO:近藤さんもPANTAさんも亡くなって、坂本龍一さんもそうだし、僕の大切な先輩たちがどんどん先にいなくなってしまいます。

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