贅沢で幸せな13曲の物語『スタジオジブリ トリビュートアルバム「ジブリをうたう」』

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スタジオジブリの音楽へのトリビュート、武部聡志のプロデュース、そしてジブリを愛する選りすぐりのアーティスト。これだけ揃えば素敵な作品になることは聴く前からわかる、『スタジオジブリ トリビュートアルバム「ジブリをうたう」』はそんなアルバムだ。初期作『風の谷のナウシカ』『天空の城ラピュタ』から30数年にわたり、あらゆる世代の記憶に残る国民的アニメ映画の音楽が、「ジブリ音楽のトリビュートを作ることが夢だった」と語るマエストロ武部のアレンジで生まれ変わり、「あの人がこの曲を?」と、新鮮な驚きも含めて多彩なアーティストがカバーする。聴き進むごとに新たなシーンが目の前に開けてゆく、それはとても贅沢で幸せな13曲の物語。


▲写真左上より右下:家入レオ、幾田りら、岸田繁(くるり)、木村カエラ、GReeeeN、渋谷龍太(SUPER BEAVER)、角野隼斗、玉井詩織(ももいろクローバーZ)、松下洸平、満島ひかり、Little Glee Monster、Wakana。

幕開けを飾るのは、岸田繁(くるり)の歌う「となりのトトロ」だ。くるりのアルバムに入っていても違和感のないギター中心のバンドサウンド、爽快なピアノとオルガン、岸田自身が手掛けたコーラスアレンジに、ちょっぴりラテン風味を効かせた踊れるアレンジが、ここから始まるシン・ジブリワールドへの魔法の扉を開ける。続く「カントリー・ロード」を歌うのは俳優、シンガーソングライターとして活躍する松下洸平で、低音域の映える魅力的な歌声を響かせ、原曲の持つ軽やかな郷愁に大人の落ち着きと深みを付け加える、アクターならではの表現力はさすがの一言。ファンキーなギターとコーラスをフィーチャーした、スワンプロック風のグルーヴもかっこいい。

歌い出しを聴いた瞬間に「おおっ」と声が出たのは、幾田りらの歌う「いのちの名前」。YOASOBIのikuraとは違う世界線の上で、雄大なオーケストレーションをバックに柔らかく優しく歌う歌声は、限りなく透明に近いブルーのようにどこまでも澄み切って一点の曇りもない。YOASOBIファンにこそ聴いてほしい名唱だ。一転して、リズミックなバンドサウンドとバイオリンが導く「君をのせて」を歌う家入レオは、彼女らしい凛とした歌声を強く響かせながら、緊張感と包容力を兼ね備えた独自の空気を作り出す。どことなくケルトや北欧を思わせるアレンジがとても映像的で、映画『天空の城ラピュタ』とはまた違う色彩が浮かんでくるのが面白い。

得意のアカペラで歌い始め、ソロボーカルを繋ぎながらコーラスを重ね、雄大な世界観を作り上げてゆく。「テルーの唄」を歌うLittle Glee Monsterの歌唱力と表現力には、ブラボーという言葉しか浮かばない。現体制のリトグリは個性派ボーカルが揃っているので、一人一人の魅力の発見にもうってつけのナイスバージョンだ。そしてピアニスト・角野隼斗による「人生のメリーゴーランド」は、角野のソロピアノと鍵盤ハーモニカの組み合わせで、自由に歌うように踊るように、久石譲のメロディに若くフレッシュな感覚を添えて伸びやかに。インストゥルメンタルだが、歌心の豊かさではどのシンガーにも引けを取らない、角野隼斗らしさ満開の演奏だ。


▲『スタジオジブリ トリビュートアルバム「ジブリをうたう」』通常盤


▲『スタジオジブリ トリビュートアルバム「ジブリをうたう」』ジブリ関連ショップ限定盤

景色はどんどん変わってゆく。原曲のテクノアレンジを正統的にブラッシュアップしたトラックの上で、玉井詩織(ももいろクローバーZ)が「風の谷のナウシカ」を歌う。松本隆、細野晴臣の名コンビによる楽曲に、何色にも染まれる純朴な彼女の声が溶け込んで、時代を超えたポップスが出来上がる。楽曲、アレンジ、歌い手の組み合わせの重要さがよくわかる例だが、それは「ルージュの伝言」を歌う木村カエラについても同じこと。オールディーズ感いっぱい、軽快なシャッフルビートのバンドサウンドを乗りこなして伸び伸び歌う。歌い手自身のバイタリティが歌声にそのまま出ていて、聴いているうちにどんどん楽しくなる。歌は人、歌は心。

満島ひかりの歌う「ひとりぼっちはやめた」は、ある意味、意外な組み合わせが功を奏した好例の一つ。矢野顕子の原曲の持つリズミックな躍動感、天然自由な奔放さを生かしながら、ピアノとマリンバとパーカッションで奏でる演奏のユーモラスな楽しさと、女優として活躍する満島ひかりの、語るような歌うような、独特の歌唱がばっちりハマった。GReeeeNが歌う「海になれたら」もそうで、GReeeeNが武部聡志による豊かなバンドアレンジの上で歌うこと、それ自体が新鮮な感激を運ぶ。ボーカリストとしての彼らの魅力を再発見する上でも貴重なバージョンだ。

そして物語は佳境へと進む。誰もが歌えるような曲ではない難曲「もののけ姫」をWakanaが歌うのは、まさに適材適所。水音したたる、もののけの気配に満ちた幽玄なトラックの上で、神々しくも人間らしいハイトーンが朗々と響き渡る、圧巻の歌唱。歌詞のないスキャットでさえ聴き入ってしまう、Wakanaの歌の巧さと強さは別次元。さらに「時には昔の話を」を歌う渋谷龍太(SUPER BEAVER)は、アコースティックギターの爪弾きとたおやかな弦の調べに乗せて、加藤登紀子の書いた哀しくも美しい物語を慈しみ、愛おしみ、歌い手として最も大事な真心をたっぷりと込めて歌う。そして歌声が去ったあと、「epilogue」として登場する「さよならの夏~コクリコ坂から~」は、武部聡志のソロピアノによる万感を込めたエンドロール。いくつかの短編を組み合わせた映画のように、思い出深いシーンが頭の中を巡って深い余韻を残す、それは見事なエンディング。


▲プロデューサー武部聡志

ジブリ愛に溢れるアーティスト達による、ジブリの創り出してきた世界への敬意と感謝の詰まったアルバムになればいいと、心から思っている。と、プロデューサである武部聡志は語っている。その成果はすでに明らかだが、答えは聴き手にゆだねるのが正解だろう。13曲の物語を聴き終えた時、どんな景色が心に浮かんでくるのか、ジブリ映画の心のサウンドトラックとして、このアルバムをぜひ楽しんでほしい。

文:宮本英夫

リリース情報

『スタジオジブリ トリビュートアルバム「ジブリをうたう」』


11月1日(水)発売
VICL-65894 ¥3400(税込価格)
1.となりのトトロ / 岸田繁(くるり)
(映画「となりのトトロ」より)
2.カントリー・ロード / 松下洸平
(映画「耳をすませば」より)
3.いのちの名前 / 幾田りら
(映画「千と千尋の神隠し」より)
4.君をのせて / 家入レオ
(映画「天空の城ラピュタ」より)
5.テルーの唄 / Little Glee Monster
(映画「ゲド戦記」より)
6.人生のメリーゴーランド / 角野隼斗
(映画「ハウルの動く城」より)
7.風の谷のナウシカ / 玉井詩織(ももいろクローバーZ)
(映画「風の谷のナウシカ」より)
8.ルージュの伝言 / 木村カエラ
(映画「魔女の宅急便」より)
9.ひとりぼっちはやめた / 満島ひかり
(映画「ホーホケキョ となりの山田くん」より)
10.海になれたら / GReeeeN 
(映画「海がきこえる」より)
11.もののけ姫 / Wakana
(映画「もののけ姫」より)
12.時には昔の話を / 渋谷龍太(SUPER BEAVER)
(映画「紅の豚」より)
epilogue
さよならの夏~コクリコ坂から~ / 武部聡志
(映画「コクリコ坂から」より)

<ジブリ関連ショップ限定盤>
スタジオジブリ トリビュートアルバム『ジブリをうたう』
11月1日(水)発売
NCS-10284 ¥3400(税込価格)
※収録楽曲は通常盤と同じ
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