【ライブレポート】仙台貨物、「いろんなごどで暗い気持ちぬなっでるみんなを音楽で元気づけであげるがらね!」

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笑えよ、さらば救われん。それがたとえ不謹慎にしてお下品な笑いなのだとしても、根底には無邪気さとひたむきさが存在していること感じさせる仙台貨物は、観る者たち全てを“なんだかんだで笑かしてしまう”バンドだと言えるだろう。

◆ライブ写真

コロナ禍以降、2021年には<仙台貨物~笑う門には福来る~>、そして昨年にも<日本でいちばんアツイ夏>とコンスタントに全国トゥアーにのぞんできた彼らが、このたび開催したのは<仙台貨物トゥアー2023 秘密基地でxxしたってĒ janai ka>。ちなみに、Ē janai kaの読みは“えぇじゃないか”となる。

また、今回のトゥアーに向けて仙台貨物は最新シングル「Ē janai ka」も発表しており、この作品が音とヴィジュアルの両面において非常にコンセプチュアルな仕上がりをみせていたことも重要ポイント。中世ヨーロッパをテーマにして作られたというシングル表題曲の「Ē janai ka」は、ツアーファイナルの場となった渋谷O-eastでも、まさにライブの幕開けを飾る楽曲として奏でられることになったのだ。

“暗い暗い森の奥 可憐な乙女が迷い込んだ~(中略)森の出口は見つからない。人生の出口も見つからない。なんだかどうでもよくなったー。諦めかけたその時、乙女は謎の館に前に辿り着いたのだった…”


冒頭では、まずKURIHARA(Mp)が繊細なオルゴールの音色をバックに、前述した内容を実際には日本語ではない謎言語でのナレーションをしてみせ、我々を物語の中へと誘うことに。そのうえで、おもむろにノスタルジックなチェンバロの音、優美なストリングスの響きが場内を席捲し出すと、次の瞬間にはギガフレア(Dr)の叩き出す重い律動を切っ掛けにして、王珍々(B)のフィンガリングプレイによって生み出されるグルーヴがラウドにハジけだし、ネオクラシカルメタル・シンフォニックメタル・ゴシックメタル・メロディックスピードメタルあたりの流れを絶妙に汲んだ荘厳なサウンドが、聴衆を惹きつけていくことになった。

一方、甘ロリ風味も含んだロココ調デザインの豪奢なドレスを纏ったフロントマン・イガグリ千葉(Vo)は、回転ヘドバンを派手に決めたうえで「Ē janai ka」を歌い上げていく。場内でも仙台貨物の公式グッズである赤いツナギや赤いTシャツを着用したオーディエンスたちが、こぞってヘドバンを始めたのは当然の展開でもあった。



そして、この曲の間奏ではフルフェイス(G)とサティ(G)がバッハの「小フーガト短調」と「G線上のアリア」を織り込んだフレーズをツインギターで華麗に聴かせる場面もあり、全体的に耽美性を重視したそのサウンドアプローチは、洋楽のみならずMALICE MIZERやRaphaelといった90年代V-ROCKの風情をも漂わせていたように思う。とかく仙台貨物はイロモノの一言で片づけられがちなところがあるが、毎回テーマやコンセプトによって味わい深い含蓄を見事なかたちで音に込めてみせる手腕は、今年で22周年を迎えたバンドだからこそ醸し出せる技に裏打ちされたものであるに違いない。

しかも、この「Ē janai ka」の中で歌われるのはただの夢見がちな絵空事などではないのも大切な点。イガグリ千葉は〈素敵なダイバーシティ〉という言葉を用いながら、さんざん多様性だなんだと叫ばれるわりに、方々で不寛容なディスりや攻撃が発生している現世の不条理についてシニカルに指摘をし、なおかつ〈適当だってええじゃないか〉と歌っている。つまり、仙台貨物はコミカルさとファンタジックさ、さらにはバカバカしさを隠れ蓑にして、実は鋭く世相を斬っている存在だとも言えはしまいか。

「どんも、どんもー。今日はトゥアーファイナルでございます!(中略)初日の柏もすのーぐ良がっだし、名古屋も、大阪も、仙台も、最高ぬ良いライヴぬなっだがら、今日も良いライヴぬしで行ごうね!」(イガグリ千葉)


これまたメタル色の強い「DEATH TRANSPORTER」を経て、今宵の4曲目に演奏された「儀露珍」はシングル「Ē janai ka」のカップリング曲であると同時に、今回のトゥアーにおけるひとつの見せ場を生み出すものともなっていて、毎回この曲では最前列にいる男性客が餌食……もとい、標的にされて歌われるのが恒例であったのだとか。実際に、この夜も千葉がスカート内に男性ファンの頭をスッポリとおさめきり、曲中の“儀露珍コール”にあわせて密着度をより高めるという過激なライヴアクトがみられ、場内には笑いと悲鳴とどよめきが同時発生。なんでも、初日の柏公演ではステージングに熱が入り過ぎたのが、千葉が客席に誤って落下するというアクシデントまで起きたという。

「今年の仙台貨物のテーマは、中世ヨーロッパどいうことでね。あんどぎの人たぢが着でたような服を、ちゃんど調べでそれぞれの衣装を作りましだ!」(イガグリ千葉)

ここでのイガグリ千葉による説明をまとめると、KURIHARA=悪魔、ギガフレア=王様(ロバの耳付き)、王珍々=医者(ペストマスク付き)、サティ=貴族、フルフェイス=道化師、千葉本人=貴婦人であるそうで、千葉本人は今回のトゥアーでは貴婦人らしい「エレガント」な立ち居振る舞いを常に心がけているのだそう。



「もしよ。もし、千葉さんがNot エレガントな時があっだらフルフェイスはちゃんど注意しでよ」(イガグリ千葉)
「でも、最近の千葉さんは意外ど大人しいんでないの」(フルフェイス)
「んだな!やっぱり、今はコンプライアンスがいろいろ厳しぐで(笑)。やりたいこどが出来ない、そんな世の中なの。ギリギリのとごろを攻めでるのよ。ということで、みなさまごきげんよう♡」(イガグリ千葉)

ごきげんようの台詞こそエレガントだったとはいえ、このとき千葉が挨拶しながらスカートをまくりあげたその下には、ツクリモノではあるもののアレ的な突起物が…?!

「違うの、違うの。そういうんでないがら。千葉さんのスカートの中は、KURIHARAさんの親戚の悪魔ぬ取り憑がれでるだげ。ごれは特級呪物(笑)」(イガグリ千葉)


なかなかに不謹慎でお下品なネタをブッ込みつつも、このあと「秘密基地」を演奏する前にイガグリ千葉が語ったのは極めて真面目でリアルな話題で、その言葉の中には仙台貨物の存在意義そのものにつながる精神が息づいてたような気がする。

「今さ、世界ではいろんなところが戦争ぬなっでだりするでしょ。あどは物価高なのぬ、全然給料が上あがらながっだり。友人関係で悩みがあっで、テンションが全然あがらないっでいうような人もいるがもしれないな。そういう、いろんなごどで暗い気持ちぬなっでるみんなを仙台貨物は音楽で元気づけであげるがらね!」(イガグリ千葉)

そんな彼らの真摯なるエンタメ精神は、ギガフレアをのぞく全メンバーが参加した“MUKI MUKI ダンス”が披露された昭和アイドル歌謡系ファンクナンバー「MUKI MUKIさせてよ」や、厳しい逆境をポジティヴに笑い飛ばそうとする「腐況の風」などでも、おおいに発揮されていたと言っていい。

本編ラストをヘヴィな「メタルはじめました!」で締めくくったあとには、今トゥアーより“ワン・モア・ガイ!”のフレーズが定番となった掛け声が場内から湧きあがり、その声に応えた仙台貨物はまず「男たちの晩夏」で、ツアーファイナルのアンコールを感慨深く彩ってくれることになった。


というのも、この曲はメタル調、レゲエ調と各地でさまざなまバリエーションを提示してきたというのだが、なんとこのファイナルでは千葉の提案により「フルフェイスがレギュラーパートのリコーダーも吹いて、ギターも弾いて、さらにメインヴォーカルをとる」という予想だにしないサプライズ演出が実現。では、完全に手隙になったイガグリ千葉はというと…?

曲が始まった瞬間、ドレスを脱いでシリコン入りブラ+特級呪物付きパンツというNot エレガントなあられもない格好になり、その惨状を横目に吹き出しそうになりながらも演奏を続けているフルフェイスの前に回り込むと、配信用動画カメラをカメラマンから奪って構え、ドラマ『全裸監督』よろしく「ナイスですねぇ~!」と、またもや不謹慎にしてお下品なチャチャを入れだしてしまったのだ。場内にいた誰もが笑いを抑え切れなくなり、サティまでもが膝からガクンと笑い崩れて演奏不能になっていった中、それでも懸命に歌い続け、演奏をし続けたフルフェイスは健気の一言。

「というこどでね。なんど、今回のライブは来年3月14日にDVDとしで発売するんだっで! 大丈夫がな(笑)。千葉さん、しーらないっ!」(イガグリ千葉)

はしゃいで茶目っ気をみせる千葉に対して、このときやたらと冷ややかな視線を送っていたのは他でもないギガフレア。

「……おまえの描いた未来がこれか?」(ギガフレア)

嗚呼、火の玉ストレートとはこのことか。さすがはギガフレア。このタイミングでのこの投げ掛けは、まず彼にしか出来ない。



「いやあのね。千葉さん、小学生の頃X JAPANや、LUNA SEAとが、カッコイイ先輩たちぬ憧れでだの。だけど、気が付いだらこうなっでだの。これもきっど、悪魔の仕業! どっかで取り憑かれたんだね。多分、高田馬場AREAだど思う(笑)」(イガグリ千葉)

なんということか。悪魔を味方につけてしまった千葉の飽くなき暴走は、あろうことかむしろここからが本番だった。運営側のオトナたちによる指導が入り、ブラ+特級呪物付きパンツのままではライブ続行不可のお達しがあったため、彼はサティにブラを外してもらい、スタッフから渡されたTシャツとハーフパンツを身に着けて一段落……するはずだったのだが。

結局は再びTシャツとハーフパンツを脱いでしまい、今度は遂にパンツ一丁に。ただし、特級呪物は着脱式となっていたようで千葉自身の手でもぎ取られ、客席へと投げ込まれた。(さすがに受け取りにくい&持ち帰りにくいのか、客席内で特級呪物が次々とトスされていった光景がまたシュールだったことを付記しておこう)


「なんでよ? 服が一瞬で千葉さんをすり抜けっでだけど(苦笑)」(フルフェィス)
「でもほら、これで“見えない”でしょ!」(イガグリ千葉)

モロダシではないが(普通の)パンイチであるという、その巧妙さがギリギリを攻めるということだったのだろうか。いずれにしても、手際のいい着替えの流れはイガグリ千葉が尊敬する志村けん氏や上島竜平氏を思わせるような鮮やかさで、あのくだりはある意味で表現者・イガグリ千葉なりのコンプライアンスに対する挑戦だったのかもしれない。

ギガフレアの極めて客観的なスタンスは正論そのものであるし、確かに千葉のアレな姿だけを見れば不謹慎でお下品な出で立ちでしかなかったが、全力全霊でその場を徹底的に盛り上げたいという彼の気持ちは、男気として我々に伝わってきたところも多々ある。


三点倒立かつ大開脚で千葉が歌った「神様もう少しだけ」や、ラストを飾った「チバイズム」を聴きながら……ふと筆者の胸中を「それで結局、わたしたちは一体何を見せられていたんだ……?」という素朴な疑問が過ったのは否めない事実だとしても、何より“なんだかんだで笑かされてしまった”ことが全てなのではなかろうか。

たとえ不謹慎にしてお下品な笑いなのだとしても、根底に無邪気さとひたむきさを感じさせる仙台貨物の存在感はどうやっても唯一無二であるし、そもそも仙台貨物は古のドリフターズがそうであったようにバンドとして相当な凄腕でもある。当然、本物が本気でやる笑いは尊い。あげく、笑いは人間の免疫作用をも活性化させるというではないか。笑えよ、さらば救われん。

取材・文◎杉江由紀


セットリスト

1.E janai ka
2.サタデーナイトゲイバー
3.DEATH TRANSPORTER
4.儀露珍
5.絶交門
6.秘密基地
7.MUKIMUKIさせてよ
8.暴れん棒平民
9.クリリンマンソン ツヴァイ
10.腐況の風
11.酔っぱRIDER
12.ヤッChina!
13.ソレは~(中略)~握り... ※全466文字
14.プロフェッショナル
15.メタルはじめました!

en1.男たちの晩夏
en2.開運ざんまい
en3.神様もう少しだけ
en4.チバイズム

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