【ライブレポート】柴咲コウ、演技と歌の25年分の循環を経た表現の奥深さ

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音楽活動20周年に続き、2023年7月には芸能活動25周年を迎えた柴咲コウが、12月24日(日)に東京・立川ステージガーデンにて、実に4年半ぶりとなる全国ツアー<柴咲コウ CONCERT TOUR 2023 ACTOR'S THE BEST>の東京公演を行った。

アニバーサリーイヤーを締め括る集大成的な作品として企画されたアルバム『ACTOR'S THE BEST ~Melodies of Screens~』を携えた本ツアーは、神奈川、北海道、京都、福岡、東京、静岡をまわる全国6都市7公演を実施。東京は2デイズ公演となっており、本稿ではセミファイナルである6公演目の模様をレポートする。

「ジングル・ベル」を明るく歌って盛り上げた柴咲コウ自身による影アナを経て、クリスマスイブ公演が開幕した。雪景色をバックにしたドーム状のスクリーンに映写機が回る映像が流れ、彼女がこれまでにリリースしてきたCDのジャケットが次々と浮かび上がり、時系の文字盤と針がバラバラになり、時を遡るかのような映像とともにライブはスタートした。



オープニングを飾ったのは、ドラマ「ガリレオ」の主題歌でKOH+名義では1stシングルである「KISSして」(2007年)のニューアレンジバージョンだった。自身が出演した映画やドラマの主題歌や挿入歌のカバーと自身が歌った主題歌などを織り交ぜた最新アルバムに収録されていない楽曲から始めるのは意外だったが、元々は柴咲のライブを見た福山雅治が「お客さんとひとつになれる曲があるといいんじゃないか?」という思いも込めていた楽曲であることを思い出した。さらに、この日はバンドサウンドを基調としたストレートなギターロックにアレンジされており、観客は総立ちになってクラップを鳴り響かせ、タオルを回して盛りあがった。

続く、サイケデリックなダンスロック「ANOTHER WORLD」(2013年)もドラマ「未来日記-ANOTHER:WORLD-」の主題歌ではあるが、同作には未収録。アグレッシヴなロックナンバーを連発した冒頭はいわばプロローグで、久しぶりの声出し解禁ライブを一緒に楽しみたいという彼女の気持ちの表れだろう。柴咲は<手のなる方へ/君のいる方へ>というライブの始まりに相応しいフレーズを響かせ、「芸能活動25周年という節目の年です。これまで私自身がどうやって生きてきたか。その軌跡を振り返る旅に出たいと思います。皆さん、ついてきてくださいますか?」と観客の高揚感を引き上げた後、「まずはあの頃へ…」という言葉とともに23年前に向かった。

鎌使いの光子(みつこ)役で鮮烈な存在感を放った映画『バトルロワイアル』の主題歌でDRAGON ASHのカバー「静かな日々の階段を」(2000年)では訥々と語るように歌い、映画『黄泉がえり』の役名のRUI名義で歌った「月のしずく」(2003々)では20年分の経験を感じさせるタフでエモーショナルな歌声を発揮。ドラマ『GOOD LUCK!!』(2003年)の主題歌で山下達郎のカバー「RIDE ON TIME」では一転して軽やかなパフォーマンスで心地のいい一体感を生み出すと、ドラマ「Dr.コトー診療所」の挿入歌として中島みゆきが作詞作曲した「思い出だけではつらすぎる」(2003年)や映画『着信アリ』の主題歌「いくつかの空」(2004年)では繊細なビブラートと伸びやかな歌声で観客の心を優しく温かく包み込んだ。

MCでは「応援してくれた皆さんに感謝の気持ちを込めて、25周年という節目の年にコンサートツアーを開くことにしました。そして、今、こうして皆さんと会えています。どうもありがとうございます」とあいさつし、アルバムやツアーの意図を説明。続けて、「今、続けて数曲をお聞きいただきましたが、ひとつひとつに私は役で出演させていただいているので、それぞれの思い入れがあるんですね。今まで私自身はあまり過去を丁寧に振り返るのが苦手だったんですが」と苦笑いしながらこれまでを回想。映画『バトル・ロワイアル』が自身にとって「節目の大きな作品だった」と振り返り、初の主演映画で、秋元康原作、三池崇史監督によるホラー作品『着信アリ』にも触れた。「当時はたくさん“さよなら”を言っている別れの曲だなと感じていたんですが、当時よりも出会いや別れを重ねてきている分、“さよなら”というキーワードが重く自分に乗っかってきて、何度も“さよなら”を重ねていることが切ないなと思いながら歌っていました」と語り、「こうやって振り返ったり、思い出に浸るのはたまにするのはいいことだなと思ったので、皆さんもそれぞれが歩んできた人生の思い出に浸りながら聴いていただけたら嬉しいなと思います」とメッセージを送った。

さらに、「2004年のドラマ「オレンジデイズ」で初めて聾唖の役を演じ、手話に触れました」と話し、同作の主題歌でMr.Children「Sign」ではスタンドマイクで歌いながら歌詞を手話で表現。自身が主人公の大人になった朔太郎の恋人役を演じた映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の主題歌である平井堅「瞳をとじて」では、観客の記憶の扉を開くかのように静かに熱く言葉を綴り、そのダイナミックな歌声に万雷の拍手が送られるほどの感動を呼んだ。ドラマ版『セカチュー』の主題歌を自身が歌ってることもあり、「瞳をとじて」は「長らくあえて遠ざけていた」とも言っていたが、この2曲は、歌手であり、俳優である彼女にしか成し得ない表現を味わえる時間となっていた。

ここでスクリーンには「瞳をとじると、思い浮かぶ光景がある」という文字とともに、シンプルな黒の肩紐ワンピースだけを身につけた柴咲の物憂げな表情が映し出され、幼い頃のスナップショットからこれまでに出演した作品の写真などが次々と展開。やがて、白いワンピースに着替えた彼女が、微笑みを称えてくるりと後ろを向き、“あの頃”から“別世界”へと歩みを進めた。

9枚目のシングル「影」(2006年)のカップリングに収録されていたレア曲「interference」からはコンサートホールがクラブに様変わりし、観客のテンションを引き上げる曲が続いた。口紅のような真っ赤なドレスから紫のパンタロンにセットアップのベスト、シースルーの白のフリルシャツに着替えた柴咲の「こっから盛り上げていこう!」という声に導かれ、観客は再び総立ちになってクラップを打ち鳴らし、ファンキーなフレンチエレクトロ「cosmic rainbow」(2012年)では<さぁ 湧きあがろう/いずれひとつになるから>という呼びかけに観客はジャンプで応え、当時のiTunesロックチャートで1位を獲得したDECO*27による「無形スピリット」ではギターとベースも飛び跳ね、ベースとドラムがソロバトルを繰り広げるなど、ステージも客席もひとつとなってライブを楽しんでいた。テレビの歌番組では祈りや願いを込めたバラードを歌唱することが多いが、ダンスミュージックを歌う彼女はとても楽しそうで開放的なので、ぜひ一度、ライブで体験してもらいたい。



「自分で作詞するものは内省的なものというか、とにかく考えることが好きなので、取り止めのない考えが湧いては消え、湧いて消える日々を過ごしているんですが、消したくない思いもあるわけで。それを詞にして残したり、歌ったりすることは自分自身の活力にもなるし、誰かの支えになればいいなと思って書いて、歌っています。時には昔の自分の言葉に励まされることもあって、不思議だなと思いますけれども、これからも音楽を通して、皆とも心のつながりを持てればいいなと思います」と自身の音楽活動について語った彼女は、「演じることと歌うこと、どっちもやってこられるというのは、簡単でもないですし、みんなができることでもないと思うので、貴重な立場にいるなと思いながら、それを大切にして、形にしてみようと思った次第であります」と改めて本ツアーの意図を説明しながら、「とはいえ、オリジナルの曲もこれから作っていきたいな、制作していきたいなと思っております」と今後の音楽活動への意欲をみせた。

「また『ACTOR'S THE BEST』の世界に舞い戻っていきましょう」という言葉に導かれた後に歌われたのは、映画『沈黙のパレード』の主題歌「ヒトツボシ」(2022年)。そして映画『Dr.コトー診療所』の主題歌で中島みゆきのカバー「銀の龍の背に乗って」(2022年)を挟み、再び、映画『容疑者Xの献身』の主題歌「最愛」(2008年)へ。シリーズ化している名作のバラードをエモーショナルに、高らかに歌いあげたブロックは、彼女が役者として、歌手として確実に歩んできた成果であり、25年間の軌跡とも重なっていた。脳裏に映像が浮かんでいた観客も多かったのではないかと思う。

コロナ禍だった2020年の8月5日の誕生日にリリースされた「BIRTH」では<僕にできること/今を生きること>というフレーズを共有し、2022年にFC会員に合唱パートを募集し、約500名以上が参加した「TRUST」では生の歌声での大合唱が実現し、会場全体をポジティヴなムードで包み込んだ。そして、「今日限りじゃなく、続けてお会いできる機会を作ってきたい」という決意表明を経て、本編の最後はアニメーション映画『名探偵コナン 異次元の狙撃手』の主題歌「ラブサーチライト」となった。高揚感にあふれたロックアンセムに観客はタオルを振って盛り上がり、右手を高々と掲げた柴咲の<ずっとずっと離さないから>というファンとの約束や宣言にも似たフレーズによって、本編は幸せなムードの中で締め括られた。

アンコールではこの日だけ特別にサンタの衣装を身につけて登場し、「Last Christmas」を披露。そして、「大切なひとを残して去っていかなきゃいけない人の側の気持ちで書いた」というドラマ版「セカチュー」の主題歌「かたち あるもの」を切々と歌いあげた。男性視点の「瞳をとじて」と女性視点の「かたちあるもの」が、映画版の出演者によって歌われるという機会は二度とないかもしれない。本公演はU-NEXTで配信されているので、演技と歌の25年分の循環を経た表現の奥深さをぜひ見てみて欲しい。

写真◎網中健太
文◎永堀 敦雄


◆柴咲コウ・オフィシャルサイト
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